お日さまのパンケーキ 〜お空で出会った黄金色の味〜
今日は、雨。
こぶたのとんかつは、小屋の中からポツポツと落ちてくる雨を眺めていました。
ああ、とんかつ、というのはね、こぶたの名前です。
牧場の食いしん坊な山田さんがつけたものです。
とんかつは、以前にお空の雲を食べてからというもの、もう一度、雲を食べたくて、食べたくて、ウズウズしているのです。
あの、フワフワで甘い雲のおいしかったことといったら。
どうにかして、また、お空に行けないかしら。
「ブヒ」
とんかつは、ためいきのように鼻を鳴らしました。
雨は、ポツポツ、ポツと小降りになって、東の方の空が明るくなっています。
「あ、晴れるかも」
そうなんです。
雨雲の切れ間からお日さまが顔を出して、お空にサァっと大きな虹がかかりました。
とんかつは、うれしくてピョンピョン跳ねながら、トコトコと虹のもとへ走って行って、よいしょこらしょブヒブヒと登りはじめました。
これで、またお空へ行けそうです。
雲、雲、おいしい雲。
虹を渡ると、一面に雲が敷き詰められていました。
頭の上には、にっこりお日さまと青い空。
とんかつは、一目散に雲に鼻をつっこんで、かぶりつきました。
ぐしゅ。
とんかつのお口の中に、泥のような味が広がりました。
ちっともおいしくありません。
うへぇ、せっかくお空まで登ってきたのに・・・。
「君、何してるの?」
がっかりしている、とんかつの後ろから声がしました。
とんかつが振り向くと、白い服を着た、小さな男の子が立っていました。
髪が金色に輝いています。
お目々の色は、お空のように青いです。
「雲、食べに来たの」
「ふうん。その辺はまだ雨雲だから、おいしくないよ」
「そうなんだ」
とんかつは、しょんぼりしました。
しょんぼりしたひょうしに、おなかがグゥとなりました。
「おなか、すいてるの?」
「うん」
「ふうん。じゃあ、ついてきて」
とんかつが、男の子の後をトコトコとついていくと、白い雲の上に小さなおうちがありました。
「ここに住んでるの?」
「そうだよ。さぁ、入って」
小さな小さなおうちです。
ベッドがあって、テーブルがあって、部屋の隅にはキッチンがあります。
男の子は、とんかつをテーブルの椅子に座らせて、キッチンで何か始めました。
ボウルに粉と卵を入れて、グルグルとかきまぜ、フライパンの中に流しこみます。
そして、ガスに火をつけるのかな?と思っていたら、窓を開いて、陽だまりの中の台の上にフライパンを置きました。
台の上のフライパンには、お日さまが、さんさんと降り注いでいます。
「うまく、ふくらむかな」
とんかつが、じっと見ていると、フライパンの中の生地にプツプツと穴があいてきました。
なんだか、いいにおいもしてきます。
「よし」
男の子が、クルッと生地をひっくり返しました。
フライパンの中には、こんがり焼けた、まぁるい、おいしそうなもの。
「それ、なぁに?」
「パンケーキだよ」
「どうやって焼いたの?」
「お日さまで焼いたんだよ」
男の子は、焼き上がったパンケーキにたっぷりバターとハチミツをかけて、とんかつの前に置きました。
「さぁ、めしあがれ」
とんかつは、カプッとひとくちかじってみました。
じゅわっとバターがしみこんでいて・・・それに、甘くて、すごくおいしい!
とんかつは、モクリモクリと夢中でパンケーキをほおばりました。
男の子は、次々とパンケーキを焼いて、お皿に乗せてくれました。
「ねぇ、君」
「なぁに?」
「虹を渡って、空に来たの?」
「うん」
「もう、虹を渡っちゃダメだよ」
「なんで?」
男の子は、なぜか寂しそうに目を伏せました。
「君は、まだこぶただからね」
とんかつは、モグモグしながらうなずきました。
「わかった」
とんかつは、最後の一切れをお口の中に入れて、ポンポンになったおなかをさすりました。
「ねぇ、またパンケーキを食べに来てもいい?」
「いいよ。100年後くらいにね」
そう言って、男の子は笑いました。
男の子に送ってもらって、とんかつは牧場に帰りました。
おなかの中が、ポカポカと暖かくて、幸せな気分です。
パンケーキ、とってもおいしかった。
でも、次は100年後かぁ。
100年って、どれぐらいだろう?
とんかつには、よくわかりませんでした。
わかっているのは、もう虹を渡ってはダメ、ということだけです。
こぶたの「とんかつ」が帰ってきました。
ちなみに、「とんかつ」の前のお話は、こちらです。
「お空の綿菓子」
https://ncode.syosetu.com/n8240mc/




