4.不機嫌
無言の中、ようやく現場へと到着した。すぐさま下りると規制線の張られている公園へと入っていく。現場に到着していた付近の交番の巡査と巡査部長に挨拶をし、現場に案内してもらう。
「あの……この御嬢さんは?」
「口を慎んだ方が良いぞ? 新人だが、警部補だ」
俺が二人へとそう口にすると、目を見開いて律をマジマジと見つめている。
律はその二人をギロリと睨み付けると舌打ちをして「早く現場を見せて下さい」と不機嫌を露わにして二人へと冷静に告げる。
返事をすると慌てたように現場へと案内してくれた。二人がこの反応をする意味は分かる。あまりにも若いから仕方がない。現場は木の影になっていて昼でも夜でも目立たないような場所だった。事件が起きたのは昨日の夜だそうだ。
「足跡はとれたんだろ?」
「はい。くっきりと残ってました。形を見るにスニーカーかと思われます」
「公園のカメラは?」
「この場所は死角になっていて映っていませんでした」
容疑者の三人の情報を思い出し、スニーカーを履いていたのはヨレヨレのロングTシャツの男だったはず。律のAIがはじき出した答えと一致する。
だが、そう簡単にうまくいくだろうか。念の為、足跡をAIへと覚えさせておく。律も同じように学習させているようだ。
「そんなの知ってます。須藤警部、あのだらしない男の元へ行きますよ」
「居場所をわかってるのか?」
「そんなのこれを使えばすぐにわかりますよ」
律は左耳に装着している装置を指で叩き、俺へとそう告げる。そんなに便利な物なのかは疑問だ。律のAIだからできる芸当なのかもしれない。
カメラの映像を元に割り出したんだろうか。公園の外へと無言で歩き出した。俺は巡査を連れて、その後をついて歩いていく。
まったくこのお嬢様ときたら。そんなに自分で事件を解決したいんだろうか。早くに解決することはいいことだとは思うが、父の様な冤罪を生み出すのは勘弁してほしい。冤罪だと思っているのは俺だけだが。
到着したのはボロい外観の宿だった。この宿の一室に容疑者の男がいるのだという。
受付の人へ警察手帳を提示し、男の特徴を伝えて部屋を教えてもらう。二階の一番手前の部屋へいるようだ。こういうとき、一人は窓の外で待機するのだが、律にはそんなことお構いなしのようだ。
俺は巡査へと手で合図し、外で見張っていてもらうように指示を出す。巡査は頷くと外へ回り込む。部屋の扉を開けると、酒を飲んで赤くなっている男が寝転んでいた。こちらをキョトンと見つめている。
「あなた、昨日の夜公園で人を殺したわね?」
「はぁ? お前誰だよ? 何言ってんだ?」
反応を見るに、嘘はついていなさそうだ。俺は勘でそう思ったが、律はAIを駆使して嘘ではないことを見抜いたようだ。
念の為、昨日の一連の行動を聞き取る。昨日は、朝から建設現場で足場の解体の仕事を請け負っていたいう。それが終わって、飯を食べ帰ってきたところだったと。
その時、公園は特に異常なかったと証言した。その建築現場を管理していた会社へと即座に律が問い合わせた。すると、確かにこの男は働いていたという。
荷物を全部ひっくり返してみたが、特に怪しい物は見つからなかった。証言も特に怪しいところはない。最後にその男の履いていたスニーカーの裏側をスキャニングする。公園の足跡とは不一致だったようだ。
律の顔が曇り、みるみる間に不機嫌になっていく。子供のような反応を心の中で嘲笑いながらその男性にはお礼を言ってその宿を後にする。
「あれ? 容疑者の男はどうしたんすか?」
「履いていた靴の足跡と一致しなかったし、他に所持している靴もなかった」
巡査はその言葉を聞くと「じゃあ、自分は現場へ戻ります」と声をかけて戻っていった。現場の保全で忙しいだろうからいつまでも留めていくわけにもいかない。無言で俺の前を歩く律は何やらまたAIで捜索をしているらしい。次の男の居場所でも探しているのだろうか。
「まだあの男が容疑者から外れたわけではありません。どこかへ別のスニーカーを捨てている可能性もあります。今日、この辺は燃えるごみの日のようですし、捨てたのかもしれません」
この辺りの監視カメラの映像をしらみ潰しにAIで捜索しているようだ。だが、ゴミを捨てた人すべてを捜査するわけにもいかないだろう。
ある程度の絞り込みは必要になる。律はまだあの男を疑っているようだ。AIを信じすぎるのもどうかと思う。
最初の段階でも第一印象での容疑者かどうかの確率は参考にはならないだろう。現場に行って足跡を追う。それが基本だ。
だが、捨てたとするならば他の男達も容疑者の確率が高いことになる。ゴミを捨てた人を追うのは何かのヒントにはなると俺も考えている。
「律、そのAIはゴミを捨てた人すべてを追えるのか?」
「そんなの、この子はお手の物です」
「それならお手並みを拝見しようかな」
律のご機嫌を取りながらそうお願いする。これで気分よく作業してくれるのではないだろうか。新人ならいい気分だろう。
眉間の皺を深くしてこちらを睨み付けた律は目を瞑ると、映像を捜索しだした。脳裏で何かをやっているようでしきりに指を動かして何かしているようだ。
その間に俺は周辺のゴミ捨て場を確認したり、この辺のゴミ収集ロボットがどこへ向かうのかを住民へ聞き込みしていた。




