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デスコメ  作者: nanto
4/5

夢見るヤンデレ妹

だいぶ期間が空いてしまいました。

すみません、最近バイトとかテストとか色々ありまして。

次も今のところいつ出せるか、目処が立っていないので気長にお待ちください。

 ぼんやりとした意識の中チュンチュンと小鳥の鳴く声が聞こえる。

 もう朝なのか。さっさとこの……何だっけ?

 何かやらなければならないことがあったはずなんだが。

 眠い、意識が持って行かれそうになる。

 良いか、別に。

 俺はまどろみの中に身を任せようとしてーー


「兄さん、起きてください。朝ですよ」


 聞こえてきた、あの声が。


「起きないと遅刻しちゃいますよ!」


 女の子の愛らしく澄んだ声色によって俺の記憶は揺り起こされた。


 そうだ、俺ヒロインの内の誰かと恋人になればクリアというありがちな設定のゲームをやることになったんだ。

 今はまた義理の妹(確か名前は緋衣(ひい)だったか)に起こされるところから始まったようだ。

 彼女はまた同じように俺を起こそうと躍起になっている。


「もう兄さんってば、朝ごはん冷めてしまいますよ!」


 まずい、このままでは前回の二の舞だ。

 何とかしなければと思い俺は動こうとする。

 しかし体はまるで金縛りにでもあったかのように動かなかった。眠気も相変わらず健在で、なかなか思考がまとまらない。


「どうして起きてくれないんですか?」


 周りの温度が下がるのを感じた。

 本格的にやばい! せめて何か答えないと。

 えーと、えっと。ああ、もう! どうせ死ぬんだったら


「おはようのチューしてほしい」


「は、ほえ!?」


 緋衣の気の抜けた声が聞こえた。凍てつくようなオーラが消え、元の暖かさを取り戻していた。


 ありゃ? ひょっとして声に出てた?

 マジでか! 恥ずかしい!


 俺は思わずベットの上で悶え転がりたくなるが体はやはり思うように動かなかった。


 そういえば、妹ちゃんはどうなったんだ?

 やけに静かだけど。

 彼女の方に意識を向けてみると何やら呟いているのが聞こえてきた。


「兄さんが私にき、キスしてほしいなんて!

いえ、全然嫌と言う訳ではなく。むしろご褒美なのですが♪ やはりそういうことは段階を踏んでいくべきと言いますか! でもでも、そんな強引な兄さんもステキでーー」


 どうやら緋衣の機嫌はだいぶ回復したらしい。彼女は声だけでもわかるくらい幸せそうだった。


 それにしてもキスしてくれと言っただけでこの浮かれようとか。この子の将来が心配になるな。


 でも今がチャンスかもしれない。

 彼女が何もしてこないうちにこの状況をどうにかするんだ。


 まずは起き上がる方法を考えないと。

 とは言ってもやはり体はベッドに縫い付けられているように動かない。

 いや、正確には辛うじて首と手は動くようだがほとんど力が入らなかった。


 さらに気を抜けば意識を持っていかれそうになるような眠気が俺の思考を蝕んでくる。


 風邪でもひいているのだろうか?

 そう思うと体が熱っぽいような気もする。


「に、兄さん……そこは、んっ! 触っちゃだめ……です」


 これ、本格的にやばいかも。なんだか妙な幻聴まで聞こえて来たぞ。


「もう、毎朝こんなこと。え、私が可愛いからついって……そ、そんなこと言っても許してあげませ、んひゃ!?」


 って、これ妹ちゃんの声か。

 朝っぱらから何したはるん⁉︎


 思わず口調がおかしくなったが、艶めかしい声は緋衣のいる方から聞こえていた。


「これ以上はダメです! 兄さん、にいさん!」


 妄想の俺は本当に何やってるんだよ!?

 今すぐ変われ!


「えっ、キスしたいですか? でも私たち兄妹で……別に嫌ってわけでは」


 ごくっと、思わず喉がなる。いつの間にか聞き入ってしまっていた。


「あっ、にいさ……んっ」


 緋衣の妄想につられて俺もキスをするところを想像していた。


 相手の顔は緋衣(まだ見たことないためわからなかったが)ではないと思えて、ましてイシュでもなく見知らぬ女の子のものだったがその子のことを思うと何故だか胸が締め付けられるように感じた。


「みたいな展開になったりして、キャーー!」


 ドスッ!


 という音とともに前にも味わったことのある感覚が体を駆け巡った。


 あ、がっ……!


 胸のあたりを焼けるような痛みが支配する。

 また刺されたらしい。


 緋衣は自分の恥ずかしさに悶えて俺を叩いたらしい。その拍子に握ったままだったらしい刃物が刺さったのだろう。


 と考える余裕があるほど俺の頭はどこか冷静だった。


「キャー、キャー♪」


 グサッ、ザシュッ、グシュッ!


 緋衣は黄色い奇声を上げながら何度も何度も俺の胸に刃物を突き立て続ける。


 身体の感覚がなくなってくる。

 ああ、終わってしまう。

 意識が薄れていく。


 やり直すんだ、そして次はうまくやる。


 なーんて、一度言って見たかったんだ。


 ていうか本当に終わり?

 今回は妹ちゃんの好感度高そうだったやん!

 高くても低くても殺されるとか意味わかんねえ。


 あ、ちょ! ほんと待って、あーー!


 ーGAME OVERー







「ぷぷー、最後の何あれ♪ すごくダサいんだけど」


 起き抜けに小馬鹿にしたような声と学習能力の低そうな見覚えのある笑顔が覗いていたのでとりあえずスキンシップから入ろうと思う。


「いひゃひゃひゃい! ごめんなさい、ごめんなさい!?」


 イシュのほっぺたから手を離し周りを確認する。


「うー、リクくんのいじめっ子」


 イシュがいると言うことはどうやらまたあの部屋に戻されたようだ。


 マジか、さっき出たばっかりなのに戻って来るの早すぎるだろ俺。

 だけど、どうしたもんかな。

 正直なところ攻略方法が全く浮かばない。


 とりあえず、ソファーに座りイシュにもらったゲームの資料を読み返すことにした。


『湯前緋衣』♡【好感度 50/100】


 主人公の義理の妹で、湯前家の家事全般を担当している。

 ただし、料理に関しては絶望的で曰く【天にも登るマズさ】だと言う。

 思い込みが強く、スイッチが入ると周りが見えなくなる。

 自分ではしっかり者だと思っている節があるが結構抜けたところがあり、突発的なことに弱く許容範囲を超えると気絶する。

 兄(主人公)のことを病的なまでに慕っており、嫌われることを極端に恐れる。

 兄の世話をすることが何よりも好き。



 これが緋衣ちゃんのキャラ紹介に書いてある全てだった。


 正直に言おう。これでどうしろと言うんだ。

 ノベルゲームのような選択肢もなければ、こちとらコミュ力もろくにないぼっち村の住人だぞ。

 これっぽっちの情報でなんとかできるわけないじゃん。


「大変そうだね、よっと!」


 俺が己の状況とゲームの製作者を呪っているとイシュはもう機嫌を直したらしく俺の隣に座る。

 その手には棒状のチョコレート菓子を持っており、ビッと小分けされている袋を開けるとぽりぽりと食べ始める。


 またこの子は口まわりベトベトにして。どうしたらそんなに汚れるの、もう。


 なぜか幼子の親になった気分を味わいながらイシュの顔を拭いつつ、思考をあちらの世界に向ける。


 そもそも体はろくに動かないし、喋るのは不可能ではなさそうだけど、強く思ったことがそのまま声に出てしまっていていた。

 そんな状態だとまともにコミュニケーションを取るのは難しいだろう。

 持っている刃物もどうにかしないといけないし。

 ああ、もうダメだ。 何も浮かばない。

 やっぱり無理なんだよ。

 所詮俺のような友達もいないネクラボッチが恋愛ゲームの主人公になったところでらしく振る舞えるはずなかったんだ。


「はい、あーん」


 イシュは俺がネガティヴになっているところにチョコ菓子を差し出してきた。


「何だ、急に?」


「甘いものを食べると元気が出るんだって。

 だから、はい♪」


 このお気楽少女は俺のことを本当に心配してくれているらしい。

 せっかくくれるというのだから、ありがたく頂いておこう。


「あーん」


 俺はチョコ菓子の先に齧り付こうとするが、

 ガチッという歯がかち合う音だけが響き菓子は俺の口を避け、イシュの口に入っていった。


「あむ、もぐもぐもぐ」


「……」


「ふふふっ♪ わーい、騙された、騙された!」


 こんな子供騙しな手に引っかかった俺もバカだがそれよりもこいつにからかわれたという事実に無性に腹がたつ。

 やはり泣かしてやるしかない。


 だがこのやり取りも8度目になるので面倒くさくなってきてもいた。


「なぁ、洗濯バサミとビニール紐持ってない?」


「ん? 持ってるけど何に使うの?」


 赤くなった頬をふにふにしながら本棚の隣にあったピンク色のチェストからビニール紐と洗濯バサミをとって俺のところに来る。


 2つの洗濯バサミの金属の輪っかの部分を紐で結んで繋げた。それでイシュの両ほっぺを挟む。


「えっと、これでどうするの?」


「この紐を持って思いっきり引っ張ればいい」


「わかった、えい!」


 バチンと小気味好い音が響いた。


「い、痛いよ〜!?」


「そうだろうな〜」


 こいつ本当にバカなんだな。だが、危険を顧みない挑戦心とリアクションにはキラリと光るものがある……ような気がする。

 奴の才能を俺が伸ばしてやらねば。


 俺は涙目でこちらに訴えて来るアホな女の子を宥めつつ頭を撫でる。


「と言うわけでいちいちお前につっこむのも面倒になってきたから今のを自分でやれ」


「嫌だよ! 何でそんなことしないといけないの!?」


「え、 お前芸人目指してるんだろ? そのリアクション芸で天下目指せよ」


「リアクション芸なんかしてないし、芸人でもないよ! もー!!」


 イシュはプンプンと漫画のような擬音が聞こえそうなくらいに怒っていた。


 でもそんなこと言いながら自分からツッコまれに来てるんだ、から……、そうか。それだ!」


「それってなんなの! 私怒ってるんだよ!?」


 緋衣ちゃんの攻略の糸口を見つけた俺は資料を見直し考えをまとめる。


 少し運任せな気もするがこれが一番マシな方法だと思うのでこれで行こう。


「ちょっと試したいことができたから、もう行くわ」


 俺は憤慨気味のイシュにそう言い残し颯爽とあちらの世界に向かう。


「待って、まだ話は終わってないんだよ! もう、聞いてよー!」


 イシュの餌をもらい損ねた雛鳥のように悲しそうな叫びが響いた。
















































次回で妹ちゃんに起こされる話は終わるつもりです。

そして二人目のヒロイン(イシュは除く)も登場する予定なのでお楽しみに。

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