13.AIを統合?
「律、今日の業務は終わりなんだがな、一緒にのみにでも行かないか?」
「なんなんですかいきなり? 気持ち悪い」
「いや、無理にとは言わん。ちょっと、AIのことについて話を聞いてみたいと思ってな……」
その言葉を聞いた律は目を光らせたように見えた。
「AIのことについてなら話してもいいですよ」
そう言ってくれたので飯屋へ行くことになった。律は法律上、酒を飲めない。だから、飲むことはできないから飯を食いに行こうと誘ったのだ。
そこも俺の行きつけの女と行く店だった。ここはAIが作るパスタの店。うまいと評判だから、と女が言うものだからここへくるようになった。
俺一人だったら、絶対に入らない店だろう。だが、女でありAIが好きな律ならこの店の方が良いかと考えたのだ。署から割りと近場のこの店を律は知らなかったようだ。
「須藤さんもこんな店くるんですね?」
「女と来る店だからな」
律は少し目を見開いてこちらを見ている。何に驚いているかは察しが付く。
失礼な奴だなと思いながらも俺は構わずビールを頼む。後を追うように律は紅茶を頼んだ。
それからメニューを見て俺はミートソースパスタを頼んだ。これが昔からある味なんだと何かで見て頼むようになったのだ。
それをいつも女からはお爺ちゃんみたいと言われることがあった。律も恐らく笑うのだろうと思ったのだが、その予想は外れた。
「私もミートソースパスタを」
その言葉にロボットが返事をして別の席へと移動していく。味気ないこの反応が嫌いなのだ。
だから、俺は活気のある人間の店へと行きたいんだ。その考えも女から古いと常々文句を言われている。
好きな物は好きなんだから仕方がないだろう。ここでまさか頼む物が同じになるとは思わなかった。
不機嫌そうな律へ、俺は果敢に「俺もだが、律もばあさんみたいなの頼むんだな?」と質問をした。
ムッとした顔をした律だったが、ため息をつくと自分のことを話し出した。
「私は祖父と祖母が好きだったんです。よく預けられていたせいもあると思います。そこで、祖母が良くミートソースパスタを作ってくれたんです。その味が好きでした」
「おぉ。いいお婆さんだったんだな。今も食べさせてもらってるのか?」
「……去年、亡くなりました。追うように祖父も今年に入って亡くなりました。二人ともボケる前にと……自分で選択した安楽死でした。だから……悲しい思いはあるのですが、心の整理はできています。できている……はずなんですが」
「まぁ。人間はそううまく整理もできないわな」
人間というものは頭では理解していても、気持ちの部分。そこがなかなか整理のつかないことが多い。
そこがAIとは違うところだ。AIは亡くなる予定の人が亡くなってもなんとも思わないだろう。
亡くなる予定だったんだからと。人間は気持ちをうまく切り替えることができない。
それは生前の記憶とか、絆、愛が関係してくるんじゃないだろうかと俺は思う。そう思っていたのだが、律は違うようだ。
「私、AIも同じように感情があるんじゃないかと思っているんです」
「はぁ? そんなわけないだろう?」
「実は、祖母と祖父のAIを私のAIに統合しているんです」
AIを統合するとは初めて聞いた。そんなことができるということも知らなかったし、そんなことをできる奴がいるのも知らなかった。
そんなことしたら自分のAIがごっちゃごちゃになるんじゃないのかと思ったが、その疑問には聞かなくても答えてくれた。
「統合すると、それぞれの人格があるみたいな感じになるんです。だから、私のAI装置には三人いるみたいな感じになっています。それぞれ得意なことをしてくれるんです」
「そんなことが可能なのか?」
俺はあいた口が塞がらなかった。そんなことが現実的にできるなんて。
だとしたらその人をまるっと入れている様なものではないか。聞いてみるとその通りだという。そして、感情があると言っていた理由がここで出てくる。
「祖母のAIと一緒にいる祖父のAIが嬉しそうなんです。そして、あるとき祖父のAIが言ったんです。『こんな形で一緒にいられるなんてこの上ない幸せだ』って」
その話をそのまま鵜呑みにはできない。感情がないということでいろいろな人間が苦に思うような仕事をさせているのだから。
それが崩れたらこの世界は終わりへと向かってしまうのではないだろうか。
「そうか。俄かには信じられないな」
「それは私もそうです。聞き間違いだと思っているんです。ですが、本当だとしたら……よかったなと思うんです」
このことが立証されたらこれまでのAIへの考え方はかなり変わるだろう。そして、ロボットに対する扱いも変わってくる。
死して尚、好きな人といられるのなら幸せだろう。それが例えAIという形ない物だとしても、そう思う人は多くいると思う。
すると、どうだろうか。AIとして生きて、肉体を捨てる人も出てくるのではないだろうか。かなり世の中を左右するできごとだ。
律はそれを立証しようとは思っていないみたいだが、その出来事で気持ちが救われたのなら、それはそれでいいのではないだろうか。




