Chapter7 「ラスボス戦 アサシン VS ドスコイ松本」
Chapter7 「ラスボス戦 アサシン VS ドスコイ松本」
米子とドスコイ松本はリングの中央で睨み合っていた。ドスコイ松本は身長178cm体重112キロの26歳だった。米子は新しいスクールYシャツに着替えていた。ドスコイ松本の一重で細い目が上から米子を睨みつける。その目は米子を嫌悪する目だった。ドスコイ松本は米子の美しい顔と整ったスタイルが気に入らなかった。まして強いとなると猶更だった。ドスコイ松本にとって美しさと強さの両立は許されないものだった。
ドスコイ松本こと松本綾は幼稚園の頃から肥満児だった。小学校低学年の時はデブ、ブスと呼ばれ、クラスの男子にイジメられたが、成長する毎に体は上にも大きくなり、クラスで一番の長身になった。そのことにより余計にイジメられるようになった。あだ名は『ジャンボ』や『横綱』になった。イジメは徐々にエスカレートして松本の体を殴ったり飛び蹴りをする男子も現れた。松本は自分の大きな体にコンプレックスを持ちながらもイジメっ子に報復するために強くなりたいと考えるようになった。そんな折に隣町に日本相撲連盟に所属する相撲道場があることを知った。道場は幼児も入門でき、女性も多いとの情報を得たので一人で見学に行った。激しい稽古の様子に躊躇もしたが、両親を説得して入門することを決心した。入門後は恵まれた体格を活かして頭角を現し、全国小学生女子相撲大会で準優勝を飾った。
自信を得た松本は性格も明るくなり、イジメられることも無くなった。いつの間にかクラスの女子を纏める存在になっていた。中学生になると相撲を続けながら柔道部に入って大いに活躍した。高校ではレスリング部に入部した。松本は戦って勝つことの楽しさを覚え、格闘技への興味が膨らんでいった。レスリング部での成績は県大会止まりだったが、高校3年生からはルールに縛られない総合格闘技のジムにも通うようになった。その後は総合格闘技の大会に出場するようになり、優勝争いにも絡む実力をつけた。また、女子プロレス団体のリングにも時々立つようになって知名度も上がってきている。この大会では常連となっており、2回優勝している。今回も優勝候補だ。
ゴングが鳴った。米子は動かなかった。その場で腰を僅かに落としてガード上げて顎を引いた。ドスコイ松本はノーガードだった。ノーガードはドスコイ松本の特徴的なスタイルで、ガードは必要ないという強さのアピールだった。ドスコイ松本が右腕を振りながら突進した。ラリアットだった。米子はその腕を潜りながら前方にダッシュすると松本の方に向き直って構えた。松本も振り返り、今度は左腕を伸ばして突進した。米子はそれも同じように潜って避けた。ドスコイ松本はゆっくり向きを変えると頭と肩を低くして米子に向かって全力で突進した。『ぶちかまし』だった。米子が低く腰を落として両腕で上半身をガードする。
『ドス!!!』
ドスコイ松本の頭と右肩が米子のガードに激しくぶつかる。米子は車に跳ね飛ばされたように後ろに飛び、ロープに背中がぶつかった。米子はなんとか姿勢を保った。激しい衝撃に米子は焦った。ガードが無かったら失神していたと思った。米子はガードをしっかりと構えた。
ドスコイ松本が「ふんっ」と鼻を鳴らして米子を見る。その表情には余裕があったが米子の美しさに嫉妬していた。ドスコイ松本が再び頭と肩を低くして米子に突進する。これで決まると思った。美しい花をもぎ取って握りつぶすように米子を破壊したいと思った。
米子は知床半島でヒグマと戦った時の事を思い出していた。ヒグマの突進に比べればドスコイ松本の突進など恐るるに足りないと思った。獣の臭い、時速50Kmの褐色の塊の突進。足を撃っても止まらなかった。全神経体を研ぎ澄まして突進を躱した。いや、体が勝手に反応して動いていた。
米子もドスコイ松本に向かって突進してジャンプした。跳び箱を跳ぶ要領でドスコイ松本の低くなった背中に手を着くと両足を広げて高く跳びあがった。ドスコイ松本が米子の股の下を通り抜けてつんのめった。
「おおーーー」 「空中殺法かよ~」 「魅せるなぁ~」
会場から声が上がる。
788 名無し 11/15(土) 11:28:02.45
JK飛んだーーーーーー! おもしれえーーー
789 新日命 11/15(土) 11:28:03.57
メキシコプロレスかよ!
ドスコイ松本がリング両手を着いて振り返って米子を見る。目が合う。米子は両手を降ろして呼吸を整えながら冷静にドスコイ松本を見ている。ドスコイ松本が立ち上がると「ウオー」と叫びながら突進する。米子が動く。
『ゴツ!』
弾丸のように宙を舞う米子のスカートから出た白い生足の膝がドスコイ松本の鼻に突き刺さった。カウンターの飛び膝蹴りだった。ドスコイ松本が一瞬上を向くと突進が止まり、そのままリングに沈んだ。
「えっ?」 「おおっ!」 「うおーーー」 「すげっ」
会場から声が上がる。
「凄い! 完璧だよ!」
浜崎里香が驚きの声を上げる。
「これは効いたな」
猪波が声を漏らす。
798 名無し 11/15(土) 11:30:06.33
出た、真空跳び膝蹴り! 古いか
799 ちゃらんぽ 11/15(土) 11:30:12.56
スゲー、セクシー膝蹴り、漏れも失神KO!
800 おぱんちゅうなぎ 11/15(土) 11:30:34.58
これは痛いンゴ でも正面から喰らいたい パンツ見えるかも
レフリーがカウントを数え始める。ドスコイ松本の体が僅かに動いた。
「ファイブ!」
レフリーの声が響く。ドスコイ松本の頭の中に小学生の頃からの映像が高速で蘇る。クラスの皆が『ブス』、『デブ』と罵る。ドキドキしながら相撲道場を見学した。激しい稽古。強くなった自分。誰も自分をイジメなくなった。中学生の頃はクラスの中心グループにいた。男子とも仲良くなった。クラスメイトが柔道の試合の応援に来てくれて嬉しかった。高校生の頃はレスリングに打ち込んだ。部活のみんなが自分を頼りにしていた。強くなる事で人生が変わった。もっと強くなりたいと思った。
「セブン! エイト!」
レフリーのカウントが響く。
「まだダメ。負けたくない・・・・・・」
ドスコイ松本が呟きながら体を捻ってリングに両手を着いた。そして立ち上がった。
「やれるのか!? おいっ!」
レフリーが確認する。
「やれます。やらせてください」
ドスコイ松本が絞り出すように言った。まだ意識が朦朧としていた。
「おおーーー」 「立ったぞ」 「大丈夫なのか?」 「さすがドスコイ!」
会場がざわめく。
「両者中央へ」
「ファイト!」
レフリーの声が響く。
「米子、タックルに気を付けて~!」
浜崎里香の声が飛ぶ。ドスコイ松本が珍しく顔面をガ-ドする。米子の攻撃を恐れているのだ。朦朧とした意識の中、米子が死神のように見えた。見えるだけでなく確かに感じた。死の匂いとオーラを。
ドスコイ松本が左ジャブと右ストレートのワンツーを打ち下ろすように放った。米子ガードしながら懐に入るために姿勢を低くして前に出る。ドスコイ松本が左右の指を組み合わせた手を上から振り降ろす。
『ドゴッ』
米子の頭頂部にダブルスレッジハンマーが炸裂した。激しい衝撃に米子は一瞬何が起こったのかわからなかった。身長差は思った以上のハンデだった。米子は真上からの攻撃を予測できなかったのだ。景色が歪んでクラクラした。歪んだ視界に海草のようにゆらゆら揺れるドスコイ松本の足が見える。米子は全身の力を使って飛び込むようにして右カーフキックをドスコイ松本のふくらはぎに叩き込んだ。米子の鍛えられた鋼鉄のような脛がドスコイ松本ふくらはぎの筋肉と神経を破壊した。ドスコイ松本が両腕を外側から振って米子の頭を挟んで叩こうとするが米子は飛ぶようにして後ろに下がる。ドスコイ松本の両腕が大きく空を切る。惰性で前に出たドスコイ松本の左ふくらはぎに米子右のカーフキックが再び炸裂する。米子が距離を取る。ドスコイ松本が米子を捉えようと前に出るが神経が麻痺した左足が思うように動かない。米子は距離を取りながら時計回りに動いて脳と視界の回復を図る。ドスコイ松本がそれについて行こうとするが麻痺した左足に感覚が無く、動きがぎこちない。動いていた米子が足を止めた。誘ったのだ。ドスコイ松本が前に出る。米子が跳ぶ。
『ガコッ!』
米子の上段飛び回し蹴りが炸裂した。右足の甲がこめかみに綺麗にヒットする。ドスコイ松本は両膝をリングに着けたが倒れなかった。
米子が低く跳んで両足でドスコイ松本の首を挟んで足首がクロスさせた。米子が体を左に大きく捻る。ドスコイ松本がリングに右手を着いて倒れるのを堪える。米子が両足を絞める。ドスコイ松本が米子に足で首を絞められたまま阿修羅のような形相で立ち上がった。米子は逆さになりかけたが腹筋を使って上体を持ち上げる。スカートが完全に捲れ、黒いショートスパッツから伸びた白い両足が絞め続ける。米子を振り解こうと体を大きく振りながら立ち続けるドスコイ松本。首に足を絡めて逆さにぶら下がるようにして絞める米子。
「おおおおおーーーー」 「うおーーーー」 「何だこれ~!」 「スゲーーーー!」 「絞めろーーー」 「米子いけーーー!」 「米子―――」 「米子!」 「米子!」
会場が一気に湧いた。
「米子~ 絞めろ~! 落とせーーーーー! 落とせーーーーー!」
「沢村さん、絞めろ~! そのまま! 落とせーーー!」
浜崎里香と猪波が絶叫する。
832 無敵マン 11/15(土) 11:32:12.31
すげー、実況してる場合じゃねえ
833 おぱんちゅうなぎ 11/15(土) 11:32:12.31
パンツ丸見えだけどスゲー! 落とせーーー
ドスコイ松本が顔を真っ赤にして目を見開きながら両手で米子のクロスした足首を掴んで外そうとする。
『ビキッ!』
「ぐおっーーー」
米子が腹筋の力を使って勢いよく上半身を垂直に持ち上げてドスコイ松本の鼻に強烈な頭突きを打ち込み、ドスコイ松本の鼻が潰れた。ドスコイ松本は声を上げると米子の足首を掴んでいた手を放した。
「スゲッ!」 「うおーーー」 「強烈だな」 「なんだよこれ!」
会場から声が上がる。
840 バキバキ 11/15(土) 11:33:34.56
おいおいなんだよこれ! 軍隊格闘技エグイな
833 名無し 11/15(土) 11:33:35.16
これ反則にならないの? この大会何でもありか?
米子は空中で上体を起こしながら下からドスコイ松本の顔をしっかりと見て絞め続けるが、プリンセス・エリカとの試合のダメージとドスコイ松本の『ぶちかまし』と『ダブルスレッジハンマー』のダメージが残り、疲れがピークになっている。頭に血が上り、呼吸が荒くなる。米子は少しでも呼吸を楽にしようと右手で引き千切るようにスクールリボンを外した。
「米子!」 「米子!」 「米子!」 「米子!」 「米子!」
会場から米子コールが沸き上がる。ドスコイ松本の顔が真っ赤で目を瞑り、鼻から血がダラダラと流れている。米子も頭に血が集って頭がズキズキと痛み、視界がボヤけ始めたが最後の力を振り絞って絞める。米子の視野が赤くなってきた。レッドアウト状態だ。
ドスコイ松本がガクッと崩れ落ち、米子は背中からリングに落ちた。ドスコイ松本が俯せに倒れて動きを止める。
「ダウン!」
レフリーがドスコイ松本の顔を覗き込むと白目を剥いて泡を吹いている。カウントするまでもなかった。
「KO! KO! 勝者アサシン米子!」
レフリーが手を振りながら上げて、大きな声で米子の勝利を宣言した。
「うおーーーーーー!」 「おおーーーーー!」 「スゲーーーーー」 「やったーーーー」 「米子!」 「米子!」 「米子!」 「米子!」
会場が割れんばかりに盛り上がる。ドスコイ松本のセコンドとドクターがリングに入って倒れたドスコイ松本の看護をする。米子も意識が朦朧としてすぐには起き上がれない。
米子がゆっくりと起き上がってコーナーに戻る。腕を捲った白いスクールYシャツにブルーのタータンチェックのスカートに黒いオープンフィンガーのグローブ。美しい素足。格闘技大会優勝とはチグハグな姿が観客の目に焼き付いた。観客からの惜しみない拍手と喝采が続いた。
米子の生きて来た世界は任務のために殺戮を重ね、勝っても誰にも褒められず、誇る事もできない戦いの連続だった。しかしリングでは初めて声援を受け、勝つ事で拍手され、称賛された。ここは今まで生きて来た世界とは違う表舞台の世界なのだと思った。そしてまた元の世界に戻るのだ。
852 名無し 11/15(土) 11:34:52.11
キタ―――(゜∀゜)―――― !!
853 無敵マン 11/15(土) 11:34:52.18
٩(๑>∀<)۶ヒャッホー! 制服JK勝利!! やっぱカワイイは正義!!!
854 名無し 11/15(土) 11:34:53.34
凄い試合だったな、このJKマジで強い いいもの見せてもらったわ
855 けっこう仮面 11/15(土) 11:35:02
マジで最強ヒロイン爆誕の瞬間 しかもJK しかも制服 しかもカワイイ!!!
「米子、いや、沢村さん凄すぎるよ! ホント凄い! 感動したよ! ううっ、ううーーー 凄いよ ううっ」
コーナーで待っていた浜崎里香が米子に抱きついて涙を流す。
「やったな! やったな! 勝ったぞ、沢村さん、勝ったぞ! 優勝だよ!!」
猪波も目を潤ませて米子の肩を何度も叩いた。
リングに4人の選手が並んでいた。40kg級、50kg級、60kg級、無差別級の優勝者だ。それぞれが主催者からトロフィーと目録を貰い、マイクを向けられて感想を述べた。
「アサシン米子選手、凄かったですね~、現役女子高生なんですってね! 制服姿が斬新です。会場も大声援でした。初出場での無差別級優勝の感想をお願いします」
米子の勝利を称えたリングアナが米子にマイクを差し出す。
「勝てて良かったです。ありがとうございました!」
米子はそれだけ言うと深く頭を下げた。
「うおーーーーー!」 「カワイイ~~!」 「ファンになったぞーーー!」 「プロデビューしてくれーーーー」 「こっち向いて~」 「また見せてくれーーー!」 「マジかわいいーーーー!」
「米子!!」 「米子~~!」 「米子!!」 「米子!!」 「米子!!」 「米子!!!」 「米子―――――――!」 「米子!!!」 「米子!!!」
会場が大いに湧いて米子コールが巻き起こった。
猪波が運転するマイクロバスが首都高4号線を走っていた。
「しかし今日はいい日だった! 小宮君と黒木君も頑張ったし、なんといっても沢村さんの活躍は予想外だったよ。まさか無差別級で優勝するとはなあ。里香、いい友達を連れて来てくれてありがとう!」
猪波が興奮しながら上機嫌で言った。
「米子ちゃん、もうプロデビューしちゃいなよ。男子の大会以上に盛り上がってたよ、きっとオファーがいっぱい来るよ」
小宮が言った。
「そうだよ。大学生やりながら格闘家やればいいじゃん!」
浜崎里香が言った。
「ネットの書き込みが凄い事になってますよ。ファンクラブが出来そうな勢い!」
杉田穂香が嬉しそうに言った。
「こんな事言ったらなんだけど、私、怪我して良かったかも。だってウチの道場が有名になったし、凄い試合観れたもん。鳥肌立ったよ。私の替わりに沢村さんが戦ってくれてると思ったら胸が一杯になったよ。あんな凄い試合、私にはできないよ」
山口梨花が目を潤ませて言った。
「俺も小宮君も沢村さんにパワーを貰ったよ。おかげで小宮君は3回戦まで、俺は決勝までいけたよ。優勝はできなかったけどね。それにしても沢村さん凄いセンスだよ。いくら格闘技経験あるといっても、親戚の叔父さんに軍隊格闘みたいなの習っただけなんだろ? プリンセス・エリカ戦なんか最初は完全に打ち負けてたのに逆転するし、ドスコイ松本戦なんかパワーに押されながらも跳び技の連続だったし、びっくりしたよ。もう競技じゃなくて潰し合い、殺し合いだよ! 軍隊格闘凄いよな!」
普段は口数の少ない黒木が饒舌になっている。
「沢村さん、トロフィー、しばらく道場に飾らせてもらっていいかな?」
猪波が言った。
「いいですよ。部屋にあっても邪魔なだけですからずっと飾っておいてください」
米子が言った。
「くーー、言ってみたいセリフだよ! 沢村さん、たまには道場に遊びに来てよ。必殺技いっぱい教えてよ! ご飯くらい奢るからさ」
杉田穂香が言った。
「でもどうするんだ? きっと道場に取材依頼も来るだろうし、今日の大会を観たみんなは次を期待してると思うぞ」
猪波が真面目な顔をして言った。
「取材依頼が来たら適当に断って下さい。私は飛び入り出場なんで次は考えてません。いい思い出が出来ました。気晴らしになったから受験勉強頑張ります」
米子が言った。
「勿体ないなあ。プロになって活躍すればカワイイから芸能界にも入れるかもしれないのに。大学に行って普通のOLになるよりずっといいと思うけどな」
小宮が残念そうに言った。
「プロとか芸能界とか興味ありません。普通が一番です。それよりお腹が空きました」
米子が言った。
「よし、高速降りたら何か食べよう。沢村さん、何か食べたいものあるかな? もちろん奢らせてもらうよ。道場のいい宣伝をしてもらったからね」
猪波が言った。
「『大将』の餃子とチャーハンが食べたいです。あと唐揚げも」
「ははは、欲が無いなあ。あそこは安さがウリのチェーン店だろ。もっと高級な所でもいいんだぞ。中野の『舗古珍楼』なんかどうかな。コース料理もあるし、北京ダックやフカヒレとかツバメの巣とかもあるぞ」
「大将がいいです。あそこの餃子が好きなんです、ニンニク激増し」
米子が言った。
「沢村さんって欲が無いっていうか、自分の価値がわかってないんだよなぁ。まあ、そこがいいんだけどね」
浜崎里香が腫れた顔で楽しそうに言った。




