Chapter41 最終話「最後の戦闘 丹沢山系(Dark Version)」
Chapter41 最終話「最後の戦闘 丹沢山系(Dark Version)」
米子は200m先の戦闘状況を大口径双眼鏡で見ていた。飛び交う曳光弾に響く銃声はまさに戦場の光景だった。今まで経験したどの戦闘よりも規模が大きく、敵も強かった。歩兵戦闘車の強力な火力に脅威を感じ、戦闘員もよく訓練されていて強いと感じた。ロケーションも敵地なので正面からまともに戦えば負ける可能性が高いという推測を米子の頭脳が弾き出した。
《ビーナスよりマーズ、敵の戦闘車両が出て来たら。接近して『SMAW』を撃とう》
ミントがインカムで言った。
《マーズよりビーナス、不用意な接近は危険だよ。命令があるまでは待機して》
《ビーナス了解。でもこのままだとヤバイよね。ブラックバードもフクロウも全滅するよ》
《フェニックスからブラックバードとフクロウ、現在位置から300m後退せよ》
《フェニックスからミミズク、後退するブラックバードとフクロウを現在位置で援護せよ》
木崎が命令した。
《ミミズクB班沢村了解。現在位置から敵まで200m。退避するブラックバードとフクロウの援護を実施します》
米子が共通系無線で返答をした。
《マーズより各位、戦闘態勢を取って。退避するラックバードとフクロウの援護をするよ。敵が100mに近づいたら攻撃開始。識別用のスカーフを着用して。 ミミズクA班は右150mに展開してる》
《ビーナス了解、いよいよだね》
《サターン了解、撃ちまくってやるぜ》
《ジュピター了解、接近する敵を狙撃します》
《マーキュリー了解、私達の強さの見せ所っすよ》
ミント、パトリック、樹里亜、瑠美緯は胸ポケットから取り出したピンク色のスカーフを首に巻いた。
赤い狐の戦闘員40人が時速5kmで進むBMP-2歩兵戦闘車とBTR-80装甲兵員輸送車の横に広がってジリジリと前進して来た。BMP-2とBTR-80のサーチライトが地表を舐める。
『ドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドド』
赤い狐の戦闘員が秘匿していた簡易トーチカから汎用機関銃を撃ち始めた。
《ジュピターより各位、2時の方向に敵のトーチカを発見、距離250》
《こちらビーナス、『SMAW』でトーチカを潰したけど位置を分からないよ》
ミントが言った。
《ジュピターよりビーナス、これより敵のトーチカに曳光弾を射撃します》
樹里亜ボルトを引いてチェンバーに曳光弾を指で装填すると暗視スコープを覗いて簡易トーチカに狙いを付けた。
『バンッ』
樹里亜の撃った曳光弾が暗闇に緑色の光の線を描いて飛び、簡易トーチカの銃眼に当たって緑色の破片が飛び散った。ミントはそれを見て簡易トーチカの位置を把握した。
ミントは伏せた姿勢から起き上がり、右膝を地面に着けて『SMAW』を肩に載せて構えた。
ミントが光学照準器で慎重に狙いを付けた。
『ドンッ! バシューー!』
『ドドーーーーーン!!』
汎用弾が真っ直ぐ飛んで簡易トーチカに命中して炸裂した。
《こちらビーナス、トーチカを破壊》
《マーズ了解、見事だったよ、訓練した成果だね》
BMP-2とBTR-80が停止した。トーチカの爆発を見て警戒したのだ。赤い狐の戦闘員達も足を止めた。ブラックバードの隊員とブルーバードの隊員達が米子達の横を走って後退していった。
《ビーナスよりマーズ、チューブの入ったリュックを持って来て。こっちにはあと1発しかないよ》
《マーズ了解、すぐに持って行く》
「ビーナスの所に『SMAW』のチューブを届けてくるよ」
米子が樹里亜に言った。
「了解です。私は敵が動き出したら撃ちます」
《マーズからサターン、敵が動いたら掃射をして下さい。心理的プレッシャーを与えます》
《サターン了解。任せとけ》
米子はチューブが2本入ったリュックを2つ左右の肩に掛けると64式小銃を持って走り出した。
「チューブ持ってきたよ」
米子はミントの横の伏せながら言った。BMP-2とBTR-80に搭載されたサーチライトが米子とミントが伏せる辺りを照らした。
「あのライト邪魔だね。動けないよ。こんな事なら対戦車用のHEAT弾も持ってくるべきだったよ」
ミントが言った。
「ジュピターに狙撃してもらおう」
米子が言った。
4番ホールと5番ホールの間のセパレート林の中に2人の男が潜んでいた。
「Эй, вражеский снайпер выстрелил трассирующей пулей.(おい、敵のスナイパーが曳光弾を撃ったぞ)」
観測用の望遠鏡を覗いていた観測手の『メドベージェフ』が言った。
「О, я это видел.(ああ、見てたよ。補足した)」
SV-98スナイパーライフルのスコープを覗いていた『ミハイロフ』が言った。
「Расстояние — 500 метров. Сможете ли вы это сделать?(距離は500mだ。 やれるか?)」
メドベージェフが訊いた。
「Конечно. У меня было много успешных снайперских выстрелов на расстоянии более 1000 метров в Украине.(当たり前だろ。俺はウクライナで1000m以上の狙撃を何回も成功させたんだぜ)」
ミハイロフが得意げに言った。ミハイロフがスコープの中に敵のスナイパーを捉えた。敵のスナイパーもこちらに銃を向けている。
「Будь ты проклят, японец(くたばれ日本人)」
『バスッ!』
ミハイロフが息を止めてゆっくりとトリガー引き切った。SV-98の消炎サプレッサーから7.62x54mmRロシアン弾が飛び出し、僅かにマズルフラッシュが漏れた。
樹里亜は敵のスナイパーを探す為に暗視スコープで前方を慎重に観察していた。HOWA―M1500の銃身をゆっくりと右に動かす。暗視スコープの中で何かが光った。
<え? マズルフラッシュ!?>
頭に衝撃を感じた直後に樹里亜の視界が真っ暗になった。
《マーズからジュピター、敵の車両のサーチライトを撃てる?》
《マーズからジュピター、応答して》
「おかしい。ジュピターの応答が無いよ」
米子が言った。
「どうしたんだろうね。私が呼んでみるよ」
ミントが言った。
《ビーナスからジュピター、サーチライトを撃って。命中させたらラーメンとチャーハン奢ってあげるからさ、大盛だよ》
ミントがインカムで言った。
「応答が無いね」
ミントが言った。
BTR-80が動き出した。赤い狐の戦闘員達も歩き出す。
「米子、来るよ!」
ミントが言いながらSMAWの後部にチューブを連結した。
「距離は150mだね。100mを切ったら撃とう」
米子が言った。
瑠美緯の周りに赤い狐の戦闘員12人が囲むように接近して射撃を開始した。瑠美緯も伏せたままセミオートで撃ち返すが敵は素早く伏せて匍匐前進で移動する。
《こちらマーキュリー、ヤバイっす、囲まれました、敵は強いです》
瑠美緯がインカムで報告する。
《マーズよりマーキュリー、退避して、逃げて!》
米子が叫ぶように言った。
《サータンからマーキュリー、弾幕を張って援護するから逃げろ!》
パトリックの声がインカムに響いた。パトリックが銃身を左に向けて援護射撃の準備を急いだ。
「うあっ!」
瑠美緯が脇腹に地面に跳ねた跳弾を被弾した。
《こちらマキュリー、痛いっす・・・ ダダダダダ ダーン ダーン ダーン》
瑠美緯の声が銃声をバックにインカムに流れた。
《マーズからマーキュリー、大丈夫? とにかく逃げて! 銃を捨てて走って!》
米子が叫ぶ。
「負けないっ す」
瑠美緯はセレクターレバーを切り替えると立ちあがった。
『ババババババババババババ』
瑠美緯がフルオートで射撃した。
『バシッ』
『ブスッ』 『プスッ』
AK47から発射された7.62x39mmフルメタルジャケット弾が瑠美緯の右肩と腹部に命中した。瑠美緯は腰から崩れて仰向けに倒れた。
『ドドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドド』 『ドドドドドドドドドド』
パトリックがM240を連射して弾幕を張った。
《こちらサターン、マーキュリー今だ逃げろ!》
パトリックが叫ぶ。
《熱いっす ハア、ハア 米子先輩、大好きでした ハア、ハア 色々と あざまるでした 米子先輩 さよう なら・・・・・・》
《マーキュリーどうしたの? 応答して! 瑠美緯ちゃん!》
米子が声を上げた。
『ブロロロロロ~~ロ~~ ギュウ~ン』
BTR-80がエンジンを吹かしてチューブレスタイヤを鳴らし、速度を上げて米子とミントに向かって来た。
「米子、撃つよ!」
ミントがSMAWを構える。光学照準器の中にBTR-80の正面を捉える。
『ドンッ! バシューー!』 『ガコーーン ドガーーーーーーーン!』
SMAWの後部から後方噴射が噴出し、真っすぐ飛んだ汎用弾がBTR-80の正面に命中して激しく炸裂した。BTR-80の前面装甲が内側に大きく凹み、装甲の破片が乗員達を襲った。
「命中したよ!」
ミントは肩に担いだSMAWを地面に置くと新しいチューブを素早く連結した。BTR80は煙を上げながら動きを止めた。
「マーキュリーが危ないみたい! 援護に行くよ、急いで!」
米子が言った。
「わかったよ。敵が多いから匍匐前進で進もうよ」
『ブロロロロロ~~』
BMP-2がキャタピラを動かしてゆっくりと前進を始めた。米子は64式小銃を肘の内側に載せて、チューブが入ったリュックを背負ってゆっくりと匍匐前進をした。ミントも米子に続くように64式小銃を肘の内側に載せてSMAW本体を背負って匍匐前進をしたが進みは遅かった。
『グオ~~~~~ン!』
『ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!』
BMP-2が速度を上げて真っ直ぐ向かってきた。30mm機関砲が火を噴き、曳光弾が米子達の頭上を飛んでいった。
「米子、SMAWを撃つよ。このままじゃやられるよ!」
ミントが大きな声で言った。
「わかった、援護射撃をするよ」
米子が言った。
《フェニックスよりミミズク、200m後退してブラックバードとフクロウに合流せよ》
木崎が共通系無線で米子達に後退の指示を出したが米子達に聞いている余裕は無かった。ミントが起き上がって米子の前に出ると右膝を地面に着けてSMAWを肩に載せた。米子も地面に片膝を着いて64式小銃を構える。
『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』
米子がBMP-2の横に展開する赤い狐の戦闘員に向けて64式小銃を発砲した。米子の正確な射撃に3人が倒れた。
「撃つよ!」
ミントが叫んだ。
「了解! しっかり狙って!」
米子が叫びながら後方噴射を避けるために右に転がった。
『ドンッ! バシューー!』 『ガキン!』 『ドガーーン』
BMP-2の前面装甲で爆発が起きたが動きは止まらなかった。
「効かないよ! 汎用弾じゃムリだよ」
ミントが叫んだ。
「さっきのやつより正面装甲が厚いんだよ! 移動して側面を狙おう!」
米子が言った。
「わかったよ、チューブを連結するからリュックをちょうだい」
ミントが言った。匍匐前進により米子とミントの距離が広がっていたため、ミントはリュックを取りに行くために立ち上がった。
突然周りが明るくなった。BMP-2が照明弾を打ち上げたのだ。ミントが空中を舞う照明弾を見上げた。
『ダダダダダ』 『ダダダダダダ』
BMP-2の7.92mm同軸機関銃が火を噴いた。
『バシッ』 『ブスッ』
ミントが後ろに倒れて仰向けになった。
「ミントちゃん大丈夫!?」
米子がミントに駆け寄った。ミントの右胸と腹部の左側が血に染まっていた。
「米子・・・いいから・・・・・・アイツを吹っ飛ばして。頼んだよ・・・・・・」
ミントが仰向けになったまま言った。
「わかった。待っててね」
米子はミントの傍らに転がるSMAWを手に取るとリュックから取り出したチューブを連結した。米子がSMAWを肩に担いだまま右に50m移動した。BMP-2のサーチライトが米子を捕らえると左に進路を変えて米子に向かって来た。側面から撃つ目論見は外れた。米子が光学照準器を覗いてBMP-2の正面に狙いを付ける。距離は30m、移動している猶予は無い。米子は覚悟を決めた。BMP-2の車体が沈むようにして一瞬視界から消えた。バンカーに入ったのだ。キャタピラが砂煙を上げてBMP-2がバンカーの端を登ろうとする。
『グオ~~~~~~~~~ン』
BMP-2のエンジンが唸りを上げると車体が飛び出るよう上向きになって車両の底面を見せた。米子は汎用弾でも薄い底面なら効果があると思った。
<今!>
『ドンッ! バシューー!』 『ガッ』 『ドドーーーーーーン!!』
汎用弾が車体の底を撃ち抜いて内部で爆発した。
『ゴンッ!! ズゴーーーーー』 『ブオーーーーーー』
BMP-2が地面に着地して砲塔のハッチと側面のハッチから火が噴出す。
『バンッ!』 『ボンッ!』 『バン!』 『バン!』 『ボンッ!』 『バン!』
惰性で走るBMP-2の車内に収めていた30mmm機関砲弾が熱で誘爆した。
米子は急いでミントの傍に戻った。
「ミントちゃん大丈夫?」
「米子、やられたよ・・・ もうだめだよ 目が開けられない、見えないよ・・・・・・」
「ミントちゃん! ダメ、目を開けて!」
「米子、生まれ変わっても、また友達になってね」
「ミントちゃん しっかりして!!!」
「米子、また友達になってよ・・・お願いだよ・・・・・・米子と一緒だと寂しくないんだよ」
「お願いだから! 目を開けてよ!」
「また友達になってくれるよね? ハア ハア」
「うんっ! なるよ、なるから、ミントちゃん!! 目を開けて!」
「次は普通の女子高生がいいね。同じ高校に通って同じ大学に行くんだよ」
「何言ってるの! 4月から同じ大学に通うんでだよ! 一緒にキャンパスライフを楽しむんだよ!」
「ごめんね・・・もう・・・無理だよ・・・でも、生まれ変わっても・・・また友達になってね 米子、約束だよ 絶対だよ 本当に 絶対・・・・・・だよ」
ミントの体から力が抜け、静かに呼吸が止まった。
「ミントちゃん? だめだよミントちゃん! ミントちゃん、戻ってきて! ミントちゃん!! だめ!!!! 戻ってきて!!!!」
米子は既視感を感じた。前に同じ状況の夢を見ことがあると思った。有楽町で神経ガスを吸って意識を失った時だ。これはあの時と同じ夢だ、悪い夢なんだと自分に言い聞かせた。米子の両目から大量の涙が溢れて地面に落ちた。
『ダダダダダ』 『ダ~ン』 『ダダダダダ』 『ダ~ン』 『ダ~ン』
『ビシッ』 『パシッ』 『ヒュン』 『ピシッ』
銃声が響き、米子の周りに着弾する。米子は強い力で何かに腕を引っ張られた。
「米子、後退するんだ! 敵が多すぎる、後退命令が出た!」
パトリックが叫んだ。
「イヤッ! マーキュリーがまだ戦ってる! ジュピターも、ビーナスもまだ戦ってる!」
米子が大きな声で言った。
「みんな死んだ! 後退するんだ!」
パトリックが怒鳴るように言った。
「嘘! そんなの嘘だよ! 嘘! 嘘! 嘘! 嘘! 嘘! 嘘 !嘘! みんな生きてる!!! 戦ってる!!!!!」
前方から赤い狐の戦闘員の1隊が突進してきた。
「うわっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』 『ダン』
米子は立ち上がると叫びながら敵に向かって走り、64式小銃をセミオートで発砲し続けた。米子は赤い狐の戦闘員を4人撃ち倒したが惰性で走って来た敵1人と激しく体がぶつかって転倒した。残りの10人が突進してくる。
『タタタタタタタ』 『ババババババババババ』 『ババババババババババ』
前方にサーチライトの光が降り注ぎ、連続した銃声が上空から響いた。サーチライトに照らされた赤い狐の戦闘員達の周りに黒い土煙と土塊が飛び散り、戦闘員は次々と倒れた。
『ヒューーーーーーーン!』 『バタ バタ バタ バタ バタ バタ バタ』
激しい風が米子に当ってローター音が響いた。上空を見上げるとサーチライトの光を放つUH-60JAのドアガンナーが74式7.62mm車載機関銃を撃っているのが見えた。
《第2小隊小隊長よりフェニックス、只今戦闘区域上空高度30m。敵を確認、攻撃中。これより着陸して兵員を投入する》
《フェニックス了解、同士撃ちに気をつけろ! 味方はスカーフを着用。色はオレンジ、スカイブルー、ピンク。繰り返す、味方のスカーフの色はオレンジ、スカイブルー、ピンク、同士撃ちに気をつけろ!》
共通無線に木崎の声が響いた。
《第2小隊了解!》
UH-60JA6機が米子の前方50mに着陸して第2小隊の隊員達36人がサイドドアから一斉に飛び出して20m間隔に散開した。見事なフォーメーションだった。第2小隊の隊員達が発砲しながら赤い狐の戦闘員を蹴散らしていく。赤い狐の戦闘員達は走って反対方向に逃げ出した。米子は地面から上半身を起こし、座った姿勢のまま涙に霞む視界でその様子を見ていた。
《第2小隊小隊長よりフェニックス、敵を撃退しつつあり、このまま追撃して殲滅する》
《フェニックス了解、1人残らず殲滅せよ》
《フェニックスからブラックバード、フクロウ、ミミズク、第2小隊が敵を追撃中。合流して追撃せよ! 上空からヘリの援護あり!》
22:00
赤い狐の訓練場の地面の上に紺色の戦闘服を着た3人が並んで仰向けに横たわっていった。
「ウウッ、何でこんな事になっちまったんだ? ミント、樹里亜、瑠美緯、戻って来てくれ! 戻って来てくれよ! またラーメン食いに行こう! 焼肉食いに行こう! あんみつも食いに行こう またお前達の笑顔を見せてくれ! 頼む! 見せてくれ!! 戻って来てくれーーーーーーー!!!! ウッ ウッ ウオーーーーー! ウオーーーーーーーーー!!」
パトリックが地面に両膝を着き、両目から滂沱の涙を流しながら慟哭した。米子はパトリ
ックの横に立って地面に横たわる3人を瞬きもせずに呆然と見つめていた。米子の心は涙も出ないほど打ちひしがれていた。壊れていた。
「米子、帰るぞ」
木崎が声を掛けたが米子は微動だにしなかった。木崎の目からは涙が流れていた。
自衛隊車両の投光器が放つ白い光に照らされた訓練場では第2即応隊の隊員達が忙しく動き回って確認作業と後始末をしていた。上空では陸上自衛隊のUH-60JAが警戒のために低空を旋回していた。
【西新宿のニコニコ企画事務所】
米子は木崎のデスクの前に座っていた。その目は氷のように冷たく恐ろしいほどに澄んでいた。木崎は黒いスーツに黒いネクタイ、米子はライトグレーのスーツ姿だった。米子が制服を着ることはもう無い。
「最終的にあの戦闘はどうなったんですか?」
米子が静かに訊いた。
「目的は達成した。訓練施設にいた赤い狐の戦闘員を殲滅した、75人だ。だがこっちも第2即応隊の第1小隊の31名と第3即応隊の8名を失った」
「ミントちゃん達はどうなりましたか?」
米子が訊いた。
「今頃は規定通りに薬品で溶かされて海に流されているだろう」
木崎が顔を顰めて辛そうに言った。
「そうですか」
米子が静かに言った。
「どんなに強い兵士でも呆気なく命を落とす。どんなに訓練をしても弾に当たれば命を失う。それが戦場なんだ」
木崎が言った。
「今回の作戦は敵に情報が漏れてたんじゃないですか?」
米子が訊いた。
「なぜそう思うんだ?」
「ブリーフィングの情報では敵の大部分は管理棟にいるはずでした。でもいませんでした。管理棟に突入した第2即応隊第1小隊の1班と2班が燃料気化爆弾全滅しました。訓練場にも敵が偽装して待ち伏せをしていました。作戦が漏れていたとしか考えられません。内通者がいるはずです」
「米子もそう思ったか・・・・・・」
木崎が言った。
「それに作戦が稚拙すぎます。陸上兵力で攻める必要があったとは思えません。自衛隊の兵器を使えば上空からミサイルか爆弾で管理棟を破壊できたはずです。ドローンでも良かったはずです。もっとリスクを軽減できたはずです」
「自衛隊の強力な兵器を使う事はできない。小銃などの小火器が精一杯だ。世論がうるさいんだ。野党も騒ぎ出す。大っぴらには出来ないという事だ」
「政治の話ですか? これは国防ですよね!? 中途半端な作戦で多くの命が失われました! みんなこの国を守るために戦ったんです! 世論って何ですか!? 国が存在するから世論も存在できるんです! 政治も存在できるです! その国を守る事をなんでコソコソやらなきゃいけないんですか!? 私達は何のために戦ったんですか!?」
米子が厳しい口調で言った。木崎は何も答えられなかった。長い沈黙が続いた。
「明日、大学の入学式があるので今日は帰ります」
米子が言った。
「本当はミントも入学式に出るはずだったんだよな。一所懸命勉強して、せっかく合格したのに残念だな」
木崎が涙ぐみながら言った。
「死んだら入学式には出られません。それだけです」
米子が冷静にいった。
「米子、組織に残ってくれるのか?」
木崎が訊いた。
「残ります。情報を漏らした人間を必ず排除します。赤い狐を壊滅させるまで戦います。だから今まで通り武器を貸与して下さい」
「わかった。残ってくれるとは思わなかった。ありがとう・・・・・・」
「その代わり、もうチームでは戦いません。一人で任務を遂行します。逃げませんからどんな指令でも出してください」
米子は席をゆっくりと席を立つと扉を開けて事務所を出た。
米子は西の空が茜色に染まった夕暮れの中央通りを新宿駅西口に向かって歩いていた。不意に仲間達の笑顔が脳裏に浮かび、頬に一筋の涙が流れた。米子は脳裏に浮かんだ仲間達を無理やり搔き消した。春の暖かい風が米子に纏わりついて米子の壊れた心から僅かに残っていた感情を奪っていった。
JKアサシンシリーズ 完
長い間ご愛読ありがとうございました。JKアサシンシリーズはこれで終了となります。
※本Chapterはダークバージョンです。この最終話には“ノーマルバージョン”も存在します。
次回、別の結末のNormal Versionを投稿します。
ご感想、コメントお願いします。創作の励みになります。




