天空の青
「heavenly blue」という朝顔をご存知だろうか。
夏の空を映したかのような色の朝顔は、祖母が毎年丹精してたくさん咲かせているものだった。
空を見ながら「よく見えるようにね」と言ってはいたけれど、誰に見えるのかは言わなかった。
漠然と、祖父なのだと思っていた。
それでは、「一日花嫁」という言葉をご存知だろうか。
祖母の葬儀の時に初めて聞いた言葉だった。
祖母は、一夜だけの嫁入りをして夫を日の丸で送り出したのだと。
幼馴染の仲の良さで、いずれはと誰もが思っていたのだそうだが、戦争末期の学徒出陣が、それを狂わせた。
まだ十七歳の、子供のような妻に残ったものは何葉かの写真と生真面目な手紙。
そして、終戦を迎えてもその人は帰って来なかった。
私の祖父は、はじめの夫の弟であったらしい。
男一人に対して女はトラック一杯と言われた時代だ。
残った嫁に戻った兄弟を娶わせることは、別段珍しいことではなかったらしい。
らしいらしいで申し訳ないが、又聞きなので許して欲しい。
祖父母はとても仲の良い夫婦に見えた。
祖父が亡くなる前、祖母を片時も傍から離さない時期があった。
幼い私には、祖父がずっと祖母に甘え続けていたように見えていた。
「大事にしないと叱られるからな」
時々そう言う祖父は、誰に叱られるというのだろう。
祖母はひっそりと笑っていた。
heavenly blueは祖母の使っていた部屋の窓より高く伸び、天に向かって花を開いている。
「おばあちゃん、誰に見せたかったの?」
十七歳の一夜だけの夫であったのか、その後長く連れ添った夫であったのか。
祖母に聞いても、けして言わなかっただろうけれど。
今日、初盆の送り火を焚く。