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第十四話

「超特大極上たれ付きから揚げまん」が絡むお話です。

「…ねぇ、ねぇ…高島君ってね…谷口君と仲いいでしょ?」

「うん、そうだけど…。」

「あのさ…あの…ゆめちゃんって…あの…すんごく可愛いよね。」

「ん?」

「ゆめちゃんだよぉ…谷口君の彼女の…。」

そこまで言うと、樋口まみはきゅっと一瞬眉をひそめた。

「あ、ああ、川上のこと?ああ、まぁ…どっちかっつうと可愛いグループだろうね。」

「でしょ?でしょ?髪もふわっふわで薄い茶色で…でも、あれ、別に染めてないんだって…天然なんだって…そんでさ、まつげ長いし…それも何にもやってないんだって…後、色白いし…細いし…声も綺麗で…頭も良くて、性格もすんごくいいし、優しいの…だからね、ゆめちゃんみたいな女の子…男の子さ、きっとみんな好きだよねぇ…ゆめちゃんを嫌いな人なんて…この世にいないよね、ねっ!そう思うでしょ?」

樋口まみはやたらと川上ゆめの話をした。

それが高島ひろきには少し不自然に思えた。


「…でね、でね…谷口君とゆめちゃんって…すんごくお似合いの二人だと思うんだぁ…そうだよね…ゆめちゃんはアイドル並みに可愛いし、谷口君も…その…俳優さんみたいにカッコイイじゃない?だから…あの二人はさ…あの二人は…お似合いだから…ゆめちゃん…いいなぁって…羨ましいなぁって…思うんだよ…ね…ねっ。」

そこまで言いかけて小柄なまみは、高島ひろきを下から覗き込むように見上げ同意を求めた。

「ゆめちゃんみたいな女の子…嫌いな人いないに決まってるよね。

「あ…ん…そう…かもね…。」

「…そ…だよね…やっぱ…そうだよねぇ…あたしもね、ゆめちゃんのこと大好きなんだぁ…だってね、いっつも優しいの…谷口君だけじゃなくって…あたしなんかにもすんごく優しいの…だから…だからね…あたしなんか…ゆめちゃんに…全然…かなわない…かなう訳ないの…谷口君はさ…やっぱ…そういうゆめちゃんが好きなの、わかるんだぁ…わかるんだけどね…わかるんだけどさ…でも…だけど…。」

そう言うまみの両目は徐々に潤んで、瞬きをすればすぐに大きな涙の玉がポロポロとこぼれ落ちそうなほど。

「そ…そんなこと…。」

ひろきがそう答えると、まみは急に立ち止まるとストンとその場にしゃがみこんだ。

「だっ…大丈夫?どしたの?急に…どっか…痛い?の?」

「ううん…ご…ごめん…大丈夫、何でもない、何でもないの…ちょっと目に…あの…髪の毛の先っちょがさ…刺さったみたい…かなぁ。」

そう言うとまみは手のひらまで長い、制服の中に着ているカーディガンの袖でごしごし目元を拭った。


「あ…ちょっと待ってて…すぐ戻るから…。」

しゃがみこむまみを置いて、ひろきは向かいのコンビニまで道路を渡って走った。


店の前からソフトボール部の面々や、駕籠部の土田達、それに干物部のるかやちか、それにアウトドア部の辰巳馬子らがわいわいと楽しげに牛歩で駅方面に歩いて行くのが見えた。


「ごめん、ごめん…待ったでしょ?あいつらごっそり買って行ったみたいで…ほとんど残ってなくて…はい、半分。」

戻って来たひろきは、まだしゃがみこんでいたまみに買ったばかりの「超特大極上たれ付きから揚げまん」を半分に割って大きい方をくれた。

真っ白く頼りない湯気が二つに割れた中から、ゆらゆら揺れた。

ある程度形がわかる大きさにカットされているたれ付きから揚げの美味しい匂いは、ひろきとまみを優しく包み込んだ。

「あ…ありがとう…。」

「いいえ…どういたしまして…ってか…これでいかったのかな?」

「え?」

「あ、これとさ…抹茶小豆まんしか残ってなかったもんだから…俺、甘いのあんまし得意じゃないからさ…。」

「あ、そうなの?…あ、それより…ごめんね…なんか気ぃ使わせちゃったみたいで…。」

「ん?何?」

まみの声があまりに小さかったから、隣でむしゃむしゃ「超特大極上たれ付きから揚げまん」を食べているひろきにはちゃんと聞えていなかった。


「はぁ~、美味かったぁ…ねっ!」

まだ食べ終わっていないまみにそう言うと、ひろきは夜の割合が多くなってきた空を見上げた。

そして、「超特大極上たれ付きから揚げまん」と一緒に買って来た、暖かいウーロン茶をごくんと飲んだ。

口の中に留まっていた「超特大極上たれ付きから揚げまん」を、まみも買ってもらったウーロン茶で胃の中に流し込んだ。

「高島君…なんかありがとう…おごってもらっちゃって…ごちそうさまでした。」

「そんなの…別に気にしないで…それより…バスの時間は?間に合う?」

「あ、うん、大丈夫…ありがと…。」


暫く沈黙が続いた。

「あ…あのさ…その…樋口もかなり可愛いチームに入ると思うよ。」

ひろきがぼそっと呟くように言った。

「え?」

「俺は…川上より…樋口の方が可愛いチームだと思うけどな…。」

そこまで言うとひろきはまみの少し前を歩いた。


嘘…高島君、優しいなぁ…あたし、ちゃんと知ってるよ…高島君、中学の時からずっとレイラのこと好きだって…そんなのみんな知ってて…有名だよ…さっきだって、あたしが声かける前、レイラとつよしがイチャイチャ帰るとこ見てたじゃない…それなのに…高島君…優しいなぁ…ホントに優しい人だなぁ…いっつも谷口君と一緒のとこ見てるけど…


まみの脳裏の真ん中には、いつも見つめている谷口の様々な表情がかわるがわる浮かんだ。

だが、その端っこには決まって高島の姿がちょろっとあることに、今、ようやく気がついたのだった。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

お話はまだ続きますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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