7.ゴミ漁り
SVを使い、センターへの連絡を行う。俺はこういう時にしか使わない。元相棒に言われたことがある。
令和の時代みたいですねと。令和から考えれば元号がもう五度程変わっている。今の元号は「全智」である。次辺りには「全能」にでもなるんじゃなかろうか。
現場近くの地区へ連絡し、そこの収集ロボットの持って行ったゴミは燃やさないように伝えた。すると、不機嫌そうにもう半分燃やしてしまったという。とりあえず止めて貰った。
燃えていたら終わりだ。手を合わせて神へとお祈りしながら車が到着するのを待った。ゴミ処理場に行きついた燃えるゴミは昔と変わらず焼却することになっている。ただ、分別は細かくなっているのでゴミの量は昔よりは少なくなっている。
到着するとセンターの人に案内され、ゴミの元へ。地区ごとにエリアが分けられているようで、着いた場所はテニスコートくらいの広さがあり見渡す限りすべてゴミだ。
高さも三メートルほどあるが、その上までゴミは積み上がっている。このゴミの中から証拠を見つけないといけない。心が絶望する中、気合を入れてゴミ袋を引き裂いていく。
「ちょっと! このゴミ全部見るんですか?」
「代わりに探してくれるAIロボットでもいるのか?」
そんな都合のいいロボットなんているわけもない。こういうときにAIが活用されればラクなのにと恨み言を思いながらも一心不乱にゴミをひっくり返す。
捨てたゴミの中には証拠になる物があるに違いない。だが、既に半分ほど焼かれているというからあるかどうかは、定かではない。
ここで諦めたら、別の人が犯人にされてしまうかもしれない。警察はAIの判断を信用し過ぎているきらいがある。
だから、俺のこともばかにしている奴らが多い。「こんなの非効率極まりない!」横でそんなことをいいながら、探さないわけにもいかないことがわかっているからか。
律が手を動かし始めた。時折、「くさっ」「きったなぁい」といいながらゴミを漁っている。こんなことは滅多にないが、証拠を集める為ならゴミだって漁るのが刑事だ。今回の事件は良い洗礼になったかもしれないなとのんきに考えていた。
探し始めて二時間が経った頃、まだまだ俺達の前にそびえ立つゴミの山。その山を前に火気厳禁のこのゴミに溢れている中で。俺は煙草を燻らせていた。スーツも乱れているのを気にする様子もなくゴミを漁っている律。こちらを見て怪訝な目をしている。
「火が付いたら焼死します。消してください」
「ふぅー……無理」
真っ暗な中で赤い光を灯し、紫煙を吐き出しながら律の意見を却下する。こんなこと煙草を吸ってないとやってられるわけがない。
こんなに大量のゴミを全部探したとしても見つかるかわからない。この事実は精神的にかなり諦めの心を増長させるものだった。
だが、律は嫌な顔をしながらもゴミの袋をあけ、中身を吟味している。最初は腑抜けたSVを使うことしか能のない女の子かと思っていたが、なかなかどうして根性があるじゃないか。
初日から根性見せるとは中々やるな。律を見ていたら、俺もこんなことをしている場合じゃないとケツを叩かれた気分になり、気合を入れなおした。
更に三時間ほど経過した頃、悪臭が立ち込めるこの空間に衝撃が走った。すべてのゴミ袋は開けた。その中に証拠となるような衣服も、靴も見つからなかったのだ。「あー。くそがぁ」思わず悪態をついてしまう。
このままでは、証拠不十分になってしまう可能性もある。律がなにやら目を瞑って確認している。何をやっているのかわからないが、ここになければもう終わりだ。消し炭になってしまったんだろう。
他のアプローチで奴を逮捕できないだろうか。昔よくやっていたのは挑発して容疑者の神経を逆なでし、殴りかかってきたところを公務執行妨害で捕まえて尋問するというのがあった。
それをやるしかないかもな。かなりグレーだがしかたない。俺は、この時完全にここの証拠は諦めていた。
「須藤警部。これを見て下さい」
律からSVに送られてきた映像を見る。送られてきたのは女性がゴミを捨てている姿。「これがどうした?」と問いかけると、ため息をつかれた。
「よく見て下さいよ。どこにゴミ捨ててます?」
と言われてごみを捨てた映像を見る。家のすぐ近くではなく、少し歩いたところにあるゴミ捨て場へ捨てている。だからなんだというのだろうか。同じ地区だろう。
「ここは違う地区になるんです」
「おい。マジか!」
ゴミセンターの人に聞くと「その地区は向かって左隣の区画です。そっちは明日燃やします。もう帰っていいですか?」なんてラッキーなんだ。ついてる。
もう少し待ってもらうよう、半ば強引にお願いし、捜索を続行した。死んだような目で「はぁ。マジかよ。最悪だ。早く帰れよ」と言われたけど、ここで帰るわけにもいかない。
隣の部屋には倍ぐらいのゴミがあり、気が遠くなるところだが、確実に証拠があると思うと不思議と力が湧いてくる。「うわぁ。最悪」と口にした律の気持ちはよくわかるが、この中を探せばあるはずなんだ。
それから四時間。すでに零時を回り体力も底を尽きかけている。無心にゴミを切り裂いて探すロボットと化している二人。「あれっ?」という甲高い声が前の方で聞こえた。
気怠い体を無理やり起こして顔を上げる。手袋をつけている律が見えた。何かを拾って掲げる左手には血痕の付いた白いスニーカー。右手には同じく血痕の付いたワイシャツが掴まれていた。
「ありましたよ! これですよね!」
「はははっ。ようやくみつけられたかぁ」
床へと座り込み、ヘトヘトの体を休ませる。胸ポケットから煙草をだし、火をつけようとして手が止まる。この苦労が燃えてパァーになったら、俺は自分を一生恨むことだろう。静かに胸ポケットへしまい直し、渾身の力を振り絞って立ち上がる。
「署に帰って解析に回すぞ」
「はいっ!」
それが、初めて律の笑顔を見た。八重歯の覗く年相応な無邪気な笑顔だった。ゴミセンターの人にお礼をいうと怠そうに手を挙げるだけだった。
俺達は達成感からテンションがおかしな方向へ向いていたと思う。車へ乗りこみ、署へと行くように指示を出す。その車内で容疑者が逃げていないかと律へ確認しようとしたのだが、シートに沈み込み、目を瞑って寝息を立てていた。
初日からこれじゃあ、気が滅入るよな。これでやめるとかいわないと良いんだが。世話係の俺がどやされることになってしまう。
隣にいるその寝顔が無性に可愛く見え、思わず頭を撫でてしまった。子供が成長する姿を嬉しく思うっていうのはこういう気持ちなのかもしれないなと、感慨深く思いながら目を閉じたのだった。




