『愛のお化け』『ねぎ塩焼きうどん』『漆黒の翼を喪失せし者』
しいなここみ様主催『無謀! 瞬発力企画2』参加作品です。
最愛の妻が亡くなって、もうすぐ2か月が経とうとしていた。
この2か月間、俺は妻を失った現実を受け止められずにいた。葬式や、さまざまな手続きに追われ、その忙しさが、彼女のいない寂しさを紛らわせてくれていたのだ。
しかし2か月経った今、ようやく現実を受け止め始めていた。
俺の心には、ぽっかりと穴があいたようだった。
彼女の遺影に向かって話しかける。
「里美……なんで……なんで死んじゃったんだよ……」
そのとき──
カタッ
ジュー……
ジュー……
キッチンから音がした。
(この匂いは……俺の好物、“ねぎ塩焼きうどん”)
俺は慌ててキッチンへ向かった。
(まさか……最愛の妻、里美の幽霊……。最愛のお化け……)
しかし、そこにいたのは──
「フハハハ……。苦しめ、苦しむが良い、白く長きうどんどもよ! 貴様らには特別なネギ塩ソースをかけてやる! フハハハ……!」
(あ……悪魔……?)
「だ、誰だ……」
俺が尋ねると、その悪魔が振り返った。
「ほう……。貴様、我の姿が見えるのか……?」
悪魔はフライパンを握ったまま、芝居がかった仕草で言った。
「我は“漆黒の翼を喪失せし者”。人呼んで──“漆黒の翼を喪失せし者”だ!!」
(そのまんまやん!)
「我が翼は、さっき、うどんに変わってしまった」
(え、うどんに……? 翼が……うどんに? ていうか、なんで炒めてるの……? それに──)
「あ、あの……なぜ、我が家に……?」
「フハハハ……。そんなことも気付かんのか!? 人間とは、なんと愚かな生き物よ……」
(なに……? 魂を奪いに来たとか……?)
悪魔は胸を張り、堂々と言った。
「鍵が開いていたからに決まっておろう!! 貴様も無用心だな!!」
「ただの不法侵入じゃねぇか!!」
思わず叫んでしまった。
すると悪魔は、フライパンを振りながら眉をひそめた。
「不法侵入とは心外だな、人間よ。我は“漆黒の翼を喪失せし者”だぞ? 鍵が開いていたら、入るに決まっておろう!!」
(うん、悪魔だからね……)
ジュー……。
フライパンの上で、うどんが香ばしく焼けていく。
ネギの香りが広がり、食欲を刺激してくる。
ぐぅぅ。
……腹が鳴った。
悪魔がこちらを見た。
「ほう、腹が鳴ったな。フハハハ。よかろう、人間よ。この“ネギ塩地獄うどん”を食すがいい」
「名前が不穏すぎる」
悪魔は皿にうどんを盛りつけ、テーブルへ運んだ。
普通にうまそう……。
いや、かなりうまそうだった。
「……毒とか入ってないだろうな」
「愚問だな。毒など入れたら、料理が台無しではないか。我が翼の変化したものは入っているがな……」
(翼が変化した……うどん。嫌かも……)
しかし、食欲に負けた俺は、恐る恐る箸を取る。
一口食べた。
(……うまい。めちゃくちゃうまい)
「どうだ」
「……うまい」
(悔しいが、本当にうまい)
悪魔は満足そうに腕を組んだ。
「当然だ。我は“漆黒の翼を喪失せし者”だ。我が料理が不味いはずがない!!」
(よくわからない……その自信……)
「人間よ。じっくり味わうが良い……。地獄でまた会おうぞ!」
そう言って、悪魔はフッと消えた。
キッチンには、謎のメモが残されていた。
『ねぎ塩焼きうどんレシピ
【材料】
・悪魔の翼……2枚
・豚こま……200g
・刻みネギ……お好みの量
【調味料】
・鶏がらスープの素……大さじ1
・醤油……大さじ1
・酒……大さじ1
・みりん……大さじ1
・にんにく……1かけ
※“悪魔の翼”は、“冷凍うどん”でも代用できるぞ』
(し、親切ぅ……)
こうして、俺は大好きな“ねぎ塩焼きうどん”のレシピを手に入れたのだった。
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