レアかウェルダンか
「こんなところで養殖してるとはな」
「養殖とはまた違うんじゃが。やはり屠殺場から近くなくてはな。何より輸送中に逃げ出されたりしたらことじゃ」
副ギルドマスターの爺さんに続いて階段を降りながら色々と聞いてみる。冒険者ギルドに併設された素材解体所の地下で牛肉を育ててるとはね。
「なんだってミノタウロスを生かしたままにしとくんだ?どうせ食うんだからさっさと解体すれば良いのに」
「あまりおおっぴらにはしとらんのだが……。まあ、いわゆる"食材ハンター"達には周知の事実なんじゃが、と」
階段を降りた先には鉄製の扉があった。なんで養殖所にこんな頑丈そうな扉があるんだ?
「ちょっと待っておれ。『解錠』」
爺さんが呪文を唱えると、両開きの扉がゆっくりと開いていく。その先は薄暗い洞窟が続いていて……。
「洞窟?」
「おおともさ」
思わず出た呟きに返答があった。サブマスにもなると、老いてもなお難聴系キャラでは居られないようだ。
「ミノタウロスなんじゃがな」
爺さんは説明しながら壁に掛けてあった松明に火をつける。無詠唱の呪文だろうか。
「厩舎に縛り付けておくよりも、迷宮に放しておいたほうが暴れないんじゃ」
「そりゃまた……」
「ほれ、ここはちょっとした迷宮になっておる。まあほんの数部屋があるだけの迷宮もどきじゃが」
「ほう」
確かにすぐまた扉……鉄格子らしきものが見えるな。
「で、さっきの続きだが、なんで生かしたままなんだ?」
「ミノタウロスじゃからの」
解答になっていない。
「ミノタウロスクラスになると、中堅以下の冒険者では狩れないんじゃよ。倒すことは出来ても、素材の肉としては価値がほとんどなくなるんじゃ」
「……」
「身体中を切られ、叩かれ、焼かれて、な。」
「そりゃまあ……」
「切られると血が肉に混じるし、メイスなんかで殴ると肉の繊維が潰れる。過剰な攻撃魔法で焼け焦げるか穴だらけになるか。知っとるか?殺す前に治癒魔法を掛けて傷を治してから屠殺すると、肉の味が落ちるんじゃ。どうも魔力で回復するから旨味が抜けてしまうらしくてな」
「わざわざそんなこと(治癒魔法)する奴がいるのか」
「飽くなき食への追求かの」
「それで、肉の確保となると、『眠り』で眠らせてから捕まえるか、気付かれずに頸を切り裂けるレベルの上級冒険者が請け負うことになるんじゃ」
「そこまで行くと道楽だな」
「まあの」
その時オレの『生命探知』に引っ掛かるものがあった。これは……ミノか?鉄格子のなかに巨体が蹲っている。
「おお、今はここにおったか。野生のミノタウロスもな、懐きはせんが、慣れるんじゃよ」
「鎖とかにつながれてんのか?」
「いいや、つなげとくと手錠なりをつけたところが鬱血してその部位の味が落ちるでな。絞めるまではある程度放し飼いにしとくんじゃよ」
「餌とかはどうするんだ?」
「野菜や果物を与えとる。一応、人肉とか喰っておったら不味いからの。捕まえたときに腹のなかにあるもんが全部"出る"までは肉は与えないようにするんじゃ」
ミノタウロスがこちらに気付いたのか、立ち上がってこちらを……俺の方を睨みつける。
「なんかこっちを見てるぞ」
「慣れるといったろう。おそらく見慣れぬおぬしが現れたからじゃ」
「ふーん」
ミノの奴は鉄格子を掴んで威嚇している。いや、横に鉄格子が無いスペースがあって別に自由に生き来できるのだが。まわり道する程度の知能もないのかな。
「養殖はしないのか?」
「雌個体が捕まらなくての。繁殖させられんのじゃ」
「……確かにミノタウロスの雌ってのはあまり聞かないな」
「昔の文献に、雌を捕まえたので繁殖させようと言うものもあったのだがの。雄がいないので飼育員が自分で種付けをしようとしたが"あな"がデカすぎて"武器"が収まらずに種付できなかったそうじゃ」
「それはそれは」
「まあ、眉唾ものじゃの」
ミノが鉄格子を放して少し後ろに下がった。そろそろ迂回路に気付いたのか?
「もう良いじゃろう。『眠れ』」
爺さんが手を振りながら一言唱えると、途端にミノタウロスは崩れ落ちた。さすが元A級冒険者の魔術師だ。




