あの空へ
真っ白な光が目に飛び込んできて、目を細める。
ぼくは、病院のベッドで横になっていた。
椅子に座った優希が、ベッドの端で腕を枕にして、すやすやと寝息を立てていた。
ぼくの体……。布団の重さを感じる。
ぼくは、優希を起こさないように、ゆっくりと体を起こした。
深呼吸すると、新鮮な空気が肺の中を満たす。
傍らに眠る優希を見て、愛おしさが込み上げる。
今まで、これほどまでに、生きていることを実感したことはなかった。
優希は制服ではなく、白いワンピースを着ていた。その姿がファナの姿と重なる。
夢のような出来事だった。いや、夢だったのだろうか?
目を落とすと、自分の胸元に、魔法陣が描かれた石のペンダントが掛けられていることに気付いた。
それは、ぼくの記憶が確かなものだと証明するかのように、光を受けて輝きを放っている。
ファナがそうしてくれたんだろうか? と、彼女の姿に思いを馳せた。
胸の石は、深い碧色をしていて、描かれた魔法陣は水の魔法陣とは異なっていた。
彼女はティアたちと友達になれただろうか? ――きっとなれているに違いない。
優希と小羽のような二人を思い描いて、ぼくは顔を綻ばせる。
ベッドから降りて、部屋を出る。
廊下の壁にもたれ掛かり、雅樹が立っていた。
ぼくの姿を見た雅樹が、口の端を吊り上げる。
「起きたか」
「雅樹……」
「みんな昨日のうちに目が覚めたのに、お前だけが帰ってこなかったから心配して来てみたら、先客がいてな……」
雅樹が鼻の頭を掻いた。
彼が優希を好きだったこと。異界でのこと……。
そのことを思うと、なんと言ったらよいのか分からなかった。
「ごめん」
と、ただ誤ると、雅樹も真剣な表情に変わった。
「戻ってこれたのなら問題ないだろ?」
そんなことはない、と首を振った。
「ぼくは……雅樹のこと、全然知らなかった」
ふっ、と雅樹が笑う。
「まあ、言わなかったからな。――神楽、優希のこと、好きなんだろう?」
「ぼくには、そんな資格はない」
「そんなもの、誰が決める? 好きなら、好きだと言ってやればいい。俺は言ったよ。後は優希自身が決めることだ」
「ぼくを許してくれるのか?」
「ああ」
雅樹が病室の扉を促した。振り返り扉を見る。
扉の向こうで眠る優希の姿を思い出し、顔が熱くなった。
深呼吸して、扉に近づく。ゆっくりと手を伸ばして、ノブに手を掛ける。
心臓が張り裂けそうなほどに加速していく。
「どうした?」
雅樹が、からかうような声を上げる。
そんな後ろで見られてたら、言えるものも言えないじゃないか……。
「ちょ、ちょっと風に当たってくる」
と、言い残して、ぼくはその場を後にした。
階段まで歩いたところで、あそこなら……、と考える。
彼女と出会った、あの空へ。




