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存在の理由  作者: りす
第七章 狂戦士
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少女の温もり

「ゆ、き……?」

 目の前の光景が色を持つ。制服姿の少女が、ぼくの頬に手を伸ばしていた。

「やっぱり神楽だ……」

 優希が呟く。

「こんなところで、何してるのよ」

 優希は、笑みを浮かべた後、苦しげに咳きこむ。

 彼女の胸には、ぼくの剣が深く突き刺さっていた。

 心の奥底で見えていた。色の無い世界で、優希の戦う姿を……。

 あの時優希は、ぼくに届く前に剣を捨てていた。

 それなのに、ぼくは、彼女を……。

「神楽……、生きる意味……、見つかった?」

 上目遣いに、優希が問いかける。

「約束……、覚えてる? 先に死ぬなんて許さないから……」

 ぼくを見上げる優希の瞳に涙が滲んだ。

 嘘だ、こんなことがある筈がない。

「優希っ!」

「私が……いなくなっても、生きる意味見つけてね」

 優希に胸を掴まれる。血に染まる手で、驚くほどの力で……。

 月明かりの下、失われていく少女の温もり……。

 それを逃がさないように、ぼくは、優希を強く抱き締めた。

 無くしたくない。失いたくない。どこにも行かないでくれ。

「かぐ……ら」

「ゆきっ! ゆきぃぃ!!」

 ぼくは、彼女の名前を呼び続けた。

 どうして? どうして誰も救えないんだ。ぼくは何のためにここにいる?

 誰のために……?

「おおおぅあぁぁ……」

 涙がとめどもなく溢れて視界が霞み、粒になって、彼女の体に落ちて行く。

 ――もうこんな世界どうなったっていい。優希のいない世界なんて……意味がない。

 もう、嫌だ。死にたい、生きていたくない。

 誰か、ぼくを、殺してくれ。


「かぐらぁ!」


 予想もしない声に体が跳ね上がる。

 苦しい、切ない、泣きたい、全ての感情の入り混じったような声だった。

 目を擦り、後ろを振り返る。

 苦悶に満ちた表情をした雅樹が、ぼくの横に立っていた。

「認めてやる。この世界を、この痛みを。たとえお前が、この世界の救いだったとしても、俺はお前を許さない。俺はお前を殺す」

 雅樹が、地面に落ちていた兵士の剣を拾い上げる。


 殺してくれ。

 と、心の中で願った。

 

 雅樹が剣が振り下ろす。その瞬間、ぼくの体は無意識に動き、雅樹の一撃を弾いていた。

 心臓が高鳴なり、体が熱くなる。

 雅樹の殺意が肌を刺す。彼は敵だと、彼を殺せと、頭の中で何かが叫んでいる。

「やめろ、雅樹、ぼくに近づくな」

 このままでは、ぼくは雅樹まで殺してしまう。

 神官の力は、敵対するもの全てを滅ぼしてしまう。

 違う! あの時、優希は止めたじゃないか!


『きみに必要なのは心の強さだ』

 リュシスの言葉が脳裏に甦った。


 本能が叫ぶ。彼を殺せと。

 理性が叫ぶ。この力、制御できると。


 雅樹の動きがスローモーションのように見え、雅樹の突きを体を捻ってかわす。

 剣が引き戻される瞬間、ぼくは雅樹の剣を根元から掴んでいた。

「うぐぁおうぅぅ」

 獣のような叫びを上げて、雅樹の剣を砕き折る。

 ぼくは、地面に膝を着いた。

「許してくれなんて言えない。ただ、待ってくれ。全て終わらせて、また戻って来る」

 雅樹が膝を折る。彼の目から一筋の涙が流れた。

 ぼくが、初めて見る彼の涙だった。

 ここで、ぼくが死んだら、リュシスの思い通りになる。

 ぼくには、まだやることがある。

 今、ぼくが生きている理由、それはリュシスを止めるためだ。

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