Chapter37 「使えるぞ! JKアサシン達 南大塚」
Chapter37 「使えるぞ! JKアサシン達 南大塚」
クレイモアはベトナム戦争からアメリカ軍が使い始めた指向性対人地雷である。爆発により鉄球を前面に扇状に飛ばす対人地雷だ。中に詰められた680gのC4爆薬の爆発で直径3.2mmの鉄球700個を秒速1400m、マッハ4の速さで左右に60度、上下に18度の範囲に飛ばすようになっている。主に待ち伏せに利用する地雷で、ワイヤーによるトラップやリモコンによる遠隔操作で敵を隊列ごと殺傷する兵器である。横21.6cm、縦8.3cm、厚さ3.5cmと弁当箱くらいの大きさで重さは1.6kgと携帯性に優れているのも特徴だ。1つ4万円とコストの割には効果が高い兵器なので各国でコピーされたものが作られている。
「こっちの2人はダメだよ、出血が酷いし脈拍と呼吸と瞳孔反応が無いよ、心肺蘇生する?」
ミントが言った。
「出血が酷いから心肺蘇生は無理だよ。止血したいけど、首だからできない」
米子が隊員の体を確認しながら言った。出血が激しい場合の胸骨圧迫による心肺蘇生はさらなる出血を促す事になるためNGである。
「こっちもダメです、出血多量で脈拍、呼吸、瞳孔反応無しです。鉄球がいっぱい食い込んで首が千切れかけてます」
瑠美緯が悲痛な声を上げた。米子達は床に転がったアルファー班の隊員8人の生存確認を行ったが生存は絶望的だった。3人の手の平が隊員達の血で真っ赤に染まっていた。
《JKアサシンより小隊長、1階ロビーのアルファー班の8名、全員心肺停止状態。体中に小さな鉄球を被弾。出血により心肺蘇生できません》
《小隊長了解。JKアサシンはそのまま待機せよ》
「クレイモアってアメリカ軍の地雷だよね? ベトナム戦争の映画で観た事があるよ」
ミントが言った。
「旧ソ連や中国でもコピー製品が作られてるよ。原理と構造は簡単だからね」
「赤い狐、怖いっすね。前沢SAで戦った時はアサルトライフルを使ってました。お正月のテロでは迫撃砲を使ってましたよね。軍用兵器を使うってガチでヤバいっすよ」
瑠美緯が言った。
「国家即応防諜機動群も兵器レベルの武装をしないとまずいかもね。敵は半グレなんかとはレベルが違うよ。それに許せないよ。冗談じゃないよ」
ミントが言った。
非常階を登ったチャーリー班の4人が廊下に出るとオフィススペースのドア前に集まった。隊員の1人がバータイプのドアノブを捻ったが鍵が掛かっていた。
「ハンマーで叩け」
班長の前田が言った。
『ガツッ!』
『ガシャ』
隊員がハンマーでドアノブを叩いてドアを開けた。隊員が展開するようにオフィススペースに駆け込んでMP5とグロック19を構えたがオフィス内は誰もいなかった。
「おかしいな。照明がついてるぞ」
班長の前田が言った。隊員達が両手でグロック19を握って警戒しながらオフィスを奥に進んだ。
「こっちはパソコンのモニターがついたままです」
「こっちもです」
隊員達が言った。
《チャーリー班前田チームより小隊長、5階のオフィスは無人です。ついさっきまで人がいた気配があります。照明とPC電源はついたままです》
《小隊長よりチャーリー班前田チーム、そのまま待機せよ》
《チャーリー班前田チーム了解》
《チャーリー班長井チームより小隊長、6階オフィススペースを占拠。人員がいましたが
抵抗無し。事務員の男3人、女2人を確保》
「5人か。少ないですね。それも事務員だけです。どうしますか?」
相沢が訊いた。
「事務員を尋問しろ。爆弾を仕掛けて遠隔で起爆した敵がいるはずだ。尋問して吐かせるんだ。自白剤を使っても構わん」
森永が言った。
「了解です。長井に尋問させます」
《小隊長よりチャーリー班長井チーム、確保した人員に他の者がビル内に存在するか尋問せよ。自白剤の使用を許可する》
《チャーリー班長井チーム了解》
8階のサーバールームに入ったブラボー班はラックに入ったブレードサーバーを回収していた。
「班長、ブレードサーバーとNASが何台か抜き取られています。ケーブルが床に落ちてますのでついさっき持ち出したと思われます。10台以上です」
隊員の1人が言った。
「こっちもLTOが持ち出されています。急いで持ち出した形跡があります」
キャビネット中を捜索していた隊員が言った。LTOは大量データを長期間保存するための磁気記憶テープである。ハードディスクよりも安価で高速なデータ転送速度が速いのが特徴だ。
《ブラボーリーダーから小隊長、8階のサーバールームよりブレードサーバー、NAS、LTOが持ち出された模様。持ち出したのは直近と思われます》
《JKアサシン浅井より小隊長、黒とシルバーのバンが2台、ビルの左から地下の駐車場に入ります》
ビルを監視していた樹里亜が共通系インカムで状況を報告した。
「バンだと? どういう事だ?」
相沢が言った。
「敵の増援部隊か?」
森永が言った。
《JKアサシン沢村から小隊長、これより階段で地下に降ります。おそらく敵は車で情報機器を持ち出すものと思われます。阻止します》
米子が共通系のインカムで言った。
「ビーナス、マーキュリー、拳銃は持って来たよね? 弾は何発ある?」
米子が訊いた。
「今回から357SIG弾仕様のSIG-P229を使う事にしたんだよ。米子と同じのだよ。予備弾倉が2つだから全部で36発だよ」
ミントが言った。
「私はV10です。予備弾倉2つなんで45ACP弾30発です」
瑠美緯が言った。
「2人共ついて来て。地下駐車場に行くよ」
米子が指示を出して走り出した。
「わかってるよ。ジュピターの報告を聞いたよ。データの持ち出しを阻止するんだね?」
「こんな事ならアサルトライフルを持ってくればよかったっすね」
ミントと瑠美緯が走って米子を追いかけながら言った。
「司令、5階の隊員と8階のブラボー班を地下駐車場に行かせましょう。JKアサシンは当てにならないのでロビーで待機させます」
相沢が言った。
「小隊長、時間が無い。やつらは車で情報機器を持ち出すつもりだ。JKアサシンに行かせろ。5階の前田チームと8階のブラボー班も急がせろ!」
森永が言った。
「わかりました。しかし女子高生ですよ? 当てにできません」
相沢が言った。
「JKアサシンは敵がデータを持ち出す事を瞬時に予測して次の行動に移った。結構使えるじゃないか。思ったより場慣れしているぞ」
森永が興味深そうに言った。
《こちら小隊長、JKアサシンは地下駐車場に突入して機器の持ち出しを阻止せよ、頼んだぞ。前田チームとブラボー班も地下駐車場に急行せよ。敵は車で情報機器を運び出すつもりだ。爆発物が仕掛けられてる可能性があるからエレベータは使うな。繰り返す、JKアサシンは地下駐車場に突入せよ、前田チームとブラボーチームも地下駐車場に急行せよ》
相沢が指示を出した時、米子達はすでに非情階段を下って地下1階に到着していた。
米子が駐車場のドアをゆっくりと開けた。20m先の左右に1台ずつセダンが停まり、10m先の右側にSUVが2台と青いピックアップトラック1台が駐車していた。シルバーのオデッセイと黒塗りのメルセデスV350がスライドドアを開けて地上に繋がるスロープの下に2mの間隔を空けて停車していた。スーツ姿の男4人と灰色の迷彩戦闘服を着た男3人がオデッセイとメルセデスV350にブレードサーバーを積み込んでいた。メルセデスV350の左右にそれぞれに灰色の迷彩戦闘服を着た男がロシア製のサブマシンガン『PP-91ケダール』を持って立っていた。
「ビーナスは右のセダンの陰、マーキュリーは左の青いトラックの陰に隠れて」
米子が小さな声で指示を出した。
ミントと瑠美緯は左右に分かれ、姿勢を低くして指示された位置に向かった。米子は左側のセダンに向かって可能な限り姿勢を低くし、車の陰を利用して移動した。
「これで最後か?」
シルバーのオデッセイのスライドドアから顔を出した迷彩服の男が言った。
「ブレードサーバーとNASはこれが最後です。あとは段ボールに入ったLTOが2箱あります」
スーツを着た男が言った。
「段ボールは向こうに載せろ、早くしろ」
《マーズから各位、私が発砲したらビーナスは左のオデッセイに射撃。マーキュリーは右のメルセデスに射撃。2人ともタイヤを優先的に狙って。ジュピターは出口を監視、いつでも撃てるように照準して》
《ビーナス了解》
《マーキュリー了解》
《ジュピター了解》
《JKアサシンより小隊長、地下駐車場に到着。敵のバンを補足、情報機器を積んで逃走する模様。これより制圧します》
米子が共通系インカムに報告した。
「司令、女子高生達にB班と前田チームが到着するのを待たせましょう。女子高生なんか当てになりません。敵の制圧は無理です。返り討ちにされます」
相沢が言った。
「敵を逃がす訳にはいかん。B班と前田チームは何を手間取ってるんだ? ここからは私が指揮を執る」
森永が苛立つように言った。
《司令から各位、これより私が本作戦の指揮を執る》
森永が作戦の指揮を執る事を宣言した。
ブラボー班と前田チームは非常階段の5階で合流すると階段を速足で駆け下りた。
『パーーン!』 『パーーン!』
非常階段の4階のドアが開いて銃声が響いた。先頭にいたブラボー班の隊員が胸に被弾してしゃがみ込んだ。ボディーアーマーで弾丸は止まったが衝撃で肋骨が折れた。
「敵だ! 伏せろ」
「ブラボー2とブラボー3とブラボー4はドアに向かって制圧射撃をしろ。他の者は地下駐車場に行くんだ。2階と3階にも敵がいるかもしれないから慎重に降りるんだ!」
ブラボー班長の宮里が言った。
「制圧射撃します」
『パン パン パン パン パン』 『パン パン パン パン パン』
『パン パン パン パン パン』
3人の隊員がグロック19を4階のドアに発砲した。9mm弾がドアに当たって火花と音を立てて凹みを作る。他の隊員は3人の横をすり抜けるようにして階段を下った。
樹里亜はキーボードケースから素早くHOWA―M1500を取り出した。スコープとサプレッサーを取り付け、弾丸の入ったマガジンを差し込んで非常階段の手摺に銃を載せるようにして構えた。
「おい、どうした? まさか撃つのか?」
同行していた巣鴨署の中川警部補が驚きの声を上げた。
「リーダーから指示がありました。地下駐車場から車が出てきたら狙撃します」
樹里亜がスコープを覗きながら言った。
「手慣れてるなぁ。いったい君達は何者なんだ? 他にも制服を着た女子高生が3人いたよな?」
右手に10倍の双眼鏡を持った境田巡査長が言った。
「私達の存在は国家機密です。文句があるなら内閣情報統括室の渉外部に言って下さい」
樹里亜が言った。
「別に文句はないよ。俺達は同行するように言われただけだ。君達は内閣情報統括室関係なのか? なんか深夜アニメみたいだな」
境田巡査長が感心したように言った。
《ブラボーリーダーより司令、非常階段の4階で敵の襲撃を受けました。一部を交戦のために残して他の者を地下駐車場に向わせます》
《司令了解。地下のJKアサシンと合流して敵を制圧せよ。データを持ち出させるな!》
《司令よりJKアサシン、制圧を許可する、逃がすな。射殺してもかまわん》
森永が共通系インカムで指示を出した。
《JKアサシン了解》
米子は2台のバンを観察して敵9人の中のリーダーを探していた。右側に停まったメルセデスV350の助手席の男が頻りに指示を出していた。また、スーツ姿男達の中にも部下に指示を出している者がいた。敵は迷彩服を着た情報機器の受け取り側のグループとスーツ姿の引渡し側の2グルーに分かれているようだった。積み込み作業が終わったオデッセイのスライドドアは既に閉っていた。
「早くして下さい、出発します!」
オデッセイの助手席の男がメルセデスV350のバンに向かって言った。メルセデスV350の助手席の迷彩服のリーダー格の男がドアを開けて車を降りた。
「早くしろ、予想以上に敵の展開が早かった。急ぐんだ!」
段ボールを乗せていた男達が最後の段ボールを積み込むと急いでスライドドア閉めた。
「終わりました! 出して下さい!」
スーツ組のリーダーが言った。米子がセダンの陰から体を出して床に右膝を着いてSIG―P229を握った両手を伸ばした。
『バーン!』 『バーン!』
メルセデスV350 の助手席から降りた男とスーツ組のリーダーの頭が破裂するように血を噴いた。周りの男達がその様子を見て静止画のように動きを止めた。撃たれた2人の男は膝から崩れ落ちた。
『バン』 『バン』 『バン』 『バン』
『バンッ』 『バンッ』 『バンッ』 『バンッ』
ミントと瑠美緯も床に右膝を着いて発砲した。357SIG弾と45ACP弾はそれぞれ左右のバンの前輪と後輪に2発ずつ命中したがタイヤはノンパンクタイヤだった。
「敵だ、反撃しろ!」
「撃て、トラックの陰だ!」
『バババババババババ』
『カン』 『ガッ』 『ガッ ガッ ガッ』 『キーン』 『ガシッ』
グレーの迷彩服の男がPP-91ケダールを発砲し、9mmマカロフ弾が青いピックアップトラックの前面に集中して当たった。
『バンッ』 『バンッ』 『バンッ』
瑠美緯が怯む事なくV10ウルトラコンパクトで反撃する。瑠美緯の撃った45ACP弾がMP5を撃った男の胸に当たった。男が声を上げる間もなく後ろに倒れた。45ACP弾の1発は男の肺の中で弾頭が潰れて止まった。もう1発は鳩尾から入って背骨に喰い込んで止まり、弾丸の持つエネルギーの全てを男の体内に放った。迷彩服を着た男達がスライドドアからオデッセイとメルセデスⅤ350に乗り込み、スーツを着た男達はバンの後ろに身を隠した。2台のエンジンが始動した。
《JKアサシンより司令、敵と交戦中、敵の車が逃走します。正面のビルより狙撃を実行します》
米子が共通インカムで報告した。
《司令了解、狙撃を許可する。》
《こちらマーキュリー、敵を1人倒しました》
《マーズ了解》
「早く車を出せ! PAXタイヤだからしばらくは走れる。味方に連絡してワゴン車を用意させろ」
助手席に座る男が言った。シルバーのオデッセイが動き出した。オデッセイは強引にハンドルを切って地上に続くスロープを登り始めた。メルセデスV350もゆっくりと動き出す。




