第002話「ヘルベチア王国」
なんとなく考えついた死亡フラグ。
パート1。
「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」
最も一般的な奴ですね。
因みにこの前書きは本文に全くと言っていいほど関係ありません。
この広大な砂漠、唯一遥か彼方に景色の違う部分があった。
おそらく岩場的な物だろう。
オアシスなどがあればそれにこした事はないが、無い物はねだれない。
最も良いのは過去に帰る事だが、人の力でどうこう出来る事だとは思えない。
それに、立ち尽くしていても仕方がないし、ここで干からびるのを待つだけなのもごめんだ。
靴の中に侵入していた砂を出すと、自分は歩き出した。
歩き出したわけなんだが遠い。
歩いても歩いても近づいている気配がしない。
砂丘の昇り降りに体力を奪われるし、まず砂漠という地形だけでも歩きにくく、既に何回転んだ事か。
おまけに太陽はまだまだ沈みそうにない。
砂漠の夜は、熱を溜め込む物が無いからもの凄く寒いと聞くので、夜になられても困るが、それでもなって欲しいと思うほど暑かった。
現代の温暖化等目じゃない位に。
そこで、道着等持っていた物を駆使してなるべく肌を露出させないようにしている。
持っていなければ大変なことになる所であった。
この気温だと普通に日焼けでなく、火傷までいく。
日焼けも火傷も同じような物だが自分的には威力が全く違うと思う。
日焼けで人は死なないが、火傷では死ぬ。
話がそれたか。
まだ水筒の中のスポーツ飲料は三分の一ほど残っている。
これであの岩場までつけるか…いや、付いた後そこに何も無かった事を考慮して、その後もそれで持たせなくてはいけない。
むしろ何も無い可能性の方が高い、というか無いだろう。
それでも奇跡を信じて歩いているわけだが、本当に稽古中に全部飲んでなくて良かったと思う。
砂漠では湿度が極端に低いため汗をかいてないように思えるが、実際には大量に出ており、この水筒の中身が無かったら岩場までの途中で力尽きていただろう。
「まあ、なるようにしかならない…か」
辺りにはサクサクと砂を踏みしめる音と、自分の呼吸音だけが響いていた。
3時間後。
自分の行動は間違っていなかった。
「オアシス位あればと思ってたが…」
水筒の中身もほぼなくなり、もはやこれまでかと思った時、岩場にたどり着く事が出来たのだ。
そこは岩場と言うより崖であった。
真っ直ぐには降りられそうにはないが迂回すれば降りられそうである。
何よりも、遥か下の方には川が流れており、その周りには町と呼べるであろう規模の家々が建ち並んでいた。
一つだけ、岩に半分埋まっている、周りの建物と比べて遥かに大きい建物も見えるが、ここからだとよく見えない。
まあ、まずは降りる事が先決だろう。
崖を迂回して30分ほど、目の前には10メートル位の石造りの壁がそびえ立っている。
入口付近には兵士らしき人物も2人いた。
兵士は革の鎧に槍というあきらかに門番という出で立ちだ。
鎧が鉄製で無いのは暑いからか、技術が退化していて作りにくく高級品なのか、全く作れないのか。
谷底なので比較的涼しいし、槍が鉄製みたいなので全く作れないわけではなさそうなので、おそらく高価なのだろう。
「止まれ!何用でこの国にまいった!」
兵士が槍を交差させて問いかけてくる。
そうか、この時代ではこの規模で国と言う事もあるのか。
この時代の常識を自分はほとんど知らないので、情報収集しつつ話を合わせて、怪しまれないようにしなくては。
最悪の状況になったら記憶喪失や、遠方の田舎から来たため~で何とかなるとは思うが、出来るだけ普通の立場の方が良いと思う。
あと、普通に話しているが言語は英語だった。
英語が得意じゃなかったら死ねる所だ。
幼馴染に教えてもらっててよかった。
まあ幼馴染自身英語は得意みたいだったが、それ以外数学系は普通にダメみたいで、国語や歴史等は壊滅的だったが。
色々な意味で目立っていたためいじめられてたが、それでもいじめる理由にはならない。
いじめに気付いた自分が1回自分がブチ切れたっけ…。
うん、話を戻そう。
「ああ、すいません。自分は旅をしている者ですが、先日盗賊に襲われまして…」
こういうのは堂々とそれらしい事を言うのが効果的だ。
実際この時代ではありそうだし。
兵士も少し気の毒そうな顔になっている。
「そうか、大変だったな。それは最近ここらで有名になっている盗賊、紅だろう。それにしても良く逃げられたな?」
「ええ、荷物も何もかも投げ出して、その時運良く砂嵐に会いましてなんとかなりました」
「運がよかったな。それとすまなかった。最近兵を派遣したのだが返り討ちにされてな。相手に魔術師がいるようで…」
魔術師、魔術師か。
どうやら魔法が存在するみたいだ。
それとも指揮官の事を魔術師と例えているのか。
「じゃあ本当に運がよかったんですね」
「そうだな。ああ、通っていいぞ?ようこそヘルベチア王国へ!」
門をくぐると、そこには大通りが真っ直ぐに伸びていた。
大通りと言っても8メートル位しかないが。
両脇には、店や宿屋が連なっており、活気に満ちている。
これを見る限り、税金を膨大に搾取しているわけでは無さそうだ。
大通りからは横に道幅半分ほどの脇道が走っており、さらに細い道もそこから派生している。
裏通りという物だろう。
民家や、ガラの悪い酒場なんてのがあるんだろう。
基本治安の良くない場所のはずだ。
あまり近寄らない方がいいだろう。
一番奥には岩場、崖上からも確認できた大きな建物が見える。
周りの家が高くて3階程であるのに対して、10階以上はありそうだ。
っていうかビルだ。
自分の生きていた時代より一時期発展していたみたいだから、自分の知っているものかは分からないが、見た目コンクリートで出来ている。
場所からして王城として使われていそうだ。
ヘルベチア王国、王国だからな。
因みにその他の建物は石造りが大半だ。
この砂漠という土地で、木材は貴重品だからだろう。
門から王城までの中間地点には川が横断しており、大通りにはもちろん他にも何本か橋が掛かっている。
防御面から見ればなかなか良さそうだ。
橋を落とせば天然の防壁となる。
店で買い物している人を横目で見てみると、なんとお金は自分の使っていた物と差がなかった。
もちろんかなり古びてはいたが、1円、5円、10円、50円までは見る事が出来た。
なんとこの世界では1円が100円位の価値らしい。
おそらく100円や500円もあると思うが、そこまで高いものを買う所は見れなかった。
紙幣はさすがに無くなっているだろう。
500円の上は無いか、新たに何か作られたか…だ。
さて、財布の中を見てみると、1円が3枚、5円が1枚、10円が1枚、100円が4枚、500円が11枚だ。
紙幣は6000円分ほど入っていたがこの際無視する。
この時代まで紙幣は残ってないと思われるからだ。
あまり目立つのも良くないしな。
500円が多いのは、500円玉貯金をしていたからわざとお釣りで500円もらえるようにしていたからだ。
貯金箱にまだ入れてなくてよかったと思いつつ、計算してみる。
計算したら5918円あったわけだ。
これに100をかけると591800円になる。
現代の価値にしてこれ位持っていることになる。
1日の食費として10円ほどあれば普通には生活できるみたいなので、約600日はお金に困らない。
実際にはもっと色々宿泊費等と必要になるだろうから早く無くなるだろうが、1年は大丈夫だろう。
その間に仕事なり何なりを探せばいい。
さて、そうと決まれば宿をとろう。
慣れない砂漠に体力をゴリゴリ削られて疲労が溜まってるし、お腹が減ったし、何よりさすがに日も落ちてきた。
一番最初に目に付いた適当な宿屋に入り込んだ。
3階建の大きな宿だ。
1階は食堂でそれ以外が客室みたいだ。
「すいません、一泊したいのですが」
「ああ、いらっしゃい。一晩5円、夕飯朝食付きなら11円だ」
「じゃあ、その食事付きでお願いします」
11円を渡す。
硬貨が綺麗すぎるので何か言われるかと思ったが、特に何も言われなかった。
状態の良い物も無くは無いのだろう。
っていうか宿代安いな。
まあピンキリなんだろうが。
値段が高い所は際限なく高いのだろう。
「夕食は17時、朝食は6時からだ。部屋は3階の305室だ」
「分かりました」
そして部屋に向かう。
どうやら鍵とかは無いようだ。
不自然にならない位待っていたが渡されなかった。
部屋にはベッドと収納スペース、小さなテーブルがあるだけの狭いものだった。
掃除は行き届いているみたいで、テーブルの上には水差しとコップが置いてある。
荷物、竹刀や木刀等をおろしベッドに座ると、コップに水を注ぎ一気に飲み干した。
なんだかんだで喉が渇いていたのだ。
ぬるかったが、かなり美味しく感じられた。
時計を見るとあと少しで5時5分前。
因みに運良く時計の時間と実際の時間に大きな差はなさそうだった。
ちょうどいい時間かと、食堂に向かうのだった。
食堂はもうすでに賑わっていた。
時間は目安なのだろう。
というより、時計とかが見当たらないから、本当に大体なのだろう。
カウンターで食事を受け取る時、1円出すと大盛りに出来るようだったので、大盛りにしてもらった。
野菜スープとステーキとパンと水。
シンプルで味も少し薄かった。
香辛料とかは高いのだろう。
だがまずくはなかったし、量も大盛りにした分想像以上に多かった。
追加料金で酒を飲んでいる人も多かったが、自分はまだ未成年なので飲まない。
あきらかに自分より若い人が飲んでいるのも見えるので、未成年とかそういう制限はないのかもしれないが。
昔はお酒が水の代わりの地域もあったわけだし。
何事もなく食べ終え、食器を返却した後部屋に戻る。
鍵が無いので荷物が心配だったが、お金は持ち歩いているので、どうとでもなる。
ドアをあけると先ほどまでと変わらないままだったので安心した。
窓から外を見ると辺りには既に暗くなった街並みが見える。
部屋ももう真っ暗だ。
ランプをつければある程度は明るくなるが、今日はもう寝てしまうからと、つけなかった。
それに満月に近いからか比較的明るい。
その月を見ると…ああ、自分は本当に違う所に来てしまったのだと思う。
月は他の星より遥かに大きく見え、光も強い。
それは現代も、そして未来も変わらないみたいだが、未来、今の月は丸でなく、半分が崩れており欠片が大小合わせて10ほどあった。
あのわけのわからない現象の時は良く見えなかったので、いつああなったかは分からないが。
1日弱。
おそらく8000年から10000年、まではいってないと思うが、それほどの未来。
月がああなっているのが当たり前なほどの未来。
帰りたい。
親や親友、幼馴染にも心配をかけているだろう。
しかし、帰る手段も方法もわからないし、そもそもあるかどうかも分からない。
今は、今は自分が出来る事、生きる事を考えなければならない。
少しだけ潤んだ目を袖でぬぐう。
そうだ、明日はギルドと書いてあった建物にでも行ってみるか。
ファンタジーだと定番の魔物を倒してお金をもらえる組織だが、大抵雑用任務もある。
それでも1日1日は暮らしていけるだろう。
自分には元手もそこそこあるし、いざとなったら荒事に挑んでみてもいい。
魔物が本当にいるかはまだ分からないが、少なくとも盗賊はいるのでそういうのを捕まえる仕事もあるだろう。
自分はそれなりに強い部類に入る。
しかし、それは現代の話であり、未来である今では良くても中堅所位だろう。
平和な日本とは比べるまでもなく、ここは危険だと思う。
それでも、自分の出来る事を見極めれば、すぐに死ぬという事は無いだろう。
後は…魔術師という単語も気になる。
魔法が本当にあるのか。
本屋とかで資料を集めてみるか。
まあ、なんにしろ明日だな。
そして自分は気付かぬうちに眠りに落ちた。
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暇だ。
暇で暇で仕方ない。
強い奴と戦いたくて盗賊団なんてのを作ったが、いかんせん思ってたより相手が弱すぎた。
盗賊団と言っても他の盗賊からしか奪わないがな。
しかし、お偉方は自分たちより盗賊の殲滅成果を上げている俺達を気に入らないのか、色々身に覚えのない罪をかぶせてきたけどな。
結果として真実を知る者以外では、俺達紅は最悪な集団とされてるみたいだが。
まあ、それは良い。
強い奴と戦える可能性が上がるからな。
と、思ったんだが拍子抜けだ。
先日来たヘルベチア王国の討伐隊には、俺が出る必要も無かった。
いくら今厄介な魔物が出ていて、大方の兵士と魔術師が出てるからって、弱すぎだ。
近衛位連れてこいと言いたいが、まあ多くの兵が城を出てる今、離れるわけにはいかないか。
いっその事その魔物と戦ってみるか?
いや、でもかなり遠いからな。
行ったらもう既に討伐されていました、では面白くない。
どうするか…。