「なんとか魔術師」っていうよく分かんないジョブになったら侯爵令息がバカにしてくるので凹ませますね!〜なんとか魔術師かーど〜しよう?
「ふむ。キミのジョブはのぅ、『なんとか魔術師』じゃ」
「……なんとか、魔術師……?」
「そうじゃ」
女神さまから与えられたジョブを教えてくれる神官さまがそういった。
……意味がわからない。
ボク――シーアルドのジョブは『なんとか魔術師』というジョブらしい。
火の魔術師とか、水の魔術師とか……そういう魔法の種類に関係する名前がジョブになるという話を聞いたことはあるけど……。
「……どんな魔法が使えるのですか?」
「わからん」
「はい?」
「実はのぅ……『なんとか魔術師』というのは未解読の古代神聖文字で書かれておるんじゃ」
……未解読の古代神聖文字? なにそれ?
「つまり……読めん!」
「えぇ……」
ボクはすごく微妙な顔をした。
「これこれ、そう悪く受け止めるんじゃない。少なくとも魔術師であることはまちがいないんじゃ。学園都市にある魔法学園にはいかせてもらえるぞい」
「あー……」
別にいきたいわけじゃないけど、学園都市には興味がある。
ここ、シュタイン伯爵領の領都シュタインズゲートの孤児院周辺しか知らないから、他の町に対する興味はあるのだ。
「それにのぅ。『なんとか魔術師』は強力な魔術師になるぞい」
「強力な……魔術師……?」
「隣国のキイマカリーにおる『雷撃の魔術師』というのはもともとは『なんとか魔術師』じゃったそうな。それにクミンマサラ帝国の『空間の魔術師』もそうじゃったといわれとる」
……そもそも『雷撃の魔術師』も『空間の魔術師』も知らないけど。
とにかく強力な魔術師になる……?
あ、ちょっと胃が痛くなってきたかもしれない……。
「とにかく、魔法学園いきは決定じゃのう。伯爵さまも喜ぶじゃろう」
「領主さまが……?」
「領地から優秀な人材が出るのは喜ばしいことなんじゃ。それに、今年は伯爵家のお嬢さまも魔術師のジョブを授かっとるからのう」
「えぇ……」
どんどんめんどうくさいことになりそうな気がしてきた。
「それに優秀な魔術師はいっぱいお金がもらえるぞい?」
……その部分だけは、嬉しいかもしれない。
ボクはそんなことを思った。
「君が『なんとか魔術師』か」
「……ええと?」
新入生歓迎パーティーの会場でボクに話しかけてきた人は……何人か仲間も一緒にやってきた。めんどうくさい感じしかない。
魔法学園でのまともな交流はこのパーティーがはじめてだから、ボクはまだシュタイン伯爵領の人たちくらいしか知らないのに。
そこでボクをかばうようにしてアリスティアお嬢さまが動いた。アリスティアお嬢さまはボクが育った孤児院がある町の領主の娘で伯爵令嬢だ。
「……ラレヤール侯爵令息。いきなり何の用でしょうか?」
「シュタイン伯爵令嬢か。伯爵家が口をはさむような場面ではない。私は彼に話があるのだ」
「今、シュタイン伯爵領からきた者たちで交流を深めておりますの。ご遠慮いただきたいわ」
「ふっ。担当のクラスも伯爵家でかためておいてよくいう。伯爵家の交流は寮でも教室でも可能では? それにこの場は歓迎パーティーだ。他領の者とも交流するべきではないか」
「ラレヤール侯爵令息のようすをみていると、交流を求めているようにはみえませんけれど? 彼はシュタイン伯爵領の領民です。わたくしが守るべき存在ですわ」
「強力な魔法を使うという『なんとか魔術師』を守ろうなどと……やはり伯爵家は愚かだな」
アリスティアお嬢さまがボクを守ろうとしてくれてるけど、侯爵令息も引き下がらない。そして、アリスティアお嬢さまではなく、ボクに直接声をかけてきた。
「君、わが領にくる気はないか? 報酬は……そうだな月に金貨100枚くらいでどうだ?」
「王家すら丁重にもてなそうとしている『なんとか魔術師』をたかが月に金貨100枚で勧誘しようというのですか? お話になりませんわ」
アリスティアお嬢さまはまだボクを守ろうとしてくれてる。
「ふん。『なんとか魔術師』とはいえ、まだ魔法は使えないという話ではないか。何の魔法も使えぬ状態で金貨100枚というのは破格の待遇だ」
悪気があるのか、ないのか……どっちとも思えるけど、魔法が使えないはボクに刺さる。痛いくらいに。
そう。ボクはまだ……魔法が使えないんだ……。
「……あら。わたしの生徒に勧誘はダメですよ?」
イセリナ先生!
ボクたちがモメていると思ったのか、イセリナ先生がきてくれた。
イセリナ・デレシーロ先生はボクやアリスティアお嬢さま、それにボクと同じシュタイン伯爵領出身のナイスクマリーやニーラの担当教師だ。
「……デレシーロ先生。この魔法学園で他領の生徒を勧誘してはならないというきまりはないのでは? そもそもここの生徒の多くは卒業後の進路を探すものだ。必要な人材なら卒業前からそばにおいておくことも普通にある」
「……侯爵家だからシュタイン伯爵家が相手なら勝手ができるとでも?」
「勝手ができるとまではいわないが……それが爵位というものでは?」
「そうですか、残念です。よく聞いてくださいね? 彼の師はわたしで……デレシーロ侯爵家が後ろ盾のひとつです。同じ侯爵家なので、勧誘はやめてもらえますよね?」
そして、イセリナ先生は実は侯爵令嬢でもあるのだ!
「なっ……い、いや。だが、ラレヤール家も同じ侯爵家だ。こちらが後ろ盾となっても同じでは?」
「ああ。あくまでもデレシーロ家は後ろ盾のひとつですから。学園長からも彼のことを頼まれていますし、彼は近々、女王陛下との謁見もおこなわれます。そのことをよーく考えてください、ね?」
にこにこと微笑んだまま、イセリナ先生は軽く首をかしげた。
「く……君、ラレヤール家はいつでも君のことを歓迎するよ。君が自分の意思できてくれると信じている。では、これで失礼する」
ラレヤール侯爵令息は仲間と一緒に立ち去ったけど、なんか最後にとんでもないことをいい残してたような気がする。
……あれは自分の意思でラレヤール侯爵家に来いと言いながら、『来なかったらわかってんだろうなオラぁ!』って意味も含んでるよな? 貴族、怖い!?
でもイセリナ先生が守ってくれて助かった。本当にありがたい。
これからもよろしくお願いします。
ある日、ボクのなんとか魔法が使えるようになった。
ボクはそのことを尊敬するイセリナ先生に報告した。
「……イセリナ先生。ボクも魔法が使えるようになったみたいです」
「えっ……?」
びっくりしたイセリナ先生もかわいい。ごちそうさまです。
「すげぇなシーアルド! 使えるようになったのか!」
「よかったな、シーアルド!」
「素晴らしいわ、シーアルド。よく頑張りましたね」
ナイスクマリー、ニーラ、アリスティアお嬢さまからも優しい言葉をもらえた。
ボクたちはシュタイン伯爵領としてだけでなく、イセリナ先生の生徒としての仲間意識もあったのだ。
「……どういった魔法でしょうか? いえ……ここではまずいかもしれませんね。どこかもっと広いところの方が……」
「大丈夫です。ここでも使えます」
「でもですね……」
「本当に大丈夫です。ものを壊したりすることはないですから」
それどころか、ピカピカにしてしまうと思います!
「みていてください。『使用』」
周囲が一度ピカっとまぶしくなった。
「これは……いったい? 起句は『ウピヨーグ』? 何の魔法なのかしら……?」
「まぶしいわ……」
「なんかすげえ……」
「何が……起きたんだ……?」
講義室のだいたい4分の1くらいの範囲がピカピカになってる。
おもしろいのは効果の境目だろうか。
ちょうど境目にあった机のピカピカ具合がおもしろい。
「これをみてもらえますか?」
「これって……」
「なんだこれ? 半分だけ新品みたいだな?」
「これがシーアルドの魔法なんだ?」
ナイスクマリーとニーラが机をぺたぺたと触りながらおもしろがってる。
「……シーアルドくん。この魔法はいったい……?」
「ええと、掃除の魔法でしょうか? ボクの部屋で使ってみたんですけど、すごく部屋全体が綺麗になりました。この講義室は広いので全体が綺麗にはならなかったみたいですけど」
「掃除の魔法、ですか……」
そうつぶやいてイセリナ先生は考え込んだ。
真剣な表情も美しい。
本当に素敵なボクたちの憧れの先生だ。
「とりあえず、今からカーインド学園長のところにいきましょう。すぐ会えるといいのですけれど……。ああ、みなさん。シーアルドくんのこの魔法についてはまだ秘密にしておいてくださいね。誰にも話してはいけませんよ?」
ボクたちは慌てている感じがするイセリナ先生に続いて、学園長室へと向かうことになった。
「楽にせよ」
「は、はい……」
そういわれてボクは頭を上げる。
「……ソファに座ってよい。公式な謁見ではないのだ。この場はあくまでも私的なものである」
ボクは今、女王陛下と会ってる。
いきなりすぎるけど……こうなったのは学園長と一緒に王都へと向かったからだ。
それを言い出したのはイセリナ先生。
女王の大叔父にあたる王族の学園長がボクを一緒に連れていく方が早いって。
……心の底からやめてほしいと思ったボクは悪くないと思う。
普通なら女王陛下と会うなんて無理らしい。
できたとしても何日もかかる。
さっきまでボクが王城で待たされたのは1時間ぐらいか。
王族の学園長との私的な謁見というか……お仕事以外の家族と会う時間にボクがおまけとしてついてきたって形、らしい。
「そなたが『なんとか魔術師』となったシーアルドか」
「は、はい……」
女王陛下は御年10歳だという。
どうして学園長みたいな大人の王族がいて王位についてないのか、そこは疑問しかない。知りたいわけじゃないけど。
「い、いと尊きわが国の太陽たる、じょ、女王陛下にごあいさつ申し上げます。わが名はシーアルド、女王陛下にお会いできて、こ、光栄でございます……」
「うむ……。シーアルド、先にも述べたが楽にせよ。これは公式の謁見ではない」
「はい。お言葉、ありがたく……」
「よい。よい。それで、そなたの魔法についてだが……掃除の魔法であったとか。相違ないか?」
「はい。ボ……私の魔法は掃除の魔法でした」
「ふむ。大叔父さ……カーインド公より危険はないと聞いておる。この場で使えるか?」
「女王陛下がお望みとあらば……」
ボクはイセリナ先生から教わった言葉づかいでがんばって話しながら、魔力を循環させていく。
そして、掃除の魔法を使う。
「『使用』」
この部屋はだいたい学園長室と同じくらいの広さがある。掃除の魔法で半分くらいのスペースがピカピカになる。
「……まぶしい……」
「あ、申しわけありません……」
「いや、よい。それで、今のが掃除の魔法か?」
「あ、はい。後ろの壁やこのテーブルをよくご覧ください」
「ふむ……」
女王陛下はきょろきょろと周囲を見回して、それからテーブルへと視線を下げた。
「……輝くように美しくなっておる壁と、そうではない壁がある。それにこのテーブルもそうなっておるようだ」
「はい。ボ……私の掃除の魔法はだいたいこの部屋の半分くらいに効果があるので、残りの半分は元のまま。綺麗になっているところが先ほどの魔法がかかったところになります」
「なるほど……部屋を綺麗にする、か。確かに掃除の魔法で、ある」
女王陛下はそこでキャナリー・カーインド学園長をちらりと見た。
「しかし、シーアルド。そなたの魔法が掃除の魔法であることは、少し、問題があるようだ。お……カーインド公、説明を」
ボクも学園長の方を向いた。
「まずは軍事面からとなるが……『なんとか魔術師』は強力な魔法を使えると周辺国は考えている。その点で、この国の防衛の観点から、キミの魔法が掃除しかできないというのはとても困る。隣国がキミと戦うことをおそれることで平和が保たれる。学園でも少し説明したが、これは理解できるだろうか?」
「はい。学園長」
「よろしい。よって、キミの掃除の魔法については極秘とする」
「はい」
「キミはまだ魔法が使えない。学園で学んでいつか強力な魔法が使えるようになる。そのように周辺国に思わせなければならないのだ」
ボクもすごくめんどうくさい立場になってるけど……女王陛下とか、学園長とかはもっとめんどうくさい立場なんだろうな……。
「極秘ではあるが……掃除の魔法はこれまでになかった新しい魔法。つまり、新魔法でもある。この国では新魔法を編み出した者や新魔法を広めた者には報奨を与えることになっている」
「はい……」
つまりボクは何かをもらえるってことだろうか?
「今回、シーアルドには新魔法を編み出した者として……金貨500枚が与えられることになった」
金貨、500枚!? よくわからないけどすごそうだ!
でも、掃除の魔法で金貨500枚を用意してもらえたことは不思議だ。
女王陛下の優しさみたいなものだろうか。
……あ。掃除の魔法を極秘にする口止め料的な何かなのか?
「今回の謁見がこのような形……公的な謁見ではなく私的なものになったことも、掃除の魔法に関係している。その点については申し訳ないとは思うのだが……国防に関することでもあるので、許してもらいたい」
「はい。問題ありません」
「わらわは謁見の間でみなを集めてやるべきだとゆうたのに……」
「陛下。そのことについては先ほど納得されたではありませんか。シーアルドのためにも、この国のためにも、あきらめてください」
学園長が優しく微笑みながら、女王陛下の頭をポンポンとなでてる。
まあ、このふたりっておじいちゃんと孫、みたいな関係だからそういうものなのかもしれない。
それに女王陛下のお気持ちは嬉しいけど……。
公的な謁見とか……なんかえらそうな貴族がいっぱいみてるだろうし、この私的な謁見の方がボクとしては助かってる。
こうしてボクと女王陛下の私的な謁見は終わり、ボクの掃除の魔法については極秘になった。
その日のイセリナ先生の講義を終えたボクたちはアリスティアお嬢さまを中心として寮へ帰っていた。
寮は学園都市の中にあるけど場所は魔法学園の外だから、とりあえず魔法学園から出ないとたどりつけないのだ。
「おや。これはこれは……『掃除の魔術師』殿ではないかね」
「「はははっ! 笑えるよな!」」
ボクたちが校門へと向かっていると……歓迎会の時にいたなんとかって侯爵令息とその取り巻きが声をかけてきた。
問題なのは……侯爵令息がボクを『掃除の魔術師』っていったことだ。
……どうして知ってるんだろうか? 極秘なのに?
アリスティアお嬢さまはボクをかばうように前に出た。
ありがたいけど、ボクたちはアリスティアお嬢さまの護衛でもある。アリスティアお嬢さまが何かされそうになったらすぐに飛び出すつもりでナイスクマリーと視線を交わし合う。
「……ラレヤール侯爵令息。何かご用でしょうか?」
「用というか……ふふ……」
そうそう。
この人、ラレヤール侯爵令息だった。
にやりと笑ったラレヤール侯爵令息は鼻で笑いながらボクをみた。完全にバカにしてる感じで。
「……そこの『掃除の魔術師』殿に、わが侯爵家への勧誘の話は忘れてもらいたくてね。くくっ」
「『掃除の魔術師』とかありえないだろ?」
「そんな魔法がつかえてもなぁ? 役に立たないし?」
「……何の話でしょうか? よくわかりませんけれど?」
アリスティアお嬢さまはとぼけた。ボクの魔法は極秘だから、そうするしかない。
「はははっ! シュタイン伯爵令嬢はやはり愚かだな。そのような無能をかばい、侯爵家に逆らおうとするのだから」
こいつら……ボクだけじゃなくて、アリスティアお嬢さままでバカにしはじめた。
ボクだけならまだしも……アリスティアお嬢さままでとは。
アリスティアお嬢さまはボクが『掃除の魔術師』だからってバカにしたりはしなかった。
今だってアリスティアお嬢さまより身分が上の侯爵令息から守ろうとしてくれてる。
でも、こいつは……ラレヤール侯爵令息はちがう。
アリスティアお嬢さまとも、イセリナ先生とも、学園長とも……女王陛下とも、ちがう。ほとんどの人は高い身分でも誰かをバカにしたりなんかしてない。
でもこいつは腐ってる。
腐った貴族だ。こいつは。
めんどうくさいからってこのままにしておくと……たぶん、もっとめんどうくさくなるタイプの貴族だと思う。
このままやられっぱなしでいて……いいはずが、ない。
ボクはアリスティアお嬢さまに小さく礼をして口を開いた。
「アリスティアお嬢さま。発言の許可をいただきたく」
「よろしいわよ。何かしら?」
アリスティアお嬢さまがラレヤール侯爵令息から視線を外して、ボクの方を向いた。一瞬で侯爵令息が不機嫌になった。
さて、いわれっぱなしで逃がすなんてありえない。
身分が上? 関係ない。
こいつは絶対にやっつけてやる……言葉で、だけど。
「……魔法学園入学からおよそ半月となりましたが、私はまだ魔法が使えません。それなのに……おかしな魔法が使えるという噂が流れているようです」
「噂……そう、ですわね。おかしな噂ですわ」
ボクはまず、魔法が使えないと言い切ってから……さらには噂ということにした。『掃除の魔術師』なんて話は噂でしかない……ってことにしてしまおう。
「噂だと? そのような嘘で誤魔化そうとするなど愚かな……」
「まったくだ」
「嘘をついてまで自分がすごいといいたいとは……情けないヤツめ」
ラレヤール侯爵令息とその取り巻きがそんなことをいってるけど、キミたちに話しかけてない。
無視しておく。
ボクはあくまでもアリスティアお嬢さまと話してるだけだ。
「しかし、学園長やイセリナ先生からは、ボクの魔法については極秘とするように、と命じられています。噂になること自体が……大きな問題になるかもしれません」
「大きな問題に……? どういうことでしょうか、シーアルド?」
さて、腐った侯爵令息。
よーく耳をすませて聞けい!
「実は……昨日、私は学園長に連れられて王都へいったのです……」
「ええ!? 王都へ!?」
さすがはアリスティアお嬢さま。
知ってるのに知らないフリ。ちゃんとボクの意図が推測できてる。
「はい。学園長は王家の方なので、私はこの国ではじめての『なんとか魔術師』として女王陛下との顔合わせがおこなわれました」
「女王陛下と!? ……いえ。『なんとか魔術師』ならば当然ですわね」
ボクとアリスティアお嬢さまは腐った侯爵令息たちを見ないようにして、話し続ける。
「女王陛下からも私の魔法については極秘だといわれております。極秘のものが噂として広まっているとなると……この国の防衛上の問題となるかもしれません」
「この国の……防衛、ですか……?」
「はい」
ちらりと横目でみてみると……腐ったラレヤール侯爵令息たちはだいぶ顔色が悪くなってる。
……ニーラも顔色が悪くなってるから心配だけど、これはもうアレだろうなぁ。
「女王陛下や学園長の話では、国防上、『なんとか魔術師』の存在は大きいらしいです。だから、どのような魔法が使えるのかという話を極秘とすることで周辺諸国を……なんといいますか、牽制しているのだろうと思います」
「なるほど……そういうことですか。確かに……『なんとか魔術師』は隣国の『雷撃の魔術師』さまのような強力な魔法が使えるといわれていますから、防衛のためには秘密にすることも必要ですわね」
「それが……おかしな噂で弱々しい魔法だと広まってしまうと……」
「ああ、そういうことですか」
小さく2回、アリスティアお嬢さまがうなずいた。
「周辺諸国から戦争を仕掛けられる可能性も、あるかもしれませんわね……」
「ええ、そうなのです。だから……そういう噂を振りまいている者は隣国の間者か、もしくは王家に対してよからぬ考えをもっている可能性がたかいのではないか、と」
聞こえたか、ラレヤール侯爵令息?
キミは……王家に逆らう反逆者かもしれないって話だけど?
「それでは今すぐ学園長室へ向かいましょう。このようなところで時間を無駄にしてはなりませんわ。すぐ学園長にお知らせしなければ」
「はい。そうしましょう、アリスティアお嬢さま」
そこでようやく、アリスティアお嬢さまはラレヤール侯爵令息を振り返った。
「大変申し訳ございませんけれど、急ぎ、学園長に伝えなければならないことができました。この国のために。ですから……ラレヤール侯爵令息と話している時間はございませんの。失礼いたしますわ」
「ま、待て……」
引き留めようとするラレヤール侯爵令息をそのまま置き去りにして、アリスティアお嬢さまは学園長室の方へと歩いていく。
もちろん、ボクたちも、だ。
ちょっとした脅しだけど、別に嘘はない。
脅しをかけた相手が高位の貴族だとしても、ボクはあくまでもアリスティアお嬢さまと話していただけだ。そこは問題にさせない。
しばらくの間はビビッて反省でもしてろ。そして、もう二度とボクにからんでくるな――。
――なんて思っていた自分が怖い。世間知らずとしかいえない。
甘かった。
ボクは何もわかってなかった。
それはきっとアリスティアお嬢さまも同じなんだろうと思う。まだ子どもだった……。
ボクたちの話を聞いた学園長はすぐに調査を開始した。
学園生の中にはすでに自分の寮へと戻っていた人もいたのに、それを全部呼び戻して調べたのだ。
調査の結果……ボクたちと同じシュタイン伯爵領出身のニーラがラレヤール侯爵令息に情報を漏らしていたと判明した。
それをラレヤール侯爵令息とその取り巻きが噂として広めてしまったので……多くの生徒がボクの魔法は『掃除の魔法』ではなく、国防上の極秘の魔法だと伝えられて厳重注意を受けることになった。二度とボクの魔法について噂をしてはならない、と。
原因となったニーラたちのうち、ニーラと侯爵令息の取り巻きは鉱山送りになってしまった。監視付きで。ヤバい。怖すぎる。
侯爵令息については……身分が高すぎるって部分もあって、体調を崩して実家で療養に専念するという理由で魔法学園を去った。
実際にはただの退学で……アリスティアお嬢さまによると……貴族や王族が大きく体調を崩して領地へと送られるというのは、そのまま病死することになるのが普通だそうだ。
何が普通なのかよくわからない。でも、アリスティアお嬢さまがそうだっていうんなら、そうなんだろう。
もちろん、正確には病死ではなく毒殺らしい。表向きは病死。
……うぅ。ボクのせいではないとアリスティアお嬢さまはいってくれたけど。
さすがにやりすぎじゃないのかって思ってしまった。
いや、それはもう嫌なヤツだったんだけど、ボクはよくわかってなかったというのもあって……まさか毒殺されるなんて思わないだろう?
実際に病死したという連絡はまだ聞いていないけど、そうなるんだろうと思う。貴族、怖い。
どうか侯爵家から仕返しがきませんように!




