12.メデューサ
追い詰めたと思ったんだが、コイツらがまた、往生際が悪かった。
何度警告してもドアを開けなかった為、警棒で窓ガラスへ振り下ろす。激しく割れる音が響き渡り、粉々になったガラスが飛んでいく。
ドアを無理やり開けて電子手錠をつける。隣のやつはドアを上げて逃げたが、走るのが遅かったので追って地面へと倒し、手錠を付けた。
暴れていたのが嘘のように大人しくなったが、歩いてはくれなかった。暴れられたら面倒なので、電気ショックで眠らせて車まで運んだ。
バイクでは運べないので、自動運転車を呼びつけた。
「観念しろ。もう逃げられねぇよ」
「俺達は雇われたんだ! 勘弁してくれ!」
「雇先を教えてくれても、みのがさねぇよ? 大人しく色々と話してくれ」
二人を自動運転車へと乗せて俺と律も一緒に乗っていく。車両とバイクは他の部署の奴らに回収を任せることにした。
他にも過去の遺物を動かせる物好きはいるから、俺が動かさなくても大丈夫なのだ。車へと乗りこむと強盗の犯人たちが話し始めた。
「オレ達は借金をしていて、強盗をする以外生きていけなかったんだ! だから、逃がしてくれ!」
「無理に決まってんだろ。観念しろ」
「頼むよ! 妻も子供もいるんだ!」
「自分が悪いだろ。あのな、妻子があろうが犯罪を犯した奴を見逃すわけないだろうが! 頭湧いてんのか?」
俺も我慢できなくなり、自分の気持ちを犯人へとぶつけた。すると、反省したようで項垂れている。
その犯人は仕事の面接に行っても断られ続けていたんだとか。それを言われて俺は自分の思ったことを伝えた。
「なんで妻子がいるなら犯罪を犯したんだ。一生、犯罪者の妻、息子っていうレッテルが張られるんだぞ? 少し考えてから行動しろよ!」
その犯人は下を向くと反省したようにシクシクと泣き出した。泣いても許されるわけじゃないが、俺の気持ちを少しでもわかってくれたかな。
そんなことを思いながら窓から見える、照り返すアスファルトを眺めていた。
「あのなぁ、犯罪者ってのは身内をも不幸にするんだぞ。それをわかってるのか?」
「自分たちも逃げられなくて……」
「怪しい奴らにいいようにやられたのか?」
「そうなんっす。実は……メデューサっていうサイトでバイトに応募したんですよ。指示を出したいからユニークナンバー教えろって言われて教えて、そしたらこんな仕事内容だったんす。でも、ユニークナンバー知られちゃってるから逃げられないし、オレも、こいつもやるしかないって感じで」
もう一人の男も首振り人形のように首を振っていた。最近強盗を逮捕するとメデューサに指示されたと言われる奴らが多くなってきた。
これは、お金に困っている人に対してホームページで仕事しませんかと募集している怪しい奴らの仕業なのだ。
こいつらの実態がないような気はしているが、まだ実態の解明には至っていない。
「またメデューサか……」
「最近捕まえた人達も同じような事言ってましたよね?」
「あぁ。このままだとまずいな」
最近強盗や窃盗で逮捕される者のほとんどはメデューサから指示を出されているようだ。
その者達も被害者なのかもしれない。こういう奴らが増える一方のこの頃。俺達が手を打たないともっと増えていくだろう。
まずは、サイトを開いている大元を抑える必要がある。これまでも捕まった奴らから聞いたアドレスのサイトを開いたが、既に閉鎖されていたのだ。
捕まえた今ならもしかしたらと思い、サイトのアドレスを聞きだす。そこを開いてみると、こいつらが逮捕されているのをまだ把握できていないのだろう。サイトは生きていた。
「律、このサイトのオーナーの情報追えるか?」
「今やってる」
署に着くまでにある程度の情報が確保できればいいのだが。懸命に目を瞑りながら情報を取得しようとしている律の横では涙を流している男。
完全に観念していると思っていた男達だったが、そうではなかったようだ。
「この女の命が惜しければ俺達を下せ」
俺の対面へ座っていた男が、目を瞑っている律の首にナイフを突きつけている。
首に少しナイフの先端が触れたことでビクリとした律は目を開けて横に視線を巡らせる。
潤んだ瞳でこちらを見つめる女の子を前に俺は降伏するしかなかった。一旦車を停めてドアを開ける。
その男たちは口角を上げると外へと足を踏み出す。
「やれ」
俺の声に反応したAIが男たちの電子錠を制御して電気ショックを放つ。
体を震わせた男たちはその場に意識を失い倒れた。引きずって車に乗せて再び走り出す。
「もうちょっとだったのに、ダメでした」
「今は?」
「もう閉鎖されてるんです」
もう少しで追えそうだったデューサの大元の解析に失敗してしまったようだ。
それは俺が油断してしまっていた落ち度もあるからなんとも言えない。
「俺の責任だ。また次の機会を待とう」
そう言って犯人を署に届けてその日の業務は終了となった。そこで、意を決して食事に誘ってみた。
別にやましい気持ちがあったわけじゃない。少し、俺もAIについての話を聞きたくなったのだ。
一番身近でその話を聞くのは律が適している。それは言わずもがな。わかっていたから。




