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隈なく捜せ

グンジョウが人工惑星のアルテコッタに着陸する。


「ユウドクガスハンノウナシ。シガイセンレベルイチ。スーツチャクヨウナシデダイジョウブデス」


グンジョウはそう話すと、ドアを開いてタラップを降ろす。


狙撃手のムーアを先頭に、サトルたちが降りて来る。操縦士のキーンと、レインボーとペロッツは船内に残っている。


「海ができている…」


アカネがそう言うと同時に、氷山が音を立てて崩れる。


「長い間放置されて、冷凍装置が弱くなっているんだな」


メカニックのタローが分析する。


「ここがあなたたちを助けた場所で間違いないのね?」


ムーアがそう言うと、アカネは小さく頷く。

虫カゴはおろか、サーラの宇宙船の影も形もなかった。

アカネが振り返ると、グンジョウが泣きそうな顔をしていた。


「でも、生命反応は無数にあるから、どこかに…」


アカネはレーダー機能で生命反応を確認する。


「どこかにって…この惑星の中から、アリを1匹を捜し出すなんてまずムリだろ…」


タローがそう言うと、


「しかも、生きている保証はないしな…」


とヒロシも否定的な意見を述べる。


「ムーア、タロー、俺たちも手伝うぞ」


ミクーダがそう言うと、ムーアとタローはクエスチョンマークを浮かべる。ミクーダの視線の先には、女王アリや残して来た他の虫たちを捜しているサトルがいた。

サトルは不殺生国で髪の毛を集めていた時のことを思い出していた。このような地道な作業をサトルはまったく苦には思わない。


「サトル…」


アカネがサトルを見つめて、


「あなたバカじゃないの!この辺りに私たち以外の物体反応はないのよ!」


と厳しい言葉をあびせる。


「アカネ、それはないだろ…」


ヒロシがサトルに同情する。ミクーダたちも引いている。


「わかった。レインボーに頼んで、一緒に空から捜してみるよ」


サトルは平然とグンジョウのもとへ歩いて行く。


「いいコンビなのね」


ムーアがそう言うと、


「まあな…」


ヒロシが引きつった笑顔を浮かべて答える。


サトルたちは発信器と無線機を兼ね備えた小型装置を耳に装着すると、手分けして女王アリたちを捜すことにした。

サトルはレインボーに掴んでもらい、一緒に空から捜す。

アカネはヒロシとコンビを組んで空から捜し、ミクーダとムーアとタローは、グンジョウに積んでいた浮遊スクーターに乗って捜すことにした。

キーンはペロッツと一緒に、グンジョウに乗って捜索をしている。


「おっ!」


ヒロシが何かを見つける。


「えっ、なに!?」


アカネが興奮気味に聞くと、


「あの氷、パイナップルみたいな形をしてるぜ」


アカネはヒロシに電流を喰らわせる。


「痛ててててっ。何すんだよ!」


ヒロシが文句を言うが、


「真面目に捜しなさい!」


とアカネに怒られる。


「まったく、食料もないのに、こんなことしていていいのかよ…」


ヒロシがそうぼやくと、


「あっ、そのことだけど、どうしてヒロシも生き物を殺して食べないようになったのよ?」


とアカネに聞かれる。


「バカな人間にできることなら、俺にもできるだろう」


「でも、カラスが不殺生になったら、生態系のバランスがおかしくなるでしょ」


「さあな。とりあえず俺はうかつにも人間に近づいちまったから、自業自得さ」


「ふーん…」


「なんだよ」


「別に」


アカネとヒロシはお喋りをしながらも、見逃さないように懸命に捜している。


「ぜーーーったい、見つからないって!しかも、めちゃくちゃ寒い。冷凍装置が弱まっているとは言っても3℃しかない…」


タローがやる気なさそうにレーダーを見ながら、浮遊スクーターを操縦している。


「見つかったら?」


ムーアが聞くと、


「一生分の運を使い果たすことになっちゃうね」


とタローが答える。


「ハハハッ。そうかもな」


ミクーダは楽しそうに捜している。


「船長が、彼らを選んだ理由がわかった気がするわ」


ムーアがそう言うと、


「まあな」


とタローも同調する。


「セイメイハンノウノ、99.825%ガ、スイチュウニアリマス」


グンジョウが悲しそうな声で話す。


「仮死状態なら生命反応はないだろうから、そう気を落とすな。物体反応はところどころにあるぜ」


キーンがなぐさめる。ペロッツは元気なさそうに寝そべっている。


「ペロッツのエサも探してやらないとな…もうちょっと待っていろよ。後で魚か何か獲ってやるからな」


キーンはペロッツの頭をなでてやると、レーダーを真剣な眼差しで見る。


「寒いのにごめんね」


湖を渡るタイミングでサトルはレインボーに謝る。

レインボーは気にしないでと言わんばかりに、飛ぶスピードを上げる。


「ありがとう」


湖を渡りきると、サトルは目を凝らして女王アリたちを捜す。サトルは誰かの役に立てることが嬉しかった。誰かのために行動できることが嬉しかった。不殺生国では、いつも一人だったから。

懸命に捜していると、


「全員、大至急グンジョウに戻ってくれ!」


とキーンから連絡が入る。


「何か見つかったみたいだ。レインボー急いで戻ろう!」


サトルが言うと、レインボーは旋回してグンジョウへと向かう。


グンジョウの中のダイニングルームに全員が集まっていて、キーンが発見した物を見せていた。


「ペロッツのエサを獲ろうとして網を引き揚げたらこいつが…」


テーブル中央に置かれたコップの中に、メダカくらいの大きさの半魚アリが入っていた。


「水中で生きるように進化していなのね!」


アカネが興奮気味に話す。


「グンジョウくんのお母さんが頑張ったのね…」


ムーアが称えるように言う。


「お母さんには会えなかったけど、子孫たちと会えてよかったじゃないか、なあグンジョウ」


ミクーダが呼びかけるが、グンジョウが返事をしない。


「何この反応…」


アカネが何かに驚いた様子を見せる。


「どうしたの?」


サトルが聞くと、


「何か来る…と、とても…」


「だから何が来るんだよ」


ヒロシがアカネに聞くが、アカネは絶句している。


サトルたちがアカネの様子に戸惑っていると、


「オカアサン」


とグンジョウの声が聞こえる。


「お母さんだって?」


キーンがダイニングルームを出て、コックピットに行くと、大きな影が通過して行く。

そして、前方に氷山より大きな女王アリが姿を現す。


「これは…おったまげたな…」


キーンの額から汗が滲む。


間もなく、サトルたちもコックピットに入って来る。


「おいおい、デカすぎるだろ…」


ヒロシは思わず息を飲む。


「オカアサン、オコッテル」


グンジョウがそう言うと同時に、女王アリが襲いかかって来て、グンジョウは蹴飛ばされてしまう。


「キャーー!」


「ウオー!」


クルクル回って、グンジョウはなんとか態勢を整える。


「感動の再会とはいかなかったか…」


ミクーダはそう言いながら嬉しそうな表情をしていて、


「あの半魚アリを助けに来たんだ。すぐに逃がしてやれ」


とムーアに指示をする。


「了解!」


ムーアはコックピットを出ると、ダイニングルームに行くが、先ほど女王アリに攻撃された拍子に、半魚アリはコップから投げ出されていた。


「どこに行ったの?」


ムーアはダイニングルームの中を捜すが、半魚アリが見つからない。


「まさか…」


ムーアは足を上げてみると、靴底に踏みつぶしてしまった半魚アリがついていた。

しまったとムーアは頭を抱えるが、半魚アリはまだピクピクと動いている。


「よかった!すぐに治療してあげるから、頑張って!」


ムーアは靴底から半魚アリを剥がすと、治療室へ向かう。


「ムーアガ、オトウトヲ、フンデシマッタ」


グンジョウがコックピットにいるサトルたちに教える。


「グンジョウ、お母さんを止めろよ!」


ヒロシがそう言うと、


「オカアサンハ、ボクガダレダカ、ワカッテイナイ」


とグンジョウが悲しそうに言う。


「そりゃそうだ。息子が宇宙船になっているとは思わないだろう」


とキーンが言う。


超巨大女王アリは容赦なく襲ってきて、グンジョウは何度も蹴られ、サトルたちは洗濯機の中にいるようにぐるぐる回る。

ムーアはなんとか治療室に入るが、揺れが激しすぎて半魚アリを治療用ベッドに寝かせることができない。


「必ず助けるからね」


ムーアは半魚アリを励ます。


「船長、どうすんだよ?」


キーンの下敷きになっているタローが指示を求める。

「レーザー砲かなんかないのかよ!」


ヒロシがそう言うと、


「あんた、親を撃てるのかい?」


とキーンに言われてしまい、ヒロシは首を横に振る。グンジョウに、超巨大女王アリに向かってレーザー砲を撃たせることは、あまりにも酷だった。

ブンジロウがサトルの肩を叩くが、


「ダメだよ。ブンジロウでも勝てる相手じゃない」


とサトルが止める。


「何…この反応は?」


アカネがまた何かをレーダーで捉える。


「今度は何だよ…」


ヒロシの表情がさらに青ざめる。


「さっきよりも大きな反応…」


アカネがそう言うと、


「なんだって!?」


とヒロシがいつもより3オクターブ高い声で聞き返す。

そして、湖の中から、超巨大女王アリよりも10倍は大きなホッキョクグマが出て来る。

ややスリムな超巨大ホッキョクグマが、氷の上にあがるだけで、グンジョウが大きく揺れる。

ムーアは、もう少しで半魚アリを治療用ベッドに寝かせることができたのに、転んでしまう。


超巨大ホッキョクグマを見て、ぐったりとしていたペロッツが立ち上がって吠える。


「もしかして、ペロッツのお母さん?」


アカネがそう言うと、


「この反応はそう考えるのが自然だろうな」


とミクーダが判断をする。

空白の187年の間に、さまざまな惑星からアルテコッタに来客が訪れていた。人気のないこの観光用の惑星に来る連中の目的は、大抵が悪ふざけだった。


巨大なかき氷をつくって食べたり、動物たちを捨てて凍っていく様子を見て楽しんだり、動物たちを大きくして闘わせたりする人間たちが訪れていたのだ。そして、そういう人間たちは調子にのって大きくし過ぎた動物たちの餌食になっていた。


人間の愚行によって巨大化された女王アリとホッキョクグマの闘いは壮絶を極めた。体格差はあるが、超巨大女王アリの力は、超巨大ホッキョクグマを上回っていた。超巨大ホッキョクグマは身を挺して、超巨大女王アリからグンジョウを守る。


「こっちにペロッツがいることをわかっているのね」


アカネが嬉しそうに言う。


「よかったなペロッツ。お母さんも反省したんだろうよ」


キーンが目を潤ませながら、ペロッツと肩を組む。


超巨大ホッキョクグマが守ってくれている間に、ムーアが半魚アリを治療用ベッドに寝かせる。そして、一瞬で半魚アリは完治する。


「アンシュ、よかったー!」


ムーアは殺しかけてしまった半魚アリに、アンシュという名前をつけていた。


「グンジョウ、私とアンシュを外に出して!」


ムーアがそう言うと、床に穴が開き、タラップが降りる。

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