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03

妙な4人組が酒場に逃げ込んできたと思ったら、外から大量のエネルギー弾が撃ち込まれた。店の壁は穴だらけになり、棚に並べてある酒瓶が次々に割れて、勿体ない事に中の酒が床に零れる。


暫くしても、攻撃は弱まる様子は無い。店の中はめちゃくちゃに荒らされている。運悪く流れ弾に当たった店の客が喚き散らしていたが、頭にもう一発貰って、すぐに静かになった。


そんな喧騒の中、4人組のリーダー格の男がカウンター席にどっかりと座った。

もう1人の仲間も隣に座ろうとしたが、傷は深いためか諦めてすぐ傍の床に座り込んだ。ところどころから血を流し、肩で息をしている。


「すいませんね。ギルスさん。足引っ張っちゃって」

「気にすんな、マロリー。ほら、酒だ。少しは痛みが紛れるだろ。それ飲んで寝とけ。目が覚めた時にゃ、救援が来てて、お前は担架の上だ」

「そのままお陀仏じゃないといいんですがね・・・」


2人の会話を聞くにつれ、リーダー格の男はギルス。

もう1人の仲間はマロリーという名だという事が分かった。


2人してカウンターの上にあった酒を飲んでいる。それは別の客が注文した物だというのに、どこまでも図々しい奴らだ。


「ギルスさん!休んでないで手伝ってくださいよ!」


外の敵と応戦している2人組がギルスに向かって文句を言う。

2人は必死に撃ち返しているが、焼け石に水といった感じだ。酒なんか飲んでないで手伝えと言いたい気持ちはよく分かる。

振り返って抗議する2人の顔はそっくりで、どうやら双子のようだった。


「落ち着け、ニッチ、サッチ。すぐに助けが来る。それまで持ちこたえればいいだけだ。それに俺様が今、すげえ作戦を考えてるからよ」

「何とかして下さい!奴ら、どんどん増えてる!」


泣きそうな声を上げているニッチ(あるいはサッチ?)を無視するギルス。

酒を片手に何やら考えているようにも見える。

その時、酒場の入り口か3人ほど雪崩れ込んできた。

どうやらニッチとサッチの放つ弾幕を掻い潜ってここまできたらしい。


ようやくここに辿り着いた敵だったが、ギルスによってあっという間に倒されてしまった。俺はレコノイターでギルス(とついでに他の3人)の戦闘力を計測してみると、


ギルス 4200

ニッチ 1300

サッチ 1250

マロリーは傷が深いせいか100程度。


という結果が出た。


なるほど、余裕ぶった態度はその高い戦闘力によるものか。

だが、外の敵の数は多い。いくらギルス1人の戦闘力が高くても限界がある。


そんな事を考えていると、首をへし折った敵を床に投げ捨てたギルスが声を張り上げた。

「俺はラルドラド商会のギルスだ。訳あって外の連中に狙われてる。そんな哀れな俺達を助けてやろうって奴はいねえか?!」


どうやら考えていた作戦というのは、酒場の客に助勢を頼むということのようだった。


「居る訳ねえだろ!さっさと出てくか、ぶっ殺されちまえ!迷惑なんだよ!」と店の客から当然の反応が返ってくる。

それに対しギルスは「勿論、十分に謝礼は払う」と客たちからのブーイングを押さえつけた。言葉と同時に金を見せつけて効果を高めている。


それはこの厄介事に巻き込まれるリスクと天秤にかけても悪くないと思えるくらいの額だった。しかも、この事態を上手く乗り切れたら更に倍を上乗せすると言う。


ラルドラド商会といえば、武器を中心に商売している結構有名な奴らだ。

謝礼も魅力的だが、ラルドラド商会に恩が売れるってのも悪くない。


ギルスの言葉に店の客たちは次々に協力を名乗り出る。

ギルスの前に列を成す客たち。

中には口だけの奴もいるが、ギルスも馬鹿ではない。レコノイターで計り、戦力にならない奴は除外してゆく。


俺もその列に加わる。


「980デス」


ギルスが持つ人工知能つきのレコノイターが計測した俺の戦闘力をギルスに告げる。

疲れているせいか、1000を下回っている。若干ショックだ。


「調子いい時は1080くらいなんだが」と意味の無い弁解をする。

だが、相手はそんな事には興味が無いようだ。


「ん、まぁ、猫の手も欲しい所だからな。いいだろ。こいつを貸してやる」


ギルスがエネルギーガンを差し出した。


腕に装着する形のものだ。

体内のエネルギーを弾丸の形にして打ち出すことが出来る。

でも、それはエネルギーを上手く収束することの出来ない。コントロールが下手なやつのためのハッキリ言って素人のためのものだ。

俺は違う。

握りこぶし大のエネルギーボールを作り出し、それを自在に飛ばして、それを示す。

それを見たギルスはニヤリと笑う。


「なるほど、面白い特技だな」

「まぁ、これが弱い奴なりの処世術ってやつでね」

「へぇ、身の程を知った奴ってのは、この街じゃ珍しいな。気に入ったぜ」


こうして俺はギルス達の助けを買って出る事になった。


気がかりはデンチだ。

見るとテーブルの下に隠れながらアップルパイの乗った皿を大事そうに抱えている。


「デンチ、そこに隠れててくれよ。絶対に出てくるんじゃないぞ?」と言うと「分かった」と答えた。

まぁ、食い物以外には興味が無さそうだから、言われなくても出てこないだろう。

これで安心して戦闘に参加できる。


そして、もう1人の気掛かり・・・フェンネルの方にも目を向けると、なにやらギルスと会話中だった。

あの野郎。こんな時に女を口説いてやがるのか。

と思い、聞き耳を立てる。


「なぁ、いいだろ?どうせ死んだらそれまでだ。だからよぉ」

「さっきも断ったでしょ。しつこいわよ」

「頼むよ、部下を死なせたくないんだ。生存率を少しでも上げたいって気持ちわかってくれるだろ?戦闘力5400のアンタなら戦力として申し分ない」


これには驚いた。

憧れの彼女にレコノイターを向けようなんて思った事もないが、まさか、そんな高い戦闘力を持っていたとは・・・。


ギルスの勧誘は尚も続く。


「頼む!アンタなら倍額払ってもいいからよ」

「お金の問題じゃないのよ」


そう言ってなかなか首を縦に振らないフェンネルだったが、溜息をつき、意を決したようにギルスの話に乗れない理由を語りだした。


「悪いけどアタシ一応、アローニアの騎士だから、立場上、アンタ達に加勢する訳にはいかないのよ。まぁ、無関係な人たちは私が守ってあげるから思う存分やるといいわ」


そう言ってフェンネルはウェイトレスとマスターの2人を庇うように立つ。


アローニアというのは王国の名前だ。

この辺り一帯を治めるアローニア王国において、選ばれたエリート集団がアローニアの騎士というわけだ。


だが、今ではアローニアと言う国は没落し、かつての栄華は見る影もない。

それでもアローニアの騎士の名だけは陰らない。

かつて、巨大な軍事国家だったアローニア。その唯一残された権勢がアローニアの騎士だと言える。


まさか、こんな場末の酒場にそんな高潔な人間が来ているなんて思いもよらなかった。


高嶺の花だとは思っていたが、身分の違いを思い知らされて愕然とする。


「なるほどな。アローニアの騎士様が表だって俺達に協力する訳にはいかないな・・・」

「そういうこと。ごめんなさいね」

「ま、それならアンタの事は偶然居合わせた勝利の女神さまとでも思う事にするよ。なんせ、敵も戦闘力に気付いてるだろうからな。きっとビビってるだろうぜ」

「・・・穏便に済むように祈ってるわ」


こうして戦闘準備が整った。

ギルスの号令で皆、思い思いに攻撃を開始する。


「先輩、隣いいっすか?」

「あぁ、リールーか。しかし、妙な事に巻き込まれたなぁ」

「でも、臨時ボーナスみたいでテンション上がりますね」

「まぁね。デンチの食費で頭を悩ませてたところだったから、思わず飛び付いちゃったよ。普段だったら、こんな厄介事には首を突っ込む性分じゃないんだけどね」


俺達もそんな軽口を叩きながら、外の敵に向かってエネルギー弾を撃ち始める。


「あ、また当てた。先輩、今日は調子いいっすね」

「当たり前でしょ。いつもの仕事と違って真面目にやらないと、こっちがやられちゃうからさ」


俺の放ったエネルギー弾は弧を描くよう飛び、車の影に隠れた敵に直撃する。


「上手いっすねー。今度コツを教えて下さいよ」

「気が向いたらね」


そんな風に俺がいい気になっていると、エネルギー弾が直撃した車が大爆発を起こし、その周りに居た2、3人の敵がまとめて吹き飛ぶ。


「バウトスさんすっげー!」


一瞬でリールーの尊敬の眼差しをかっさらっていったのはバウトスだった。


バウトスは戦闘力を7500までに上昇させることが出来るが、普段は1500程度に抑えている。あの正体不明の強敵と出会った時に俺も初めて知ったわけだが、リールーは気絶していたので、それを知らない。


「そんな凄いのに何で隠してたんすか?」

「ま、能ある鷹は爪を隠すって奴じゃないの?」と無口なバウトスに変わって俺が答える。

「・・・俺は一時的に戦闘力を上げることが出来ると言っても消費が激しいから、抑えてるだけだ」

「不真面目なのは先輩だけって事っすねー」


そんな風に軽口を叩きながらでも敵を圧倒するのは容易だった。

俺達以外の店の客もそれなりに戦闘力が高い奴らが揃っているからだ。


「それにしても、これは一気に形勢逆転じゃないかな」

「ちょろい仕事になりそうっすね!うぷぷ、何買おうかなぁー」

「・・・油断するな。敵の動きが妙だ」

「え?ホントに?」

「ああ、敵の攻撃が急に消極的になった」

「それって、こっちの勢いに押されてるだけなんじゃないの?」

「いや、何か・・・時間稼ぎをしているような」


そんなことを言っているうちに敵の攻撃はパッタリと止んだ。


「敵も諦めたみてぇだな。お前らには感謝するぜ!後は救援を待つだけだ」

「ギルスさんの作戦勝ちっすね」


ギルスと双子の片割れがそんなことを言いあっている。

バウトスの心配は杞憂だ。

ラルドラド商会の救援が来るまで持ちこたえればいいだけの簡単な仕事なんだからな。


「ギルスさん!」

「どうした?ニッチ」


ギルスと軽口を聞いていたのがサッチで、その間も警戒を怠らなかったのがニッチだったようだ。そのニッチが外の異変をギルスに報告する。


「誰か来ます!1人です」

「あぁ!?降伏の使者かぁ?」

「ん・・・?1人・・・ですけど、誰か担いでるような・・・」


つられて俺も外を見る。

ニッチの言う通り、敵らしき男が悠然と歩いてくる。

白旗を上げている様子は無い。酒場の客たちが銃口を向ける。


「待て!撃つな!撃つんじゃねえ!」そう言って静止したのはギルスだった。


男は担いでいた人間を地面に乱暴に降ろした。顔は逆光で良く見えない。

地面に横たわった誰かはグッタリとしたまま動かない。


「くそっ・・・何でアイツが・・・」


心なしかギルスの顔が青ざめているように見える。


「なんだってんだよ。アイツ、どんどんこっちに向かって歩いてくるぞ?撃たなくていいのかよ?」

「あ、あぁ、う、撃てっ!近付けるな!地面に倒れている奴はウチの者だ。当てるなよ?」


一斉に攻撃が開始される。

ギルスはというと攻撃に参加せずにカウンター席に座り込んでしまった。


「うわっ!何だアイツ!攻撃が当たらねえ!」

「嘘だろ!?俺のエネルギー弾を片手で弾き飛ばしやがった!」


ギルスの様子が妙なのも気になるが、俺も攻撃に参加する。

一発目は当たったが効いていないようだった。

二発目は少し威力を上げてみたが、ダメージがあるようには見えない。


「なんなんすかアイツ!当たったのに、ボクの攻撃が当たったのに!」

「アイツ・・・かなりの手練れだ。雨あられのような攻撃の中、威力の高い攻撃だけを選んで避けてる」


なんだそりゃ、俺の攻撃は避けるまでも無いっていうのかよ。


「おい、アイツ・・・もう店に入ってきちまうぞ」


男は俺達の攻撃を難なく掻い潜り、馴染みの店のドアを開ける様に普通に店に入ってきた。


男の第一声は「ラルドラド商会の伝令は全て潰した。助けは来ない」だった。


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