11.過去の遺物
新しいバディとの日々は矢のように過ぎ去っていき。三か月程経っても関係性はたいして変わらず、律の態度も最初からあまり変わらない。
むしろ、俺のことを見下している様なセリフを吐くときが多くなってきた気さえする。
俺は大人として何を言われてもグッとこらえているが、何か見直してくれるような出来事がないかなと思っていた時期だった。
『新宿駅前で強盗事件が発生。犯人は北へ逃走中。自動運転車ではない為、位置の把握が不能です』
自動運転車ではないってことは令和時代以前のガソリン車だな。
骨董品の役に立つときが来たかもしれないなと心を躍らせる。
令和以前の時代が好きな俺には持って来いの事件だ。だが、律は怪訝な顔をしている。AIで追えないからいやなのかもしれないな。
「過去の遺産は嫌いです」
「俺は好きなんだけどな。ついてこい」
律を連れて下の駐車場横にある倉庫へと向かう。そこには令和時代に活躍した骨董品が眠っているのだ。
それの使用許可をSVを活用してとるんだから不思議な時代になったものだ。倉庫の端にあったガソリンタンクを持ってノズルを付ける。
「くっさ! なんですかそれ?」
「過去の遺物。ガソリンだ。あぁー。たまんねぇ匂いだなぁ」
その年代物のガソリンを昔白バイと呼ばれていたものの給油口を開けて注いでいく。
それが満タンになるまで注ぐと蓋を閉めてエンジンをかけようとキーを回すが始動しない。
よく見てみるとあるはずのものが取り外されていた。普段乗っていないツケがここで回ってきた。
棚にあったバッテリーを持ち出して接続する。工具箱も棚から持ち出してプラス端子から接続していく。
繋ぎ終わるとキーをひねる。火花の飛び散る音がし、直後に普段聞かない豪快なエンジン音が響き渡る。
口角があがってしまう。この音がたまらなく興奮するのだ。
「くぅー! いいねぇ。この音。たまらん」
「なんですか? このうるさい音!」
耳を塞ぎながら律が文句を言っているが、文句を言っている暇はない。
ヘルメットを持ち出すと上から被り、同じように律の頭にも被せる。
「えっ? 私も乗るんですか?」
「いいから早く後ろに乗れ! 手ぇはなすなよ!」
白バイの二人乗りが違法かどうかしらないが、今はそんなこと言っている場合じゃない。
スキール音を響かせて駐車場から走り出す。ここからはSVを通じて会話することにする。
『律、防犯カメラの映像を検索して、強盗がどこを通ったかわからないか?』
『言われなくてもやってる!』
俺の指示は不要だったようだ。指示を出すまでもなく、犯人を追おうとSVを作動させていたみたいだ。
取り合えず北の方向へとバイクを走らせる。律が自動運転車のシステムにアクセスし、警察車両と同じように車両を端へと退かせるようにしてくれているようだ。本当に仕事のできるやつで助かる。
足立区へ向けて四号線を北上していると律から通信があった。
『北区へ入った後に高速へ乗ってさらに北へ逃走しているみたいです!』
『あいよっ!』
北へ行っていたのを方向を変え、少し西へと進み高速へと乗ってパトランプを鳴らす。
一応、SVで制御して周りの車両を端に退かしながら昔ながらの音を鳴り響かせながら高速を飛ばす。
古い車両だが、ETCが着いたままだったので、カードを挿すだけでよかったから助かった。風を切り裂きながら文字通り矢のように突っ走る。
『体を屈めろ! 空気抵抗を減らすぞ!』
『くっ! キツイ!』
俺が前にいる為、律に風はあまり行かないと思うが、さすがにキツイらしい。
自動運転車両が邪魔をしていて、逃走車両はあまりスピードを出せていないみたいだ。
それはこちらの思惑通りだ。律が他の車両に働きかけて車両が通れないように通せんぼしているからな。
これも自動運転車だからできることだ。いくら煽っても運転しているのは心のないAIだから関係ない。
逃走している車両が見えてきた。俺からしたら凄いいいレトロカーに見えてしまい、興奮するくらいのスポーツカーだった。
『あの黒い車両です!』
『わかってらぁ! 32か……いいねぇ!』
律から知らせが入った。だが、言われる前からわかっていた。そのくらい好きなスポーツカーだった。
それがリアルで拝めるなんて嬉しい気持ちが勝っていた。段々大きくなってくるスポーツカー。後ろの丸い四連ライトがたまらないくいい。
後ろからケツを追いかけながら迫る。パトランプを聞いてあせったのか、スポーツカーは逃げようと蛇行をし始めた。
前の車を退かそうとぶつかって無理やり割り込んで入っていく。その後ろを追いかけ、並走する。
そして、無理やり自動運転車を捜査して横へと滑り込ませる。たまたま、人を乗せた帰りの自動運転車だったようだ。人が乗っていなくてラッキーだった。
金属同士のぶつかり合うような激しい音が響き渡り黒いスポーツカーは煙を上げてスピードを落としていく。
レトロカーの弱点はエンジンを潰せば走らなくなること。実は自動運転車はAIさえ生きていればある程度はどうにかして自走してくれるのだ。
黒い煙を上げて止まったスポーツカーの横にバイクを停めて窓を叩く。
これで堪忍してくれりゃあいいんだけどな。




