ひとつのおおきなかたまりといくつものちいさなかけら
しいなここみ様主催『無謀! 瞬発力企画2』参加作品です。
莫大な遺産を残して、祖父が亡くなった。
その遺産を相続する権利があるのは、四人の息子。
長男・イチロー。
次男・シンジロー。
三男・ステファニー。
そして四男──私の父、輝久。
それぞれの家族が固唾をのんで見守るなか、弁護士がゆっくりと遺書を取り出した。
「それでは、読み上げます」
空気が張り詰める。
「──『ひとつのおおきなかたまりといくつものちいさなかけら』。以上です」
沈黙。
(え、なにそれ? 普通さ、『全額寄付する』とか、『輝久のみに相続させる』とかあるでしょ? 泥沼の相続争いは? 骨肉のバトルは? ないの? 本当にないの?)
「い、以上って……!」
イチロー伯父さんが声を上げる。
「以上ということは、これ以上ないという意味だ。つまり、これだけということなんだ!」
シンジロー伯父さんが腕を組んでうなずく。
「オー! ナンノコトダカ、サッパリワカランワ!」
ステファニー伯父さんが両手を広げる。
「……もしかして、暗号なんじゃ……?」
父がぽつりとつぶやいた。
「暗号?」
「暗号?」
「And go?」
三人の伯父たちの声が見事にそろう。
私は考える。
(“ひとつのおおきなかたまりといくつものちいさなかけら”……どういう意味?)
「蔵に、大きな鉄の塊があっただろう?」
イチロー伯父さんが思い出したように言った。
全員の視線が一致する。
私たちは駆け出した。
蔵の扉を開ける。
そこにあったのは──たしかに、大きな鉄の塊。
そして──
その塊には、一枚のメモが貼られていた。
『はずれ』
(……)
私たちは何も言わず、静かに元の部屋へ戻った。
「一体、どういうことなんだ……?」
父が呟く。
「『はずれ』ということは、つまり──『当たりではない』ということだ」
シンジロー伯父さんが言う。
「モシカスルト……」
ステファニー伯父さんが顎に手を当てた。
「『イクツモノチイサナカケラ』ハ、ワタシタチノコトデハ……?」
「なに?」
「そうか!」
イチロー伯父さんが掌を拳で叩いた。
「かの有名な戦国武将、毛利元就の『三本の矢』の話だ!」
(毛利元就の三本の矢。一本では簡単に折れてしまう矢も、三本まとめれば折れない。兄弟が結束すれば、他国に負けない──そんな教訓だ)
「俺たちに力を合わせて頑張れってことか……」
イチロー伯父さんが感慨深そうに言う。
「力を合わせる……つまり、協力するということだ」
シンジロー伯父さんがうなずく。
「ワタシタチニ、アラソッテホシクナインダ……トウサンハ……」
ステファニー伯父さんがしみじみと言う。
私たちは、少し感動していた。
祖父は、争いではなく──家族の絆を望んでいたのかもしれない。
しかし──
「いいえ、違うと思います」
弁護士が静かに口を開いた。
全員の視線が集まる。
「旦那様は生前、こう仰っていました」
弁護士は淡々と続ける。
「『勝者こそ正しい。勝つことがすべてだ』と」
場の空気が凍る。
「つまり──」
弁護士はメガネを押し上げた。
「『ひとつのおおきなかたまり』は──勝者」
「……」
「『いくつものちいさなかけら』は──敗者」
沈黙。
そして──
「つまり旦那様は──」
弁護士は微笑んだ。
「四人のうち一人だけが勝ち、残り三人は砕け散るべきだと考えておられたのではないでしょうか」
その瞬間。
伯父たちの目の色が変わった。
「……やるか」
イチロー伯父さんが袖をまくる。
「戦うということは、つまり、争うということだ」
シンジロー伯父さんがネクタイを緩める。
「ウォー!」
ステファニー伯父さんが拳を握る。
父は静かに立ち上がった。
そして──
財産相続を巡る、異能力バトルが始まった。
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