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存在の理由  作者: りす
第五章 死と告白
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闇のスペルの担い手

 目を開けると、心配そうな自分の顔がのぞき込んでいた。

「リュシス?」

「カグラ、大丈夫か?」

 まだ、頭がぼんやりとしていた。

 頭を振って、意識をはっきりさせようとする。

「ここは?」

「中央都市の治癒院だよ。きみは気を失っていたところを、ここへ運ばれたんだ」

 痺れるような痛みがして、腕を見ると包帯が巻かれていた。

「怪我はそれほど酷くはないよ。ちょっと出血が多かったのか、それとも精神的なショックからか……」

 リュシスが暗い顔をした。

 ここであった出来事が脳裏に浮かぶ、小羽と同じ姿をした彼女の最後の姿。

 ぼくの目から、涙が溢れて零れ落ちた。

「ティアは、封印を守っていた子は?」

 リュシスが目を伏せて、首を振った。

「――きみはあれをどう思う」

 爪が食い込まんばかりに拳を握り締める。

「どうして、人の命を犠牲にするようなやり方をする必要がある?」

 ベッドの脇にリュシスが腰掛ける。

「四十年くらい前、何者かが巫女を誘拐した。命の危機に瀕した巫女は、脅しに屈して神官の力をその男に渡してしまった。その結果、より多くの命が犠牲なった。巫女は事件の後、自らの命を絶った」

 本来、力を持つべきでない人間が力を手にした……。

 その話は、少しだけファナに聞いた覚えがあった。

「その後、巫女が安易に力を解放することができないようなシステムに改変が行われた。

 神の力を使ってね。命の危機にさらされた巫女が、それに屈して力を渡すようなことがないように、力を解放すれば、巫女の命が失われるようにしてしまったんだ」

「そんな……」

「それだけじゃない。身寄りのないものから巫女を選出して幽閉し、巫女にとって失うものが何もないようにしてしまった」


『私は、戦争孤児だったんです。そういう人の中にこそ、神と心通わせられる才能がめばえるのだと言われて……』


 神と心通わせられる才能……。

 その言葉は、人が作り上げた嘘だったということか?

 ティアはそれを知っていたのだろうか?

 言いようのない怒りが体を震わせる。

「――許せない」

 ぼくの言葉に、リュシスも頷いた。

「そうだね。こんなやり方は間違ってる。今の仕組みを作ったのは、三代前……、現在の神官長たちになる。

 僕は、いつかこの仕組みを変えたいと思っている。いや、ひょっとしたら今が、そのチャンスかも知れない。今、起きている問題を解決することができたら、神官同士が集まることになるだろうからね。その時にまた、話し合おう」

 リュシスが顔を和らげた。

「土の神官は亡くなってるんじゃ?」

 神の力を行使するためには、全ての神官の同意が必要だと聞いた。

「彼が亡くなったことは残念だけど、全ての神官の同意という言葉には前提がある。全てとは八人ではなく、生きている神官の総数を指す」

 その言葉に驚いて問い返す。

「最後に残った二人でも?」

 リュシスが首を振った。


「いや、最後に残った一人でもだ。残った二人のどちらかが死亡して、最後の一人になった場合、残った者は、命の共有から解放されて神の世界へ辿り着ける」


 ぼくは目を見張った。

 もしそうだとすれば、最後に残った一人は、思い通りに神の力を使うことができるのではないか?

「仮面男の目的って……」

 ファナが言っていた、敵が神官もしくは神官を取り込んでいる可能性があるというのは……。

 神の力を行使するためということか。

「神官を各個撃破、または懐柔して神の力を得ることだろうね。おそらく、それを止めようとして、土の神官は殺された」

「じゃあ、ファナはどうして捕らえられたのだろう?」

「ファナも相手の狙いに気づいてたんじゃないかな?

 捕らわれた時点で、相手の誘いに乗ったんじゃないかって、ぼくは思ってる」

「魔法鳥を飛ばしてくれたんだから、きっと無事だよね」

 リュシスが頷いた後、腕を組んだ。

「一つ気になっていることは、『闇に捕らわれないで』という言葉なんだ。セルカが言っていたように、闇のスペルには、人の心を惑わせたり、暗示に掛けたりと言ったものがある。もし、人の心や行動を操れるほど強いスペルが存在するとしたら、彼女は……」

「そんなことまでできるの?」

「ぼくも専門外だからね。はっきりとは言えない」

 その時、ドアがノックされた。

 リュシスが立ち上がるとぼくを見る。ぼくは頷いた。

「入ってくれ」

 言葉と共に入ってきたのは、白い衣装に身を包んだ男だった。

 年齢は二十歳くらいといったところだろうか?

 清潔そうに整えられた髪から、誠実な印象を受ける。

「闇のスペルの調査の件ですが、各国からのリストは揃いました。まだ、全ての習得者の所在確認は行えていませんが、一つ気がかりな点が見つかったので報告を」

 リュシスが頷いた。

「神官の身の回りの者を中心にリストの調査を行っていたのですが、一番近いところでは、火の神官の親族の中に治癒院を営む者がおります」

「所在の確認は?」

 男が首を振った。

「一週間程前から、行方が分からないそうです」

「火の神官はスペルを習得しているのか?」

「リストにはありません」

「リストには、か……。ありがとう、引き続き調査を頼む」

 男は一礼すると、部屋を後にした。

「火の神官ルルド・ステファン……」

「リュシスは会ったことある?」

「ああ。そんな野心家には思えないけど、調査する価値はあるかもしれないな」

 ――神官は八人。

 土の神官と、その同調者が亡くなっているならば六人。

 ぼくらの世界の神官を除外するなら、残りは三人しかいない。

 この状況で、行方が知れない火の神官が怪しいのは確かだった。

 でも……ほんとうにそうだろうか?

「まあ、ここで悩んでも仕方がない。報告を待とう。カグラはゆっくりと休んでくれ」

 そう言い残すと、リュシスもまた部屋を後にした。

 言いようのない不安だけが胸に残っていた。

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