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きしむ扉と白き石の歌

作者: 大慈真一
掲載日:2026/04/19

ミスティアの深緑林は、昼でもうす暗く、木々の葉がやさしくささやく森だった。

その森の奥に、世界で一番最初に現れたといわれる塔――**はじまりのエルディア・プリマトゥール**は、静かに空へと伸びていた。


その塔のふもとに、小さな家がある。

そこに住む少年ルカは、今まさに困っていた。


「……また鳴る!」


ギィィィィ……。


部屋のドアノブを回すたびに、耳をつんざくような音がするのだ。


「なんでこんなにうるさいんだよ……普通のドアだろ……?」


ルカは眉をしかめる。

だが、その音はただのきしみではなかった。


そのとき、窓の外から声がした。


「その音、ただのドアじゃないよ」


振り向くと、双子の少女が立っていた。

そっくりな顔、そっくりな笑顔。でも、どこか雰囲気が違う。


「わたし、アニー」

「わたしも、アニー」


「いやどっちもアニーなの!?」


ルカは思わずツッコんだ。


「双子だからね」

「でも大事なのは、名前じゃないの」


二人は同時に言う。


「“つなぐもの”が動き出してるの」


「……つなぐもの?」


すると、森の奥から、低い振動が響いた。


ゴゴゴゴ……。


地面がわずかに震える。


「来るよ」

「グラニス・ストーンハート」


現れたのは、巨大な石のドラゴンだった。

岩でできた身体がきしみ、目だけが赤く光っている。


「うわああああああ!!」


ルカは叫びながら木の陰に飛び込む。


「なんで森にドラゴンがいるんだよ!!」


「封印がゆるんでるから」

「塔の中の“あれ”が目覚めかけてる」


「“あれ”って!?」


双子は指をさした。


はじまりの塔の上空に、黒い霧が渦巻いていた。


「あそこに、閉じ込められてるの」

「魔王、ノクス・ヴォイド」


その名を聞いた瞬間、ルカのドアノブが、また鳴った。


ギィィィィィ……。


今度は、明らかに森全体に響く音だった。


「その音が鍵なんだよ」

「扉が開こうとしてる」


「いやオレの部屋のドアなんだけど!?」


「世界とつながってるんだよ」

「たぶん」


「たぶん!?」


その間にも、石のドラゴンがゆっくりと近づいてくる。


「どうすればいいんだよ!」


すると、アニーの一人がポケットから小さな白い石を取り出した。


「これを使うの」

「ルミナ・セラフィス」


それは、ほんのりと光る、聖なる白い石だった。


「これで……歌うの」


「え?」


そのとき、森の奥から歌声が聞こえた。


やさしくて、どこか懐かしい旋律。


――アメージング・グレース……


振り向くと、一人の旅人が立っていた。

マントを羽織り、静かに歌っている。


その歌声が森に広がると、石のドラゴンの動きが止まった。


「……歌?」


ルカがつぶやくと、双子がうなずく。


「つなぐのは、力じゃない」

「声と、心」


旅人は歌いながら、白い石に手をかざす。

すると、石はさらに強く光り、塔へと光の道を伸ばした。


「ルカ!」


「え!?」


「ドアノブ、回して!」


「ええええ!?」


言われるままに、ルカは家のドアへ駆け戻る。


「頼むから静かであれ……!」


ぐるり、と回す。


ギィィィィィィ――!!


だが今度の音は、ただの騒音ではなかった。

光となって空へと昇り、塔へと吸い込まれていく。


その瞬間、黒い霧が弾けた。


ゴォォォォン……!


塔の中で、何かが再び封じられる音が響く。


石のドラゴンは、その場で静かに崩れ、ただの岩へと戻った。


森に、静けさが戻る。


「……終わったのか?」


ルカが息を整えながら言うと、双子が笑った。


「うん」

「ちゃんと閉じたよ」


「ドアで?」


「ドアで」


「マジで?」


そのとき、ルカの家のドアが、そっと閉まった。


……カチ。


今度は、まったく音がしなかった。


「……直ってる」


ルカはぽかんとする。


旅人は歌い終え、静かに頭を下げた。


「ありがとう」


「いや、オレ何もしてないけど!?」


双子はくすっと笑う。


「したよ」

「回したでしょ」


「それだけで世界救えるの!?」


「たまにね」


そう言って、双子は森の奥へと歩いていく。


「またね」

「次の“音”のときに」


「次!?まだあるの!?」


ルカの叫びは、森にやさしく吸い込まれていった。


その夜。


ルカはそっとドアノブを回してみた。


……カチャ。


音は、しなかった。


「……まあ、静かなのはいいか」


そう言ってベッドに入る。


遠くで、あの歌がまだ響いている気がした。


やさしく、世界をつなぐように。

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