3.新しいバディは少女
「今日から着任する近藤 律警部補だ」
所属する捜査一課の朝礼が始まり、刑事部長の隣には背の小さい。パッツンと切りそろえた前髪と腰まである長い黒髪が昔の日本人形を思わせるような雰囲気を感じる少女が立っていた。
顔立ちは少しキリッとしていて綺麗な顔立ちをしている。アジアンビューティーとかこの子のためにあることばではないだろうか。
若すぎるだろうが。いくら期待しているからとはいえ、十三歳の新人を警部補に抜擢とは、一体どうなってんだよ。
「よろしくお願いします」
落ち着いた雰囲気で俺達へと頭を下げる。その所作は優雅で紹介された俺達は圧倒されて呆然としていた。完全に雰囲気に飲み込まれてしまったことが気に入らねぇ。
「君のバディになるのが、この須藤警部だ」
「須藤 大我だ。よろしく」
刑事部長から紹介されたので、俺はちょっとためらいながらも手を差し出す。すると手を出す代わりにそいつは口を開いた。その鋭い目をさらに鋭くさせて。
「あなたですか。AIを使わないで捜査するという、非効率極まりない人は?」
「なにぃ?」
一気に頭に血が昇っていく。今までの実績と評価を知らねぇくせに若造が何言ってやがる。俺は今まで信用できないAIをなるべく使わずに、自分の足で動き、目で見て、頭で考えて答えを導き出してきた。
操作能力でいったら、AIなんかに負けてねぇ。それところか、俺の勘の方が正しかったことだってあるんだ。なめんじゃねぇ。
それを、なんだ? 13歳かそこらのわけぇペーペーが否定するとは。いい度胸の新人が入ってきたようだなぁ。ぜってぇ身の程ってやつをわからせてやらぁ。
「私とバディになったからには、そんな非効率的な捜査はさせません。ほぼ、私のSVで解決することができます」
「ふーん。おもちゃみてぇなSVが、そんなに頼りになる物かねぇ。あぁ。ちげぇか。SVを頼らねぇと捜査できねぇんだもんな?」
対抗するようにこちらも目をギラつかせる。こっちだって刑事を十二年もやってきてんだ。新人のペーペーに後れをとったりするはずがねぇ。
だが、それはあっちも同じだったようだ。自分のSVに絶対の自信を持っているんだろう。
「私のSVは小さな頃から、毎日色んな事件をインプットさせたり、本を読ませて学習させてきました。あらゆる知識を詰め込んでいます。どんなSVにも負けません」
「そこらのSVには負けないかもな。しかし、人間ってのはそんなに甘い物じゃねぇ。どこまで通用するかな?」
真正面から律は睨み付けてくる。この女は、かなり気が強いようだ。十三歳とは思わない方がいいかもしれないな。言うことも一丁前。
後は捜査で実際にどれほど動けるかというところだろう。刑事っていうのは自分で考えないと導き出せない答えもある。それがまったくと言っていいほど、わかっていない。なんていうじゃじゃ馬を俺に押し付けてくるんだ。上は。
睨み合っているとその状態へ終わりを告げる報せが届く。
──殺人事件発生。江戸川区○×△の公園で血だらけの人が倒れているとの通報。
署管轄の統括サーバーへ通報があったようだ。直ちにSVへと通報された画像が送られてくる。SVへ送られたか画像は視界に表示される。見たところ刺殺体のようだ。
「大我と近藤は現場を確認して聞き込み行ってこい!」
「おす!」
「はいっ!」
江戸川区の公園でメッタ刺しにされた遺体を発見したということだった。これは近くの防犯カメラのデータを集めて何人が通ったかを確認しなければ。
刑事部長の指示を受け、頭を巡らせながら現場へと急行する。バディになったので、仕方なく律と同じ自動運転車へと乗り込み事件のあった場所を伝えて発進した。
高層ビルの立ち並ぶ街並みが矢のように過ぎていく。ギラギラと太陽を反射するビル群はあまりにも無機質で、生き物がこの世にいることが錯覚かと思う時がある。警察車両が通るときは他の車も制御されていて、道を開けることになっている。
その為、最短距離を最短時間で着くことができるのだ。そんな車内は先ほどの気まずい空気の後なので、無言である。
こういう時に上司で大人である俺が話をして和ませなければいけないのかもしれないなと少し反省する。仕方なく口を開こうとしたときである。
「江戸川区の刺殺事件現場の近くの防犯カメラに繋いで。それで、死亡推定時刻の時間帯に通った人のリストを出してちょうだい」
律は独り言を話し始めたかと思ったら目を瞑り、何やら指を動かしている。この動作を見るに、今は脳裏に映る統括サーバーから受信した資料を見ているところなのだろう。
遠隔からでもこういうことができる。それがAIのメリットであるのだが、俺は使う気がない。律はこれまでSV学習させることに注力してきたのだろう。それと同じように俺も捜査能力を高めてきた。非効率と言われようとやり方を変えるつもりはない。
「あなたがボウッと車に乗っている間に、私は容疑者を三人割り出しました。どうです? 効率的でしょう?」
「そうか。じゃあ、せっかくだから、三人の情報をもらおうか」
統合サーバーへと繋いだカメラの情報により浮上した容疑者は三人。その情報を俺のSVへ送ってもらう。
脳裏に映し出される映像を確認すると、一人はビジネス鞄を持ったオフィスカジュアル風の男。
次に通ったのはボロボロのロングTシャツにダボダボのカーゴパンツを着た無精髭の男だ。この男はリュックを背負い、スニーカーを着用している。
最後の一人はピシッとしたスーツを着た男。セカンドバッグを脇に抱えてカメラの前を通り過ぎている。
これだけでは、誰が怪しいかはわからない。刑事の勘では最後の男が怪しいと告げている。ところが、律のSVでの調査は違った結果になったようだ。
「私のSVで判定しました。今の所、カメラの映像を解析して犯人である可能性のある人をパーセンテージでだしました。最初のオフィスカジュアル風の男は三十八パーセント、だらしのない男が八十二パーセント、ビシッとしたスーツの男が十三パーセントという数値が出ました」
「ほう。今の映像だけで、なぜそこまで出せるんだ?」
映像だけでそこまで言える根拠はないと考えていた。だから、納得できなかった俺は、大人げなくそう口にしてしまっていた。口を尖らせてムッとした様子の律が矢継ぎ早に説明を始める。
「この人達の所有しているバッグ、それから身なりの信ぴょう性ではないかと」
それは、一番やってはいけない第一印象での判断ということだ。所詮AIはその程度だろうと自分の中で必要性のなさを再確認することになった。
俺が無言になったことでさらに不機嫌になったようだが、俺にはなんら関係ない。自分のやり方で捜査をするまでだ。律は、現実の事件とはそう甘くないということをこれからわかることになるだろう。




