17.ビンゴ
「ご協力ありがとうございました」
今日で捜査して三日目。現在捜査を終えた人で十九人目だ。後二人しかいない。何か間違っていたのかもしれないと焦りが出てしまう。
だが、捜査の仕方は間違っていないし、基地局の情報も間違っていないと思うのだが。律の出したリストが間違っているということもないような気がするし。
こうなってくると律も少し顔が曇ってきていた。自分の情報に自信がなくなったわけではないだろうが、不安に思っているのかもしれないな。
「後二人に絞られたんだ。律の情報は確かだと俺は信じているぞ」
こういう時に上司らしくこういう言葉をかけなければと思って出た言葉だったが、律は「そんなの当たり前です」と返してきた。
まったく可愛くないこの少女はいったいどこまで俺をコケにすれば気が済むのか。せっかく気を使って言ってやったのに、こちらを見向きもしない。
次の家までは近くだということから徒歩で向かっているところだ。脳裏に映し出される写真は何の変哲もない若い男性。長い髪を真ん中から分け、眼鏡をかけているこの男はロボットAIについて研究しているのだとか。
こういった職業に就く人は家で仕事をしている人が多い。だからこの人も在宅だと思っていた。その人のいるマンションのエントランスへと着いて、いつも通りにロボットへ警察証を見せる。
するとエレベーターへの扉を開けてくれた。扉を潜ろうとした時だった。急にしまった扉。
「須藤さん!」
体が反応して横へと飛ぶ。腕に鋭い痛みが走った。ざっくり切られていた。犯人はロボットの仕業だ。このロボット。乗っ取られている。
犯人は今から訪れようとしている男だと推察できる。そのロボットは俺を殺すのが失敗したと分かると再び飛びかかってきた。
手の部分を刃物に変えて顔めがけて振り下ろしてくる。なんとか両手で受け止め。床へと背中をついてしまい、ロボットが覆いかぶさる形になる。
ロボットの力は凄まじい。人間だったらひとたまりもない。目のすぐ先に刃の先端が迫る。力がかかってくる。首を振ることで串刺しは免れた。
だが、今度は振り上げた刃物を渾身の力で刺しに来る。頭を庇いながら腕をクロスして目を瞑る。
「はぁぁぁぁ! メルティーキィーック!」
横から変な掛け声で飛び蹴りを放ったのは律だった。ロボットは少しよろめいたことで、俺の拘束は解けた。ターゲットを律に変えたようで刃物をそちらに向ける。
こういうこともあろうかと持っているのがレールガンだ。至近距離で胸めがけて発射する。重厚な破裂音が響き渡るとロボットはバラバラのガラクタになった。
「律、ナイスだ。よくわからん掛け声だったが、助かった」
「このロボットは……」
「あぁ。ここの人は当たりだったみたいだな。行くぞ。急がないと逃げられる!」
エレベーターに乗るとAIを接続して目的の階へと降りる様に指示を出す。上昇を始めるエレベーター。表示される階層が徐々に上がっていき、もう少しで着くという時になって急に止まったのだ。
「何が起きた?」
「ハッキングされてます! 私が対抗します!」
再び動き出したエレベーターは二階程上がると再び止まった。律と犯人の攻防が誰にも見えないところで静かに行われていた。
さっきみたいな荒事は俺の担当だが、こういう頭脳の戦いは律には適わない。適材適所というやつだろう。もしかしたら、俺達のバディは最強の組み合わせかもしれないなと、そんなことを思ってしまった。
「別の非常用エレベーターに乗ったみたいです」
邪魔をされながらも自分たちのエレベーターも再び下がっていく。時折止まりそうになるが、スピードを落とすだけでそのまま下がる。扉が開くと人影が外へと走っていくのが見えた。
追おうとするが、横からやってきたのは行く手を阻むロボットだった。レールガンは何度も連発はできない。クールタイムが一時間は必要だからだ。
このロボットには昔ながらの警棒で対抗する。腰につけていた警棒を振って伸縮していた部分を伸ばす。ロボットは無機質にこちらを見つめ、手の刃物の先端をこちらへ向けて襲い掛かってくる。
「おぉっ!」
気合を入れて刃物の腕を警棒で横へと叩きつけて少しよろめかせる。できた隙を見逃さずに体を全力で当てていく。
壁へと叩きつけられたロボットは少し硬直し、再びこちらへ刃物を向けてきた。今度は袈裟に振り下ろしてくる。
なんとか躱すが、返す刃で頬を切られてしまった。「ちぃっ!」思わず恨み言のような舌打ちが出る。ロボットを相手にする想定で訓練はしていないのだから、こんなの想定外でしかない。
しかし、それは訓練での話だ。俺は、AI嫌い、もちろんロボットも嫌いだ。どこをどうしたら破壊できるかくらい知っている。こんなにパワーがあるのは想定外だったが。
最上段からちから任せの振り下ろしが来る。半身になって避ける。警棒を縦に構えるとそこへ刃物が叩きつけられた。
ロボットというものは反動とかそんな人間の構造なんて関係なしに攻撃してくるのだから常識は通用しない。だが、AI通りにいかないのも人間だということを忘れてはいけない。
防御したままロボットの頭へ頭突きを放つ。これはロボットも予想できなかったようで、映像で確認していたカメラが破壊されて手を振り回すばかりとなった。
こうなれば後は簡単だった。隙を見て腕の間接へと警棒を叩きつけて破壊し、解体していく。少しするとスクラップになった。
「よくそれだけの装備でロボットに対抗できましたね……」
「まぁな。追うぞ」
呆れた様な目で律から見られたが、これが俺の戦い方だ。泥臭くてもいいが、負けない。ロボットなんざに後れを取るものか。
逃げた犯人を追おうと思ったが、すでにどこかへ逃げ去った後だった。律がすかさずカメラの映像から写真の人物を検索して逃走経路を特定する。同時に署に応援をお願いした。応援要請の遅かったことが悔やまれる。
ロボットに動揺してそこまで頭が回らなかった俺のミスだ。これで緊急配備となった。街の自動運転車は一旦停止することになる。その間に犯人を見つけ出して捕まえるのだ。
「いた! 一台だけ走っている車がいます!」
自動運転車へと乗り込むと警察権限で走らせる。こういうものに簡単にハッキングできる犯人がいることに危機感を覚えた。誰でもできるようになってしまったら街がめちゃくちゃになるし、犯罪し放題ではないか。
律が位置を特定したようでそれを周辺の警察車両にも伝える。だんだんと犯人は追いつめられていく。だが、窮鼠猫を噛むということわざが昔からあるのを俺達は失念していた。
ハッキングすることで自由に走らせていた車は、物理的にバリケードの車にぶつけたことで停止した。中にいた男は無事のようで車のハッチが開けられたかと思うと外へと飛び出してきた。その体には爆弾が全身にまかれている。
「メデューサは永久に不滅だぁ! 警察なんて全員くたばれぇ!」
叫びながらこちらへ駆けて来る男。
こりゃ逃げれねぇな。




