16.意外な律の趣味
「AIを使い慣れていない人はこれだから困る」
律は心底呆れたように言い、またSVを操作し始めたようだ。何かほかにもわかることがあるのだろうか。
俺の疑惑の目を見た律が「ちょっと待ってください。今絞り込みます」犯人を絞れるということだろうか。
そんなことができるのか。しばらくすると目を見開いてこちらを見つめた。俺のAIへと情報が送られてきて脳裏にリストが映し出される。
「そのリストが、特定した基地局にさっきのメデューサのサイトが開かれていた時間、アクセスしていた人のリストです」
リストには二十一人の名前、住所、年齢、顔写真がのっている。その情報を元にして一件一件当たることにした。
ここからは足で捜査する。俺の出番というわけだ。サイバー室を飛び出して自動運転車の革製シートへと体を滑り込ませる。
律ももう手慣れたもので同じように車へと乗りこむ。リストの一番上の人物のマンションへと車を発進させる。ふと時計を見ると昼を回っている。
途中のコンビニで車を停めた。「ここになんの用ですか?」と聞いてくる律を引き連れて中へと入る。飯も食わせないで捜査していたとなれば、また真理にどやされるだろう。
なんでか知らないが、律を異様に可愛がっているからな。「飯だ」短くそう伝え、自分はコロッケパンと焼きそばパンを脇に抱え、コーヒーを手に取る。
律は小さなチョコが中に含まれている丸々としたパン。それが五個ほど入っている昔からのロングセラー商品を手に取っていた。
レジの前に行くとスキャンしてレジへ二人分の現金を流しいれる。「おごりですか?」驚いたように聞いてくるので「そうだ」とだけ返事を返して再び車へと戻る。
こういう時に自動運転車は便利だ。食事をしながら移動ができるから。コロッケの香ばしい香りと芋の甘さを感じながら外の街を眺める。
人はあまり歩いている様子はない。自動運転車が普及してからというもの、人はあまり歩くことをしなくなった。たまに俺の様な物好きが街を見て歩くくらいなものだ。高層マンション群が見えてきた。
このマンション群にリストの人たちは住んでいるようだ。一つ目のマンションへと着くと下りる。思わず見上げてしまうと、その先の太陽が目を焼き付ける。
人というのは天へと昇りつめたいという願望がある生き物なのだろう。一体どこまで行けば気が済むのか。沖縄より南の海上には宇宙へと上がることのできるエレベーターが設置されたのはいつの頃だったか。
今や、旅行に行くような感覚で宇宙ステーションへといく時代だ。俺は別に行きたいと思わないが。
「なにボーッとしてるんですか? 行きますよ?」
辛辣な律の言葉が俺の脳を再度働かせ本来の目的を思い出す。マンションのエントランスにはロボットが対応してくれる。
警察証を見せてこのマンションの人に用があると伝える。すると、そのロボットが目的の部屋へと連絡をとり、エレベーターへの扉を開けてくれた。
開いた先には玄関であろう光のない鋼鉄の扉が待ち構えていた。前に行き警察証を見せると扉が開いた。
「警察が何の用ですか?」
そこに現れたのは野暮ったい少し髪の薄めの男性だった。腹も出ていてだらしがないが、最近はこういう人が増えていることだろう。運動しないのだから。
「すみません。ちょっと署に不正アクセスがありまして、ここらへんの基地局だったもので少し調べさせて頂いてよろしいですか?」
「いいですよ。この部屋は管理AIがあるからそれに接続してもらえれば一発だと思いますよぉ?」
俺にはどうしたらいいのかわからなかったが、律がすぐに動いてくれていた。この部屋の管理AIへと接続しているようだ。
警察権限を使えばパスワードや認証などの面倒なセキュリティは突破できるんだとか。そんなことを小声で俺に説明しながら、律がこの部屋からではないかを調査する。接続していたのはアニメ配信を見るためだったようだ。
そのアニメについて「キラメロ好きなんですか? 私もなんですよ」急にその男性へと話しかけたのは大いに驚いた。律がまさかアニメを好きだとは。
しかも、かなりコアなファンなようで男性と意気投合し、何話目のどのシーンが一番キュンとしたとかメロッときたとか、そんな話を三十分以上していた。
流石に俺は痺れを切らし、咳払いをするとハッとして「ご協力ありがとうございました!」と言いながら連絡先を交換していた。
そんな男と繋がって大丈夫なのかと思ったが、口には出さなかった。そんなことを言いだせば思春期の女の子は口を聞いてくれなくなることだろう。
「律はアニメが好きなのか?」
マンションを出てからモンモンと頭で繰り返していた質問をついに、口に出してしまった。だが、以外にも律の反応は悪い物でもなかった。
「キラメロも好きですけど、色んなアニメを見ます。特にキラメロが最近好きなんです。だから、AIの声も主人公のキララがメロメロになっているダニルくんの声にしてます。いつもイケボで私のことを助けてくれるんです。メロメロにしてくれるんです」
早口でそう話す律をみて、この子は本当にアニメが好きなんだなと思った。マニアという人種は自分の好きな事を話すときは少しトーンを落とし、申し訳なさそうに早口で自分の好きな事について話をする。
その特有の特徴は令和以前からある人種とされており、俺も認識している。こういう一面もあるとは、意外だった。この日の捜査は他に五人程の家を訪ねたくらいで終了した。
残りは十五人。犯人はここまで察知されているとは思ってもいないだろう。そう焦ることはない。




