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そう思っていた。

ムーアはアンシュを潰さないようにやさしく握って、グンジョウから降りる。そして、湖へ走って行くと、アンシュを放してやる。


「元気に暮らすのよ」


ムーアが投げキッスをすると、アンシュは大きくジャンプをしてから水中に消えて行く。すると、超巨大女王アリが攻撃をやめる。


「助かったのか…」


コックピットでは、いつの間にか手を合わせて神に祈っていたヒロシをはじめ、全員が固唾を呑んで見守っていた。


「オカアサン」


グンジョウが超巨大女王アリに向かって声を発する。超巨大ホッキョクグマがグンジョウの前から離れると、超巨大女王アリが近づいてくる。


「いきなり食われたりしないだろうな…」


ヒロシは怯えているが、


「大丈夫だよ」


とサトルは笑みを浮かべている。超巨大女王アリは、グンジョウの顔を近づいて見ると、前脚を湖に入れてシャチを刺して捕まえ、それをグンジョウの前に差し出す。


「ボクニクレルノ?」


グンジョウがそう聞くと、超巨大女王アリが前脚でシャチをグンジョウに近づける。


「グンジョウ、良かったね。あなたのことわかっているのよ」


アカネが嬉しそうに話す。


「グンジョウ、僕とペロッツも降ろして」


サトルがそうお願いすると、ペロッツがドアを開いて、タラップを降ろす。ペロッツはサトルよりも先に降りて、超巨大ホッキョクグマのもとへ駆けて行く。サトルも跳びはねて追いかける。


「食われて死にそうになったっていうのに…」


ヒロシが信じられないといった表情を見せると、


「それが親子ってものだろ」


とミクーダが微笑ましそうに言う。


「いや、俺が言っているのはサトルのほうさ…」


とヒロシが言うと、


「サトルくんの中には、自分以外の誰かの命より大切な存在がないんだよ」


とミクーダが答える。


「俺たちもずっとそう思っていた」


ヒロシはアカネとレインボーとブンジロウを見て、ミクーダに誇らしげに言う。


超巨大ホッキョクグマは、ペロッツを潰さないように、やさしく前脚で触れる。ペロッツも嬉しそうに体をこすりつける。


「よかったね、ペロッツ。ここで、またお母さんと暮らせるね」


サトルは超巨大ホッキョクグマを見上げて、


「助けてくれてありがとう!ペロッツを頼むよ!」


と言うと、グンジョウに戻って行く。


ペロッツがサトルについて行こうとするが、サトルはペロッツを蹴飛ばす。


「ペロッツ、強くなるんだよ」


サトルはペロッツの目を強く見てそう言うと、タラップのところで待っていたムーアを無視して、グンジョウに乗りこむ。


「寂しくなるわね。さよなら、ペロッツ」


ムーアもペロッツに別れを告げると、タラップを昇ってグンジョウに乗りこむ。


ムーアがコックピットに行くと、


「あれ、サトルは?」


とヒロシに聞かれ、


「しばらく一人にしてあげて」


とウインクして答える。


「どうしよう。私が宇宙船とグンジョウを合体させちゃったから、グンジョウはここで暮らすことができないよ…」


アカネは自分を責める。


「アカネ、ボクハ、オカアサンガブジデ、アンシンシマシタ。コレデ、ココロオキナク、ボウケンニイケマス」


グンジョウは明るい声でアカネに話す。


「ボクハ、ナニガオコルカワカラナイ、ボウケンガスキニナリマシタ」


とグンジョウが言うと、ミクーダが小さくガッツポーズをする。


「船長の狙いはこれだったのか…」


キーンが御見それしましたという表情を見せる。


「冒険好きの船に乗って、冒険に行けるなんて最高じゃないか!ワッハッハッハ!」


上機嫌のミクーダを見て、


「子供か!」


とタローが突っ込む。


「でも、せっかくお母さんと会えたのに…」


アカネは腑に落ちない様子を見せる。


「ここの冷凍装置をいじって、地球と似た環境にしてやるから、しばらくはこの星に留まらないといけないな…」


タローが面倒臭そうに言うと、


「ありがとう!タロー大好き!」


と言ってアカネが抱きついてくる。


「ちょ、ちょっとやめろよ…」


タローが顔を赤くして恥ずかしがる。


「グンジョウ、よかったね!しばらくお母さんと一緒にいられるよ!」


とアカネが早口でそう言うと、


「タロー、アリガトウ」


とグンジョウが言って、タローにいくつものライトを向ける。


「おっ、スターみたいだな」


ヒロシがちゃかすと、


「ど、道具を整理しなくちゃな」


とタローはコックピットから逃げるように出て行く。


「そろそろ食事の時間にしようや」


キーンがお腹をさすりながらそう言うと、


「おお、早く食べようぜ」


とヒロシが喜ぶ。

キーンとヒロシは、超巨大女王アリが前脚で刺し殺したシャチを見ていた。


夜になると、ダイニングールに全員が集まり、シャチのステーキをかっ食らう。


「最高にうめーや!」


「こらキーンずるいぞ!それ、5枚目だろ!」


キーンがおかわりをすると、タローが食べながら蹴りを入れる。アカネはオイルジュースを飲んでいる。


「食えよ」


ヒロシがサトルに言うが、サトルは手をつけようとしない。


「食えって言っているだろ!」


ヒロシが強い口調で言うが、


「ヒロシにあげるよ」


と言って、サトルはシャチのステーキの入った皿をヒロシの前に置く。


「自分で食え」


ヒロシはその皿をサトルに返す。


「それじゃ、キーンさんこれをどうぞ」


「おお、ありがと…」


サトルがキーンにシャチのステーキを渡そうとすると、ヒロシがサトルの腕を掴んで止める。キーンは受け取ろうとした手を気まずそうに引っ込める。


「これは、グンジョウのお母さんが獲ってくれた飯だ。俺たちが殺したわけではない。もう死んでいたんだ。食べてやったほうが、こいつのためだろう」


「そうだね」


「だったら何で食わねえんだ!?」


「僕らが殺したわけではないけれど、僕らが来なければこのシャチは今頃、元気よく泳いでいただろうに…」


「そんなことわからないだろ…。俺たちが来なくても、死んでいたかもしれない」


「同じだね。サーラが言っていたことと…」


「何を!あんな奴と一緒にするんじゃねえ!」


ヒロシがサトルに殴るかかろうとすると、ミクーダがヒロシの腕を掴んで止める。


「食べたい奴はありがたく食べる。食べたくない奴は食べない。それでいいじゃないか」


ミクーダがそう言うと、


「それじゃ、俺がいただくぜ」


と言って、キーンがサトルの分のシャチのステーキを取る。


「あっ、それで8枚目だからな」


タローがモグモグしながら、キーンが食べた量を数える。

ムーアは黙っておかわりする。


「おいムーア、お前も何気に6枚目だからな」


タローが言うと、


「細かい男はモテないわよ」


ムーアはタローにウインクをすると、口いっぱいにシャチのステーキを頬張る。


「食いしん坊の女のほうこそモテないだろうが…」


タローがつっこむと、ムーアにげんこつをされる。


「痛ってーな!女ってのは全員、狂暴なんだな」


タローはムーアとアカネを見て言う。


「一緒にしないでよ!」


アカネとムーアは同時に言うと、バチバチと視線をぶつける。


ヒロシは黙々とシャチのステーキを食べている。サトルはブンジロウとレインボーにおかわりを取ってあげる。


「これを食べてください」


ミクーダはドライマンゴーをサトルに差し出す。


「ずるーい!船長、そんなの隠し持っていたのかよ!」


タローが言うと、


「一人で食べるつもりだったのね…」


「こいつは許せねえ」


ムーアとキーンも不満そうな表情を見せる。


「気にしないで食べてください」


ミクーダは無視してサトルにすすめる。


「ありがとう」


サトルは全部を口に入れると、あっという間に食べてしまう。不殺生国の山に入ってから、早食いが習慣となっていた。


「ああ、皆がおいしそうに食べているのを見ると、あのラーメンを思い出すわね」


アカネが寂しそうに言うと、


「おう、あのトンネルの中で食ったラーメンはうまかったな」


とヒロシも思い出して笑顔になる。

すると、キーンとタローが席を立って驚く。


「あんたら、まさか…トンネルの中にある屋台の百魂ラーメンを食べたことがあるのか…」


キーンがそう聞くと、


「あるわよ。でも、百魂ラーメンって名前じゃなかったはずだけど…」


とアカネが答える。


「いいなー。タイムトリッパーの間で、最強のグルメに選ばれた伝説のラーメンなんだ。俺もいつか食べてみたいなー」


タローが羨ましがり、キーンは嫉妬のあまり硬直している。


「タイムワープして食べにいけばいいじゃないか?」

ヒロシが不思議そうに聞くと、

「私たちにとっては、あそこは訳アリで行けないのよ…」


とムーアが答える。


「まあ、やっかいな話は後にして、今はこのご馳走をいただこうじゃないか!」


ミクーダがシャチのステーキを皿に10枚のせて豪快に食べる。


「あっ、船長ずるいぞ!」


タローも負けじとおかわりをする。それを見て、キーンもサトルからもらったシャチのステーキをペロリと食べて、


「伝説のラーメンより、近くのシャチのステーキだ!」


と言って、またおかわりをする。


外では、ペロッツがシャチの肉を食べていた。


「オイシイデスカ」


グンジョウが聞くと、ペロッツは大きく吠えて答える。


「ヨカッタ」


グンジョウは頬笑みを浮かべて喜ぶ。


アルテコッタ滞在中、ブンジロウは、ペロッツのお母さんの超巨大ホッキョクグマに鍛えてもらい、さらに強くなっていた。

サトルとヒロシは、ペロッツに魚の獲り方を教えてやった。

グンジョウは、お母さんの超巨大女王アリに泳ぎを教えてもらい、水中での移動能力を高めていた。

ムーアはアンシュを食べようとする魚をレーザー銃で仕留めて、食料を調達していた。

ミクーダとキーンは釣りで勝負をしたが、一番釣れたのはレインボーだった。

アカネはタローの作業を手伝ってやり、少しだけ仲良くなっていた。



9日後-

アルテコッタからサトルたちを乗せたグンジョウが旅立っていく。

ペロッツ親子が大地から、アンシュは水中から飛び跳ねて見送り、超巨大女王アリは成層圏までついてきて、息子の旅立ちを見届けた。


「よし、キーン、ワープするぞ!」


「了解!グンジョウ、ここまでワープだ」


ミクーダが指示して、グンジョウが座標を入力する。

「はあ!?ワープはしないんじゃないの!?」


アカネがキレ気味に聞くと、


「同じところを通ってもつまらないだけだ。187年後の距離までワープして、そこから先はまた冷凍仮死装置に入る」


とミクーダが答える。


「はいはい。わかりました。どうせ、何を言ってもムダなんでしょ」


アカネは呆れた表情を見せると、大人しく引き下がる。


「ところで、任務って何をするんだ?予め聞いておいて、作戦を考えたい」


ヒロシが聞くと、


「ブラックホールに吸い込まれたお宝をいただきに行く」


ミクーダが当然のことのように言うと、58秒経ってからようやく、


「バ…」


アカネが喋ろうとすると、グンジョウがワープを発動する。

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