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昼下がり、王宮の廊下を歩いていると、通路の死角になるところにリディアが見えた。
何をするわけでもなく、ただ、隠れるようにそこにいた。
リディアのこういう場面を何度か目撃したことがある。
何かを企むように、ただ何かを待っている。
でも今回は少し不安そうだ。
壁に寄りかかり、何度も通路の先をチラチラと見つめる。
俺の視線に気づいても、驚きもせず、にこりと笑うリディア。
「おまえはずっと何をしようとしている?」
リディアに近づき、問い詰めたつもりだったが、リディアはいつもの笑顔で
「秘密です」
と人差し指を口元に持って行った。
こんな冗談みたいなことも言うんだ。と
予想外の反応に少し、戸惑ってしまった。
通路の少し向こうから話し声が聞こえてきた。
聞きなじみのある声だ。
そちらに目を向けると、アルフレッドと宰相の息子ギルベルト。あと、イザベラ伯爵令嬢がこちら側に向かって歩いてきている。
そういえば、リディアが何かしようとしているときにはこのメンツがかかわっていることが多いな。いや、むしろ、必ずか?
横目でリディアを見ると満足そうに笑っていた。
「ん?そこにいるのはアベルか?」
アルフレッドが俺に声をかけるなんてずいぶんと機嫌がいいんだな。
と思いながら軽く手を振り返す。
「ずいぶん、機嫌がよさそうだな。」
「あぁ、探していた書類が見つかってね。時間ができたからお茶でもしようかと庭園に向かっているんだ。一緒にどうだ?」
本当にずいぶん機嫌がよいらしい。
お茶するなら、いい人が、
と声に出す前にリディアの方を見ると、そこには誰もいなかった。
ふん
やっぱりあいつは霧のように消える。
そのことはわかっていたが、なんだかあいつらしい。と、鼻で笑った。
ここにリディアがいたなんてアルフレッドには言わない方がいいだろう。
あいつのことだ。俺がリディアと会っていたなんて知ったら、せっかくよかった機嫌が急降下するだろうからな。




