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Chapter4 「格闘家米子 リングに降臨」

Chapter4 「格闘家米子 リングに降臨」


 米子は2週間ぶりに桜山学園に登校した。

「沢村さん、どうしたの? 先週と先々週休んでたよね?」

米子が教室に入って席に着くと浜崎里香が駆け寄って来た。

「ちょっと体調崩しちゃってさ、寝込んでたんだよ。でももう大丈夫だよ」

米子が言った。

「大丈夫なの? 沢村さんいろいろ無理してそうだし一人暮らしなんだから気をつけてね。そういえば志望校決まった?」

「うん、慶優大学にしようと思ってるんだよね」

「すごーい、あそこ難しいじゃん。でも沢村さんなら合格するよ。なんたって模試の偏差値76だもんね」

「試験は受けてみないとわからないよ」

「丁度良かった。沢村さんに頼みがあるんだよ。再来週の土曜日に格闘技大会があって、私の行ってる道場からも何人か出場するんだけど、女子の部に出場する予定だった人がバイクで事故っちゃって、出れなくなっちゃったんだよね。50キロ級にエントリーしてた選手だったんだけど、替わりに沢村さん出てくれないかな? 私は60キロ級に出るんだよ。ルールは総合ルールだよ」

浜崎里香が言った。

「格闘技大会? でも私道場生じゃないし、ちゃんとした格闘技っていうのとは違うし」

「大丈夫だよ、1回道場に来てくれたじゃん。先輩や館長にも勝ったよね。館長に話したら、是非出場して欲しいって言ってたよ。格闘技大会って言っても、ネット配信の会社が主催のイベントみたいな感じだよ。私達が出場するのは女子の部。だから沢村さんでも大丈夫だろうって館長が言ってたよ」

「目潰しや噛みつきとかはダメなんでしょ?」

「それは反則だけど、結構なんでもありなんだよね」

「じゃあ殺しちゃってもいいの?」

「それはダメだって。沢村さんなら本当にやりそうだから怖いよ」

「受験勉強があるから無理だよ」

「沢村さんなら合格するって。それに私の従妹が慶優大学に行ってるんだよ。いま2年生だけど紹介するよ。慶優大学に通う事になったらいろいろ相談できると思うよ。優しくて面倒見もいい人だから知り合っとくと便利だよ」

「へえ、従妹が通ってるんだ。何学部?」

「確か英文だったよ」

「文系の学部か。私は理工学部の宇宙物理学科を狙ってるんだよね」

「学部は違っても学校の事いろいろ聞けるんじゃないの? サークルとか単位の事とかさ。それにその従妹は大学の自治会の委員もやってるから頼りになると思うよ」

「へえ、それは心強いね。格闘大会か。最近体鈍ってるからなぁ」

米子は最近の閉塞した気分を吹き飛ばしたいと思っていた。コソコソ逃げ回るのは想像以上に辛いものだった。気晴らしに格闘大会に出るのも悪くないと思った。

「じゃあ出ようよ。リングネームとかでも出場できるんだよ。私は『クラッシャー里香』にしたんだ」

「ふーん、なんか面白そうだね」

「決定だね、リングネームどうする? 本名でもいいけど、キラー沢村とかいいんじゃない?」

「うーん、アサイン米子かな」

米子が言った。

「えっ? 下の名前嫌いなんだよね?」

「だからだよ。やけくそパワーが出そうだよ」

「じゃあ決定だね。館長に連絡するよ」


 米子と浜崎里香は高円寺の道場に集合して館長の猪波の運転するレンタカーのマイクロバスで大会会場に移動することになっていた。米子の服装は紺色のブレザーに白いスクールYシャツにブルーと紺のストライプのスクールリボンにブルーのタータンチェックのスカートだった。バスの中は浜崎里香以外に以前戦ったことのある小宮と黒木の他に道場生の男性4人と女性が2人乗っていた。小宮と黒木は大会に出場し、他の男性4人は応援だった。女性のうち1人は腕にギプスを嵌め、包帯で吊っていた。バイクで怪我をして出場を取り止めた山口梨花だ。もう一人の女性は155cmくらい小柄な23歳の女性で、40Kg級に出場する杉田穂香ほのかだった。


 「沢村さん、リングネームは『アサシン米子』だって? 柔道着で出場するの? リングコスチュームは持って無いよね?」

小宮が言った。

「このまま出ようと思ってます。靴は脱ぎますけど」

「えっ? 制服で!?」

浜崎里香が驚きの声を上げる。

「シャツの下はスポブラだし、スカートの下は黒いショートスパッツを履いてるから大丈夫だよ」

「いや、そういう事じゃなくて、殴り合ったり、掴み合うんだよ。それじゃ戦いづらいでしょ?」

浜崎里香が呆れたように言った。

「こっちの方が着慣れてるから動きやすいと思うんだよね」

「そりゃそうだけど、戦う恰好じゃないよ」

「大会のサイトを見たんだけど、去年の大会はデニムのジーンズにTシャツとかヒップホップ系の格好の人がいたよ。ストリートファイト系ならこれでもいいんじゃない?」

「それは男性の選手だよ。女性は格闘用のコスチュームとか、最低でもスパッツにランニングシャツとかだよ。制服って・・・・・・」

「ははは、面白いじゃないか。この大会は何でもありだ。制服を着た女子高生の選手って斬新だよ。観客は男性が多いから盛り上がるんじゃないかな?」

小宮が言った。

「確かに斬新だな。堅苦しい大会じゃないし、その恰好で強かったら目立つと思うぞ。沢村さんはカワイイから猶更だ。ネットで話題になるかもしれないな」

黒木が言った。

「あの、今、試合の取り組み表を見てたんですけど、沢村さんって、50キロ級じゃなくて無差別級にエントリーされてますよ」

杉田穂香が不思議そうに言った。

「えっ? 無差別級? 館長、どういう事ですか!? 沢村さんの体格じゃ寝技になったらヤバイですよ。打撃だって体重のある方が圧倒的に有利だし!」

浜崎里香が抗議するように言った。

「すまん、私も今朝気付いた。どうやら申し込む時に間違えたらしい。パソコンは苦手なんだ。でも無差別級は体が大きいだけで技の無い選手が多い。層が薄いから50Kg級や60kgの級の強い選手が優勝狙いでエントリーしたりしてるんだ」

猪波が言った。

「たしかに無差別級は技の無い選手が多いけどパワーが違うからな。レスリング出身や女子相撲出身の選手もいるし、打撃も強烈だ」

黒木が冷静に言った。

「沢村さん、無理しないでグランドでヤバくなったらギブアップするんだ。打撃戦は動き回って逃げろ。危なくなったら早めにタオル投げるからさ」

猪波が申し訳なさそうに言った。

「ホントに無理しないでギブしていいんだよ。誘った私も責任感じるよ」

浜崎里香が不安そうに言った。

「沢村さんの1回戦相手って素人みたいですよ。大会のサイトにプロフィールが載ってます。『総長シルビア』だって。元レディース総長で喧嘩無敗って書いてあります」

杉田穂香がスマートフォンを見ながら言った。

「ホントだ。元埼玉レディース連合の総長だって。格闘技経験はストリートファイトだって。まあこの大会にありがちな色物キャラだね。身長174cmか。でも体重が53キロだって。不良にありがちなガリガリ体型だね。クスリでもやってるんじゃない」

山口梨花も話に加わった。

「無差別級の優勝候補は『ドスコイ松本』ですかね?」

杉田穂香が小宮に訊いた。

「そうだろうな。身長178cmで体重112キロだ。女子相撲出身で時々プロレス団体の試合に出てる」

小宮が言った。

「『プリンセス・エリカ』も強いぞ。女子キックボクシングミドル級の元日本チャンピオンだ。今回はこの大会で層の薄い無差別級の優勝狙ってるみたいだぞ」

黒木が言った。

「沢村さんの格闘技経験って軍隊格闘技なんだ? 変わってるね。クラウマガとかコマンドサンボとかシステマみたいな感じ? 強いの?」

山口梨花がスマートフォンを見ながら言った。

「軍隊格闘技っていってもオリジナルです。親戚のおじさんに鍛えられました」

米子は咄嗟に嘘を言った。工作員を養成する施設で訓練を受けたとは言えない。

「強いぞ。まあリングではどうかわからないが、ルール無しの喧嘩ならかなり強い。戦場で相手を殺すための技術だ。なんせ私と小宮君と黒木君が負けたんだからな。噛み付き攻撃と目潰しには驚いたよ」

猪波が言った。

「えっ? 館長が負けたんですか? 小宮さんと黒木さんも」

山口梨花が驚きの声を上げた。

「あれは運が良かったんです。反則技ばっかり使ったし」

米子が言った。


 15,000人収容の築地スーパーアリナは満員だった。男子の部に有名な格闘家のユーチューバーが出場するということで前売りチケットが売り切れたのだ。大会主催のネット配信会社が力を入れて宣伝を行った事も大きかった。ただし客層はガラの悪い若者がメインだった。時代遅れのヤンキーや不良のような服装をした者やラッパー系のファションのした者が多く、タットウーを入れている者も多い。一部の地味な服装の者は格闘技オタクだった。


 大会は男子の部と女子の部の二部構成で、午前が女子、午後が男子だった。男子の部は有名な格闘家や喧嘩自慢のユーチューバーも出場する。女子の部は40Kg級の1回戦から始まり、その後50Kg級、60kg級、無差別級の1回戦が予定されていた。各級4回戦までのトーナメント制で4回戦に勝てば優勝である。ルールは1ラウンド5分の3ラウンド制で、10カウントのノックダウンかギブアップ、もしくは3ラウンド終了後の判定で勝敗が決まる。手にはオープンフィンガーのグローブを着ける事が義務付けられ、シューズを履くことは禁止だった。


 40Kg級の1回戦の第1試合はリングネームが『ホノカ』の杉田穂香が出場した。相手選手は28歳のベテランでキックボクシングを主体とした『レイラ』という選手だった。過去に優勝経験もある強い選手だ。館長の猪波と浜崎里香と小宮が青コーナーでセコンドについた。米子も青コーナーの下でタオルと水の入ったペットボトルを持って手伝いをした。


 ゴングが鳴って試合が始まった。いきなりレイラがラシュしてホノカは防戦一方となってコーナーに追い込まれた。ホノカもカウンターを狙ってパンチを出すが全て躱された。レイラのラシュが続く。

「ホノカさん、ガードして」

「ホノカ、ローだ!、ローを打て!」

浜崎里香と猪波の声が飛ぶ。ホノカがローキックを出すがレイラが膝でブロックした後、強烈な膝蹴りをホノカのボディーに叩き込んだ。ホノカが前屈みなった所にアッパーが顔面に炸裂した。ホノカがマットに沈んだ。レフリーのカウントが続くがホノカは立てない。そしてゴングが鳴った。開始1分20秒のKOだった。米子は競技としての格闘技のスピードと技に切れに驚いた。自分の格闘術が通じるのか不安になった。プロの技は伊達ではなかった。米子はセコンドと一緒に控室に戻った。ホノカはベンチに座ってうな垂れて涙を流していた。その顔は惨めなくらい腫れていた。館長の猪波と小宮が慰めていた。

「沢村さん、どう? 結構激しいでしょ」

浜崎里香が感想を求めた。

「打撃のスピードが速いね。それにコンビネーションが的確だよ。自信が無くなってきたよ」

米子は正直な感想を漏らした。

「沢村さんはまだ試合に慣れてないからとにかくガードだよ。相手をしっかり見てね」

浜崎里香がアドバイスをした。


 60kg級の1回戦が始まった。第1試合は打撃戦のKOで決着がついた。第2試合は寝技の応酬で三角締めで決着がついた。第3試合は浜崎里香が出場する。相手選手は総合の選手で23歳の『清水加奈』。セコンドは猪波と黒木だった。米子はコーナー下でタオルを持って応援した。


 ゴングが鳴った。清水のタックルが浜崎里香の右太腿に正面から入る。浜崎里香が耐えて上から相手に伸し掛かる。清水が両膝を着くと浜崎里香が素早く後ろに回り込んで首に腕を回して締め上げた。

「よしっ、そのまま絞めて落とせーー!」

猪波の声が飛ぶ。

「里香ーーー、落とせーーー」

米子も叫んでいた。リングに両膝を着いた清水がもがいて逃れようとするが浜崎里香が膝を伸ばして立ち上がった。清水加奈の体が伸びる。浜崎里香が後ろに倒れてさらに絞める。清水加奈が真っ赤な顔をして浜崎里香の体の上でもがく。『ウオー』と会場が盛り上がる。浜崎里香も阿修羅のような形相で絞め続ける。清水がタップをしようとしたが間に合わず体がガクッとなって力が抜けた。レフリーがしゃがんで確認すると完全に落ちていた。レフリーが手を上げた。浜崎里香の勝利だった。

浜崎里香が笑顔でコーナーに駆け戻った。

「里香、勝ったぞ、やったな!」

「よくやった! 完全勝利だ!」

猪波と黒木が浜崎里香を笑顔で迎えた。

「里香、凄かったよ~感動したよ!」

米子もコーナー下から声を掛けた。浜崎里香の勝利が自分の事のように嬉しかった。不思議な気分だった。クラスメイトを初めて下の名前で呼んでいた。そして他人の頑張りに興奮している事に自分でも驚いていた。浜崎里香はリングの上から笑顔で米子にピースサインをした。


 無差別級の試合が始まった。米子は第2試合だった。第1試合は3ラウンドとも寝技の掛け合いでメリハリに欠けた試合で判定となった。

米子は青コーナーに立っていた。紺色のブレザーに白いスクールYシャツにブルーと紺のストライプのスクールリボンにブルーのタータンチェックのスカート。桜山学園の制服に裸足だった。セコンドは猪波と浜崎美香だった。

「青コーナー、猪波道場、アサシン米子~!」

レフリーが米子をコールした。観客の目が米子に注がれる。米子が2歩前に出てブレザーを脱ぎ捨てた。袖を捲った白いスクールYシャツにスクールリボンにブルーのタータンチェックのスカートはリングに不似合いだったがスカートから伸びる裸足の白い生足が眩しく艶めかしかった。米子は慣れた手付きで手に黒いオープンフィンガーのグローブを着けた。

「おい、制服かよ?」 「カワイイじゃん スゲエ美少女!」 「アイドルみたいだな。セクシーだし。でも無差別級の体じゃないぞ」 「現役女子高生らしいぞ!」

「カワイイけど勝てないだろ。格闘技を舐めてるよ」 「格闘技経験のある新人アイドルじゃね? まあボコボコにされるだろ」

会場がざわついた。観客が米子の制服姿と美しくカワイイ顔に驚きの声を上げた。ネット配信でも実況コメント欄が賑わいを見せ始めた。


 252 けっこう仮面   11/15(土) 09:52:34.21

   制服JKリングに降臨 しかもめちゃカワ リングネームは微妙

 253 名無し      11/15(土) 09:53:15.42

   この子強いの? 初めて見たよ でも名前が米子ってwww

 254 おぱんちゅうなぎ 11/15(土) 09:54:18.42

   パンツ丸見えに期待!

 255 無敵マン   11/15(土) 09:54:18.42

   なんかアイドルみたいだな。スタイルもいいし。坂道グループのセンターい

   けるんじゃね?


 「赤コーナー、川越ファイトクラブ、総長シルビア~」

紫色の特攻服を着た、長い金髪の女が紫色の木刀を振り回して米子を睨みつけた。

米子とシルビアがリングの中央で向かい合いながらレフリーの説明を聞いている。シルビアが上から米子の目を睨む。米子も負けずに下からシルビアを睨んだ。視線がぶつかり合って火花が飛び散りそうだった。


 総長シルビアこと中村瑠理は埼玉県川越市に生まれで、複雑な家庭で育った。父親がギャンブル依存症で、家計を支えるためにラウンジでホステスとして働いた母親はアルコール依存症になった。中村瑠理は中学1年生からグレはじめて高校に入学するも1カ月で退学となった。退学すると地元の先輩に誘われて暴走族に入った。暴走族自体が下火で時代遅れであったが、仲間と共にレディースチームを作って埼玉の他のチームに喧嘩を吹っかけていた。生来の気性の荒さと身長174cmと体格に恵まれていたため喧嘩は強く、女性相手では負け知らずであった。

 

 やがて埼玉県や群馬県のレディースチームを統合して埼玉レディース連合を作り、そこの総長となったが20歳の時に引退した。引退した今でもOGとして埼玉県内では顔がきき、時々集会に顔を出している。今現在は新座市の食品工場で働き、昔の仲間とつるんでいる。今回の大会は仲間から出るように促され、ネットでエントリーしたところオファーが来たのだ。主催者側からはレディースキャラを前面に押し出して欲しいとの依頼があったため、久しぶりに特攻服に袖を通したのだ。出場が決まってから知り合いが経営する総合格闘技のジムに通い、1カ月ほどスパーリングなども行ってきたのである。



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