第二王子と悪役令嬢
いつもの庭園の東屋で寝転がって、ぼーっと空の動きを眺めていた。
風が吹くたびに草のにおいと花のにおいが顔に当たる。
別に好きでも嫌いでもない。
ただ、王宮の中にいても一人になることはできないから、一人になりたいときは、ここで過ごす。
さぁ、そろそろ戻るか。
体をゆっくり起こして、なんとなく周りを見渡す。
少し離れたところで一人の侍女が花壇を眺めていた。
周りの花壇が咲き誇っている中、少し前に庭師が植え替えたその花壇は、ほぼ土の色で出たばかりの若葉が少し。お世辞にも見頃とは言えない。
そんな花壇を、見下ろすように見つめる侍女。
その表情は固まったままの笑顔が張り付いている。
前に植えてあった花が好きだったのか?植え替えられて悲しいのか?
と勝手な想像をして、彼女を見つめていると、彼女はこっちに気づいた。
俺と目が合うと、にこりと微笑みなおした。
何か声をかけられるか?と身構えていたが、彼女の視線がずれたことに気づく。
何を見ている?
彼女の視線の先を見ると、イザベラ伯爵令嬢がこっちに歩いてきていた。
はぁ、嫌な人に出会ってしまった。
イザベラは俺を見かけるために冷たい視線を向け、
「王になるのはアルフレッド殿下ですわ」
「あなたはアルフレッド殿下の足元にも及びませんわ」
と悪態つかれてきた。
まぁ、いつもはいはい。と流して気にも留めていなかったけど、顔の周りを飛び回る蠅のようにうっとおしい。
「ゲームとおなじだ。ここにいた」
イザベラが小声で言ったのが聞こえた。
ゲーム?何の話だ?イザベラの顔はいつも俺に向ける冷たい視線ではなく、驚いたような顔をしていた。どういうことだ?と考える前に、イザベラから衝撃の一言が聞こえて考えていられなくなった。
「アベル殿下、今までの失言、お許しください。」
深々と謝罪をするイザベラ。
そんな姿、見たこともなければ、想像もできなかった。
「どうした?悪いものでも食べたか?」
企んでいることを聞き出そうと、挑発してみるも、人が変わったかのように困った顔をするだけのイザベラ。
いや、例えでもなんでもなく人が変わっているだろ。
あまりにも違いすぎる。
「私はただ、今までの行いを恥じただけです。これからは心を入れ替えます。」
「ふーん」
それが嘘でも本当でも俺にはどうでもいい。
ただ、心を入れ替えたこととやらにはずいぶん興味がある。
そういえば、さっきの侍女もイザベラを見ていた。
何か関係があるのか?と侍女がいた方向を見ても、もう彼女はいなかった。




