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第十六話

「告白」の仕方をみんなで考えます。

「はぁ~…疲れたぁ~…。」

「だな…。」

「あー。」

「ま、でもさ、優勝は逃したけどさ…でも、ほら…ひでが敢闘賞もらったからさ…いんじゃね?来年に繋がるっしょ!」


大喜利全国大会を終えた倶楽部の面々は、滞在している古い旅館の一室で敷かれた布団の上に着替えたお揃いの浴衣で寝転がって話していた。

特訓を重ねてきた大喜利部だったが、全国大会となると各地域の猛者達によるセンスが光る回答に気持ちから負けてしまっていたようなところがある。

だが、その中でも善戦したのが2年の大島ひでだった。


あ…俺…この大会終わったら…ひかりちゃんに告白しようかと思ってたんだけど…どうしよう…最初は優勝したらってしてたけど…優勝なんてできる訳ないほどのハイレベルだったし…だからと言って、じゃあ、告白を諦める…っつうのもなぁ…はぁ…どうしよう…っつうか、俺なんでこんなにひかりちゃんに告白したいんだろ?なんで?なんでなん?


ひでは部屋の窓から見慣れない都会の夜景を眺めながら、深いため息をついていた。


「なぁ、なぁって…ひで!どした?そんなため息ばっか…そんなに悔しかった?」

「え?あ、ああ…ああ…ま…まぁ…。」

生徒会長で大喜利部の部長の宮島つばさが声をかけるも、大島ひでの返しは素っ気無かった。

「あ、部長!違いますよ…大島さん、今、違うこと考えてため息ついてたって感じですって。なぁ、ヤマ。」

1年の大野元気は、同じく1年の山川けいに賛同を求めた。

「あ、ああ、まぁ…なんか、そんな感じに見えますけど…どうしたんですか?大島先輩…なんかあったんですか?」

部屋にいる一同の視線が、一斉に大島に注がれた。

「あ、あ…いや…あの…なんでも…。」

「やっ…ひで、お前さ、なんか隠し事でもあんの?なぁ…じゃなかったら…どしたのよ?ちょっと言ってみ?なっ…俺らでよかったら、いくらでも相談に乗るし…お前、水くせぇぞ…俺ら仲間じゃん!全国大会に一緒に来て戦った仲間じゃんよ!ちょっと、言ってみ?なぁ!」

「そうですって!大島先輩、何でも言って下さい!」

「そうですよ!」

「そうですって!」

大喜利部の仲間達はとても優しく温かかった。


「…あのさ…みんなはさ…好きな子っている?」

大島の質問に一同は少しざわざわし始めた。

そんな中、1年の大野が名前の通り元気よく答えた。

「おっ、俺は、俺は、顧問の梅島先生、綺麗だなぁって思ってます!」

「お~!」

一同は多いに沸き立った。

「そ、そっかぁ…そうなんだぁ…。」

「なんすかぁ、大島先輩、人に聞くだけ聞いて、自分は言わないんですかぁ?ずりぃなぁ~。」

大野はほっぺたをぷぅと膨らませた。

「あ、いや、わりぃわりぃ、そういう訳じゃなくってさ…。」

「じゃあ、なんすか?」

「あ~…まぁ…えと…その…。」

じらす大島に宮島は痺れを切らした。

「あ~、じれったい!言っちゃえ!言っちゃえ!って…俺ら、だ~れも他に漏らさないし…なっ!」

「あ~…漏らすとか、そういうのは…ちょっと考えてなかったんだけどさ…。」

「え~~~~っ!」

全員の声はコーラスのように綺麗に揃った。

「あ、あのさ…実はぁ…今日終わったら…駕籠部の門倉ちゃんに告白しようかって思ってんだけど…。」

「えっ?門倉って…。」

「あ~…わかった!駕籠部のマネージャーの子でしょ?わかった、わかった…んで?告白っていつ?今?とか?」

大島の隣に居た坂下は、軽く肘を小突いてきた。

「や、あの…それでさ…相談なんだけど…よくね、告白が100パーセント成功するアプリとかあるじゃん?」

「ああ、あるな、うん。」

「でもさ、俺、思うんだけど、そういうアプリとかメールで告白って男としてどうよって思っててさ…。」

「あ~、はいはい…わかるよ!わかる!大島の言いたいこと、すんげぇわかる…だよなぁ、確かに…ホントに好きな子にメールで告白って…なんかなぁ…男らしくないってのか…それだったらいっそ昔みたいに恋文とかの方が、気持ち伝わる気がするよ!」

宮島が言い放った「恋文」という言葉に、一同は少し噴き出しそうになった。

「恋文って…もしかして弓矢に括り付けて、相手の家にシュってやるやつですか?」

「ヤマ、お前馬鹿か?それは矢文だろうが…なんで好きな相手の家に弓矢打ち込むってよ…はははははは…そうじゃなくって、恋文よ恋文…わかるか?お前、恋文。」

「や…宮…お前のその恋文って言い方も…なぁ…ははははは…せめてラブレターって言ってよ…あはははははは…ごほごほごほっ。」

坂下はそう言うと少し咽た。

「あ、そっか、ラブレターね…そうそう、ラブレター…大島さ…じゃあ、ラブレター書くのは?」

宮島の提案に、すぐさま大島は答えた。

「いや…それも考えたし、わざわざレターセット買ってさ、書いてみたんだけどさ…最初、パソコンでって思ったけど、やっぱ直筆の方がいいかなぁって思って…だけどさ…書いてて、なんかそれじゃないかなぁって思ってさ…そんで、電話…とかも考えたさ…だけど…それじゃ門倉ちゃんがどんな顔してるのかわかんないじゃん…んでさ…じゃあ、直で…直接会って告ればとも思ったんだけど…それも…ちょっと、面と向かってだと緊張するべなぁって…じゃあ、告白すんのやめればいいじゃんなんだけど…なんかどうしても…わかんないんだけど…俺、どうしてもやっぱ告白したいってのか、好きだってお知らせしておきたいってのか…勝手なんだけどさ…どうすりゃいいかなぁ?」

「う~~~~~ん。」

大喜利部の面々は黙りこくってしまった。

腕組みをしたり、首を回してみたり、目を閉じて座禅を組んだり。

それぞれ一生懸命考えた。

「あ!じゃあ…。」

最初に口を開いたのは1年の山川だった。

「ん?なんだ?ヤマ…なんかいい案、浮かんだか?」

「あ、はい…いい案かどうかはちょっと自信ないんですけど…。」

「なんだ、自信なんてそんなの大丈夫だって…ちょっと言ってみ?」

坂下に促されるまま、山川は続けた。

「あの…ですね…メールとか手紙は嫌なんですよねぇ…そんで、電話だと相手の表情とかわかんなくて、それもあんまり良しと言えないってなるんだったら…。」

「だったら?」

「糸電話…だったらどうですか?」

「えっ?糸電話?」

宮島が少し呆れた様に尋ねた。

「ええ、そうです!糸電話だったら…傍じゃなくてもいいじゃないですか?それで、適度な距離があるし、相手の表情もわかるし…直接告白だったら、相手と近すぎて、万が一ふられた場合、そこに一緒にいるのがバツが悪いってのか、気まずいじゃないですか?でも、糸電話なら相手とある程度距離あるからダメージも幾らか和らぐかなぁって…思ったんですけど…どうですか?糸電話…案外、いいと思うんですよね…。」

「糸…電話ねぇ…。」


大島ひではそう言いながら、財布に入っているレシートの裏に「100円ショップで紙コップとタコ糸。」とメモしたのだった。

最後まで読んでくださってありがとうございました。

お話はまだまだ続きますので、どうぞ宜しくお願いします。

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