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頬笑み

クロダがササキに報告していた情報とは違い、浜辺にはヤドカリやワタリガニが歩いていた。


「誰かいるかもしれない」


サトルはこの島が見えた時から行きたいと思っていた、天空にそびえる塔を目指すことにした。

ブロックキーは守られたのだから、もう王族街の住人が手出しをしてくることはない。冒険をやり直そうと思っていた。

サトルはワイヤーを掴もうとしてジャンプするが届かない。


「あのねサトル、ここは不殺生国ではないから、あの塔まで行きたいのなら歩いていけばいいでしょ」


呆れた様子のアカネに、


「関係ないよ。ここがどこかなんて。誰も殺したくないから」


とサトルはワイヤーに向かってピョンピョンに跳ねる。

ブントルがサトルを掴むと、ワイヤーに届くように体を持ち上げてやる。


「ありがとう」


サトルはワイヤーを掴むと、腕をプルプル震わせながらなんとかワイヤーの上にあがるが、バランスを崩して落ちてしまう。

慌ててブントルがサトルをキャッチする。


「あっ、ありがとう」


「だから言ったのに。何よ、何見ているのよ」


「蚊が…」


アカネの胸に蚊がとまっていた。


「イヤッ!」


アカネが蚊を叩こうとすると、ブントルが腕を掴んで止める。サトルは、蚊に手を近づけて、逃がしてやる。


「あなたたち最高に面倒くさいわね」


サトルはアカネを無視して、もう一度ワイヤーに向かってジャンプする。やはり届かないので、ブントルがワイヤーの上にあげてやる。


サトルはバランスをとって、ワイヤーの上で腰掛けようとするが、また落ちてしまう。先ほどと同じようにブントルがキャッチする。


「ありがとう。ブントル、悪いけど練習に付き合ってくれるかな?」


ブントルは笑みを浮かべて頷くとサトルとアカネをワイヤーの上にあげる。


「ちょっと、何で私まで…」


「ワイヤーの上でバランスをとれるようになっていたほうがいいよ」


岩陰からヘビが姿を現していた。


「そうね……」


サトルとアカネはワイヤーの上でバランスを取ろうとするが、やはり落ちてしまう。ブントルが器用に二人をキャッチする。


「それで、練習をするとして、どこで眠るのよ?」


サトルはブントルに目をやる。


「…イヤよ、私はイヤだからね」


夜になると、ブントルの大きな腕に包まれてサトルとアカネはワイヤーの上で寝ていた。月明りとさざ波の音が、ひと時の癒しを与えていた。


ブントルに続いて、サトルとアカネがワイヤーを伝って森の中を進んでいる。


「ああ、お腹空いたー。人間って本当に最悪ね。ねえ、ブントル、もうちょっとスピードを落としてよ」


ブントルはワイヤーの上にあがって、サトルとアカネが追いつくのを待つ。木の上にジャガーが潜んでいたが、逃げ出して行く。


「ブントルを見ただけで逃げて行くんだから。ブントルは世界最強だわ」


アカネがそう言っていると、地面が揺れ出す。


「な、なに…」


「一旦、上がろう」


「う、うん」


サトルとアカネがワイヤーの上にあがり腰掛ける。まだぎこちないが、バランスをとれるようになっていた。そして、大きな足音を立てて、スピノサウルスが姿を現す。


「ウソでしょ…」


さっきまで余裕の表情だったアカネの顔が一気に青ざめる。


「ブントル、逃げよう」


サトルがそう言うが、ブントルは首を横に振る。ブントルは自分より強い相手と闘ってみたいと興奮していた。

スピノサウルスが大きな口を開いてブントルに噛みつこうとする。


ブントルはジャンプして避けると、そのままスピノサウルスの頭部を殴るが、スピノサウルスにダメージはない。

その拍子に、アカネがバランスを崩してワイヤーから落ちそうになり、助けようとしたサトルもバランスを崩してしまうが、何者かが二人をワイヤーの上に引きあげる。


ワイヤーの上に着地したブントルは、スピノサウルスに左腕を食いちぎられてしまう。次の瞬間、ブントルが手刀をスピノサウルスの喉に突き刺そうとするが、指の骨が折れてしまう。


「ブントル!!」


サトルとアカネがそう叫ぶと、ブントルは振り返って笑みを浮かべる。

そして、ブントルはスピノサウルスにお腹を噛まれ、そのまま持ち上げられてしまう。

サトルとアカネは言葉を失う。


そこに、ティラノサウルスが現れ、スピノサウルスからブントルを奪い取ろうとする。スピノサウルスは逃げて行き、ティラノサウルスが追いかけて行く。


「なんなのよ…なんなのよ…」


アカネの目から涙がこぼれ、体が小刻みに震えている。


「ブントル、笑っていたね」


サトルはそう言うと、そっとアカネの肩を抱いてやる。

擬態していたブントルの分身が姿を現す。大きさはサトルとアカネよりも小さくなっていた。


「助けてくれてありがとう、ブンジロウ」


サトルは礼を言うと、そう名づける。

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