ぐーたら少女
だいぶ一話から期間が空いてしまいましたが、次はもう少し早く出せるよう頑張りますのでよろしくお願いします。
暗い……。
「何処だここ?」
周りを見渡すが何もない。何も見えない。 俺の声だけが真っ暗な世界の中響いている。いや、真っ暗とは違うのか?
自分の手や足、体ははっきりと見えているから暗いというよりは黒いという方が正しいと思う。真っ黒な部屋の中に俺だけがいるって感じだ。
体には特に異常はなく、いつも寝巻き代わりに着ているジャージを身に纏っていた。
拉致されたされたのか? 俺の家は一般家庭だから身代金請求されてもろくに払えねえぞ。
それとも俺が誰かの恨みを買ったのか?最近はろくに人と会話もしてないのに。
「うっ……ぐす」
自分で言って悲しくなってきた。気を取り直して、とりあえずここに来る前のことを思い出してみるか。
「たしか布団の中でうとうとしてたら女の子の声がしてーー」
そこまで口にしたところで忘れていた記憶と恐怖が蘇ってきて、同時にお腹の中から熱いものがこみ上げてきた。
「オェェ」
思わず吐いてしまった。幸いなのかわからんがほとんど胃液しかでなかった。悪寒で震える体を必死で抑える。
「エホッ、ゲホッ」
そうか、俺殺されたんだ。女の子に胸を刺されて。死んだはずなんだ。
じゃあ何で生きているんだ?
怪我も痛みもない。
夢だったのだろうか?
それにしては殺された時の感覚がリアルに残りすぎている。あれが夢だとは到底思えない。じゃあ、俺はあの女の子に拉致されたのか?
「もうしっかりしてよ。まだ始まってすらいないんだから」
思考の堂々巡りに陥っているといつの間にか目の前でとても可愛い女の子がソファーで寝そべり、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。
「ふふっ」
え、えっと……。
「パリッ、モグモグ」
「なあ……」
「あはははははは」
………………………………。
女の子がいきなり現れてから感覚的には30分ほどたった。俺が心を落ち着かせている間女の子はソファーに寝そべり、お菓子を食べながら漫画を読んでいた。
待て、ソファーや漫画はどっから出てきたんだと思うかもしれないけど、俺だってよくわかってないんだよ。いつの間にか部屋の雰囲気が変わっていたんだから。
さっきまで真っ黒だった壁は白やピンクなどの明るい色合いになっていて、目の前には可愛らしいテーブルにソファー、小物入れなどが置かれていた。床にはカーペットが敷かれ、俺の吐いた汚物も綺麗に片付けられている。どう見ても女子の部屋だった。
で俺は今さっきの吐き気も消えてすごくソワソワしている。なぜかって言うと……
「ふー、面白かった♪ ねえ、次の巻とって」
この子がすごく可愛いからだ。
漫画を閉じて俺の方に振り返った女の子はとても整った顔をしている。髪は光が透けるほど色素が薄く、肌はもちのように白くつやつやしている。目はビー玉のように透き通っていて吸い込まれそうなくらいだ。ただ、少し残念なのはさくらんぼのようにプルプルした唇の周りをお菓子のクズで汚してバカっぽく見えるところだろうか。全体的に小柄で小動物のようだからそこも可愛いのだが。
俺と同じクラスだとしても関わることがないタイプだろう。
そんな子がゆったりしたパーカーにショートパンツという明らかに部屋着で俺と2人きり。しかもおそらく彼女の部屋で。
「ねぇ、は〜や〜く」
女の子は漫画足をパタパタさせて催促してくる。すらっとした足からショートパンツに目がゆく。
可愛い尻してるな、触りてえ。
キュッとしたお尻をチラ見しながら本棚から漫画を取る。
「えっと、ほらよ」
「ありがと♪」
ニコッと笑顔を見せて俺から漫画を受け取るとまた読み始めた。
「ふふふっ」
ああ、今の笑顔もかわいいなあ……じゃねぇよ! 切り替えろ俺。
「な、なあ、ここはどこで君は誰なんだよ? そろそろ教えてくれよ」
さっきからずっと女の子は漫画に夢中で今の俺の状況は好転していない。ここはどこでどうすれば家に帰れるのか全然わかっていないのだ。
「ぷ、ははははは」
「ねぇ、聞こえてますか?」
「モグモグ」
「おい、いい加減聞けや!」
「もう、うるさいなあ。邪魔しないでよ〜」
漫画を読みながら、女の子はぶーと頬を膨らませて抗議してくる。
怒った顔もかわいーーもういいって言ってるだろ俺の思考。
「邪魔って俺の質問に答えないからだろ」
「質問?」
女の子は小首を傾げる。
やっぱり聞いてなかったのか。
「君は誰でここは何処かってことだよ」
「私?私はイシュトリル、イシュでいいよ。ここは私の、部屋……、クッ、ふふっ」
イシュトリルはまた、漫画で噴き出しながら答える。殴りたいが答えてくれたから我慢する。
「で、何で俺はここにいるんだ?」
「あ、お菓子なくなっちゃった。新しいのとって」
「どらららら」
「ひにゃああああ⁉︎」
やはりこいつに制裁を加えることにした。俺はイシュトリルの両頬を引っ張り粘土のようにこねくり回す。手に付いたお菓子のクズはジャージのポケットに入っていたハンカチで拭き、ついでにこいつの口周りも綺麗にしておいた。
「もう、ひどいよ! いじめっ子だ」
「ほう、まだいじめられたいのか?」
「わ、わ、待って、やっ! ううー、頰っぺた伸びてこぶとりじいさんになっちゃうよ」
「その時は俺がそのコブとってやるよ」
イシュトリルは赤くなった頬を押さえて涙目になっている。何だろう、この子がガキっぽくてからかいやすいからだろうか。いじめるの楽しい。物凄く嗜虐心をくすぐられるな。
「ほれ、菓子とってやったぞ」
「わーい、ありがとう♪」
拗ねているイシュトリルに渡してやると今のやりとりがなかったかのように喜んだ。単純なやつだな。
「ほら、さっさと説明しろ。どうしたらここから出られるんだ?」
「え〜、説明するの面倒くさ……わ、わかったからもうやめてよ」
俺が指をわしゃわしゃすると体を縮こませる。
次は俺のスティールがお前の貧相な胸に炸裂するぞ。
「えっと、元の場所に戻るにはゲームをクリアするしかないよ」
「ゲーム? 何のことだ?」
「ゲームはゲームだよ。ここに来る前に……え〜と、ところで君誰だっけ?」
「今まで知り合いのような態度で話してただろうが、まあいいや。俺は湯前莉紅、高校生だ。よろしくなイシュ」
「うん、よろしく。やっぱりそうだよね……」
イシュトリル改めイシュは暗い表情を浮かべた。
「どうかしたのか?」
調子でも悪いのかと思い聞いて見たが。
「ううん、何でもないよ」
イシュはすぐに取り繕って笑顔を見せる。何かありそうだが無理に聞くものでもないかと思い直してこいつをからかうことにする。
「お前の悩んだ顔はアホっぽいからやめた方がいいぞ」
「私アホじゃないよ!」
もうー! と怒りながらほっぺたをぷくぷくさせる。ったく、大福みたいな顔しやがって。
俺は再びイシュの頬をこねまわした。
一話でまとめるつもりだったのですが次話に続きます。