問題
異世界へ飛んだ少年は異世界という存在を知ったことが心から喜んだ。
それは、人が決してどんな技術や年月を果たしてもそれと値する世界へ飛んだという立証を得られていないのだ。
そこが異世界?
そんな単語が自身へ誘いかける。
異世界さ
少年は自身へ語りかけた。
そう、そこは異世界。異世界と踏み入れるのは現実にないオブジェクトやワールドを見ればいいだけの話だ。
少年は、そこがい世界であるということはもう、その場所へ足を踏み入れた時点で知っていた。
少年の名はシグマ。
異世界へ行く前――
シグマは異世界という存在がどこかで存在しているのだと子供の頃から信じていた。それは、子供用の絵本であることが書かれていたの。
“小さな店に毎日顔を出していた少年は、ある日 店のオーナーが少年に“魔法”をさずけた。少年は“魔法”を唱えるとあら不思議、そこは魔法世界だった。少年は魔法という術を知り、知識や技能をたくさん得た。
少年はオーナーと再びで当てた時は、少年は一人前の魔男となっていた。
その魔法世界へとつなぐ要となった“魔法”は、少年が自分と同じ道をたどってくれる人を信じて、オーナーへそれを渡して魔法世界へと消えていった。
残されたオーナーは少年にお礼をいって、お店を閉めた”
シグマはその絵本を毎日見ては、魔法世界という世界を憧れていた。
友達や大人に聞いても決して答えてくれるだけでなく馬鹿にされることも多かった。時々、教えてくれる人もいれば、彼らはただからかうだけだった。
現実には異世界につなぐ道などない――。そう思っていた。
しかし、シグマの家の近くに古くて誰も住まなくなった廃屋がいつのまにか小さな喫茶店へと姿が変わっていた。
お店の名前は“魔法喫茶店”と書かれていた。
シグマはおそるおそるその店の窓から店内を覗くと二つのテーブルと椅子が四つ、古臭く木の壁の匂いが窓の隙間からこぼれ落ちるかのように流れていた。
シグマはいつの間にか、その店内へと足を踏み入れてしまった。ただなる好奇心だったのかもしれない。
けれど、シグマはそのお店にしかないものを発見し、店の中へと入ってしまったのだ。『準備中』と書かれていたプレートを無視して。
扉を開くととくに鈴などの音はならず、かわりに鳥の鳴き声が聞こえた。
「おきゃく、おきゃく」
それはオウムだった。お店の扉のすぐ横に小さな木の枝のようなものが壁と壁を繋ぐかのように一本だけ繋げた木の上に足を掴んでいた。
「はいはい、おきゃくおきゃく・・・」
慌てた様子で奥から顔をのぞかせたのは桃色の髪にウェーブで整え背中まで髪を伸ばし、赤色のリボンを髪の先端あたりまで軽く止められていた。
紺色の魔女のような服装をそており、腰から黄緑色の紐が腰の方へと結ばれていた。手首には指輪と違い腕輪といったような大きめの宝石と銀製の腕輪をつけていた。
手も白い手袋をしていた。
「おきゃくさん? まだ開店時間じゃないけど・・・」
表に準備中と書かれていたのだが、つい好奇心で入ってしまったとシグマは言い訳をした。
「めずらしい・・・か。私の世界ではあまり聞かない言葉だっ・・・・・・」
「え」
「あ、いや・・・そーだ」
シグマが疑問の表情を浮かべながらその女性はシグマに人差し指を口元に当てながらなにか閃いた様子で奥の店内へと誘われた。
「実は今日のために仕込んだクッキーがあるの。こちらじゃ、この味でいいのかわからなくてね、よかったら君に・・・味見してくれると助かるな」
女性はキッチンから直径2センチ程度の厚さ1センチも満たないクッキーを持ってきた。香りは桃の匂いがした。
「これって、桃?」
「食べてご覧」
女性に進められるなり、シグマは口にした。
「!?」
香りは確かに桃だった。だけど、中身は違っていた。
クッキーの中身はクッキーとは言えないほど優しく餅のように包み込み、口のなかで餅みたいにモチモチと口に残る印象はなく砂糖を含んだようにふっくらと溶け込み、口の中へと広がっていった。
味は広がる高原のなかで自分だけがその世界を見渡していくような開放感に満たされていった。
「味はどう?」
上手くは言えないがシグマなりに回答した。
女性じゃ「そんなにすごいの? うまく調合できたみたいね・・・そうだ! 明日も来てくれないかな? お店の手伝いさんと味見鑑定という仕事をたのみたいな」
女性は手を合わせながら微笑んだ。
シグマは素直に頷いた。
「そうだ! 名前言ってなかったね。私の名前はマージョナよ、あなたは?」
「僕の名前はシグマ」
「そう、シグマね。よろしく小さなお手伝いさん」
そういて、マージョナのもとでシグマは彼女の手伝いをすることになった。
最初は使い慣れていない様子でマージョナは調理器具を倒したり、オーブンで焦がしたりとドジを踏んだりしていたが、マージョナが作ったものはどれも一級品で美味しかった。
そんな噂を聞きつけ、遠くからも味を知ろうと人々が訪れ始めた。
どんな風にすればいいのか対応すればいいのかわからない事だらけだったがマージョナも同じ様子でとくに恥ずかしいということはなかった。
そんな生活を続けて2ヶ月後、マージョナのお店に行ってみると、マージョナは小さいけれどもケーキを作っていた。
話を聞くと、どうやらシグマが友達と思われる同じ年頃の子供からいじめを受けている様子を見て心配になり、その子供からシグマという子はどんな子かと聞いたようだ。
他人の力を借りてシグマの事情を探るという行為に腹はたったけど、マージョナが言った言葉になぜか涙を浮かべてしまった。
「お誕生日、今日だって聞いてね。せっかく手伝ってくれた小さな店員さんだからケーキ用意したの・・・だからね」
シグマはマージョナの胸に抱きついた。
シグマは孤児院生まれである。
生まれてまもなく親が孤児院の前に「育ててください」とだけ残して、姿を消したのである。シグマという名前はその紙の裏に書いてあった。
どういう意味でシグマと書いたのかはわからなかったが、シグマという名を聞いて大変喜んだことから、シグマという名前をつけたそうだ。
シグマは魔法に憧れていたこともこのとき、マージョナへと打ち明けた。その絵本と同じような方法を行えばいずれ、魔法世界へと行けるのではないかと。
マージョナはシグマに惹かれたのか、手伝ってくれた感謝なのか懐から透明でありながらも青く光を発する結晶を取り出し、「魔法界へ行くことができる力を持つ」と伝えつつ、その結晶をシグマへと手渡した。
「その名前はクリスタル。科学界と魔法界と繋ぐための橋」
そう伝えたあと、クリスタルは青白く輝きだした。光は店のなかを包み込むように光が覆っていき、目の前にいたはずのマージョナの姿も奪っていく。
光の中でマージョナの声がした。
“素材を買ってきて欲しいの”と、光のなかで一枚の紙がシグマの手にポンと煙と一緒に姿を現した。
そこには丁重に買ってきて欲しいもののリストが書かれていた。
どうやら、買い物を任されたようだ。
買い物という言い訳なのか魔法という同情のどちらなのかはわからない。けれど、魔法という世界が存在するのならば、シグマは元の世界に帰れなくてもいいと思っていた。
ーーーそして、現在。
シグマはひとり、見知らぬ建物のなかへと足を踏み入れていた。レンガ造りでありながらレンガといえるような素材で作られているのかどうなのかわからない。
そういう憶測はレンガの材質を見たときそう感じたのだ。
レンガは土などを形に流して固められたもののはず。だけど、そこにあるレンガというものはなにか液体というよりもゲル状だった。
触れればブヨブヨとネバネバが組み合わせられた感触だ。
「これって・・・レンガ・・・じゃないよな」
不審な気持ちになり長も、そのレンガという材質を無視して、建物の奥へと足を進めた。すると、そこには白いあごヒゲを生やした見た目からして老人が今にも崩れそうな古臭い木製の椅子に腰掛けながらシグマを待っていたように言った。
「手紙をここに」
手紙・・・あのとき手渡された紙。そう思い、懐から紙を取り出そうとすると、ない。いや、あるはずだ。ズボンから服へと穴がある場所を探る。
見つからない。
「ホホ もうすでにここにある」
老人が指差す方へ目を向けるとそこには机の上に一通の紙が置かれていた。
「いつのまに」
「ホホ なるほど。そなたは転移・・・だけでなく魔法も知らないというのか」
「魔法・・・さっきの紙を移動したのも魔法なのか!?」
シグマは老人に答えを求めた。
「ホホ 魔法かどうかは部外者には答えられぬが、ひとつだけ教えておいてやろう。ここでは、容易に魔法、科学、驚くなどしてはいけないこと」
人差し指を立てながら老人は言った。
それは、この世界においてルールというものだろう。
魔法と科学、驚くという行為はするなしゃべるなということなのだろう。
「それは、ルールなのか?」
確信が欲しい。シグマは疑問を口にした。
「ホホ そうじゃ。さて、ソナタに質問する。もし、答えられればこの魔法世界でお主が“あかずの間”に囚われないように工夫するが・・・」
「が?」
「まちがえたときは、残念ながら“あかずの間”へ保護させてもらおう」
保護? いや、まさかそれは実験生物のように捉えるという意味で言ったのだろうか。“あかずの間”という単語も気になる。
シグマがもうひとつ質問が増えたことで口にしようとしたとき、老人がシグマから質問が飛び出す前に問題を出した。
「魔法世界において、知っていない者はいない。知らない者は部外者とし、“あかずの間”へ連れて行ってもらう。“あかずの間”という存在は正解したら教えてやる。ただし、間違えたら“なにも知らないまま捕まってもらうよ”」
と、意味不明すぎる状態へと発展していく。
シグマが老人が話している最中に声を出した。すると、老人が不機嫌そうに人差し指を漢字で一と横に振った。すると、瞬く間にシグマの口がチャックで閉じられたかのように口が開かなくなった。
「・・・・・・」
それだけではない。声もでなくなった。
これが、この世界における魔法というものなのか。
(面白い! この問題を解いて、魔法という存在も知りたい!)
と、好奇心が目へと伝えられた。
「ホホ 好奇心旺盛じゃな、まあ異世界から来たものはみんなそうだ。さて、問題じゃ。『この世界では約2000年前、大厄災が起きた。そのとき、姿を現したのはドラゴン、巨人そして、ひとりの人間だった。彼らは魔法という存在を打ち消し、地上から天下まで人間や動物、植物たちを絶命させていった。
そんなとき、時の旅人がこの地に訪れ、厄災を封じることができたと神話で残されておる。詳しいことは今も研究じゃが・・・ここで問題じゃ。
大厄災のとき、姿を現したのはドラゴン、巨人、人間だが、このなかで最も長命で短命な存在はどれか、ひとつだけ答えろ』」
「!?」
いや、いま説明されただけなのだが、まったくわからない。
伝説やゲームやまんがなどでよくドラゴンが遥か昔から存在するドラゴンもいるとされている。
だけど、巨人はどうなんだ? 巨人は魔法で動いているものもいれば、植物の集合体、人間が巨大化したなど様々な種類がある。
それに、長命なのか短命なのかさえはっきりとわからない。
最後の人間は・・・・・・考えるまでもない短命だ。巨人やドラゴンのいずれかは長命であるのは確実。
しかし、老人は言った「このなかで最も長命で短命な存在はどれか、ひとつだけ答えろ」と、つまり三体のうち一体しか答えられないという。
短命はわかった。だけど、長命として考えたらどうだ、ドラゴンと巨人がどんな種族でどんな姿をしているのかはっきりとわからない。
これでは、絵も表記されない説明だけの問題だ。
特徴もいまいち掴み取れない。いったい、どれが正解なんだ。
そうこうと迷っているとき、老人がゆっくりと口にした。
「迷っておるようじゃな。時間はあまり取れぬのでね、あと60秒以内に答えてくれるぬか?」
老人の上に丸い時計がなにもないところから姿を現した。時計の長い針だけが60という数字から動き始める。59という数字に当てはまると同時に、60という数字が0とう数字に変わった。
これは、確実に攻めに来ている合図だ。
「さあ、早めに答えぬとお主の負けが確定じゃ」
(どうするの? どれが正解だ。普通ならここでは、長命ならドラゴン、短命なら人間と答える・・・・・・そっか、長命と短命のひとつが正解ならば、巨人がもし集合体と考えたとき、答えは巨人になる。集合体であるのならば、短命と長命それぞれの意味合いが重なる。しかし、もし集合体の巨人ではなかった場合、さらにあやふやとなる。それに、ここは魔法の世界。人間なら霊薬や秘薬などといったものに頼って長命となることもできる。ドラゴンも長命という考えだったが、異世界によっては短命ということもありえる。答えはひとつ。もし、巨人と答えて違っていたら、ぼくの道はここで終わってしまう。マージョナさんのお使いも果たせなくなってしまう)
「あと、10秒・・・9・・・8・・・」
(やばい、もう8秒切った。どうする? ためしに人間と答えるか? いや、巨人と答えるか? 答えはひとつだけ)
「2・・・1・・・0 はい、終了っと、さて答えはなんじゃ? 疑問や理由などが散々思い浮かべたようだが、その答えのうちどれかがあたっておる。さて、答えを聞かせてくれるのか」
迷っているのも・・・飽きたな。うっておわって締めよう。
シグマは大きく息を吸い、吐いた。
「答えは、人間だ!」
「ホホ なぜじゃ?」
「老人殿はあえて、人間といった。この世界では人間の寿命はわからない。だけど、ぼくの知っている世界では短命だ。巨人やドラゴンというものは存在しないから分からないが」
「それじゃ、短命だけという理由にしかならぬぞ。なにか方法でも使わない限りは――」
老人が占める前にシグマは口を割って入った。
「そう、あなたは言わなかった。人間が方法といったもので長命になることもありえると。最初はドラゴンのほうが長命と思いました。しかし、巨人の一個体なのか集合体なのかわからなかった。巨人も長命であり短命でもあると」
「ならば・・・」
「・・・しかし、大厄災を招くと考えて、巨人は集合体であることは難しい。なぜなら、複数の意志がひとつに繋げて行動するのは難しいとぼくは思った。残ったのは、ドラゴンと人間だけ。人間は方法という自分たちで生み出したものをつかって長命、短命できると考えたから、人間だと口にしました。ドラゴンは長命であるという点には変わらないです。」
老人は椅子から腰を上げ、答えた。
「正解は・・・巨人だ」
「な!?」
「たしかに、お主は集合体であり一個体といったが、それはどちらも世界だ。というよりも、巨人でしか記述しておらぬから詳しいことはわからぬのじゃが、わしは巨人のほうが長命だと思う。しかし、この世界でおいてはドラゴン、人間、巨人と答えは分かれておってな。ちゃんとした理由がないと相手はわかってくれるのじゃ。しかし、お主は理由をいった。それに、わしが思いも知らない範囲まで説明したのじゃ、だからどちらも正解、不正解と当てることは厳しすぎる」
「それじゃ・・・」
ゴクリとつばを飲み込む。
「うむ。お主を正解とみなす」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言うなり、忠告する形でシグマに鋭く言った。
「だが、この問題が出たときは、ちゃんと説明するのじゃぞ、それに、もし“あかずの間”から問題出されたときは、口にする前に逃げ出せ!」
と、よくわからないまま、老人はクリスタルをシグマへ返す。
いつのまに取られていたのかわからなかった。しかし、シグマはそのクリスタルを握るなり、なんだか落ち着く感じがした。
「さて、頼まれておった材料は一通り集めたのじゃが、残念ながらあとひとつだけ品薄でね、そこでお主はその材料を探してきてほしいのじゃ。ただ、探すだけではちと骨が折れるのでな。ここから東に行った先に神殿がある。そこで精霊と契約して、その材料のありかを聞くといい。あとは、わしの使い魔がお主をサポートしてくれるはずじゃ」
そういって、老人のヒゲの中からひょっこりと姿を現したのは一匹の小さな妖精だった。小さな女の子で蝶々のような羽をつけていた。
「フム ホホホ」
なにやら、老人と会話している様子だった。妖精は頷くだけで、老人は妖精になにか伝えているだけだった。
少しして、老人が「この子の名はラナ。お主のサポートだ。材料が手に入れたら、クリスタルを使って、お主の世界へ帰るといい。ラナはお主が帰ったのを見届けてわしが引き戻しておくからの」
と、老人はラナをぼくのそばまで近づけさせ、老人からこの世界におけると思わしき衣装とバックなどを手渡された。
ぼくとラナが最初の旅がはじまった。




