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第二十二話

歌唱体操部のお話です。

「…黄金色の美しい髪の乙女、君の心を開放してあげるぅ~…薔薇色の頬に口づけを~っ!」

ダガタン。

「中村!」

「はい!」

「今のラスト、薔薇色の頬にのところ、あそこで回転が少し…ほんのちょっとぶれてたから…後…歌の部分…もう一度最初から聴いてきちんとメロディ覚えて…それから、もういっちょ!」

「はい!」

歌唱体操部のエース中村りょうは、飲み物部に作ってもらっている特製ドリンクを一口飲み込むとヘッドフォンを耳に当てて曲を聴きながら歌の確認を始めた。

「ん~…はぁ…どうしたもんか…。」

顧問の藤島は腕組みをして深いため息を漏らした。


体操は完璧、いやそれ以上なのに…歌唱部分が…声は大きいしとおるからいいんだが…音程が…そこで減点になってしまうから…もう、いっそ、普通の体操を勧めた方がいいだろうか…折角の才能を音痴というだけでつぶすのは…だがなぁ…本人はどうしても歌いたがってるし…歌いながら体操がしたいと…はぁ…どうしたものか…。


「歌え!体操王子」の人気に火が付き、現実世界の歌唱体操部にも入部してくる新入生は増えたのだが、それもつかの間、実際の競技の練習に取り掛かるとその難しさや地味な基礎体力作りなどについて行けず、倶楽部をやめていくものもまた多かった。


先輩、今のあん馬の演技、すごかったです…僕、僕、感動しちゃいました…まるで、歌プリの前十字くんみたいで…素敵です!先輩!僕も僕もいつか先輩みたいに…なれたらいいんだけど…。


新入部員の斉藤よういちは開脚をしながら、中村を見ていた。

「おいっ!こらっ!よそ見しない!集中!集中!」

「はい!すいません!」

足首を捻り練習を休んでいる2年の室田五郎は、ぼーっとしている斉藤に発破をかけた。


「室田先輩、きついっす…ちょっとだけ休憩…。」

新入部員の1年の中で一番ぽちゃぽちゃしている安田しのぶが弱音を吐きかけた。

「あ、そだ…1年さ…お前ら、それやりながら、ちょっと歌ってみ…ただやるよりも、歌いながらやる方がなんかわかんないんだけど、できるから…ちょっとやってみ…そだな、歌はさ、歌プリの最初の主題歌…あれは、みんな知ってるよなぁ?どうだぁ?歌えるかぁ?そっか、じゃあ、それ歌ってやってみ…俺がさんはいって言うから、続けて…さんはい!」

室田の合図で1年の5人は一斉に歌い始めた。

「…てぇ~ぺん、目指してぇ~!僕らはぁ~…。」

「ほらほら、もっと腹から声出して!」

「仲間でぇ~、力ぁ~を~あわせ、歌え~っ!体操王子~~~っ!」

「そうそう、いいぞぉ…ほら、安田…さっきよりも随分足開いてきたじゃねぇか!いいぞ!その調子その調子!ほら、みんなちゃんとできたじゃねぇか!なっ!」

歌いながら開脚したまま床にベターッと全員ができた。

嬉しさで湧いている中、室田は斉藤に声をかけた。

「斉藤、お前さ、歌、うめぇなぁ…なぁ、わりぃんだけど、もっかい…今度は腕立て伏せしながら、歌ってみてもらえっかな!他の1年は一旦休憩!水分摂って…あ、斉藤も水分摂ってからでいいから…。」

「え…あ、はい…あの…歌は…。」

「同じでもいいし、好きなのでもいいし…。」

「はい!じゃあ、始めます。」

斉藤は飲み物部に作ってもらった中村と同じ特製ドリンクをごくんと飲むと、大きく息を吐いてから始めた。


聴いて下さい!中村先輩!届け!僕の歌!先輩に届け!


「ん?誰?」

ヘッドフォンで曲を覚え直ししていた中村は、耳から聞こえた訳じゃない誰かの声に気づくと顔を上げて基礎練習をしている1年の方を見た。


はっ!中村先輩が…こっち…いや…僕?の方見てる…わぁ、どうしよう…いや、ここは頑張らなくちゃ!僕の想い届け!届け!


「…仲間でぇ~、力ぁ~を~あわせ、歌え~っ!体操王子~~~っ!」


ぱちぱちぱちぱち!ぱちぱちぱちぱち!


顧問の藤島が拍手を始めると、体育館にいた全員が一斉に拍手しだした。

「あ…いや…あの…ありがとうございます。」

斉藤はぺこりと深く頭を下げた。


やった…中村先輩、こっち見てくれた…ふふふ…どうしよう…ふふふ…嬉しいけど…恥ずかしいけど…やっぱ嬉しい…ふふふ。


斉藤…あの歌唱力…ただ、体操はまだ素人だからなぁ…だが、これからの鍛え方で案外…あの腕立て伏せ…息も切らさずに歌いきって…斉藤…腕力がついたら鉄棒や平行棒、あん馬の練習に取り掛かっても…それにしても、あの歌唱力…あ!そうだ!斉藤に中村の歌唱指導頼んでみようか?う~ん…1年に歌唱指導だったら、中村のプライドが傷つくか…じゃあ、ここはやはり音楽の吉崎先生に頼んだ方が…う~ん。


あいつ…確か斉藤?だっけ?…あの歌唱力…負けられない…体操なら俺の方が…くっ…くそ~~っ!何故だ?腕立て伏せをしながら歌っていただけなのに…今はまだ俺の方が上かもしれないけれど…半年もしたら…斉藤の方が…何故、俺はこんなに悔しい気持ちでいっぱいなんだろう?何故だ?…斉藤…。


「見た?今の中村先輩の悔しそうな顔。」

「見た見た…だけど、斉藤くんのあのぽーっと照れた顔も…きゃー!きっとさ、いや、絶対絶対斉藤くんって、中村先輩のこと…好き…だよね。」

「うん、うん、そうそう…だってさ、いっつも熱いまなざしで中村先輩の演技見てるじゃん。きゃー!」

「なんかさ、あの二人、顔も結構イケメンだから…歌プリそのまんまだよねぇ~!きゃー!」

「斉藤…中村先輩…で、チュー…とか?きゃー!」


体育館の開いているドアの外から、飲み物部の腐れおなご達がきゃあきゃあ言いながら、歌唱体操部の練習を眺めているのだった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

お話はまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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