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存在の理由  作者: りす
第三章 親友
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同調者

 異界でセルカと話をした日の夜、ベッドで寝たぼくは、すぐに目を覚ました。

 最初に映ったのは司の姿だった。その隣にぼくが寝ている。

 どんな状況でも、二度目となると少しは慣れてくるらしい。

 周囲を見渡して、ここがぼくの世界であり、病院であることを認識する。

 それから、昼間のことを思い返す。雅樹にはぼくの姿が見えていた。

 今のぼくの状況を伝えられるとしたら彼しかいない。

 ぼくは雅樹の家へと向かった。


 雅樹は自宅でテレビを点けっぱなしにしたまま、ぼんやりと考え込んでいる様子だった。

「雅樹」

 突然の呼び掛けに雅樹が体を強張らせる。

「神楽……か、驚かせるなよ」

「ごめん」

「――放課後に病院へ行ってきたよ。お前は一体どうなってる?」

 ぼくは、これまでにあった出来事を、一つ一つ順に話していった。

 屋上でのこと、異界で出会った女の子。世界の創世の歴史と同調者という存在について聞いたこと。それから神官という存在について……。

 ひとしきり話をするのに三十分は掛かっただろうか? 雅樹が点けていた番組は終わり、ニュースに変わっていた。

『山で遭難か?』というテロップが、画面の隅に表示されている。

「それを信じろって言うのか? 無茶な話だな」

 ぼくは唇を噛んだ。

「夢を見てるとか、強い催眠状態に陥っている。って方がまだ信じられる」

「二人揃って、ぼくが精神体になる夢をか?」

 雅樹がうなった。

「それは、確かに意味が分からないけど、異界って話とは繋がらないな。元には戻れないのか?」

「あっちの人の話が本当なら戻る方法はあったらしい。……でも、もう少しだけ」

 そう口に出したとき、テレビに一つの画像が映し出された。

 遭難して行方不明になっている者として、テレビに映し出された写真。

 それを見た瞬間、脳内に鮮烈にフラッシュバックしてくる映像があった。

 バランスを失った虚ろな目。記憶が甦っただけで、吐き気が込み上げる。

 忘れることができないその顔は、仮面の存在に首から上を落とされた男のものだった。

「どうした?」

 この世界と異世界には、命を共有する同調者と呼ばれるものがいる。

「このニュースは何時から?」

 震える声で問う。

「今日初めて聞いた気がするけど、まさか、知り合いとか言わないよな?」

「彼のことは知らない、だけど……、異界で同じ顔をしていた男は殺された」

「お前の言う同調者ってやつか?」

 ぼくは頷いた。

 偶然か、それとも命の繋がりは真実なのか。もし、真実ならば彼はもう……。

「雅樹、このニュースだけど」

「分かった、チェックはしておいてやる。だけどな、神楽、お前はこれからどうするつもりなんだ?」

 雅樹が苛立たしげに聞いた。

「ぼくは、優希の同調者という女の子を助けたいと思う。ぼくのせいで、彼女を危険な目に遭わせてしまったし、もし二人の命が本当に繋がっているなら……」

「その優希が、お前のことを心配してる。お前が意識不明なのは、自分の対応が遅かったからじゃないかって、自分を責めてる」

 優希が? 自分を……?

 彼女の暗い顔の理由は、そういうことだったのか。

「優希のせいじゃない」

「だろうな。でも、だれが彼女にそれを伝える? 俺が言ったところで、彼女は納得はしない。お前、あいつのことちゃんと考えているのか? 好きなんだろう?」

 意外だった。

 雅樹の口から、そんなことを言われるとは、思っても見なかった。

「異界で、神官とか言われて浮かれているだけじゃないのか?」

 ――目の前で人が死ぬのを見た。

 たちこめる血の臭い。いつ死んでもおかしくなかったあの状況。

 出来ることなら、もう二度と味わいたくもない。

「違う」

「違わない。神楽、お前は逃げてるだけだ。そんなこと本当は許されない。みんなこの世界で生きている。俺も、優希も……。俺だってこの世界が好きじゃない、正しいことばかりだとは思っていない。でも、それはどこの国でも、どこの世界でも同じじゃないかな。

 ――戻ってこいよ、神楽。夢はもう終わりだ。来年は受験生なんだぜ俺たち」

 雅樹が真っ直ぐに、ぼくを見据える。

 ぼくはたまらず目を逸した。

「お前には分からない」

 そう言って、ぼくは雅樹の部屋を飛び出した。

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