武器
宇宙船の中で、サトルはゼリー飲料を摂取していた。
あっという間に3個飲み干すと、船内にあったバックパックに残っている食料と水、救急キットを入れた。
武器はもう必要ないと思った。
十分に強くなっていたし、武器を使って相手を殺してしまうほうが心配だった。
サトルはバックパックを前向きにかけると、飛行装置を背負い、総司令官のカワカミを掴んで船外へ出て行く。
球体ロボットのタロウも後に続く。
E58型の兵士たちが取り囲んでいたが、カワカミが人質にとられている為、手出しができない。
サトルは目をつむると、直感で思いついた方向へ向かって飛んでいく。
草原にはキリンやサイなど、たくさんの動物たちが暮らしていた。
そして、ライオンの群れを見つけると、サトルはカワカミを殺さない程度の高さから落とした。
落ちた衝撃でカワカミが目を覚ますと、メスのライオンが近づいてきて、大きな牙を見せた。
「ウワーーーー!」
カワカミは4頭のライオンに噛み殺される。
サトルとタロウはすでに遠くのほうへ飛んでいた。
草原を飛び続けていたサトルは、前方に大きな観覧車のある街を発見する。
球体ロボットのタロウは、まだついてきていた。
誰が暮らしているのだろうか?
人間街は一つではなかったのだろうか?
街全体が外壁で囲まれており、たった一つある門には、門番をしている2体のロボットがいた。
「こんにちは」
「コンニチハ」
「ココハ、ロボットノマチデス」
「僕らも中に入れてくれませんか?」
「ソチラノロボットハ、ハイレマスガ、アナタハ、ハイルコトガデキマセン」
「どうしてですか?」
「イキモノハ、ハイレナイキマリナノデス」
「あなたも生き物でしょ」
「ワタシガ?ワタシハ、ロボットデス」
「だから、生き物でしょ」
「コノニンゲン、ヘンダゾ」
「アア、オッパラッチマオウ」
2体のロボットが槍をサトルに向ける。
サトルは動じずに、ロボットたちをじっと見ている。
すると、空中に画面が表示され、杖を持つロボットが映り、
「こら、お前たち。お客様に失礼ではないか」
と門番のロボットを叱る。
「これは、長老様。申し訳ございません」
2体のロボットは、長老のロボットに頭を下げる。
「どうぞ中へ入ってください」
長老のロボットは、サトルを見ると、手招きしながらそう言う。
2体のロボットは慌てて門を開く。
「さあ、こちらへ。私の名前はボヘミです。こいつは、弟のアンです」
「僕はサトルで、このロボットはタロウです」
「サトルとタロウ、覚えやすい名前ですね」
「あの、喋り方が…」
「ああ、先ほどまではロボット風に喋っていました。人間にとって、そういうイメージでしょ? とっくに人間と同じように話せますよ」
「兄ちゃん、たまにロボットなまりが出るけどね」
「うるセエゾ、アン」
「ほら、でた。ロボットなまり」
「仲がいいのですね」
「そりゃ、人間に比べたら、ずっとマシさ」
「そうそう。人間に比べたらずっとマシだよ」
ボヘミとアンの後についていくサトルとタロウ。
レストランや、パーツショップ、映画館などたくさんの店舗があり、人間型のロボットたちが行き交い賑わいを見せている。
ジェットコースターに乗るロボットたちの悲鳴も聞こえて来る。
そして、サトルとタロウは街の奥にある、大きな平屋の建物に案内される。
「変わった建物ですね」
とサトルが尋ねると、
「古来に存在した日本という国の大名屋敷という建物です」
とボヘミが教えてくれる。
「言い伝えで聞いたことがあります」
「ほう、博学なのですね。さあ、長老がお待ちです」
サトルとタロウは、大名屋敷に上がると、広間に通される。
そこには、先ほどの杖をついた長老のロボットは椅子に座っていた。
両隣りには、大きな剣を手に持つ護衛のロボットが立っている。
「お待ちしておりましたぞ。こちらにお座りください」
長老のロボットは笑みを浮かべて言う。サトルとタロウは、長老のロボットの前に座る。
「こちらは、ワレラがロボット街の長老、エボリ様です。長老、こちらの人間がサトル殿で、こちらのロボットがタロウ殿であります」
ボヘミが紹介をすると、
「はじめまして。中に入れてくださいまして、ありがとうございます」
とサトルは頭を下げて侍のように挨拶をする。タロウも、ペコリと体を前に倒す。
「これはこれは、そのような挨拶の仕方を知っておられるとは、さぞかし勉強をされたのでしょうな」
「言い伝えを知ることが好きなのです」
サトルがそう言うと、エボリは嬉しそうにほほ笑む。
「どうして、この街にはロボット以外の生き物が入れないようになっていたのですか?」
「殺生をしないためです」
「ここも不殺生国なのですか?」
「そうです。私たちは王族街の住人によって、人間たちと隔離されてしまいました。我々ロボットには、人間に必要とされたい本能があります。皆、表向きはこの街で楽しそうに暮らしていますが、“何のために生まれてきたのか?”という疑問を抱えながら暮らしています」
「僕も同じです」
「我々は人間に絶滅されては困るのです。サトルさん、人間街で暮らしている皆さんを救ってください。それによって、我々も救われます」
「でも、どうやって? そんなこと許されるわけが……」
「方法は一つだけあります。サトルさん、どうかお願いします」
サトルは人間が絶滅しない方法があるのなら挑戦してみたいと思った。
「わかりました。僕にできるか、わかりませんが、やってみます」
「おお、ありがとうございます」
エボリは深々とお辞儀する。
こうして、サトルは“使命”という冒険に欠かせない武器を手に入れた。
そして、サトルは人間街の門の脇にあったモニュメントに記されていた言葉を思い出した。
『たった一人の勇気が、千人に希望を与える』
第一部完




