Chapter38 「JKアサシンシスターズ 南大塚」
Chapter38 「JKアサシンシスターズ 南大塚」
《マーズからジュピター、狙撃用意。出口を塞ぎたいから1台目を早めに止めて》
《ジュピター了解、1台目を止めます》
「撃ちます。狙撃命令が出ました」
樹里亜がHOWA―M1500のボルトを引きながら言った。『シャカッ』と無機質な金属音が響いて7.62mm×51mm弾が薬室に装填された。
「えっ? 本当に発砲するのか? 誰が責任取るんだ?」
中川警部補が驚いて言った。
「責任は内閣府が取るんじゃないんですか? この作戦は内閣府直轄の組織の作戦です」
「しかし街中だぞ! そもそもこれは何の捜査なんだ? 我々は君を行動しやすくするように護衛しろと言われただけだ。こんなところで発砲したら近隣住民も騒ぎ出す。所轄署としては黙って見過ごす訳にはいかないぞ」
中川警部補が言った。
「気が散るから黙っててください。もし外したら巣鴨署に責任をとってもらいますよ。大事な射撃なんです」
樹里亜が言うと中川警部補は黙り込んだ。
倍率8倍のスコープがスロープから頭を出すように現れたシルバーのオデッセイの車体の前半分を捕らえた。樹里亜の位置からはオデッセイの左側面がほぼ正面となるため助手席の男が邪魔で運転手が狙えなかった。しかし2台目をスロープに詰まらせるには強引にでも止める必要があった。助手席の窓が開き、男が首を動かして周りを警戒したいた。男が左側を向いた。
『バシュ!』
『シャカッ』
樹里亜が発砲して素早くボルトを引いた。助手席の男の頭が破裂するように血を噴きだして前にガクンと倒れた。フロントガラスの内側に血飛沫が飛び散り赤く染まった。運転席の男が助手席の男を見て慌ててブレーキを踏んだ。樹里亜の位置から角度的に運転席の男の顔は見えなかったが灰色の迷彩服の胸から下の部分がスコープに収まった。
『バシュ!』
『シャカッ』
『バシュ!』
『シャカッ』
樹里亜の撃った7.62mmNATO弾が運転席の男の左わき腹と下腹部に撃ち込まれた。撃たれ男は両手で腹部を押さえて体を丸めて動かなくなった。
《ジュピターからマーズ、助手席と運転手の男を排除》
《マーズ了解》
「当たったのか?」
中川警部補が言った。
「はい、2人を狙撃しました」
樹里亜が答える。
「双眼鏡で見てたよ。見事な腕前だ。血がリアルだった。今までに何人狙撃したんだ?」
境田巡査長が言った。
「それも国家機密です。まあ、両手の指じゃ足りないですね」
「凄いな。SATの狙撃隊員でも実際に狙撃する機会なんで一生に一度あるか無いかだぞ」
「私は死ぬまで狙撃を止められないです」
樹里亜が冷静に言った。
「内閣情報統括室は色々と国家の機密事項に関わっているみたいだし、暗殺部隊を持っているっていう噂だが、まさに君達がそうみたいだな」
《JKアサシンから各位、駐車場のスロープで敵の車が停止、狙撃で前の車両の運転席と助手席の敵を排除。これより残りの敵を殲滅します》
米子が共通系インカムで言った。
《司令了解。敵を逃がすな》
《マーズから各位、残った敵を各自の判断で殲滅せよ》
米子がチームのインカムで言った。
床に伏せていたスーツを着た男3人が匍匐前進をするようにしてセダンの陰に隠れた。
「おいどうした? 何で止まるんだ?」
メルセデスV350の助手席の男が言った。
「前の車が止まってるんだ」
運転席の男が言った。
前のオデッセイのスライドドアが開いて1人の男が飛び出してきた。
「どうした?」
助手席の男が窓から顔を出して訊いた。
「カラスとムクドリが狙撃された。2人とも死んでる」
「何? くそ、外にも敵がいたか。戻って敵を倒すんだ。このまま逃げたら組織に消されるぞ!」
助手席の男が言った。
「くそ、リーダーは殺られるし、カワセミとカラスとムクドリも殺らた。残ったのは俺達4人だけだ。オフィスのやつらは武器を持ってないようだから当てにならん」
後部座席に座っていた男が言った。男は膝の上にPP-91ケダールを載せていた。
「バックであいつらに突っ込め、撃ちまくるんだ!」
助手席の男が言った。オデッセイから降りて来た男がスライドドアを開けて後部座席に乗り込んだ。PP-91ケダールを持っている男以外が腰のホルスターから『CZ75』を抜いてスライドを引いた。
『ブウーーーーーーーーーン! キリリーーーーーーーーーー』
メルセデスV350がバックでスロープを下り、駐車場に入るとスピンするよう回って米子達の方にフロントを向けて停車した。米子がセダンの陰から躍り出て駆け足でメルセデスV350に向かった。
『バン バン バン バン』
米子が走りながら腕を伸ばしてSIG―P229を発砲した。
メルセデスV350のフロントガラスに蜘蛛の巣のような白いヒビが入り、運転席の男と助手席の男の胸に357SIG弾が2発ずつ命中した。左右のスライドドアが開いて後部座席の男達が体を半分外に出した。
『ババババババババババババ!』 『ババババババババ』
左側スライドドアの男がPP-91ケダールをフルオートで発砲した。
『パーン! パーン!』
右側スライドドアの男がCZ75を撃った。米子は前回り受け身を取るよう床を頭から転がった後に床に伏せた。
《マーズからビーナス、マーキュリー、後部座席に集中射撃》
『バン バン バン バン バン バン バン 』
『バン バン バン バン バン』
ミントと瑠美緯が連射した。SIG―P229とV10ウルトラコンパクトが2人の手の中で何度も跳ね上がる。
ミントの撃った357SIG弾が左のスライドドアに、瑠美緯が撃った45ACP弾が右のスライドアに激しく当って弾痕を作る。
左側のスライドドアの男のPP-91ケダールの機関部に357SIG銃弾が当たってフレームが歪んだ。左側の男は45ACP弾を右手の甲に被弾した。
「ダメだ! 銃が壊れた」
「こっちも手を撃たれた、逃げるぞ」
2人の男がスライドドアから外に出るとスロープに向かって走り出した。
『バン』
『バン』
米子の手の中でSIG―P229が2回跳ね上がる。357SIG弾が2人の男の背中に命中した。2人の男は惰性で2~3m走るとヘッドスライディングをするように床に倒れ込んだ。
《ブラボーリーダーより司令、ブラボー班と前田チームは地下に到着、これより駐車場に突入する!》
《司令了解、JKアサシンと合流して敵を殲滅せよ!》
ブラボー班の5人と前田チームの4人が地下駐車場を走りながら散開した。ブラボー班班長の宮里が米子の横に走ってきた。
「敵はどこだ!?」
宮里が勢いよく言った。
「倒れているのが敵です。メルセデスの運転席と助手席とスロープで停まってるオデッセイの運転席と助手席にも敵がいますけど全員死んでます。そこのセダンの陰に3人に隠れてますが武器は持ってないようです」
米子が説明した。
「えっ? 全部君達がやったのか?」
宮里が驚いた顔をして言った。駐車場の床には灰色の迷彩服を着た男4人とスーツを着た男が1人倒れていた。
「そうです。敵2人を向かいのビルから狙撃で射殺、7人を拳銃で射殺しました」
米子が答える。
《ブラボー2からブラボーリーダー、4階の敵が降伏、2名確保しました》
《ブラボーリーダー了解、そのまま待機しろ》
MP5を構えた隊員2人とグロック19を構えた隊員2人が腰を低くした姿勢でジリジリとセダンに近づく。
「降伏する! 撃たないでくれ、俺たちは丸腰だ」
セダンの陰からスーツ姿の男3人が両手を挙げて立ち上がった。
「手を頭の後ろ組め!」
ブラボー班の隊員が言うと隊員全員が駆け寄って3人の男を拘束した。
《ブラボーリーダーから司令、地下駐車場の敵を制圧しました。敵9人を射殺、3人を捕獲しました。情報機器も確保しました》
宮里が共通系インカムで報告した。
《司令了解。所轄の警察官達を行かせるから現場を引き継げ》
《ブラボーリーダー了解》
13:00、作戦が終了し、第1即応隊と米子達は警視庁第5機動隊の会議室に戻っていた。
「みんな、ご苦労だった。本作戦の一番の目的あったサーバールームの確保及びデータの入手は達成した。敵の9名を射殺、10名を捕獲した。残念だが仲間を8名失った。原因は指向性地雷の交差爆発によるものだ。起爆方法については調査中だが監視カメラを使った遠隔操作だと思われる。本作戦はこれで終了する。森永司令、お願いします」
相沢が森永に引き継いだ。着席した隊員の多くが下を向き、涙を流している者もいた。誰もが一緒に訓練をした仲間の死に対する悲しみを感じる共に実戦の過酷さを実感していた。
「ご苦労だった。酷なようだが仲間の死に涙を流してる暇はない。赤い狐との戦いは始まったばかりだ。我々の血がどんなに流れようとも絶対に勝たねばならない。この国の平和の為に赤い狐の侵攻を最前線で食い止めるんだ。それが君達の使命だと心得てくれ。心ばかりの酒と食べ物を用意してある。仲間の弔と今後の勝利を誓って飲んでくれ。今からは無礼講だ。悲しみを引きずるな!」
森永が言った。会議室の後方の机に缶ビールと一升瓶と紙コップが並んでいた。隊員たちは会議室の後方に移動すると紙コップにビールと日本酒を注いで思い思いに飲み始めたが会話をする者は少なかった。米子達は紙コップに入ったオレンジジュースを飲んでいた。
「しかしJkアサシンの諸君は実によくやってくれた。正直言って君達を見くびっていたようだ。内閣情報統括室の顔を立てるために仕方なくビルの周りの警備を頼んだつもりだったが予想外の活躍びっくりしている。木崎さん、おたくチームは凄いですね。状況判断と射撃が完璧だった。何よりも度胸が凄い。本物の銃撃戦ですよ! SATでもあそこまでできない。実戦経験が豊富なのでしょうね。見習いたい事だらけでしたよ」
森永が会議室に響き渡る大きな声で言った。
「訓練通りにやっただけです。それにおっしゃる通り、実戦経験には恵まれていますので経験を活かして結果を出す事ができました」
木崎が嬉しそうに言った。
「私もまったく当てにしていませんでした。しかしアルファー班の隊員の生存確認や被害状況の報告は的確でした。クレイモアだなんてよく分かりましたね? 実際に敵を倒したのもJKアサシンの皆さんだし、敵がデータを持ち出すのを見抜いて地下駐車場に突入してくれたおかげで本作戦は成功しました。スナイパーを配備していたのも見事な読みでした。みなさん本当に女子高生なんですか? いったい内閣情報統括室はどんな訓練をしてるですか?」
小隊長の相沢が言った。
「私達は13歳時から訓練所で厳しい訓練を受けてるんです。実戦経験も皆さんより多いと思いますよ」
ミントが言った。
「私は共通系のインカムとJKアサシンチームのインカムを両方聞いていたが、リーダーの沢村さんの戦闘指揮と状況判断が素晴らしかった。SATと機動隊の隊長や指揮官クラスでもあんな見事な戦闘指揮は執れない。しかも銃弾が飛び交う実戦の場だ。信じられん」
森永が言った。
「たしか丸の内のニセSAT事件の時も皆さんが対応したんですよね? 事件の報告書を読んだときは作り話かと思いましたが、今回の件を目の当たりにすると信じられます。あの事件の話といい今回の件といいSATの教本にしてもいいくらいです」
相沢が言った。
「戦闘指揮官の米子はIQ200だからね。作戦立案も凄いけど、瞬時の状況判断が凄いんだよ!」
ミントが嬉しそうに言った。
「IQ200だって?」
「200? 本当か?」
森永と相沢が言って目を見合わせた。
「IQは160です。200は調子がいい時です」
米子が言った。
「しかしみんなカワイイなあ。本物の女子高生なんだって? 制服姿がたまらないよ」
「アサシンなんだって? 今までに何人くらい暗殺したの?」
「射撃訓練はどれくらいしてるの?」
「銃撃戦は怖くないの?」
隊員達が米子達の周りに集まって来て矢継ぎ早に質問をした。
「国家機密なのでお答えできません」
米子が言った。
「君達は彼氏とかいるの? 好きな男性のタイプは?」
酒が回り始めた若い隊員が訊いた。
「彼氏なんていませんよ。もしカレが浮気したらカレも浮気相手も狙撃で排除しちゃいます。だから彼氏はつくりませ~ん」
樹里亜が笑顔で言うと隊員達に笑いが起きた。
集まりから離れて一人で日本酒を飲んでいた木崎の傍に森永警視が近寄った。
「木崎さん、私は恐ろしくなりました。警察でも最精鋭の8名が一瞬にして殺られた。なんとか勝ったが恐ろしい相手だった。今後の戦いの事を考えると恐ろしい」
森永が言った。
「今回の敵は日本人でした。赤い狐の中でも2軍か3軍以下の連中でしょう。敵の本隊はロシアや中国の特殊部隊上がりです。もっと強いはずです」
「次の丹沢の作戦では敵の強い部隊と戦うと聞いています。自衛隊主体の第2即応隊が任務を実施するようだが勝てるんですかね?」
森永が訊いた。
「第2即応隊は習志野の第一空挺団や特殊作戦群から選抜した精強無比の連中です。隊員は全員レンジャー資格持ちで陸上自衛隊の中でもこれ以上強い部隊は無いという所からさらに選ばれた猛者達です。しかし彼らも表向きの実戦経験はありません。どこまで通用するか未知数です」
木崎が言った。
「お詳しいですね。木崎さんは自衛隊出身でしたね。第3即応隊も参加するんですよね? まさかあの娘達も?」
「第3即応隊は内閣情報統括室の戦闘チームが主体ですが、暗殺チームの彼女達も支援部隊として参加します。個人的には参加して欲しくありません。敵は戦闘では無く『戦争のプロ』です。彼女達でも厳しい」
木崎が言った。
「アメリカは力になってくれないのですかね?」
森永が言った。
「情報は貰ってますが、正規軍による戦闘行為では無いので戦闘の協力は難しいでしょう。それに今回は外国に頼るべきでは無いと思っています。日本の防衛は日本の組織で行うべきです。それこそが独立国家としての正しい姿です」
木崎が言った。
「うーん、だが私は不安だ。日本人は戦う事を忘れてしまっている。我々が国の為に戦っても世論がそれを非難する事さえ考えられる。マスコミもだ」
「それでも国民の命を守るために戦うのが国防です」
「なるほど、国防か。我々警察の任務は治安の維持ですが、これからは国防という意識で戦う事が必要なんですね」
森永が言った。
「ねえ、写真撮っていいかな? 並んでよ」
若い隊員がスマートフォンを胸ポケットから取り出しながら言った。他の隊員達も興味深そうに集って来た。
「私達の姿も国家機密だからダメっすよ」
瑠美緯が言った。
「まあ、一人につき1万円ずつくれれば応じてあげてもいいけどね」
ミントが言った。
「そりゃ高いな。でもそれだけの価値はあるな。制服着た現役女子高生のアサインなんて超レアだろ」
「みんなカワイイですもんね! ファンになっちゃたよ」
「いっそアイドルグループ作ったら? 『JKアサシンシスターズ』なんてどう?」
若い隊員達が笑顔で言った。
「だから~国家機密なんすよーー! それに国家機密のアイドルなんて売れないっす!」
瑠美緯が言うと隊員達が一斉に笑い声を上げた。木崎と森永その様子を見て微笑んだ。
制服を着た機動隊員がメモ用紙を持って森永に駆け寄って来た。
「南大塚のビルで確保した被疑者が護送中に自爆しました」
機動隊員が言った。
「何? どこでだ?」
森永が驚いた表情で言った。
「護送車から降りて巣鴨署に入る前です。駐車場です」
「自爆したのは何人だ? 被害はあったのか?」
「自爆したのは地下駐車場で確保した被疑者と非常階段で確保した被疑者5人です。オフィスで確保した男女5人は自爆してないようです。こちらは2人が重症、3人が軽傷との事です」
機動隊員がメモを見ながら言った。
「爆発物は何だ? 護送する前に身体検査はしなかったのか?」
森永が訊いた。
「詳細は不明ですが、5人の体から同時に爆発が起こったそうです。本部の科捜研に爆発物の調査を依頼したそうです」
「遠隔操作かもしれませんね。あらかじめ爆発物を体に付けられていたのでしょう。降伏した者が自爆するとは思えない。同時に爆発したというのも不自然だ。口封じの可能性もある」
木崎が言った
「だとしたら実に恐ろしい相手だ。我々はそんな相手と戦うのか・・・・・・」
森永が不安そうな顔をして言った。




