Chapter6 「アサシン VS キック王者プリンセス・エリカ」
「赤コーナー、プリンセス・エリカ~」
レフリーが対戦相手をコールした。エリカは顔もなかなかの美人なので人気があり、テレビのバラエティ番組に出演する事もあった。エリカはセパレートの真っ赤なコスチュームで髪型は頭皮が網目模様に見える様に編み込んだドレッドヘアだった。女子キックボクシングミドル級日本チャンピオンだったエリカは打撃に絶対の自信を持っていた。制服を着てリングにあがるようなふざけた女子高生などに負ける気がしなった。元チャンピオンのプライドに賭けて負ける訳にいかなかった。
ゴングが鳴った。米子は軽やかな足取りで時計回りに動きだした。いきなりエリカのジャブが飛んできた。米子はスウェーバックで避ける。続けて右ストレートが顔を目掛けて飛んできたが米子はダッキングしながら左腕で顔面をガードする。エリカの拳がガードに当たって鋭い音を立てる。米子は鋭いパンチに焦ってガードを固める。エリカの速い連打がガードに何発も炸裂する。コンビネーションのボディーブローが2発米子の脇腹にヒットしたが米子が耐える。米子は防戦一方となった。競技としての格闘技術はエリカの方が上だと確信した。
米子が足を使って動く。エリカが追いかけるようにしてパンチを連続で繰り出す。米子はガードの隙間から相手の動きを観察する。エリカの軸足に力が入った。<来る>。米子はエリカの右のキックを予測して防御のために素早く組み付いた。そこから激しい首相撲になった。首を取り合いながらお互いに膝蹴りを出して相手のボディーと顔面に打ち込む。首を取る回数と膝蹴りの数はエリカの方が多かった。米子のスカートから繰り出される膝蹴りは鋭かったが、エリカの膝蹴りは重かった。米子は重い膝蹴りを何発も顔とボディーに受け、受ける毎に頭と体の奥に衝撃が走った。身長はほぼ同じだが、体重はエリカの方が10キロ重い。その重さは筋肉量の差だった。リングの中央で激しい膝蹴り応酬が続く。傍目から見てもエリカが優勢だった。米子はなんとか守勢を保っていた。
「ウオ~~~!」 「スゲーーーーー」 「ガチかよ」
会場が盛り上がる。米子の鼻から血が流れ、白いスクールYシャツが赤く染まっていく。米子は相手とのテクニックの差を感じながらも踏ん張った。頭の中で訓練所の格闘訓練を思い出していた。中学1年生の米子は自衛隊の格闘教官やプロの格闘家と連日激しい格闘訓練を行った。まだ体が出来ていない年齢で教官達の重い攻撃を受け続けた。数え切れないほど失神もした。常に口の中と鼻の中が切れた状態で、腫れた顔のまま毎日格闘訓練を行った。訓練所に留まるために必死で訓練に耐えた。米子には他に行く場所がなかったのだ。
2人は首相撲をしながらコーナーに近づいていった。一瞬だった。米子が力を抜いた隙にエリカの首投げを喰らってリングに背中を叩きつけられた。肺に衝撃が伝わり息が詰まる。米子は這うようにしてリングサイドに逃れようとしたが、エリカが素早く立ち上がって寝転がった米子の脇腹に強烈なキックを入れた。エリカは得体の知れない相手とのグランド戦を避け、得意な打撃で勝負して様子を見る戦術を取った。米子は転がってリングの外に転落した。コンクリートの床に体を打ちつけたがすぐに起き上がった。会場は盛り上がり、歓声がうるさいほどだった。
「戻って!」
レフリーの指示が飛んだ。米子はリングの縁に両手を着いてをよじ登ってエプロンサイドに立った。トップロープを両手で掴むとジャンプしてスカートを翻がえしながらトップロープを飛び越えてリングの中に着地した。
「おおーーー」 「いけるじゃん」 「体軽いな」
会場から声が上がる。
米子とエリカはリングの中央で向かい合った。エリカの表情が険しくなる。まさか無名の女子高生がここまで粘るとは思っていなかった。しかもふざけたような制服姿。主催者側が用意した大会を盛り上げる為の『色物的なキャラクター』だと思っていた。少し格闘技をかじった売れないアイドルを売り出すための手段だとも思った。しかし何かが違った。米子に今まで嗅いだことの無い匂いとオーラを感じたのだ。それは死の匂いとオーラだったがエリカには理解できない種類のものだった。そのオーラは光をも飲み込む邪悪で恐ろしい黒い霧のようだったが、反して米子の瞳は驚くほど澄んでいた。エリカは気味が悪かった。得体のしれない恐怖から逃れるためにも米子を早く倒したいと思った。
エリカがいきなりラッシュに出た。左右のパンチが米子を襲う。米子は顔面をガードしてボディーは打たせた。米子のしなやかで強靭な筋肉がボディーブローを受け止め、ガードの両腕が赤くなった。エリカの素早いミドルキックとハイキックはギリギリのタイミングでなんとかブロックしていた。
1分以上にわたって連続して叩き込まれるボディーへの強烈なパンチにさすがの米子も痛みを感じ、内臓がダメージを受けた。
「エリカ、コンビネーション!」 「続けろ! 相手嫌がってるぞ!」
エリカのセコンドから声が飛んだ。米子は息が荒くなっていた。一度止まった鼻血が再び流れ始め、両肩も下がってきている。
「あーあ、さすがにここまでだな」 「もうダウンするだろ」 「効いてるな」
「でも無名の新人にしては良くやったよ」
会場も米子の負けを確信し始めた。
「エリカ~行けーー!」 「エリカ~~そんな素人早く倒せーー!」 「倒せーーー!」
会場からプリンセス・エリカのファンの声援が飛んだ。
「米子~ 耐えて~! お願い!」
浜崎里香が叫んだ。
455 バキバキ 11/15(土) 10:58:11.09
この試合ガチだな
456 名無し 11/15(土) 10:58:35.88
JKピンチ! ガンバレ
457 名無し 11/15(土) 10:59:22.17
実力差ありすぎ JKカワイソス、でもJKにがんばってほしい
米子はエリカの猛攻にひたすら耐え続けた。業を煮やしたエリカが米子をから僅かに離れると力の入った右ハイキックを放とうとした。米子はこの瞬間を待っていた。素早く一歩踏み込んだ米子の強烈な金的蹴りがエリカの股間にヒットした。金的蹴りは男性ほどでは無いが、女性にもかなりの効果がある。特に恥骨にまともに入れば痛みは相当のものだった。エリカにとっても経験したこと無い痛みだった。正式なキックボクシングやシュートボクシングの試合なら反則となるところだが、レフリーは反則をとらなかった。エリカが両足を閉じ、腰を落とした。米子がラリアット気味に首に腕を絡ませてエリカをリングに倒した。
「おーーやるじゃん」 「反撃か?」 「意外と粘るなぁ」
観客席がざわつく。米子が素早く馬乗りになるとマウントポジションからエリカの顔面に左右のパンチを繰り出した。エリカは両腕をハの字にして顔面をしっかりガードする。米子は左右のガードの間に突き刺すようにエリカの喉を狙って右手の『貫手』を突き出した。
貫手は訓練所の教官から教わった技だった。教官の話では貫手は鍛えれば畳をも貫くことができるとのことだった。米子は教官の言葉を信じて訓練所でサンドバックと立木に向かって貫手の訓練をした。突き指になり、指の爪が割れてもテーピングをして訓練を続けた。最終的には板を割ったり、貫手をスイカに貫通させて真っ二つに割ることができるようになった。今も自宅で砂利を入れた小型サンドバックを使って脛を鍛えると同時に貫手を鍛えている。
米子は闘争本能というよりは生存本能だけで戦っていた。目の前の相手が反撃できないように完全に破壊したかった。完全な破壊は死を意味した。
貫手に手応えがあった。揃えた4本の指先がエリカの首の付け根に深く突き刺さった感覚だ。エリカは想定外の部位を攻撃され、予想以上のダメージと激しい痛みを感じて息が止まった。咳き込みたいが喉が思うように機能しないため咳き込むことができずに呼吸困難になった。たまらずガードを崩して顔を右横に向けた。米子はすかさずエリカのこめかみに体重を乗せた右の肘を打ち込んだ。『ゴツ』というイヤな音が響いた。エリカが慌てて顔を戻すと、米子と目が合った。エリカは米子の水晶のように透き通った透明な瞳の奥に広がる漆黒の闇を恐怖を感じながらも見入ってしまった。再び米子の強烈な貫手が首の付け根に刺さった。エリカのガードが開くと米子は額をエリカの鼻に叩き込んだ。強烈な頭突きにエリカの鼻の軟骨が折れた。立て続けにフックを打つように右肘をエリカの顔面に打ち込む。エリカの目からは条件反射で涙が流れていた。意識が薄れ、両腕を広けるようにリングに伸ばしてガラ空きになったエリカの顔面に米子は左右の肘打ちを交互に叩き込む。米子の上体がエリカの体の上で『起き上がりこぼし』のように激しく上下した。その攻撃は米子の意志ではなく、訓練所で脳の奥に書き込まれた殺戮プログラムが無意識のうちに実行された結果だった。
会場が「うおーーーー」という地響きのような歓声に包まれた。
「米子~、イケーーーーー!! 潰せーーーー!」
浜崎里香が絶叫するように声を上げた。
「ストップ! ストップ!」
レフリーがしゃがんで止めに入ったが米子の肘打ちは止まらない。米子の白いスクールYシャツがエリカの血で赤く染まった。エリカは何が起きているのか理解できなかった。意識が薄れる中、今までに感じた事のない恐怖を感じた。もはや痛みは感じなかったが、闇の中をどこまでも落ちていくような感覚だった。そして暗くなった。レフリーが後ろから米子を羽交い絞めにして引き剥がした。エリカは大の字になったままピクリともしなかった。
「ドクター!」
レフリーが叫んだ。白衣を着た大会ドクターと看護師がコーナーの階段を登ってリングの中に駆け込んだ。
リングの上でジャッジ3人とレフリーが協議していた。米子がレフリーの警告を聞かなかった事が問題視されたのだ。米子はコーナーポストに寄りかかってその様子を見ていた。
協議が5分ほど続いた後、レフリーがマイクを握った。
「アサシン米子選手の反則について協議した結果、アサシン米子選手によるプリンセスエリカ選手への攻撃は妥当と判断します。 勝者、アサシン米子!」
会場にレフリーの声が響いた。米子がレフリーの指示に従わなかったのは無心になり、尚かつ会場の歓声でレフリーの声が聞こえなかったと判断されたのだ。
「オーーーーーー」 「ウオーーーーーー」 「エエーーーーーーーー?」
「マジかーーーーー」 「やったーーー」 「すげーーー」 「米子! 米子! 米子!」
会場が割れんばかりに湧いた。
599 名無し 11/15(土) 10:02:57.88
何この子? エリカに勝っちゃったよ! どうすんのこれ?
600 無敵マン 11/15(土) 10:02:58.20
すげえ番狂わせ、この子容赦ねえ、これが軍隊格闘技? エグイ、興奮した
601 名無し 11/15(土) 10:02:59.03
JK強えーーーーーー! 米子最高! カワイイは正義!
602 名無し 11/15(土) 10:02:59.54
米子は俺の嫁!
米子は道場生達と控室にいた。
「いやー、沢村さん凄かったねえ、興奮したよ。まさか勝つとはねえ。大勝利だ!」
猪波が満足そうに言った。
「米子ちゃん最高だよ! 地獄突きみたいの凄かったね。俺も軍隊格闘技習おうかな」
小宮が興奮している。
「私も早く怪我を直して次の大会頑張るよ」
山口梨花が言った。
「沢村さんが私と里香の仇をとってくれたみたーーい!」
杉田穂香も腫れた顔で笑顔になって嬉しそうに言った。
「沢村さん、感動したよ。涙出ちゃったよ。カッコ良かったよ。ホント凄かった。怖いくらいに凄かったよ」
浜崎里香が涙を浮かべて言った。
「ありがとうございます。勝てるとは思わなかったけど、体が勝手に動きました」
米子が言った。
「次の相手は多分『ドスコイ松本』になると思うけど無理しなくていいよ。なんなら棄権してもいいぞ。無名の新人がプリンセス・エリカに勝っただけでも大金星だ。『猪波道場』の名も上がったよ。本当によくやってくれた。いい宣伝になったよ」
猪波が満面の笑顔で言った。
「ネットもザワついてますよ。『最強制服美少女JK現る』とか、『アサシン米子って何者?』とか、『カワイイ・強い・セクシーの三拍子』とか書き込みが凄いです」
杉田穂香がスマートフォンを見ながら嬉しそうに言った。
「そりゃそうだよ。シンデレラ級のデビューだよ。猪波道場も沢村さん目当ての入門者が増えるかもしれないな。カワイイって得だよな」
小宮も嬉しそうに言った。
「沢村さんはタイミングを合わせるのと相手の隙を見逃さない判断が凄いよ。天性のものなんだろうな」
黒木が感心している。
「それはそうとシャツが血だらけだよ。次の試合どうするの?」
山口梨花が訊いた。
「一応替えのシャツを2枚持って来てますから着替えます」
米子が言った。
「おーー、やる気満々じゃん」
小宮が言った。
「沢村さん、ドスコイ松本の試合が始まるからこれで観て研究しようよ。録画できるからスロー再生とかできるよ」
浜崎里香がタブレットPCをカバンから取り出して言った。
ドスコイ松本は強かった。相手の選手は体重72キロの打撃系の選手『ボンバー・アリサ』だったがその打撃は通用しなかった。ドスコイ松本の巨大なビア樽のような体がすべての打撃を弾き返した。ドスコイ松本の攻撃手段の一つである前頭部や肩から突っ込む『ぶちかまし』は強烈で、ボンバー・アリサは何度もボーリングのピンのように弾き飛ばされた。
「強いね。この体当たり喰らったらヤバいよね」
動画を観ながら浜崎里香が言った。
「でも動きが直線的だし、動き出しの動作があるから良く見てれば躱せるよ。それにヒグマの突進に較べたら大したことないよ。あの時はライフルがあったから勝てたけどね。それよりこっちの攻撃をどう効かせるかだよ。身長も高いし、防御力が強そうだよね。動き回って飛び道具でいくかな」
「ヒグマ? 飛び道具?」
「飛び膝蹴りとか飛び回し蹴りだよ。カウンターが狙えるんだよ。得意なんだよね」
「そんな技使えるんだ? そうそう、さっきの試合で応援の時に『米子』って叫んじゃったけど、怒ってないよね?」
「怒ってないよ。リングネームがアサシン米子だもん。私だって里香って叫んじゃったし」
「良かった。1年生の時に米子って呼んで腹パンされたの覚えてるんだよね。怖かったよ」
「あれは浜崎さんがマウント取ってきたからだよ。まあ米子って呼ばれたのもあるけどね。これからも学校で米子って呼んだら腹パンだよ」
「わかったよ、呼ばないって。でも私達ってあれがきっかけで仲良くなったよね」
「そうだね。人を殺すのも手伝ってもらったし。確か3人だったよね」
「運ぶのを手伝っただけだよ。でも、あれは私がきっかけ作ったんだよね。まさかあんな事になるなんて思わなかったけどさ。だけど沢村さんと仲良くなれて良かったよ。メチャクチャ頭が良くて、超美人で、おまけに強い。おかげで私達のグループのカーストも上がったよ。沢村さんってやっぱり不思議だよ。今までどんな人生を送ってきたか興味があるよ」
「知らない方がいいと思うよ。100人くらい殺しちゃってるし。私、格闘より拳銃の射撃の方が得意なんだよね。素手で殺すより簡単だよ。パン パーンってね」
米子は指で拳銃の形を作ると撃つ真似をした。
「もうやめてよーー、沢村さんが言うと冗談に聞こえないんだよ」
「練習用のエアガン何丁も持ってるから貸してあげようか? 一人暮らしだから防犯グッズにもなるんだよ」
「遠慮しとくよ。でも一人暮らしは羨ましいね。いつかしてみたいよ。そういえば沢村さんは何で孤児になったの?」
「両親と弟が極左グループの過激派に殺されたからだよ。私のお父さんは警視庁の公安刑事だったからその事が関係してたみたい」
「ごめん、変な事聞いちゃったよね」
浜崎里香がはっとした顔になって言った。
「いいよ、もう昔の事だから」
米子が落ち着いた声で言った。
「じゃあそのあと孤児院とか養護施設に入ったの?」
「詳しくは言えないけど特別な施設に入ってたよ」
「そうなんだ。でも沢村さんは凄いよ。もし私が男だったら絶対に惚れてるよ」
「やめてよ。浜崎さんって百合?」
「違うよ。もう別れちゃたけど去年まで彼氏いたし」
「そうなんだ」
「沢村さんは彼氏作らないの? 沢村さんなら選び放題じゃん」
「生きていく上で足枷になるからいらないよ。本当は友達も作る気なかったんだよね」
「でも私達と友達になってくれたよね?」
「友達も悪くないと思えるようになったよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「それはそうと次の試合、勝たないとね」
米子が落ち着いた声で言った。
「沢村さんなら勝てるよ。そんな気がするよ」
「じゃあ祈っててね」
「うん。真剣に応援するよ。セコンドはまかせてね」
「頼りにしてるよ」




