剣魔
老師のおつかい(秘)とエレナの使い魔探しにシグマたちは使い魔を売買すると言われるお店へと向かっていた。
ラナの説明によれば、ここから西へ進んだ先にコルトスという町がある。そこはかつて鉱山の都とも呼ばれており、発掘された資源や鉱石はその町で調整し分配して、その町で売買するという方法で行っていたという。
「その町はね、領主様がお亡くなりになってからは無法状態となってしまいまして・・・今ではあれくれた者やどこにも行けなくなった人、もしくは使い魔を保護するといったものが溢れかえるようになってしまったわ」
ラナが宙を飛びながらそう説明してくれた。昔は光輝かせた町だったが今では廃れてしまったコルトス。その町のなかで渦巻く闇にまだシグマたちは知らぬままその町へと足を踏み入れたのである。
「そういえばさぁ」
「ん・・・なに?」
ふと思ったことをエレナに聞いてみた。
「エレナは使い魔を探しているんだよね」
「ええ、そうよ。それで、なに?」
「使い魔なら召喚したり、近くのお店で探したりという方法とかなかったのかなって、思ってみてね」
科学界では使い魔という存在はいない。ペットとして動物やめずらしい生物を飼うといったものだけだったが、この魔法世界では使い魔はペットというよりも相棒に近い存在だったのではないだろうか。
あの老師やラナのやりとりから、友達以上の関係だった風にも見えたからだ。しかし、ペットという表現は似つかわしいという感情もあった。
「あ、それ私も気になったのよ」
ラナが隣からそっという。
「ええ、私の家の近くにもお店はありましたわ。けれどね、私に似合う使い魔が見つからなくてね、それで、神聖な森で精霊とか妖精とか契約できたらなーと思ってね、来たのだけど・・・結局はって・・・」
手で顔半分に当てながらがっかり下風に頭を下げた。
「結局は森で収穫なし(貴重な水は手に入れたけど)、老師にあって相談するも成立しないし、さしてはうるさい妖精と魔法も使えないシグマという男と一緒に歩かざる得るとは・・・なんとも悲しいことだ」
なんだかムカとくるような発言だったが、その前に気になった部分があったのでそこを聞いてみる。
「魔法も使えないって言ったけど、ぼくのどこを見て魔法を使えないって判断したの?」
下げていた頭を戻し、シグマの方を数秒見つめ再び頭を下げ大きなため息をした。
「この世界には魔法を蓄積できて当たり前なの。人にはそれぞれ色というのがあって、オーラが放出している量で蓄積している魔法量を計るの!」
「つまり・・・ぼくは魔法のオーラが出ていないから魔法が使えないと」
「そう、その通りよ。それに、コルトスについたらあなたはどうするの?」
「え、買い物頼まれているし、一緒にいくけど?」
再びエレナは大きなため息を吐き、シグマの鼻の近くまで近づき忠告した。
「いい! あなたは魔法が蓄積できないということは、魔法に対する属性も耐性もない、つまり魔法に対する身をまもる魔法がないってことなの」
「つまり、身をまもる術はない・・・と?」
「そうその通りよ。もうひとつは、魔法が使えないという存在がコルトスの連中に知らされたとき、あなたは“あかずの間”に追われる可能性もあるのよ!」
ずいと押してくるエレナに対してシグマは一歩ずつ下がる。エレナの迫力は勝気がある男にも見えるほどだった。
「・・・ということで、身をまもる方法がないシグマは、コルトスに入らず野宿するか、あの老師に戻ったほうがいいわ。じゃないと、身を滅ぼすだけよ」
そこまで言われるとたしかに、魔法は使えないし、耐性もない。だけど、老師がいったからには、この町でぼくにしかできないことがあるから頼んだじゃないかと思う。
だから、簡単に弱気になって引き下がってはいけないと思う。
シグマは「自分の力で何とかしてみせるよ!」といった。確信はないけど、あのときの精霊みたいに奇跡があれば、なんとか潜り抜けれるかもしれないと信じて。
「そう、もし何かあっても私は助けないからね」
エレナは冷たく言い放った。
所詮エレナとシグマとラナの日は浅い。
まだ、1日しか立っていないのだから。
シグマは自身の手を見つめ、自身と奇跡を信じて、コルトスの町へと駆け出した。
「そういえば、ラナと普通に会話ができるようになったのはなぜ?」
ふと気になったので、ラナに聞いてみた。
「老師様の力・・・かな。詳しいことはわからないけど、契約上の追加設定をしたとか・・・」
ラナもわからないという。あの一件以降、ラナと普通に会話できるようになった。頭の中から聞こえる程度だったのに。精霊との戦いで何か変わったのかもしれない。けれど、確かめる方法はない。
とりあえず、この件は後回しにして、頼まれたものとエレナの使い魔探しを積極的に行おう。
コルトス
「随分寂れたわね」
エレナが寂しそうに周りを見渡しながら呟いた。
「以前にも来たことがあるの?」
「ええ、私がまだ6歳の頃だったかな、あのときはここまで寂れてもいなかったのに・・・非常に残念だわ」
入った時から妙に砂と埃っぽいものが宙を焦がしている。周りは灰色に染まった砂が建物を覆うように被さり、僅かに取っ手と思わしき扉と中からロウソクの光が漏れる程度の窓だけが見えていた。
人々は砂を吸わないようにバンダナや長布などを使って口と鼻を覆い、吸わないように心がけていた。
「ひどく・・・ゴホゴホ、ほこりっぽい・・・ゴホゴホ」
エレナが咳き込む。シグマも同じように咳き込む。
そこに、ひとりの赤髪に布で鼻から下を隠すように男が近づきながら話しかけてきた。
「見ないものだな・・・旅人か?」
「ええ、そうよ・・・ゴホゴホ」
「・・・・・・ここはきつい、さあ、こちらへ」
男はそこまでいったたあと、黙って奥の道へと歩き出した。男の腰にどこかの国と思わしき角を生やした馬・・・ユニコーンの模様が描かれた剣をさしていた。
エレナは「とりあえずついていきましょう、あとこれ」と、手渡されたのは丸い円形の2センチ程度の飴玉だった。飴玉は透き通っているが中央に葉っぱ一枚だけが閉じ込めるかのようにそこに存在していた。
「これは・・・」
「とりあえず飲め! 少しはマシになるはずだ」
言われるまま、それを飲み込むと、先程までの喉の痛みがスーと癒えていくのがわかる。喉に詰まった粘っぽいものと砂が取り除かれていく感覚に近かった。
「ついていくの?」
ラナが質問する。
「付いていくしかないよ。それに、周りの連中・・・明らかに殺意を持っている。多分、この男から離れるとヤバイ気がする」
エレナは鋭い目つきで男を見つめつつ、周りの配慮を配っていた。シグマから見た限りは一人っ子の姿は見えない。けれど、よく目を凝らしてみると、刃物や杖などを隠しもつ人たちの影が壁や柱からそっと覗かせていた。
男について行くまま、砂にうもれてしまった建物についた。
そこは、かつて宿屋出会っただろうに、ギイギイと木が軋む音と風の通り抜ける音が混ざり合い、看板を不気味にも揺らしていた。
男は扉にノックし、なにかこそこそとしゃべりだした。
「合言葉だ」
エレナ呟いた。
合言葉・・・敵対している連中に機密なことがもれないようにすることの確認方法。
「さあ、入れるぞ」
男が扉に手をかけたとき、先程まで物陰に隠れていた人たちが姿を現した。
「!?」
エレナと男は気づいていた様子で武器を抜き、戦闘体制にはいる。シグマはどうしたらいいのかわからないまま、その場からとりあえず男の後ろへと回り込んだ。
「ナイトとか思っていたらとんだ見かけ倒しだな」
「その人はナイトというよりもナイト(なにもしない人)だと思いますが」
エレナのツッコミが男へと跳ね返された。男は布の中から笑いながら、剣を腰から抜き、正面にいる数人の男達に剣を向けた。
「敵の数は・・・リュート偵察を頼む!」
男のマントから一匹の白龍が飛び出す。白く糸みたいに細い体をし、1メートルもみたない体の大きさながらも小さないくつかの翼を羽ばたきながら、風が舞うこの場所からどこかへと飛び去っていった。
「さて、リュートが知らせに来る前に、敵の数・・・把握できるかな」
「敵の数はおよそ、正面に4人、物陰に隠れている人が1人、柱に隠れているのは2人、高台にいるのはおそらく1人だと思います」
「へー、そこまでわかるんだ。なら、一層、どうにかする方法は物分りかな」
男が煌く。
そんな様子をシグマはただ、見つめるしかできなかった。
「ところで、あんたの名前は?」
エレナが尋ねた。
「おいおい、戦闘前だぜ・・・俺の名はセラス! 君の名は?」
「エレナよ!」
「エレナ! 一時の戦闘だが、後衛よろしく頼むぜ!」
ため息をはく。
「もちろん、任せて」
セラスが動く、シグマはここにいてはいけないと思い後ろにあった木箱の後ろへと飛びこみ、様子を伺う。
「正面の敵は任せな! 悪魔の炎の演舞!」
剣から紅い炎をまとい、剣を降ると同時に悪魔のような雄叫びと同時に敵が切り裂かれていく。
「この技は耐性がない限りはよけられないぜ!」
別の敵に切りかかる。そこに柱に隠れていた2人のうち1人が姿を現し、セラスに向けてなにか仕掛ける。その人の周囲に呪文が浮き上がる。
「そんな詠唱・・・俺が消し飛んでやるぜ! 悪魔の死の眼光!」
男の目が一瞬光る。その光は離れ目も見つめていないはずのシグマに肌がビリビリと痺れたような恐怖と寒気が全身へと貫く。
(な・・・なんだこれ)
そこに、ふとエレナの会話が頭をよぎった。
(これが、耐性がないと・・・いうことか)
歯を強く押し当てながら、ここに痛くなはいという恐怖をこらえる。
その光を見た男は突然、目から出血し、その場に倒れこむ。
「思った以上に・・・やりますね。しかも、召喚魔法を自身の体内から発動するなんて、かなり熟練者だわ」
セレスは襲いかかってくる人たちをまるで紙のように軽々と切りつけていく。あたりは砂と一緒に赤い液体が染み出るが砂埃と風によって赤い液体は消えていく。
「っく・・・化け物め!」
塔の上にいた男が望遠鏡から覗き、額から汗が止まらない。数的には優位に立っていたはずの数が状況からして一変し、物陰に隠れている連中を含めて数人しかいないことに恐怖を引き出す。
勝てない・・・勝てるはずの賞賛で挑んだはず。前も同じ手を使って旅人から身ぐるみをはいだ成功感があった。
だが、今回は負けを認めざるえないものへと変えていた。
「は・・・はやく、てった・・・撤退を」
男は望遠鏡から足場に置かれていた逃走用の爆弾を手に取ろうとしていた。この爆弾で目の前に投げ、爆発とともに仲間と一緒にずらかるという算段だった。
男が足場にある爆弾らしきものを拾うとした矢先、「キイ」という声が聞こえた。
男はビクビクと額からもうこれでもかと思うほど汗だくになりながら、その聞こえた音の先へ目を向けると、白龍のしっぽを掴んでいる男の手があった。
爆弾は遥か先へと白龍によって転がされていたのだ。
「な・・・なぜこんな・・・とこに?」
使い魔・・・。男は一瞬そんな言葉が見つからなかった。退治している連中の使い魔だと気付かなかった。男はやさしくなでるつもりで、まず握っていた白龍のしっぽから手を除き、白龍の頭に手を伸ばそうとした矢先、白龍は吐息を吐いた。
男が触れようと白龍の頭のギリギリまで近づかせていたが、男が気づく前に氷漬けにしてしまった。
白龍はレアとも言っていいほど貴重な生物である。ましては龍となれば、使い手は必然的に少なくなる。
妖精や精霊、魔物、亜人とことなり、龍は自分よりも強いと認め、ともに手を繋げるほどまで共存したと認めた相手にしかなつかないという。
赤子から育てようとするものもいるが、環境や気温が合わずそのまま死んでしまうケースも多い。本来、龍は人手によって育てられる生物ではない。
ましてや、使い魔という判断だけの生物ではない。
「ぐ、グアアァァ」
男の悲鳴が響き渡る前に風の猛烈な音と男を覆い尽くす氷の速さによって男が仲間に撤退を下す前に倒されてしまった。
もちろんそのことはセラスやエレナ、敵でさえも知らないことだった。
「いつになったら・・・指令がくるんだ?」
「こいつらやばい、はやくにげてえ」
物陰に隠れる人、柱に隠れる人。もう、勝てる見込みはないと悟っていた。
高台(塔)にいる男からの合図をまつ。高台にいる男は周りの状況をよく把握することができる位置にいる。
ましてや、物陰や柱に隠れている人は視界が狭く、周りのことは耳と鼻、感覚しか便りにならない。だが、風がすごく音がヒューヒュー吹いているためか、耳からではセラスたちのいる場所が把握できない。
目では確認できるが、もし、近くまで迫ってきたときは、目だけで判断するのはできないとその人は決めつけていた。
なら、最終的に白旗を立てて、逃げ出すという方法もあると柱の男が閃く。しかし、白旗を出したとなれば、仲間たちが危険にさらけ出すリスクも出てくる。まだ、やられていない仲間もいるかもしれない。
男は行動をセラスたちがどのように出るかを探ることにしてしまっていた。
「あー、出ないな」
「全くですね」
思っていた以上に張り合いがなく積極的に奇襲するつもりで影に隠れたであろう連中がまさかの隠れるだけという戦法に出たことで、セラスたちは苛立ちしていた。
それは、敵にとっては好都合なのだろうが、それを確認する方法はなく、自信たちもセラスたちを出し抜くまでの戦闘経歴はないといえる状態だった。
「ちくしょう。金が楽に入ると聞いてみたら、まさかこんなことになるなんて」
「はやくはやく・・・撤退を・・・」
慈悲をする人と、過去の悔みをする人。それぞれの思考がその場を曇らせた。
「時間がありません。私が――――ブツブツ」
エレナが呟く。別の単語であった。シグマもセラスもラナも聞いたことがないまったくの未知数の言葉がエレナの口から溢れる。
エレナが杖を天に向け、強く言葉を発した。
それは、「てれ!」といった。意味はわからないが、それは大きな魔法であることを悟らせるには十分なものだった。
天から降り立ったのは小さな青白い光だった。
「これは、精霊様の・・・」
ラナとシグマは見覚えがあった。この魔法は、森で戦った精霊が使っていた魔法と似ていた。偶然はなかった。
青白い光は複数に分裂し、誘導するかのように柱と物陰に隠れた敵へと放たれ、発火、爆発した。
次回、第2章:使い魔の虐待と保護活動




