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野良の時空賊

西暦不明-


空間が歪み、ピカッと光ると、サーラの操縦する宇宙船が氷の大地に着陸する。外の様子を見て、サトルたちは異変に気付く。


「ここはどこ?私たちの未来じゃないわよ」


アカネがそう言うと、


「いや、もしかしたら、俺たちの未来が変わってこうなったのかもしれない…」


とヒロシが推測する。


「フハハハハッ」


サーラが愉快そうに笑いながら、虫カゴを持ってコックピットから出て来る。


「ちょっとサーラ、ここはどこなのよ?」


アカネがサーラに近づこうとすると、


「動かないで!動くと、この虫たちを殺すわよ!」


とサーラが脅してくる。


「お前…まさか…」


ヒロシは嫌な予感がした。


「そうさ。あんたらを売ることにしたのさ」


サーラが開き直って告白する。


「なんでこんなことを…」


サトルはショックを受けている。


「逆になんであんたらを無事に帰さないといけないの?途中で事故にあって死ぬ可能性もあるし、もとの未来に帰ったところで誰かに殺されるかもしれない。それなら、ここであんたらを売っても同じことでしょ!」


サーラはふてぶてしくそう言う。


「なんていう屁理屈を…」


アカネが電流を放出しようとすると、サーラが虫カゴからアリを掴み取り、そのまま握り潰してしまう。


「外道が…ひどいことをしやがる」


ヒロシは怒りで拳を震わせる。


「今度、妙なマネをしたら、これじゃ済まないわよ」


サーラが虫カゴを指さし、サトルたちを再び脅す。


「…それで、私たちをどうするつもりなのよ」


アカネが聞くと、


「さすがに、カジキマグロを53兆匹買えるほどの黄金を持つ組織と直接取引するのは怖いからな、仲介役の時空賊に売り飛ばすためにこの氷の惑星で待ち合わせをしたのさ」


とサーラが答える。


窓の外には、氷の大地をさまようホッキョクグマの親子がいた。そして、親のホッキョクグマが宇宙船に向かってきて、窓を叩こうとするがバリアに弾かれてしまう。

子供のホッキョクグマが、親のホッキョクグマに近寄って来る。すると、レインボーが何かを知らせるように窓を前脚で叩き始める。


「もしかして…」


サトルはその様子を見て何が起こるのか察する。


「サーラ、頼むから僕を外に出して!」


サトルが懇願すると同時に、親のホッキョクグマが、子供のホッキョクグマの肩に噛みつく。必死にもがくが、子供のホッキョクグマは逃げることができない。


「これはいい暇つぶしになりそうね」


サーラがそう喜ぶと、ブンジロウが跳びかかり、サーラをやや強めに殴る。


「さすがブンジロウ!スカッとする!」


アカネがアームを伸ばしてガッツポーズを決めるが、倒れたサーラは丸太になっている。


「チッ、変わり身の術か…」


ヒロシが悔しそうに言うと、天井に張り付いていたサーラが降りて来る。


「あんたらの特徴は把握済みよ」


そして、虫カゴからミミズやアリなどの虫を取り出し、床に叩きつけると、そのまま足で踏みつぶしてしまう。


「ギャーーー!!」


アカネが悲鳴を上げ、


「どうしてこんなに残酷なことを…」


とヒロシも青ざめた表情になる。


サトルは壁をドンと思いきり叩き、


「早く出せと言っているんだ!!」


と船内に怒号を響かせる。

サーラはビクッとたじろぎ、血走ったサトルの目を見て、思わず息をのむ。


「いいわ…おもしろい余興を見せてちょうだい」


と言って、サーラは宇宙船のドアを開く。

サトルは飛び出ると、親のホッキョクグマに殴りかかる。


「子供を助けても、親が飢え死にするわよ」


サーラはそう言いながらドアを閉める。

親のホッキョクグマは、くわえていた子供を落とすと、サトルに襲いかかって来る。サトルは親のホッキョクグマを蹴り倒す。そして、かろうじて息をしている子供のホッキョクグマのもとへ行くと、抱きかかえて宇宙船に戻って行く。


「私も出して!早く!」


アカネのボディから電流がバチバチとあふれ出ると、宇宙船の明りが点滅する。


「あんたまでだからね…」


サーラは仕方なさそうにドアを開け、アカネが出て行くとすぐに閉めて、ヒロシたちの動きに警戒する。

アカネはサトルと子供のホッキョクグマのもとに飛んで行く。


「私に診せて!」


子供のホッキョクグマの傷口をライトで照らすと、アカネはボディから注射器と包帯を出して手際よく手当てする。


「この子を頼むよ」


サトルはそう言い残すと、ヨロヨロと立ち上がる親のホッキョクグマのもとへ歩み寄って行く。


「ちょ、ちょっとサトル!何を、何をする気なの…」


アカネの予感は的中し、サトルは襲いかかって来る親のホッキョクグマに抵抗せず、右腕を食いちぎられる。


「ウワーーーーー!!」


サトルは絶叫して、膝から崩れ落ちる。


「サトルー!!」


アカネも、船内にいるヒロシもブンジロウも同時に叫ぶ。レインボーも声を発している。


「ウソでしょ…死なれちゃ困るわ」


サーラは特殊ナイフを取り出し、サトルを助けに行こうとするが、血の匂いを嗅ぎつけたホッキョクグマが集まって来るのを見て、体が震えて外に出ることができない。


「おい、どうしたんだ?早く助けに行くぞ!」


ヒロシがたきつけるが、サーラは宇宙船のドアを開こうとしない。

ホッキョクグマ同士の奪い合いが始まり、サトルは左腕と右足に噛みつかれ、体が裂けそうになる。


「ウアーーーーーーー!!」


最後のうめき声を上げると、サトルは失神してしまう。



「サトル!サトル!バカサトルー!大バカサトル!!超絶宇宙最強バカサトル!」


アカネに頬っぺたを何度も叩かれ、サトルは目を覚ます。


「あれ、どうして生きているの?」


サトルがとぼけた顔で言うと、アカネがまた頬っぺたを叩き、ヒロシがげんこつをし、ブンジロウがデコピンをくらわせ、レインボーが髪の毛を引っこ抜く。


「痛ったー!何するんだよ!」


サトルがあまりの痛さに涙を流すと、アカネもヒロシも、ブンジロウもレインボーも涙を流していた。


「それはこっちのセリフよ!本当に何すんのよ!バカサトル!」


アカネがもう一度サトルを叩こうとすると、“野良の時空賊”の船長で、E58型人間のミクーダが、アカネのアームを掴んで止める。


「まだ治療中なんだ。それくらいにしといてやれ」


ミクーダになだめられ、アカネはアームをボディにしまう。

食いちぎられたサトルの体に、タコのように脚を持つロボットが再生治療を施していた。


「ご無事で何よりです。今はゆっくりお休みください」


ミクーダはサトルにそう言うと、アカネたちを治療室から追い出す。隣のベッドには、助けた子供のホッキョクグマが治療を受けていた。


「ああいう暴力的な大人になったらダメだからね」


とサトルが言うと、アカネが再び入って来て、


「誰が暴力的ですって!」


と言いながらサトルの頬っぺたを叩いて、ボディを真っ赤にさせて出て行く。


「よかったね、生きていて」


とサトルは子供のホッキョクグマに微笑みかけると、再び眠りにつく。


野良の時空賊の船長、ミクーダが小型カプセルに閉じ込めたサーラの様子を見に行く。


「裏切りやがって、恥じを知れ!このゴミ野郎!」


サーラがミクーダに向かって唾を吐くと、ミクーダはそれを一度口に入れてから吐き出す。


「ウエッ、腐った味がする。ゴミはお前のほうだろ。最果ての時空刑務所に送ってやる」


「や、やめてよ。それだけは…」


サーラの表情から血の気が引くが、ミクーダは相手にしないでカプセルの蓋を閉めると、発射ボタンを押す。

サーラを乗せた小型カプセルが宇宙船ほうき星号から放たれて行く。


ダイニングルームにはアカネたちの他に、ぽっちゃりとした操縦士の男のキーン、モデル体型の女狙撃手のムーア、メカニックの男の子のタローが揃っていた。全員がE58型の人間だった。


「世の中にタロウという名前の生き物が実在していたなんて…」


アカネが引き気味に言うと、タローにスパナを投げられる。


「痛いわね!女子に何するのよ!」


「タロウじゃなくて、タローだ」


「どっちでも同じでしょ。ああ、ダサいお名前だこと」


アカネにバカにされると、


「あんまりうるさいと分解しちゃうよ」


タローは電動ドリルを見せてアカネを脅す。

効果てき面でアカネはタローから視線を外して、オイルジュースを飲む。

ブンジロウとレインボーは、ココナッツジュースを飲んでいる。


ミクーダが入ってくると、


「毒も睡眠薬も入っていないよ」


と警戒しているヒロシに言う。


「ケッ、信用させて俺らを誰かに売り飛ばすんだろ…」


ヒロシはテーブルに足を乗せて悪態をつく。

レインボーが前脚でヒロシの足を払う。ヒロシはレインボーを睨むと、もう一度テーブルに足を乗せる。すぐさまレインボーが前脚でヒロシの足を払い、糸を出して縛ってしまう。


「こら、レインボー、これを外せよ!」


レインボーはプイッと横を向く。


「確かに任務を成し遂げるためには、それくらい警戒心が強いほうがいい」


ミクーダはそう言うと、キーンたちが飲んでいたラム酒を飲む。


「任務って何のこと?嫌な予感しかしないんだけど…」


アカネがそう聞くと、


「キーン、到着まであとどれくらいだ?」


とミクーダが話をそらす。


「そうだな、ざっと200年くらいかな」


キーンが答えると、プーッとアカネがオイルジュースを吐き出す。


「ウワッ、汚ねえ…」


とタローが引いた表情を見せる。


「なあに、冷凍仮死装置に入ってしまえば、翌朝に着くのと同じことさ」


ミクーダが簡単そうに言うと、


「そんなに遠いのなら、ワープすればいいでしょ!」


とアカネがつっこむ。

キーンとムーアとタローは、やれやれという表情をしている。


「タイムワープはしても、移動のためのワープはしない。それでは冒険がつまらなくなっちまう」


ミクーダが真顔で言う。


「何でよ!冷凍装置で眠っているだけなら、ワープしても変わらないでしょ!」


「眠っていても、そこを通過した冒険と、とばしてしまった冒険とはまったく違う。目的地まで飛行して、着いたら200年前にタイムワープすればいい」


「はあ!?あなたたちはそれでいいけど、私は冷凍仮死装置には入れないのよ!」


とアカネが訴える。


「零壱人の女って、案外ヒステリーなのね」


ムーアがアカネを見て呆れている。


「何よ!人間の分際で偉そうに!」


アカネとムーアがバチバチと視線をぶつける。


「あなた同性に嫌われるタイプね」


ムーアがそう言うと、


「何ですってーーーーー!」


アカネがボディから蒸気を出して怒る。


「図星か…」


タローが追い打ちをかけると、ヒロシとブンジロウが頷く。


「あなたたち…」


アカネの怒りの矛先が、ヒロシとブンジロウに変わる。


「いや…、サトルが早く元気になるといいなって、ブンジロウと話していたんだよ」


ヒロシが弁解をすると、ブンジロウも慌てて頷く。


「ウソばっかり言って…」


アカネがヒロシとブンジロウに電流をくらわせようとすると、サトルが入って来て、何事もなかったかのように席に座る。


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