第一話
高校2年生の水野めいは、同じクラスの矢沢君に片思い中なのです。
ああ、素敵…なんてかっこいいんだろう…大好き!矢沢君。
昨日のホームルームで廊下側の席になったけど…それがかえって良かったみたい。
ここからなら、黒板を見る自然な形で矢沢君の右側の横顔が見られるんだもん。
席替え万歳!福田先生ナイス!そんでもって、神様、なんかありがとう!
神様って本当にいるんだね…どんな姿かとか全然わかんないけど…きっと、真っ白い長いヒゲのサンタクロースみたいなおじいさんなんだよね…生成りのたっぷり布を使った、そうそう、この間世界史で習った古代ローマ時代の人風の服着てるんだよね…そうだよね。
最初は矢沢君の隣とか、後ろの席がいいって思ってたんだけど、それだと緊張しちゃうし、まともに顔なんて見られないだろうから…この少し離れた席でホントによかったな。
矢沢君…右側の顔もかっこいいなぁ。
鼻の形とか外人さんみたい。
高くてすっとしてて…それに比べてこいつ…きったねぇ顔してんなぁ…いっつもやたらニコニコしてっけどさ。
ひとしきり心の中で呟いた水野めいは、大きなため息ひとつついた後、隣の席の土田和男の顔を見た。
隣からの視線をすぐさま感じた土田は、ニコニコめいの方に向いた。
「何?」
「べっ…別に…」
「そ?」
「うん」
土田との短い会話を終えると、めいは黒板の方を見る姿勢で再び矢沢の顔を眺め始めた。
「あはははははは…やざ、おめぇ、何、鼻ほじってんだよぉ~…がははははは…きったね…あはははは…」
「ちっ…ちげぇって…これはぁ…鼻の内側の壁がかいいから掻いてんだよぉ~…鼻くそなんかほじってねぇって…百歩譲ってほじってたとして、ちゃんとティッシュ使ってんだから汚くねぇんだよ!ちょくで鼻ん中触ってねぇんだからセーフなんだよ…ば~か!うっせぇよおめぇ…」
「あはははははは…やざ、きったね…えんがちょ!あははは…」
「うっせぇよ…」
ああ、矢沢君…あたし、信じるから…そうだよね、矢沢君が鼻くそなんかほじる訳ないもんね…誰だって鼻の中の壁が痒い時あるものね…あたしだって、鼻の内側の壁、すっごく痒い時あるもん。
それに、矢沢君、ちゃんとティッシュ使ってるもん…汚くないもん…逆にちょくで指ぶっこんでない分、偉いよね…あたし、そういう小さい気遣い偉いと思う…ティッシュちゃんと使う矢沢君…偉いと思う…間違ってない!
いちいち茶化す山田ムカつく!
何さ!鼻の横にでっかいほくろあるくせに!変な顔してるくせにぃ~~~っ!許せ~ん!
大丈夫!あたし、こんなことぐらいで矢沢君のこと嫌いになんてならないから…嫌いになんてならないもん!
ちゃんとティッシュ使って、鼻の内側の壁掻いてるぐらいで…そんなことぐらいで矢沢君のこと嫌いになんてならないもん!
嫌いになんてならないんだから~~~~っ!
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願い致します。