第二十三話
ツンデレの女の子のお話です。
「…あ~…ここ、わかんない…。」
「どれどれ…どこ?」
「あ~、ここの問題なんだけどね…。」
「あ~、なんだ、ここ?ここはさ、これを…。」
「阿部君!静かに!自習中だよっ!」
廊下まで聞こえるほどの大声で多田ユミは、阿部とおるだけ注意した。
「あ、多田さん…阿部君は悪くないの…あたしがわかんないとこ聞いたから…。」
阿部の隣の席の竹本かなこが申し訳なさそうにそう訴えるも、その声はあまりにも小さかったらしい。
「あ、いいよ、いいよ…竹本…それより続きなんだけど…。」
「阿部君!聞いてるの!自習中だよっ!私語は謹んで!」
眉間に深い皺を寄せた鬼の様な怖い顔の多田ユミは、立ち上がったまま阿部と隣の竹本をわなわなと睨みつけた。
「阿部君!廊下を走らないで!」
「阿部君!制服はきちんと!」
「阿部君!」
「阿部君!」
「阿部君!」
「阿部君!」
「なんだよ!うっせぇ~な!ゴミ拾っただけなのになんか文句あんのかっ!」
歌唱体操部の部室に向かう途中、後ろをついてきていた多田ユミの咎めるような声にいい加減腹が立ってしょうがなかった阿部とおるは振り向いて怒鳴るような口調で返した。
「…や…。」
「何なんだよ!お前!毎日毎日朝から俺のこと目の仇みたいに注意してくるよなぁ…。」
「…。」
「他のやつの方が俺なんかよりもずっとうるさかったりしてんのに、何なんだよ!うっせぇな!ホント、マジやめれや!」
「…。」
「何だよ!なんか文句あんのかよ!お前さ、もう俺の視界に入ってくんなや!しつけぇんだよ!毎日!うんざりしてんだよ!お前みたいなやつ、大っ嫌いなんだよ!何だよ!自分だってうるせぇし、人のこといちいち注意できるほど立派に完璧にやってる訳じゃねぇくせに!自分のことは棚に上げてよ!人のことばっか注意してよ!あっち行けって!もうついてくんなよ!あ~、ムカつく!」
阿部とおるに激しい言葉を浴びせられた多田ユミは、口を一文字に結んだ鬼の形相で阿部の後ろ姿を睨みつけた。
その目にはいつの間にかラムネの瓶に入っている取れないビー玉のような涙が膨らみ、そのまま音もなくポロポロと頬を伝った。
「何よ!何よ!阿部君…。」
あ~、ちょっとかすっきりしたぁ…多田のやつ、黙って何にも言い返せねぇの…ははは、ざまあみろってんだ…ははは…俺ばっかり言うからよ!…ああいう正義面して何か言ってくるやつって、ホント鬱陶しい…もう明日からは、さすがに言ってこねえべ…ははは…はぁ~…何か気分いいや!いい加減俺もキレたからなぁ…しつけぇんだものなぁ…なんか俺に恨みでもあんのか?あ~、腹立つ…あんな鬼おんなのことなんか考えるのやめよう…時間の無駄無駄…それより、部活部活…新しいユニフォーム今日、届くって言ってたっけ…へへへ、楽しみだなぁ…あ、なんか怒鳴ったら喉がちょっと…あ、あ…そだ、飲み物部に寄って、なんか喉にいいやつにしてもらおうっと…。
「あれぇ…どしたの?多田さん…こんなとこで突っ立って…大丈夫?」
声をかけてくれたのは、阿部の隣の席の竹本かなこだった。
「あ…ううん…ううん…何でもない…大丈夫だから…。」
つっけんどんな態度でその場を離れようとした多田に、竹本は「はい、良かったら使って。」と可愛らしいうさぎのキャラクターがついた小さめのティッシュを渡してきた。
「あ…ありがとう。」
「ううん…それより…多田さん、ホントに大丈夫?泣いてたみたいだけど…。」
「しつこいよ!竹本さん!あたし、大丈夫だから!余計な心配しないでくれる!」
いつもの様に叩きつける言い方でしか返せなかった。
「あ…なんか…ごめんなさい…あたし、そんなつもりじゃ…。」
「じゃ、あたし、帰るから!さよなら!」
「あ、うん…多田さん、さよなら…。」
何よ!何よ!竹本さんってなんかムカつく…いっつも阿部君と仲良さそうにして…何さ!あんな子…何さ…あんな…優しい子…あんなの偽善に決まってる…決まってるよ…でも…阿部君…竹本さんみたいな優しい子の方が好きだよね…きっと…あたしみたいな…女は…嫌いって…嫌いって…はっきり言われちゃった…そう…だよね…誰だって…こんなあたしみたいな女より…竹本さんみたいな…優しい子の方が好きに決まってるよね…そう…だよね…。
両目に涙を残した多田ユミは、今日は体育館を見ずに帰った。
体育館では、歌唱体操部の練習がいつになく楽しそうに行われていたのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
お話はまだまだ続きますので、これからもどうぞ宜しくお願い致します。




