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Chapter42 最終話「最後の戦闘 丹沢山系(Normal Version)」

Chapter42 最終話「最後の戦闘 丹沢山系(Normal Version)」


 米子は200m先の戦闘状況を大口径双眼鏡で見ていた。飛び交う曳光弾に響く銃声はまさに戦場の光景だった。今まで経験したどの戦闘よりも規模が大きく、敵も強かった。歩兵戦闘車の強力な火力に脅威を感じ、戦闘員もよく訓練されていて強いと感じた。ロケーションも敵地なのでまともに戦えば負ける可能性が高いという推測を米子の頭脳が弾き出した。

《ビーナスよりマーズ、敵の戦闘車両が出て来たら。接近して『SMAW』を撃とう》

ミントがインカムで言った。

《マーズよりビーナス、不用意な接近は危険だよ。命令があるまでは待機して》

《ビーナス了解。でもこのままだとヤバイよね。ブラックバードもフクロウも全滅するよ》


 《フェニックスよりブラックバードとフクロウ、現在位置から300m後退せよ》

《フェニックスよりミミズク、後退するブラックバードとフクロウを現在位置で援護せよ》

木崎が命令した。

《ミミズクB班沢村了解。現在位置から敵まで200m。退避するブラックバードとフクロウの援護を実施します》

米子が共通系無線で返答をした。

《マーズより各位、戦闘態勢を取って。退避するラックバードとフクロウの援護をするよ。敵が100mに近づいたら攻撃開始。識別用のスカーフを着用して。 ミミズクA班は右150mに展開してる》

《ビーナス了解、いよいよだね》

《サターン了解、撃ちまくってやるぜ》

《ジュピター了解、接近する敵を狙撃します》

《マーキュリー了解、私達の強さの見せ所すっよ》

ミント、パトリック、樹里亜、瑠美緯は胸ポケットから取り出したピンク色のスカーフを首に巻いた。


 赤い狐の戦闘員40人が時速5kmで進むBMP-2歩兵戦闘車と」BTR-80装甲兵員輸送車の横に広がってジリジリと前進して来た。BMP-2とBTR-80のサーチライトが地表を舐める。


 『ドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドド』

赤い狐の戦闘員が秘匿していた簡易トーチカから汎用機関銃を撃ち始めた。

《ジュピターより各位、2時の方向に敵のトーチカを発見、距離250》

《こちらビーナス、『SMAW』でトーチカを潰したけど位置を分からないよ》

ミントが言った。

《ジュピターよりビーナス、これより敵のトーチカに曳光弾を射撃します》

樹里亜ボルトを引いてチェンバーに曳光弾を指で装填すると暗視スコープを覗いて簡易トーチカに狙いを付けた。

『バスッ』

樹里亜の撃った曳光弾が暗闇に緑色の光の線を描いて飛び、簡易トーチカの銃眼に当たって緑色の破片が飛び散った。ミントはそれを見て簡易トーチカの位置を把握した。ミントは伏せた姿勢から起き上がり、右膝を地面に着けて『SMAW』を肩に載せて構えた。


 ミントが光学照準器で慎重に狙いを付けた。

『ドンッ! バシューー!』

『ドドーーーーーン!!』

汎用弾が真っ直ぐ飛んで簡易トーチカに命中して炸裂した。


 《こちらビーナス、トーチカを破壊》

《マーズ了解、見事だったよ、訓練した成果だね》

トーチカの爆発の衝撃波と爆風が50m離れた4番ホールと5番ホールの間の林の木々の枝と葉を揺らした。揺れた葉の裏側で眠っていた、3月に成虫になったばかりの『ナミアゲハ』が振動に驚いて闇の中に舞い上がった。


 BMP-2とBTR-80が停止した。トーチカの爆発を見て警戒したのだ。赤い狐の戦闘員達も足を止めた。ブラックバードの隊員とブルーバードの隊員達が米子達の横を走って後退していった。

《ビーナスよりマーズ、チューブの入ったリュックを持って来て。こっちにはあと1発しかないよ》

《マーズ了解、すぐに持って行く》

「ビーナスの所に『SMAW』のチューブを届けてくるよ」

米子が樹里亜に言った。

「了解です。私は敵が動き出したら撃ちます」

《マーズからサターン、敵が動いたら掃射をして下さい。心理的プレッシャーを与えます》

《サターン了解。任せとけ》

米子はチューブが2本入ったリュックを2つ左右の肩に掛けると64式小銃を持って走り出した。


 「チューブ持ってきたよ」

米子はミントの横の伏せながら言った。BMP-2とBTR80に搭載されたサーチライトが米子とミントが伏せる辺りを照らした。

「あのライト邪魔だね。動けないよ。こんな事なら対戦車用のHEAT弾も持ってくるべきだったよ」

ミントが言った。

「ジュピターに狙撃してもらおう」

米子が言った。


 4番ホールと5番ホールの間の林の中に2人の男が潜んでいた。

「Эй, вражеский снайпер выстрелил трассирующей пулей.(おい、敵のスナイパーが曳光弾を撃ったぞ)」

観測用の望遠鏡を覗いていた観測手の『メドベージェフ』が言った。

「О, я это видел.(ああ、見てたよ。補足した)」

SV-98スナイパーライフルのスコープを覗いていた『ミハイロフ』が言った。

「Расстояние — 500 метров. Сможете ли вы это сделать?(距離は500mだ。 やれるか?)」

メドベージェフが訊いた。

「Конечно. У меня было много успешных снайперских выстрелов на расстоянии более 1000 метров в Украине.(当たり前だろ。俺はウクライナで1000m以上の狙撃を何回も成功させたんだぜ)」

ミハイロフが得意げに言った。ミハイロフがスコープの中に敵のスナイパーを捉えた。敵のスナイパーもこちらに銃を向けている。

「Будь ты проклят, японец(くたばれ日本人)」

ミハイロフが息を止めてトリガーに人差し指掛けた。スコープの前を何かが横切り、ミハイロフの顔の周りを舞った。ミハイロフがスコープから目を外すと舞っていたのは『ナミアゲハ』だった。ミハイロフが手で追い払ってもナミアゲハはヒラリと身を躱して顔の周りを舞い続けた。

「Черт возьми, ты мешаешь, убирайся с дороги! (くそっ、邪魔だ、どっか行け!

)」

ミハイロフは何度も手を振って追い払おうとした。しかしナミアゲハは執拗にミハイロフに纏わりついた。その姿は微力を持って何かに抗議するかのようであった。あるいは日本の野山を侵略から守ろうとする何かの意思によるものかもしれなかった。ナミアゲハは3月から活動する蝶で江戸時代の博物図鑑『大和本草』にも掲載され、日本人に親しまれてきた春の訪れを告げる蝶である。


 ミハイロフは蝶を追い払うのを諦めてスコープを覗いて引き金に指を掛けた。

『バスッ!』 『ガツッ!!』

ミハイロフが息を止めてゆっくりトリガーを引き切ると同時に頭に衝撃を感じた。SV-98の消炎サプレッサーから7.62x54mmRロシアン弾が飛び出し、僅かにマズルフラッシュが漏れた。ミハイロフは弾丸の行方を確認することなく、地面に伏して2度と起きる事の無い長い眠りについた。ナミアゲハは消えるように春の夜空に舞い上がった。


 樹里亜は敵のスナイパーを探す為に暗視スコープで前方を慎重に観察していた。HOWA―M1500の銃身をゆっくりと右に動かす。暗視スコープの中に小さく動くものがあった。距離は500m。樹里亜は目を凝らした。

<ノイズ?  違う!>

樹里亜が暗視スコープを覗きながら素早くボルトを引いた。瞬きしたら見失いそうな点にさらに目を凝らすと銃身らしき影と人の頭が形として認識できた。手が動いてるようにも見える。樹里亜は息を止めて素早く引き金を絞った。

『バスッ』

HOWA―M1500の銃口から7.62mmNATO弾が飛び出す。暗視スコープの中で何かが光った。

<え? マズルフラッシュ!?>

樹里亜が素早く反応して顔を地面に押し付けるように頭を低くした。

『ガシッ ピシッ』

7.62x54mmRロシアン弾が暗視スコープの側面に当たって跳弾となり、樹里亜の後頭部の肉を2mmほど削って後方に飛んだ。樹里亜は死が自分を掠めていった事を実感した。

「痛い!」

樹里亜が両手で後頭部を押さえて転がって仰向けになった。月の無い夜空には散りばめたように星が輝いていた。樹里亜は何かの存在によって自分達が生かされたような気がした。その存在は厳格な神のゴッドではなく、もっと身近で親しみを感じる八百万の何かだった。


 《マーズからジュピター、敵の車両のサーチライトを撃てる?》

《ジュピターからマーズ、敵のスナイパーを倒しましたがこっちも撃たれました。暗視スコープが壊れたので光学スコープに付け替えます。3分待って下さい。》

《こちらマーズ、ジュピター無理しないで》

米子が言った。

「ジュピターには頼めなないね」

ミントが言った。

BTR-80が動き出した。赤い狐の戦闘員達もその横を歩き出す。

「米子、来るよ!」

ミントが言いながらSMAWの後部にチューブを連結した。

「距離は150mだね。80mを切ったら撃とう」

米子が言った。


 瑠美緯の周りに赤い狐の戦闘員12人が囲むように接近して射撃を開始した。瑠美緯も伏せたままセミオートで撃ち返すが敵は素早く伏せて匍匐前進で移動する。

《こちらマーキュリー、ヤバイっす、囲まれました、敵は強いです》

瑠美緯がインカムで報告する。

《マーズよりマーキュリー、退避して、逃げて!》

米子が叫ぶように言った。

《サターンよりマーキュリー、弾幕を張って援護するから逃げろ!》

パトリックの声がインカムに響いた。

《ジュピターからマーズ、照準器の取り付けが完了しました。マーキュリーを援護します》

《マーズ了解。サターンとジュピター、マーキュリーの支援をお願い、急いで》


 樹里亜は光学スコープを覗いた。光学スコープで見る景色は暗かったがピンク色のスカーフを首に巻いて地面に伏せる瑠美緯の姿を確認することができた。その前方50mに展開する赤い狐の戦闘員の数は20人ほどで、ベレー帽を被った男が手信号で周りに指示を出していた。樹里亜はボルトを引いて排莢すると次弾をチェンバーに装填した。

『バスッ』『シャカッ』 『バスッ』『シャカッ』  『バスッ』『シャカッ』 『バスッ』 『シャカッ』  『バスッ』『シャカッ』

樹里亜は連続して5発を撃った。初弾がベレー帽の戦闘員が倒し、4発が他の戦闘員を4人倒した。どの弾丸も左胸を撃ち抜いていた。

《ジュピターからマーズ、マーキュリーの前方の敵を狙撃。指揮官1名、その他4名を排除しました》

樹里亜が狙撃の成果を報告した。


 『Это снайпер! Командир взвода убит. Четверо других ранены. Он опытный снайпер, отступайте!(スナイパーだ! 小隊長がやられた。他も4人撃たれた。凄腕のスナイパーだ、後退しろ!)』

赤い狐の戦闘員が状況を周りに伝えた。

『Эй, он снайпер. Давайте отступим. Что делает Михайлов?(おいっ、スナイパーだってよ。下がろうぜ。ミハイロフの奴は何をやってるんだ?)』

戦闘員の1人が言うと赤い狐の戦闘員達が後退を始めた。

『ドドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドドドドドド』

パトリックがM240を連射して2人を倒したが、残りは瞬時に伏せて匍匐前進を始めた。

「クソッ、全然当たらないぜ。やつら良く訓練されてやがる」

パトリックが悔しそうに言った。

《マーキュリーからマーズ、敵が逃げていきます。助かりました! あざまる水産です!》

瑠美緯がインカムで喜びの声を上げた。

《こちらサターン、後退する敵に弾を浴びせてやったが2人しか倒せなかったぜ》

《マーズ了解、ジュピター、サターンありがとう。その場で待機して》

米子がホッとした顔で言った。

「やっぱりスナイパーは有用だね。スナイパーが機能すると戦いやすいよ」

ミントが言った。

「うん、ジュピターにはいつも助けてもらってるよね。樹里亜ちゃんになんか奢らないとね」

「このままならボーナス確実だから、みんなで美味しいもの食べに行こうよ。女子大生になるんだからオシャレな所がいいねえ」

ミントが言った。


 『ブロロロロロ~~ロ~~ ギュウ~ン』

BTR-80がエンジンを吹かしてチューブレスタイヤを鳴らし、速度を上げて米子とミントに向かって来た。

「米子、撃つよ!」 

ミントがSMAWを構える。光学照準器の中にBTR-80の正面を捉える。

『ドンッ! バシューー!』 

『ガコーーン  ドガーーーーーーーーーーーーーーン!』

SMAWの後部から後方噴射が噴き出し、真っすぐ飛んだ汎用弾がBTR-80の正面に命中して激しく炸裂した。BTR-80の前面装甲が内側に大きく凹み、装甲の破片が乗員達を襲った。

「命中したよ!」

ミントは肩に担いだSMAWを地面に置くと新しいチューブを素早く連結した。BTR-80は煙を上げながら動きを止めた。


 『ブロロロロロ~~グオ~~~~~ン!』

『ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!』

BMP-2が速度を上げて真っ直ぐ向かってきた。30mm機関砲が火を噴き、曳光弾が米子達の頭上を飛んでいった。

「米子、もう1回SMAWを撃つよ!」

ミントが大きな声で言った。

「わかった、援護射撃をするから予備のチューブをここに置くよ」

米子が言いながら自分が背負っていたチューブの入ったリュックをミントの横に置いた。


 《フェニックスよりミミズク、200m後退してブラックバードとフクロウに合流せよ》

木崎が共通系無線で指示を出したが米子達に聞いている余裕は無かった。ミントが起き上がって米子の前に出ると右膝を地面に着けてSMAWを肩に載せた。米子も地面に片膝を着いて64式小銃を構える。

『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』

米子がBMP-2の横に展開する赤い狐の戦闘員に向けて64式小銃を発砲した。米子の正確な射撃に3人が倒れた。

「撃つよ!」

ミントが叫んだ。

「了解! しっかり狙って!」

米子が叫びながら後方噴射を避けるために右に転がった。

『ドンッ! バシューー!』    

『ガキン!』 『ドガーーン』

BMP-2の前面装甲で爆発が起きたが動きは止まらなかった。

「効かないよ! 汎用弾じゃムリだよ」

ミントが叫んだ。

「さっきのやつより正面装甲が厚いんだよ! 移動して側面を狙おう!」

米子が言った。ミントが伏せて素早く横にあるリュックのチューブを連結した。


 突然周りが明るくなった。BMP-2が照明弾を打ち上げたのだ。米子とミントが伏せたまま空中を舞う照明弾を見上げた。

『ダダダダダ』   『ダダダダダダ』

BMP-2の7.92mm同軸機関銃が火を噴いた。

「私が敵を引き付けるから隙を見てあいつの側面に撃ち込んで」

米子がミントの目を見て言った。

「米子、無理しないでね」

米子が64式小銃を地面に置いて立ち上がるとBMP-2に向かって走りだした。BMP-2のサーチライトが米子を捕らえる。米子は右に60度曲がった。

『ダダダダダ』   『ダダダダダダ』

7.62mm同軸機関銃が火を噴き、地面に着弾したがそこに米子の姿は無かった。インターハイで上位に入賞できるレベルの米子の走力は戦場で頼れる武器だった。BMP-2が停止した。米子は大きく左に曲がってBMP-2に向かって全力疾走した。

『ダダダダダ』   『ダダダダダダ』 『ダダダダダダダダ』   『ダダダダダダ』

再び7.62mm同軸機関銃が火を噴く。米子を追いかけるように弾丸が地面に着弾する。BMP-2は砲塔を旋回させるだけで車体を動かさなかった。ミントが高光照準器にBMP-2を捉える。

《ビーナスからマーズ、敵が側面を見せないよ。正面を向けたままだよ》

BMP-2の進行方向を変えさせて側面から撃つ目論見は外れた。

《マーズからビーナス、そのまま正面に狙いをつけてて》

米子が方向を変えてミント向かって全力疾走する。

『ブロロロロロ~~グオーーーーーーーーーーン!』

BMP-2が米子を追いかけるように動き始めた。


 『グオーーーーーーーーーーン!』

『ダダダダダダダダダダダ』  『ダダダダダダダダダダダ』 

『ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!』

BMP-2が速度を上げながら7.62mm同軸機関銃と30mm機関砲を撃った。

『パシッ パシッ パシッ パシッ パシッ パシッ パシッ パシッ パシッ』

『ボンッ!   バンッ!    バンッ!』

サーチライトに浮かび上がる米子の周りに7.62mm同軸機関銃が着弾して土煙が立ち、30mm機関砲弾が激しく炸裂する。

《マーズからビーナス、まだ撃たないで、私の指示で撃って!》

《ビーナス了解》

ミントは米子を追いかけるBMP-2に狙いを付けるが不安だった。前回は正面装甲を撃ち抜けなかった。米子を信じるしかないと思った瞬間、米子の姿が消えた。ミントの額に汗が流れた。

《マーズからビーナス、射撃用意!》

インカムに米子の声が流れた次の瞬間米子が地面から飛び出すように現れた。ミントがBMP-2の正面に狙いを付ける。距離は30m。BMP-2の車体が沈むようにして視界から消えた。バンカーに入ったのだ。キャタピラが砂煙を上げてBMP-2がバンカーの端を登ろうとする。米子が後ろを確認しながら走る。

『グオ~~~~~~~~~ン』

BMP-2のエンジンが唸りを上げると車体が飛び出るよう上向きになって車両の底面を見せた。

《ビーナス、底を狙って! 今!》

米子の声がインカムに響き、米子がダイブするように前に飛んで頭から地面に滑り込んだ。ミントがSMAWのトリガーを引く。

『ドンッ! バシューー!』       『ガッ』 『ドドーーーーーーン!!』

汎用弾が車体の底を撃ち抜いて内部で爆発した。

『ゴンッ!!  ガゴーーーーーン』  『ブオーーーーーー』     

BMP-2が地面に着地して砲塔のハッチと側面のハッチから火が噴出す。

『バンッ!』 『ボンッ!』 『バン!』 『バン!』 『ボンッ!』 『バン!』 

惰性で走るBMP-2の車内に収めていた30mmm機関砲弾が熱で誘爆した。米子が右横に5回転がった。BMP-2が転がる米子の横を走ってガクンと止まった。

「米子、大丈夫?!」

ミントが叫ぶ。

「多分大丈夫!」

米子が立ち上がりながら言った。その姿を炎上するBMP-2の炎が照らした。

「米子~、やったね、やっつけたよ!」

ミントが走りながら米子に抱きついた。

「うん、あいつ、腹は弱いんだよ。上手くいってよかったよ!」


 『ダダダダダ』  『ダ~ン』 『ダダダダダ』 『ダ~ン』 『ダ~ン』

『ビシッ』 『パシッ』 『ヒュン』 『ピシッ』

銃声が響き、米子とミントの周りに着弾する。

「サターンからマーズ、後退するんだ! 敵が多すぎる、後退命令が出た!」

パトリックが叫んだ。

前方から赤い狐の戦闘員の1隊が突進してきた。米子が腰のホルスターからSIG―P229を抜くと赤い狐の戦闘員達に向けた。ミントも肩に掛けていた64式小銃を構えた。

「はしゃぎ過ぎたね。ヤバイかも」

米子が言った。

「こんな所で死んでられないよ。来週は入学式なんだよ。冗談じゃないよ!」

ミントが言った。

『タタタタタタタ』   『ババババババババババ』  『ババババババババババ』 

前方にサーチライトの光が降り注ぎ、連続した銃声が上空から響いた。サーチライトに照らされた赤い狐の戦闘員達の周りに黒い土煙と土塊が飛び散り、戦闘員は次々と倒れた。

『ヒューーーーーーーン!』 『バタ バタ バタ バタ バタ バタ バタ』

激しい風が米子に当ってローター音が響いた。上空を見上げるとサーチライトの光を放つUH-60JAのドアガンナーが74式7.62mm車載機関銃を撃っているのが見えた。


 《第2小隊小隊長よりフェニックス、只今戦闘区域上空高度30m。敵を確認、攻撃中。これより着陸して兵員を投入する》

《フェニックス了解、同士撃ちに気をつけろ! 味方はスカーフを着用。色はオレンジ、スカイブルー、ピンク。繰り返す、味方のスカーフの色はオレンジ、スカイブルー、ピンク、同士撃ちに気をつけろ!》

共通無線に木崎の声が響いた。

《第2小隊了解!》

「米子、第2小隊だよ! 助かったよ!」

UH-60JA6機が米子とミントの前方50mに着陸して第2小隊の隊員達36人がサイドドアから一斉に飛び出して20m間隔に散開した。見事な連携だった。第2小隊の隊員達が発砲しながら赤い狐の戦闘員を蹴散らしていく。一部白兵戦になったが第2小隊の隊員達は圧倒的な強さを見せた。恐れをなした赤い狐の戦闘員達は反対方向に走って逃げ出した。

《第2小隊小隊長よりフェニックス、敵を撃破しつつあり、このまま追撃して殲滅する》

《フェニックス了解、1人残らず殲滅せよ》

《フェニックスからブラックバード、フクロウ、ミミズク、第2小隊が敵を追撃中。合流して追撃せよ! 上空からヘリの援護あり!》


 米子は20mほど前に歩いて転がっていたAK47を拾い上げた。ミントも横に並ぶ。

「ミントちゃん、追撃しよう」

「うん、でも戦闘中はビーナスだよ」

「ミントちゃんだってさっきから米子って言ってるじゃん」

「だよねー、行こうか米子!」

「走ろう!」

米子とミントは銃を構えて走り出した。突然目の前に迷彩服を着た男が現れた。男の顔は精悍でその目は鋭かった。

「君達はどこの所属だ? んっ、女か? 若いな」

「第3即応隊第2小隊ミミズクB班です。仲間が他に3人います」

米子が言った。

「私は第2即応隊第2小隊小隊長の黒坂だ。よく敵の攻撃に耐えたな、これから第2小隊が敵を追撃する。君たちは自分の部隊に戻ってくれ。ここからは見ない方がいい」

黒坂が言った。


 丹沢山系に向かって撤退する赤い狐の戦闘員に上空のUH-60AJのドアガンナーが容赦なく銃弾を浴びせる。第2即応隊第2小隊の隊員達は2人一組になって散開し、赤外線ゴーグルを使って猟犬のように赤い狐の戦闘員を追い詰めていった。降伏の意思表示をする者もいたが、有無を言わさずその場で射殺した。


22:00

「お前達、よくやった! 敵のほとんどを殲滅した。これよりヘリで部隊は朝霞の第2即応隊本部に移動するが俺達はハイエースで新宿に帰るぞ」

木崎が言った。

「えーー、私もヘリがいいよ! でも着替えは新宿の事務所だから車の方が早いか」

ミントが言った。

「みんな無事だったんだから仲良くハイエースで帰ろうよ」

米子が言った。


 自衛隊車両の投光器が放つ白い光に照らされた訓練場では第2即応隊の隊員達が忙しく動き回って確認作業と後始末をしていた。上空では陸上自衛隊のUH-60JAが警戒のために低空を旋回していた。


【西新宿のニコニコ企画事務所】

会議室に全員が集まっていた。米子は白いライトダウンジャケットに薄いブルーのデニム、ミントはライトクリームのパーカーにアイボリーのチノンパン姿だった。樹里亜と瑠美緯は制服姿だった。米子とミントが女子高生の制服を着ることはもう無い。

「最終的な戦闘の結果はどうなったんですか?」

米子が訊いた。

「目的は達成した。訓練施設にいた赤い狐の戦闘員を殲滅した、75人だ。だがこっちも第2即応隊の第1小隊の31名と第3即応隊の8名を失った。支援に来た第2小隊は軽傷者のみだ」

「第2小隊は強かったね。ヘリで現れて、あっと言う間に形勢逆転したよ。さすが第一空挺団と特殊戦略群だね」

ミントが言った。

「第2小隊は『黒菊』だからな」

木崎が言った。

「黒菊? なんなのそれ?」

「自衛隊の中で最高機密扱いの部隊だ。いずれお前達も知る事になるだろう。だが今は俺の口からは言えない」

「でも国家即応防諜機動群が勝ったっていう事っすよね?」

瑠美緯が訊いた。

「勝ったといえば勝ったが、戦いは終わったわけじゃない。まだ日本に赤い狐の残党が残っている。これからも入って来るだろう」

「暗殺の仕事が増えますね」

米子が言った。

「そうだ。こらからは俺達の出番が増える事になるだろう」

「なにはともあれ作戦目標は達成したんだからボーナスは貰えるんだよね?」

ミントが言った。

「ああ、もう上に申請してある。高いスーツが5~6着は買えるだろう。明日にも口座に振り込まれるはずだ」

「やったー、米子、スーツ買いに行こうよ。それとみんなで美味しい物を食べに行こう! 樹里亜ちゃんと瑠美緯ちゃんの分は私と米子の奢りだよ。女子大生が女子高生にお金出させるわけにいかないからね」

「ミント先輩、太っ腹っすね!」

瑠美緯が言った。

「わーお、美味しい物、楽しみです!」

樹里亜が満面の笑みを浮かべて言った。

「入学式がまだなのにすっかり女子大生気取りだな」

木崎が言った。

「そうだよ~ん。でもJKブランドを手放すのは寂しいよ。やっぱJKがいいなぁ」

ミントが言った。

「そりゃそうだよ、だってJKアサシンだもん」

米子が言った。


 米子達は西の空が茜色に染まった夕暮れの中央通りを新宿駅西口に向かって歩いていた。暖かい風が4人のアサシン達に包んだ。

「風が暖かいねえ」

ミントが言った。

「春っすよ。どこも桜が満開っす、アゲハ蝶が飛んでますよ」

瑠美緯が言った。

「あっ、ホントだ。カワイイ蝶々ですね。やっぱり日本の四季はいいですよね。四季があるから美味しい食材が育つんです」

樹里亜が言った。

「いつまでのそんな平和な日本であって欲しいよね」

ミントが言った。

「そのために私達がいるんだよ」

米子が微笑みながら言った。夕陽を受けた4人の姿が脈打つように輝き、それを見守るようにナミアゲハが春風に舞っていた。



                        JKアサシンシリーズ 完



長い間ご愛読ありがとうございました。JKアサシンシリーズはこれで終了となります。


JKアサシン米子第1部~第5部、お楽しみいただけたでしょか? 

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