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第001話「唐突なる時間跳躍」

2作目の投稿です。

亀更新ですが、よろしくお願いします。

2000…え~っと、今年は何年だったか。

5月の中旬、自分の人生は良くも悪くも唐突に激変するのだった。


自分は何処にでもいる何の変哲も無い至極普通で一般的な日本人である。

髪の毛や目の色は黒で、身長は178センチメートル位だ。

まあ、ぶっちゃけて言えば某エクソシストが悪魔を退治する漫画に出て来る、武器が刀で準主役なイケメンさんに似ていると言われるが、何のことはない。

実際には目付きが鋭いからか、恐がられます。

性格は多分悪くはないと思うので嫌われたり、避けられたりはされなかったが…。

現実はこんなものです。


さてさて、色々と吹っ切れて友人に言われるがままポニーテイルにしている髪の毛が風になびくなか、熱くなった身体を冷やしつつ歩いていた。

剣道の早朝稽古も終わり、太陽も上がってきた。

先ほど冷やすと言ったが、そろそろ温かくなってきてしまうため、難しくなるだろう。

最近は特に温かい日が続いている。


「あ!そういえば…」


そういえば今日は母の日だったかと不意に思い出し、カーネーションでも買って帰ろうと、しばらく前に通り過ぎた花屋に向かうために、きびすを返した。

さて自分の目の前には横断歩道があります。

たった今自分自身も歩いてきたわけですから当然だ。

まだまだ信号機は青を表示している。

そして、そこには女の子がいた。

小学生位の、自分のポニーテイルに対抗するかのように髪の毛をツインテイルに結び、背中には不釣り合いなほどの大きなリュックサックを背負った女の子が、遠足にでも行くのか楽しそうに、横断歩道の白い線の部分だけを踏みながら歩いている。

また、その女の子目掛けて物凄い早さで接近している車も視界に捕らえていた。


身体は勝手に動いていた。

自分は女の子を突き飛ばしていた。

女の子の驚いた顔が見える。

叫び声をあげないのは、それほど驚いたからか。

そしてようやく、車のブレーキがかかるけたたましい音が辺りに響き渡った。

居眠りだか飲酒だか、はたまた脇見だかは知らないが勘弁してほしい。

体制を崩して動けない自分と車との距離はもうセンチの単位しかなかった。

突き飛ばした女の子がまだ尻餅すらついてない。

だが、思い切り突き飛ばしたお陰かギリギリ車の範囲外に出ている女の子を確認した、次の瞬間自分は激しい衝撃に襲われ………なかった。


恐る恐る目をあける。

明らかに避けられるはずはなかった。

いや、すでにそう考えていた時には当たっていたのかもしれない。

では何故衝撃がこないのか。

答えとしては、車がなかった。

女の子もいなかった。

でも確かにさっきまでいたのだ。

手に突き飛ばした感触も残っている。

一人演技をしていたわけでは無いだろう。

状況を確認しようとするが、何故か身体が動かない。

もう本当にピクリたりとも。

金縛りになったかのように…なった事はないが。

自分がおかしくなってしまったのかと不安に陥りながらも、目だけを動かして出来る限り周りを見る。

結果から言うと自分はおかしくなかった。

いや、この状況はおかしくなってしまったのかもしれない。

此所は閑静な、とまでは言わないが住宅地だ。

周りにはもちろんの事ながら家々が立ち並んでいる。

そのなかの一軒の庭に植えてある柿の木。

その柿の木が物凄い早さで、実ったり落ちたりしていた。


約10秒に1回。

自分の左腕につけているソーラーパネル搭載10気圧防水腕時計や最近買い換えたスマートフォン、予備の前まで使っていた携帯電話を見ることは出来ないが、おおむね10秒だ。

つまりその10秒で1年間が経過してしまっている事になる。


「こんなの絶対おかしいよ!!」


と、叫びたいが口が動かない。

結果として、自分はなにも出来ずに、時間を数えているしかなかった。


身体が動かない以外は本当に正常であったが、いかんせん早すぎてよく見えないし聞こえない。

朝と夜が高速で繰り返すが意識しないと分からない。

目がチカチカするまもない位だ。

気付くともうすでに周りの家々も先ほどまでとは違っている。


そして更に変わっていき、別段都会でも無かったこの土地に、明らかに東京タワー越えの建物が建ち並んだ。

その時聞こえたのだ。

まるで全てを否定するかのような叫び声を。

耳を塞ぎたいが身体が動かず、直に聞くしかない。

身体が、心がバラバラになりそうだった。

それは約10秒。

この時の自分は、かなり不安定で本当は違うかもしれないが、おそらく間違いないと思う。

それは実際には1年と思わしき時間続いた。

その10秒で世界にはアナログテレビの時代にはよく見たノイズ 、砂嵐が増えていき、ついには電源を切ったかのように辺りは闇に包まれた。


1000秒ほど経過した。

現実で100年。

音、光、その他全てが無かった世界が、不意に元に戻る。

でもあきらかにおかしい。

人の気配、生き物の気配が全くしないのだ。

自分を高速ですり抜ける車らしき物も、人らしき動きも見えない。

だいいち建物に明かりが灯ってないし、見た目も廃墟に近い。

音もほとんど聞こえない。

建物の間を流れる風の音位だった。

それからは早かった。

現代の建物は管理しないとすぐに劣化してしまう。

実はそういう観点から見ると、天然の石で作られた砂漠地帯にある三角形な建造物や隣国にあるとても長い城の方が、遥かに丈夫だ。

よって1000年もすると、建物は粗方消え去り、辺りは緑に包まれた。




あれからどのくらいたっただろうか。

もう一日はたっていそうだ。

途中から時間を数えるのはあきらめたが、体内時計的な物で大体分かる。

何故かお腹が減ったり眠くなったりはしないが、この状況は思わしくない。

その時不意に身体が動いた。

女の子を突飛ばした体制のままだったので、また、足が少し砂に埋まっており、足を取られて前にたおれこむ。

服で防御されてていない顔や手に熱せられた砂がまとわりつく。


「うぇ…」


今まで視た事がない位きめが細かい砂が口の中に入り込む。

運良く目には入らなかったが、口内はジャリジャリとして気持ちが悪いので、何回か唾と一緒に吐き出す。

まあ今まで何回かあったが、砂や雪等に埋もれた時に元に戻らなくて良かったと、これ位で済んで良かったと思いながら地面に手をつき起き上がると、そこには砂漠が広がっていた。

さっきまでも見ることは出来たが、今は太陽の熱や乾燥した空気を直接感じる事が出来る。

したくはなかったが。

鳥取砂丘なんて目じゃない位の本式な砂漠を前に、さて、どうしたものかと悩む自分がいた。

物事は焦っても何もいい事にはならない。

そのせいで親友や幼馴染からは、マイペースと言われる事もあるが、まあこれが自分の性分だ。

熱くならなくてはいけない所では熱くなるが、それ以外は冷静沈着。

こういう時こそ冷静にと自分は頭をフルに回転させるのだった。



■■■



男子高校生謎の失踪!!

その日の夕刊やニュースをにぎあわせる事となった事件である。

明朝、小学生女子と乗用車が衝突仕掛けるという事故が某県某町で発生しました。

小学生女子と車の運転手が証言するには、高校生位の男性が女の子を突き飛ばし、女の子を救ったと主張しております。

しかし、その男性は突如として消失。

車には衝突した痕跡も見当たらず、また現場付近にも男性がいたという証拠は無く、何かしらの勘違いや虚言の可能性が疑われています。

なお、同県同町で男子高校生の行方不明者が一名出ており、特徴が一致する事から事件に何らかの関係がある可能性があると見て捜査が行われています。

男子高校生、事故直後の目撃情報等ありましたら………。


この日、いつものように剣道の稽古へと出て行った息子は帰ってこなかった。

心配になった私はすぐに夫に連絡を入れた。

夫はすぐに会社から帰ってきて私を支えてくれた。

警察に連絡すると、普通は1日やそこらでは失踪とはみなされないが、息子の行動地域、時間がある事件と被っていたことで、すぐに取り合ってくれた。

可能性の域を出ないが、車と小学生の女の子の事故に関係あるかもしれないと、大々的に捜索してくれている。

なんでも車に衝突しそうな女の子を救った男子高校生が行方不明になっているらしい。

その話を聞いた時、私は確信した。

それは私の息子だ。

息子なら、そういう場面に遭遇したら必ずそういう行動に出るだろう。

昔から優しい子だった。

なぜその場からいなくなったのかは謎だが、早く見つかって欲しい。

しかし息子は見つからないだろう。

いや、なぜか絶対に見つからないと分かっている。

夫にこの事を打ち明けると、同じことを感じていたらしい。

また、同時に息子が死んだりはしていないとも確証を持てた。

理由はない。

証拠等もない。

だけどなぜかわかるのだ。

親故の事か。

息子は手のとどかない所に行ってしまった。

何をどうしてもとどかない場所に。

ならせめて、息子がどこであれ幸せに暮らして行けるように祈るしかない。

私たちにはそれしか出来ないのだから。



■■■



あいつが失踪したらしい。

どうせあのお人好しの事だ、何かに巻き込まれたのだろう。

だがまあ、あいつがそう簡単にどうにかなるはずはない。

俺の知っているなかで一番強かったやつだ。

もちろん身体がというだけではなく、頭も心もなにもかもでだ。

幼馴染もあいつのことを心配してうろたえていたけど…リア充氏ね!

ゲフンゲフンそれは置いといて、まあそんな感じだ。

あいつのことだ、どうとでもなるだろう。


「…ったく!」


心配させやがって。

まあ、情報くらい集めてみるか。

俺はノートパソコンを開いて、情報収集を始めようとした。


「あ、メールが来てるな…」



■■■



この日の集まりは前もって企画していたものではない。

ファンクラブ会員NO.000000たる私を筆頭に、NO.000010までの幹部最高幹部が緊急に決めたものだ。

それでも100人以上集まった。

1時間ほど前に招集をかけたばかりだったので、これだけ集まればたいしたものだろう。

だいいち時間的に来れない距離の会員もいる。

協議されるのは、私たちのファンクラブが崇める本人の突然の失踪の事だった。

今回は、集まった会員のNOが0に近い方から順に30名で協議をし、残りは捜索する。

それからかなり長い間協議は続いたが、結果から言うとファンクラブは無期限凍結する事となった。

全くどうしてこんな事になってしまったのか。

彼と親しくなりたい人が集まって出来たこのファンクラブだが、本人がいなくなってしまってはどうしようもない。

探しても結局見つからなかった。

彼の痕跡を追えたのは剣道の道場までだったのだ。


それに、凍結するのは仕方がないだろう。

なにせ彼に会えないと絶望して自殺未遂をおこす人もいた位だ。

彼はそんな事望まないというのに。

他の会員が止めて事なきを得たが…私も一度は考えてしまった。

それほど、それほどに、それほどまでに慕われていたのだ。

当の本人はこれほど慕われていたのに気付かないという超鈍感ぶりだったが。

幼馴染の私がこんなにも………。


「まあ、仕方がないわね…」


テレビニュースや新聞では、女の子を助けた男子高校生がいたらしい。

私は確信している。

彼だと。

彼の両親に聞くと、両親もそう確信しているらしい。

でも納得できる。

彼なら必ずそうするから。

だから私は好きになったのだ。

会員の中には、顔がいいから等の理由の人も多いいが、私は彼が彼だったから。

小さい頃に親をなくし、頭もあまり良くなくて、いじめられていた私を救ったのは、彼だった。


「お前らこんな事してて恥ずかしくないのか!?」


今でもあの時の事を鮮明に覚えている。

泣きじゃくる私の前に、彼は現れてくれた。

彼が私の心を救ってくれた。

月並みで申し訳ないが、まさに白馬に乗った王子様だった。


「だから…だからもう一度だけでいいからあいたいなぁ…。」


既に誰もいなくなった貸会議室に残っていた私は、涙を拭い資料をまとめ退出しようとした。


あら?身体が動かないわ?

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