◆眠り姫
洞窟の先に明かりが見えて来た。 やっと洞窟から出れる。
アレフは慎重に進む。 なぜならば、そこには高レベルの魔物がいるかも知れないのだ。
いや、むしろその確率の方が高いであろう。
しかし、洞窟を抜けたと思ったのは間違いだった。
そこには、ぽっかりと大きな空間があっただけだ。
広さは直径200mはありそうで、その壁面に群生した光苔により、空間内は青白い光に包まれている。
「中央に何かあるな」 アレフは目を細めてそれを捉えようとした。
確かに中央付近には、四角く大きな石棺のようなものが見える。
アレクは、ゆっくりと油断せずに、それに近づいて行った。
「これは、まさに石棺だな・・ 」
その側面と蓋の部分には、見たことの無い文字と模様が刻まれている。
「これは封印魔法か・・」 アレフは別のダンジョンで、これによく似た模様を見たことがあった。
もしも石棺の中に封印された何者かが、まだ眠っているならば、安易に触れるべきではない。
封印されるということは、悪しき者であるに違いないからだ。
「触らぬ神に祟りなしだな」
アレフは、石棺を背に洞窟の先へと進もうとする。
すると急に体が重くなり、身動きができなくなった。
「なんだ? 体が・・ 動かない・・」
その重みによってアレフは、その場で手をついてしゃがみ込む。
すると・・
「わたしを・・・助けて・・・ お願い・・封印を解いて・・」
石棺から声が聞こえて来る。
アレフは振り返り、その声に問う。
「お前は何者だ? なぜ、封印されている!」
「わからない・・ わたしは何も悪い事などしていない」
石棺は、小刻みに振動している。
「残念だが、俺は封印を解く方法を知らない。 諦めて別の物が来るのを待つんだな」
「もう封印されて、何百年も経つけど、あなたが初めて現れた者なのです。 次はいつになるか分からない」
「やれやれ、ここまで来て厄介事に係わっちまったなぁ・・」
「お願いです。 どうか助けてください。 ちゃんとお礼はしますから」
「はぁ・・ 仕方がねえなぁ よし、ちょっと待ってろよ」
アレフは、背負っていた皮袋から、分厚い魔導書を取り出し、近くの大石に腰を下ろして頁をめくり始めた。
「たしかこのへんに・・・ おっ、あった。 どれどれ・・封印の解き方は・・・」
しばらく本を読み解いていたが。
「なぁ、残念だがこいつの封印の解き方は載っていなかったぜ。 悪いな、高い本だったが役にはたたなかった」
「そうですか・・ それならば 石棺の蓋を開けられないでしょうか」
「えっと、封印を解かずにか?」
「ほんの少しでもよいのですが」
「わかったよ。 どれどれ」
ふんっ
アレフは、石棺の蓋の端を両手で持って力いっぱい押してみる。
しかし、石で出来た重たい蓋はビクともしない。
「やばい、これ以上やると俺の頭の血管が切れちまうぜ。 悪いがやっぱり諦めろ」
「そんな・・ そうだ、ここに来たという事は、剣とか持っていますよね? それでこじったら何とかなるんじゃないでしょうか」
「おいおい。 そんなことをしたら、刃こぼれして使い物にならなくなるじゃないか!」
「けれど他に良い方法が思いつきません」
「いや、おまえがあと2~3百年待てばいいんじゃないの」
「ひどい! これ以上言うなら、あなたに最上級の呪いをかけますよ」
「おまえ自分の立場が分かっていないな」
「ああぁ ウソです。 ウソです。 もう言いません」
はぁ~
ため息をつきながらアレクが何気なく石棺の裏側に視線を移すと、なんとそこには石棺を設置したときに使ったと思われる道具が散乱していた。
「だいぶ古いが何とか使えるかも知れないな」
アレクは落ちていた楔や丸太と滑車を使って、何とか石棺の蓋をほんの少しだけ動かすことに成功した。
「ほら、もうこれでいいだろう? 俺はもう行くぜ!」
アレフは、食料も水も少ししか残っていないため、一刻も早く洞窟から出たかった。
「ちょっと待ってください」 石棺の中の声はアレフを引きとめる。
「なんだよ。 まだなんかあるのか?」
「いえ、まだお礼が・・・」
シュゥーー
その声と同時に、石棺から白い煙が噴き出して来た。
アレフは、2、3歩後ずさる。
やがて、その煙は人の形になると数秒後には、光り輝く女の姿となった。
「封印されてたんじゃなかったのか?」
「封印はわたしにではなく、石棺にかけられていたのです」
「それで蓋を・・」
「では、お礼を。 あなたが望むものを 何か一つおっしゃってください」
「いや、いいよ。 大した事はしていないしな」
「では、せめて安全な場所まで、お供させていただきます」
「いやいいって!」
アレフは女を無視して歩き始めるが、女はアレフの後をついて来る。
「ついて来ても、おまえに分けてやれる水も食い物もないぞ」
「それならばご安心を。 わたしには必要ありませんから」
「うん? そうか、何百年の石棺の中にいたんだもんな」
こうして二人ではあるが、アレフは初めてパーティーらしい形でダンジョンを進み始めたのだった。
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