精霊
老人から去ってから数キロまできていたとき、先ほど老人が口にした単語がわからなかったため妖精のチルに質問したところ、ラナは頷き、目をつぶった。
(説明するわね)
その声は少し喉が潰れてしまったような薄くガラガラな声であったが女の子らしい声でもあった。その声がシグマの脳裏へと伝えられた。
(なにから、聞きたい?)
「・・・なんだか、落ち着かないけど・・・」
(落ち着かないとは、気分や状況に応じて――)
「ちょっと待って、それを聞きたいのじゃなくて、“あかずの間”とか“魔法”とか、この世界における一般常識が知りたいんだ」
(そ、そうなの? 早く言いなさいよね)
少し嫌な気持ちになった。これはツンデレというものなのかどうかは触れたことがないのでわからないが、どうやらラナは老人のときと違って少し照れているようだ。
(そうね、歩き(飛び)ながら説明するわね。この世界において“あかずの間”というのは“ラグレーヌ”というの。それは、この世界を取り締まる役員のことよ。彼らは獰猛でなにかと理由つけては人をさらうというあくどい存在よ)
“あかずの間”という存在は取締役員といったものだろうか。警察みたいなものか。
(主人(老人)も言ったように、“あかずの間”に手を出したらなにをされるのか溜まったものじゃないから、積極的に逃げたほうがいいわ。彼らは魔法も物理も効かないから一度でも狙われると命が燃え尽きるまで逃げろとなるわ)
魔法も効かない連中・・・それはかなり厄介な相手だ。遭遇したくない存在だ。
「・・・魔法が効かないというのであれば物理はどうなの? 武器で叩くとか」
ふと思いついた点を言った。
(うーん・・それは考えたことはなかったわね。あなたがいる世界はどうなのか知らないけれど、この世界では武器で攻撃するというのも魔法の一種に値するのよ。まあ、無理の可能性があるかもね。成功したという人も聞かないし)
「そっか・・・と、いうか成功かどうか聞くことはできないよね」
(まあ、そうだね。さて、この先にある森の先にあるけど・・・浮遊して無視して進もうか。この森は魔物が多くてね、魔法も使えないあなたにとっては無理すぎるわ)
魔物・・・と聞いてあってみたいと思ったが、ラナがそういうのであれば、魔法もこの世界のことも無知のままであったのならば、下手に好奇心だけで前に進まないほうがいいみたいだ。
魔物も見たいと、シグマは手を挙げてまで言ってみたいと思ったが、魔法がまだ覚えていないし、魔法という存在自体を使えないとなれば、ラナの言うとおりに、森は無視したほうがいい。
「そうだね・・・森を迂回していこう」
(それじゃ、目をつぶってね)
「え」
(あなたはまだ、この世界について知らなすぎるわ。魔法の使い方を私から伝えるにしても魔力が蓄積できないあなたの体は、魔法に対しての抵抗がない。よって、魔法というものを見てしまうと、目から脳へありえないものをみたっと幻覚のような表情が出るかもしれない)
「いえ、それでーーー」
(どういう理屈であろうって、材料を無事に集め終わるまでは魔法のことは一切見ないこと、いいね!)
いやな理屈である。でも、実際に魔法がない世界から来たのだから、ラナが言うには信じるしかない。口が少し悪いが、信じれる人は妖精のラナか老人しかいない。
「わかった。目をつぶる」
(半開きしていても効果が及ぶから、本当にまぶたをつぶっていてね)
念を押される。「わかっているよ」とだけ伝え、ぎゅっとまぶたを強くとじ、さらに光かなにかの情報が入らないように、両手を重ねるかのようして目を覆った。
ピカっと微かな光が放った。
けれど、それを見るわけには行かない。
ラナがなにか言葉を発しているが、これはぼくがしる言語ではないなにかであった。
ふわっと風船のように体が浮かぶ感覚があった。
魔法というのは浮遊魔法のようだ。ラナの指示がない限りは目を開けないようにしていた。
それもあって、周りの景色がどうなっているのかわからないまま、ラナが行きたい方向へ体が勝手に動き、移動することがわかったまま行先が不明の状態でラナの行く末を黙って体で感じることしかできなかった。
しばらくして、ラナが「目を開けていいよ」といったので、両手を隠しつつまぶたをそっと開くと、そこにはひとりの髪が長い女性がエメラルド色の泉に銅器のようなツボを沈めては自身の体を浴びせている光景があった。
女性はこちらの存在に気づいていないようで、歌を歌いながら冷たいのかわからないエメラルドの水を肩から流していた。
そんな光景を両手を腰の下まで下げる。
ラナはそこに女性がいるのに、その女性のことをまるで見ていないかのようにわざとらしく大きな声で言った。
「あそこに居るのは、この森の一部の精霊よ。名前は私よりも上位だから名前は知らないわ」
「上位だと名前はわからないの?」
「ええ、そうよ。精霊たちの掟なの」
ラナはどの階級に当てはめているのか定かではないが、ラナよりも上位の精霊が水浴びしているということは、精霊がシグマの存在に気づいたときはかなり大変なことになってしまっている可能性が考えられた。
「早く、ここから逃げよう」
と、慌ててシグマは言うがラナが女性(精霊)に指をさしながら「あそこの水が材料に示しているものなの。安易には帰れないよね」と、ラナはなにか嫌な目つきで睨んできていた。
“あの精霊に一言いって材料を受け取ってこい”という目だ。いくら精霊とは言え女性のような風体・・・半裸に近い状態の精霊に近づいて「水をください、お使いなんです」なんて言ったら、どんな目に合わされるのか想像できない。
チラッとラナへ見つめるとラナは行け! と視線を何度も精霊に向けていた。
「無理ですよ、いくら精霊でも女の裸を見るなんて・・・」
「あら、精霊の裸に興味あったの? じゃあ、付け出さなきゃね」
もういいですよっとラナに強く言い放ち、勇気を振り絞って精霊に近づく。
精霊はまだこちらのことに気が付いていないのか歌を歌っていた。その歌は妙にシグマがいた言語に似ており、少しだがその内容が読めた。
『枯れてしまった彼はどこへいったのか?♪
それは、途方もくれた先へと旅立ってしまったのよ♪
けれど、私は待つわ。何年、年十年、何百年まっても、彼がきっと私を連れて行ってくれる都へ♪
枯れてしまった光はどこへいったのか?♪
それは、途方もくれた先へ消えてしまったのよ♪
けれど、私は待つわ。何年、何十年、何百年まっても、光はきっと私を照らしていってくれる都へ♪
枯れてしまった命はどこへいったのか?♪
それは、私が知らない世界の先へ旅立ってしまったのよ♪
けれど、私は待つわ。何年、何十年、何百年まっても、命はきっと私のもとへ帰ってくれる都へ♪』
精霊の声を黙って聞いてしまっていた。
言語はわかると黙ってその先を知りたくなってしまう。知らない曲だ。けれど、どこかで聞いたことがある曲だ。
シグマがそう考えていたとき、精霊はこちらの存在に気づいたようで、口を大きく開き驚いた表情でシグマを見つめ、持っていたツボを泉へ落としてしまった。
周囲に水の音が鳴り響き、エメラルド色の水が周囲へ飛び散った。
(なにしているの!?)
「え」
突然のラナの呼びかけで気が動転してしまった。再度、なにをするのか言われる前に精霊はこの地へ無断で入った違法者だと思われたようで、突然何もなかった手から杖を取り出した。
満月がスイカが身の部分が食べられたあとのような形状の月。杖の先端についていた。杖をくるくると回転させ、精霊はシグマに言い放った。
「そなたは何者だ!? 森に入ったのならば、魔物たちが知らせてくれるはずだ――」
シグマのそばで飛んでいるラナの存在に目をいった。
「そうか、ソナタがやったのか・・・裏切りのラナめ」
裏切り・・・ラナが裏切り? 一体どう言うことなのか?
(惑わされないで、あなたはただ、水をとってくればいいの、私があの精霊を説得するから、さあ)
ラナに背中を押される形で精霊が起こってしまっている原因がシグマたちが無断で森に入ってしまったことに対しているのがわかったが、シグマは泉に近づく前に精霊へ言葉の募らせた。
「すみません! 無断で森に入ったことは詫びますが・・・ぼくはおつかいで、あの水が欲しいのです」と、泉に指をさしながらふかふかと頭をしながらおっかない目つきの精霊に向けた。
(ば・・・ばか!)
とラナがあまたの中へとそう呟いた。
「馬鹿にしておるのか!? ふざけるな!! 我が神聖な場所を汚す者よ、我がソナタを大地の餌にしてやる!!!」
と、怒りの頂点を立たせてしまった。
あとで、聞いた話なのだが、精霊に対して謝ったり頭を下げる行為というのは禁止ワードらしく。精霊に対して挑発する行為なのだという。
そんなことを知らずに謝ってしまったわけだ。
精霊が杖を掲げると、天から何かが降り注ぐ。
それは、青白い光のなにかだった。
ラナはそれを見た瞬間にシグマをかばうように、シグマの前に立つなり魔法を唱えた。さっきまでは、魔法は見てはいけないと言っていたのに、そんなときは幻覚もなにも起きなく、ただ魔法と思わしき白い壁の結晶がシグマとラナがいる範囲から1メートルいないの範囲で覆うように壁が作り上げていった。
防壁魔法・・・もしくは結界だという。
(とてもじゃないけど・・・防げることはできないかもしれない・・・精霊を怒らせると怖いのよ。百人の兵士や千人の兵士を招いても止めることも倒すこともできないわ)
しまったと思った。
でも、魔法もなにもない肉体で精霊にどうやってさっきのことをお詫び入れればいいのかわからない。
徐々に青白い光がラナたちのいる方向へ迫る。
光は複数に分裂し、いくつかの光の矢となってラナたちの結界へ襲いかかった。ラナは必死でこらえているが、結界のところどころにヒビが生える。
ヒビが入った部分を魔力を注ぎ、正常に戻そうとするが魔力の流れが足りなくなった箇所がヒビが入る。
ラナは必死になりながらシグマを守ろうと結界を崩さないようにする。
そこに一筋の大きな矢が結界へと貫いた。
(が・・・は・・・)
ラナの口から大きく紅い血のようなものを吐き出した。
飛ぶ力を失い地面へ叩きつけられる形で倒れると同時に結界が一斉にヒビが入り、崩れ落ちていった。
ラナは血反吐しながら必死で立ち上がろうと右手を地面につき、左肘で地面に体を抑える。両膝で地面へ体を抑えつつシグマへ脳裏へと伝えた。
必死な声で。
(私が振り絞る・・・だから、あなたは今すぐ主人(老師)を呼んで・・・)
固めの瞳をつぶり必死で口からも伝えようとしていた。
けれど、シグマは逃げるも呼びに行くのも考えてはいなかった。
精霊を怒らせたのは自分が知らずにやった行為でこのような事態に発展したと、シグマは立ち上がり、精霊に問いあってもらえないと言葉をかける。
だけど、精霊は怒りが収まらないのか、シグマに向かって青白い光の矢を放つ。それをラナがもうこれ以上血はだせないというほどまで吐き出しながら、シグマへ魔法の結界を張る。
そして、(なにしているの? 早く行って!)と、ラナの声が聞こえるが、シグマは耳を傾けず「こうなったのは僕のせいだ! だから、精霊に一言謝りたい。荒らしにも傷つけるつもりできたわけではない」
と、叫んだ。けれど、精霊は耳を貸さず、再びシグマに青白い光を襲った。そこにラナが最後の力を振り絞って花を羽ばたきながら、シグマの前まで行き、最後の魔法で結界をはるも簡単に打ち抜かれる。
それでも、ラナはシグマに魔法で結界を張り続けようとしてくれていた。
「どうして、そこまでするのだ? たかが人間なのだろう?」
(人間であっても、この人は私の主人に頼まれたナビです。だから、私がここで倒れてしまったら、私は主人を悲しませ・・・・・・)
ぎりと歯を軋みながら(私は主人の頼みでここに来たのです。だから、シグマも傷つける訳にはいかないのです!)
ラナはそう叫んだ。
「そうか・・・」
まぶたをとじ、精霊は青白い光をさっきよりも大きなものを呼びつけた。
(あ・・・)
「楽にしろ! 所詮、裏切りの戯言だ」
襲いかかる青白い光は直径2メートルはある。こんな威力はラナでも到底防ぎれない。
「戯言だとじゃない。ラナは主人やぼくのためにいる大切な存在なんだ! ラナが過去のなにかで裏切ったのなら、それはそのときの事情によるものだ! ラナは悪い人じゃない。戯言じゃない!!」
シグマはラナの体を両手で覆いながら、自身の胸の中へと押し込む。自身でラナを守ればいいそう思っての行動だった。
「馬鹿だろ・・・人間が精霊の魔力に耐えられるはずはないだろうに・・・まあ、ソナタが私に危害を与えないというの証明があれば、助けてやろう」
精霊は優しく言いながら、表情は笑っていた。
どうせ、できないのだと知っていた表情だった。
「っく・・・どうすれば」
(つくづく馬鹿ね、私の力を少しだけ貸してあげる。あとはあなたのイメージで・・・)と、なにか温かいものがシグマの体内へと流れていくのが感じた。
周りが寒い状態で温泉の中へ入った時の感覚に似ていた。
ラナの中にあった魔力がシグマのなかへ流れ込んだ。
本来なら、魔力をもたない人間が魔力をだれかの手によって得られたとしても、魔力を保存するための容量がなければ、どれほどの量の魔力をすっても得られることはないのだが、このときのシグマの考え方は違った。
貯めておくための容量がなければ、その場で魔法を作ってしまえばいいと。
シグマは胸のなかで冷たくなってしまっているラナは両手で優しく包み込み、ラナからもらった魔力で精霊に証明してみせる。




