◆大ムカデとゴーレム
ここはダンジョンの96階層。 いきなり転移トラップで飛ばされたときは、流石に死を覚悟したアレフであった。
が、いまは暗黒竜のティナが一緒について来てくれているので、落ち着きを取り戻している。
なにせ あのサイクロプスを瞬殺するほどの強さである。
しかし、この洞窟はいったいどこまで続いているのだろうか。
通常ならダンジョン探索は、より深い階層を目指すのだが、アレフはここより浅い階層へ逆行していかねばならない。
このダンジョンは70階層までは完全踏破されており、なんなら65階層には宿屋や飲食店、洞窟風呂などもある。
つまり、死にかけのアレフの今の目標は65階層なのだ。
ただし虫のいい話しではあるが、ティナに同行してもらうのは、自力で踏破した73階層までと考えている。
74階層から下の階層は未踏破で、どんな魔物がいるのか分からないのだ。
自分より圧倒的に強い魔物と遭遇したら、神様、仏様、ティナ様で乗り切るしかない。
でも暗黒竜に65階層までついて来られたら、何が起きるか分からないし、巻き込まれたくもない。
そして、長い洞窟を抜けると95階層への階段が現れた。
しかし早速、魔物のお出ましとなった。 それは階段の前に立ち塞がる。
なんとそれは、アレフが一番嫌いな多足類であった。
「ぎゃあー あれは大ムカデじゃねぇか!」
アレフの全身に鳥肌が立つ。
「ティナ、ヤツを頼む!」 生理的に苦手な魔物なので、アレフは早速ティナ様頼みとなる。
「ハイ♪」 ティナは嬉しそうに大ムカデに対峙した。 これはやはり暗黒竜の闘争本能なのか・・・
その巨大なムカデは長さが30mはあるかと思われた。
たくさんの足がサワサワと動き、何百本の箒で地面を掃いているような、なんとも言えない音が洞窟内に響きわたる。
あの猛毒の牙で噛まれれば、即死するに違いない。
ティナは大ムカデの周りをすばしこく走り回り、隙を見ては攻撃を加える。
だが大ムカデの体表は、硬いキチン質で守られていて、なかなか手強い。
しかし20分ほど経ったころには、大ムカデのたくさんあった足は、ティナの複数攻撃でもがれ、牙の生えたミミズのような外見になる。
「アレフ、止めを!」
ティナの声に戦いを見守っていたアレフはその声で我に返ると、聖剣クラウ・ソラスを抜き大ムカデの頭部を素早く切った。
切断された頭部はいったん舞い上がったのち、アレフ目掛けて飛んで来たが、アレフはすんでのところでそれをかわす。
地面に落ちたそれは、しばらくの間、牙をカチカチ鳴らしていたが、やがて目の輝きが失せると同時に動かなくなった。
「うわぁ まだ足は動いているぞ。 ったく気持ちが悪りぃなぁ」
アレフは、巻き散らかったまだうごめく大ムカデの無数の足をよけながら、ティナの方へ歩いて来た。
「さあ、先を急ぎましょう」 ティナはいつの間にか先頭を歩いている。
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大ムカデとの戦いを終え、アレフとティナは95階層へと進んだ。
その95階層には、巨大なゴーレムが次から次へと出現した。
ゴーレムは堅い岩石から出来た魔物である。 従って剣で戦う相手ではない。
一般的なパ-ティーでは、魔術師が炎と氷の魔法を交互に放ち、その温度差で岩石で出来た体を弱らせ、アタッカーらが衝撃で倒す。
アレフも簡単な魔法は使えるが、主に防御系と回復系で攻撃魔法は得意ではない。
「ティナは、ゴーレムとどう戦うつもりなんだ?」
「アレフ。 わたしは最強の暗黒竜ですよ。 ファイヤーブレス、アイスブレス、スノーブレス、なんでもOKです。 でも一番は呪いのブレスですね」
「なにそれ怖い」 アレフはビビる。
「呪いのブレスにのまれた者は、どんな魔物でも即死です」
「こわっ!」
「だからアレフには、全身結界をかけてからでないと使えません」
「おぅ ぜひとも一番強力な結界を頼むぜ」
呪いのブレスは暗褐色で、通常のブレスより広範囲に広がっていく。
アレフは結界に守られているが、ゴーレム達は呪いのブレスに包まれたとたんに即死した。
アレフはティナを石棺から助け出しておいて良かったと心底思った。
なにしろ見捨てていたら、最強の呪いをかけられるところだったからだ。
こうして、ティナとアレフは、何十体ものゴーレムをやすやすと倒し、すんなり94階層へと到達することが出来たのであった。




