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パーティー

私はまた焦っていた。

数日後に王宮で開かれるパーティーでは、私とアルフレッド殿下の関係に大きな亀裂が入るイベントがある。

会場で給仕をしている主人公に嫌がらせをし、ついにアルフレッド殿下に愛想をつかされるイベント。


自ら行いでアルフレッド殿下との婚約もなくなり、主人公に関心を寄せていた殿下はこのイベントをきっかけに二人の関係は急激に進展する。


今の私は主人公に嫌がらせなんてもちろんしない。


けど、心配…


もし、主人公が私と仲が良ければ、今回のイベントは回避できるわよね?


私なりの回避方法を考え、主人公をパーティーに誘うため、サロンに向かう。


「ごきげんよう、イザベラ伯爵令嬢。紅茶をお持ちしました。」


いつものようににこりと笑う主人公のリディアさん。


「あの、今度のパーティーなんだけど、私のそばにいてくれないかしら?」


すぐに立ち去ろうとするリディアの腕をつかみ、パーティーに誘う。

リディアさんは笑顔のまま、私の前にしゃがんだ。



「恐れ入ります。パーティーでは給仕を仰せつかっております。」



深々とお辞儀をするリディアさん。


「そうね、でも私がお願いしているの。」


悪役令嬢イザベラだったら、これぐらいのことは言ってもいいかな。

リディアさんは男爵令嬢。イザベラは伯爵令嬢。

リディアさんは断ることはできないはず。


「かしこまりました。ご一緒させていただきます。」


顔色も変えず、相変わらずにこりと笑ったままのリディアさん。

乙女ゲームではこんなに笑顔のままのイメージはなかったな。

礼儀正しくて、でも、明るくて、元気いっぱいなイメージがあったけれど、目の前にいるリディアさんは乙女ゲームとはずいぶん印象が違うなんて、考えすぎか。





今日は王宮でパーティーがある。

そのため、いつもとは違う、会場の入口の前で門番をする。


今日の朝は、リディアさんに会わなかったな。


なんて考えながら、門番の務めを果たす。



「ごきげんよう、クラウス様」


「え、あ、ごきげんよう、リディアさん…」



目の前にいるリディアさんはいつも髪の毛一本落ちてこない完璧な姿とは違い、背中まで伸びたキレイな髪を綺麗に巻き、しっかりとお化粧をしたドレス姿は、あまりにいつもと違う。

毎日挨拶しているのに、見慣れた顔なのに、どうも緊張する。

ドキドキ胸が鳴り、


綺麗ですね。


の一言が言いたくて、でもつっかえて言えなくて、自分が今、変にみられていないだろうかと心が忙しい。


「ど、どうぞ。」


会場への扉を開けると、


「ありがとうございます」


いつものにこりと笑うリディアさんが会場の中に消える。


さっき、令嬢たちが言ってた。今日のパーティーは婚約者を探す人も多くいるから、私たちも素敵な人に出会いたいわね。って。


リディアさんも貴族の人だ。このパーティーで素敵な相手を見つけるかもしれない。

いや、あの姿を見れば、きっと誰かが放っておかない。

騎士の僕には、彼女のそばに立つ資格はない。心配しても仕方ないな。関係のない話だ。


次から次に来る参加者たちを見送る。そのたび扉を握る手に力が入る。








会場に入ってすぐ、リディアさんを探すと、会場の隅で見つけた。

息をのむような美しさ。

乙女ゲームでも見た。このパーティーで主人公の美貌が明らかになる。ドレスに身を包んだ彼女は、まるで夜空の星が降りてきたかのようだった。実際に見ても、リディアさんはとても綺麗。


こんなに美しかったかしら? ゲームのイラストよりも、ずっと。


「やはり、あなたは本当に綺麗ね。」

リディアさんのもとに向かい、一言声をかけると、またにこりと笑った。

「いいえ、イザベラ伯爵令嬢の足元にも及びません。」

その声には、謙遜というより、感情の薄さが滲んでいた。

そういってお辞儀をするリディアさんには、「まっすぐで、元気いっぱいの明るい主人公」という乙女ゲームの面影は微塵もなかった。



「今日は一緒に居てくれる?」


「えぇ、もちろんです。イザベラ伯爵令嬢。」


「イザベラと呼んで。呼びにくいでしょ?」


「お優しいのですね。イザベラ様。」


二人で並んで、会場を歩く。

少し離れたところにアルフレッド殿下が見えたが、目が合うとすぐにこちらにやってきた。


なに?私、何もしてない。


おびえながらアルフレッド殿下を見ていると、殿下の機嫌は良さそうだった。


「やぁ、イザベラ。そして、君は、リディアだね?」


殿下の言葉にリディアさんはにこりと笑う。


「今日の君はとってもきれいだね。」


まっすぐリディアさんの目を見て言うアルフレッド殿下。

あぁ、やっぱり、乙女ゲームは進んでいっている。

私は破滅する運命なんだ。と殿下に向ける笑顔が引きつる。


「光栄です」


隣で深々とお辞儀をするリディアさんの顔は、見えなかった。

でも、その声はいつもと違って少し弱々しかった。


ん?


不思議とリディアさんがこの状況を喜んでいるとは微塵も思えなかった。それどころか、まるで運命に怯えているようにも見えた。


私はその場から離れた方がいいときっかけを探すためにあたりを見渡すと、アベル殿下を見つけたので逃げるように、リディアさんの手を引いて、アベル殿下のもとに向かう。


「アベル殿下!」


「なんだよ。」


私が叫ぶように呼び止めたせいで、怪訝そうに返事をするが、リディアさんのことを見つけると、少し見つめていた。


「で?何しに来た?」


めんどくさそうにしているが話してくれるアベル殿下。

でも、逃げた先なだけであって、話したいことはないから会話に詰まる。


えーと、


何を言えばいいかな…


一瞬の沈黙の後、口を開いたのはリディアさんだった。


「アベル殿下、そちらのお菓子はもう召し上がられましたか?」


なんでもない世間話をはじめてくれる。


「あいにくだが、俺は菓子は嫌いだ。」


にやりとしてやった顔のアベル殿下に、にこりと笑顔で返すリディアさん。


あぁ、そうか。リディアさんはアベル殿下と仲がいいからアルフレッド殿下の好意に困っていたのね。ってことは、リディアさんはアベル殿下ルートなのね!


アベル殿下のルートだとしても私の破滅を避けれたわけではないけど、人の幸せを勝手に喜び、腕を組んでニコニコしていると、アベル殿下に気味悪がられた。




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