Chapter35 「卒業旅行 沖縄 城址と戦跡」
Chapter35 「卒業旅行 沖縄 城址と戦跡」
2日目、米子達はランドクルーザープラドで『美ら海水族館』に行き、その後に古宇利島大橋を渡って古宇利島行った。美ら海水族館では大型水槽の中を泳ぐジンベイザメやマンタを見てイルカショーを楽しんだ。米子にとっては生まれて初めて水族館だった。すべてが興味深く新鮮だった。家族と過ごす事ができた9歳までの時期は父親が警視庁公安部の刑事で殆ど家にいなかったため、家族で出掛る機会は極めて少なかった。それでも家族で出掛けた動物園と遊園地の思い出は幸せな記憶として心に残っていた。
古宇利島は周囲7.9Km、人口約350人の小さな島でる。エメラルドグリーンの海に囲まれ、白いビーチが美しい場所である。米子達はレンタルサイクルに乗って大きな声で会話しながら島をゆっくり回った。米子は浜崎里香達が撮ったデジカメの画像を見て自分の顔が穏やかになり、自然に笑顔になっている事に気が付いてハッとした。癒されるという心地よい感覚を久しぶりに感じていると思ったのだ。前に同じ感覚になったのはいつだったか思い出せないくらい遠い記憶だった。
ホテルの帰路についたランドクルーザープラドの中は賑やかった。ファッションの話やスイーツ店の話や芸能人の話で盛り上がっていた。
「沢村さん、今日は安全運転だね?」
野沢瑠香が言った。
「凄くゆったりした気分だから急ぐのが勿体ないんだよね」
米子が言った。
「へえ~、沢村さんは何事も効率重視でスピード最優先だと思ってたから意外だよ」
浜崎里香が言った。
「旅行っていいね。久しぶりに癒されたよ」
米子が言った。
「だったらこれかもらも皆で旅行に行こうよ! 年に1回とかでいいからさ。卒業してバラバラになってもたまに旅行に行けばグループは継続できるよ」
野沢瑠香が言った。
「いいねえ~、仲間は一生物だもんね。私達の友情は永久に不滅です!」
浜崎里香が大きな声で言った。
「旅行の幹事を持ち回りにしてもいいよね。それぞれの特徴が出て面白いかも」
大屋美里が言った。
「私が幹事だったらファッション中心の旅行にしちゃうよ」
岸本きらりが言った。
「沢村さんだったらどこに旅行したい?」
大屋美里が訊いた。
「旅行か。あんまり行った事ないんだよね」
米子が言った。
「じゃあ来年は沢村さんが幹事やれば? そしたら行く場所を決められるよ」
野沢瑠香が言った。
「北アルプスとかいいかも。槍ケ岳とか3000m級の山がいいよ!」
米子が言った。
「それって旅行じゃないよ、登山だよ。沢村さん一人で行ってね、誰も止めないよ」
浜崎里香が言った。
「ひど~い!」
米子がわざと顔を顰めて言った。しかし何故か嬉しい気分だった。卒業旅行に来て良かった思った。
2日目の夜は各自の部屋で大人しく過ごした。米子も心が弾んだまま心地よい眠りに落ちた。
3日目の朝10:00、米子は那覇空港ターミナルビルの駐車場入り口の横にスーツケースを持って立っているミントを見つけた。ミントはオフホワイトのパーカーを着て黒いデニムを履いていた。
「ミントちゃん、お疲れ~」
米子は車を停めてパワーウインドウを開けてミントに声を掛けた。
「米子、お疲れ! こんな場所で会うなんて不思議な気分だよね。この車借りたんだ?」
「うん、組織のIDカード出したら半額になったし、車もグレードアップしてくれたんだよ」
「米子と旅行って新鮮だよ。任務で東北とか奈良には行ったけど、プライベートで一緒に旅行するのは初めてだよね。何処に行きたい所ある? 今夜のホテルは米子達の泊ってる読谷村のホテルを取ったんだよ。明日は那覇のビジネスホテルと取ってあるよ。明後日はは米子達より少し遅い便で東京に帰るよ」
ミントが言った。ミントはスーツケースを後部座席に積み込むと助手席に乗り込んだ。
「私は一昨日は北の方をドライブしたし、昨日は美ら海水族館と古宇利島に行ったんだよ。私は特に行きたい所はないからミントちゃん任せるよ。夜は学校の友達と一緒に食事するから事前に決めた設定通りに話合わせてね」
米子が言った。米子とミントは事前に架空のバイト先の設定を決めていた。
「OK、じゃあまずは『中城城跡』に行こうよ。昔のお城の城址だよ。世界遺産なんだよ。住所はここだよ」
ミントがタブレットPCを米子に見せた。米子はカーナビに住所を入力すると車を出した。
「いま普天間基地の横を走ってるけど、大きな基地だね」
米子がカーナビを見ながら言った。
「日本の米軍基地の70%が沖縄に集中してるし、沖縄本島の面積の15%が米軍の基地なんだよ。沖縄は1972年まではアメリカの占領下だったからね」
ミンントが言った。1時間ほど車を走らせると小高い丘を登り、中城城跡の駐車場に着いてランドクルーザープラドを降りた。米子はグレーのフリースジャケットを着てインディゴブルーのデニムを履いていた。
米子とミントは石垣を巡るように城跡の中を登って標高160mの頂上に到着した。眼下に海に面した火力発電所のタンクと畑と住宅を眺める事が出来た。頂上からは沖縄本島東側と西側の海を両側に眺める事が出来る。
「思ったより広いね。大きな石垣もしっかり残ってるし、万里の長城みたいな感じだけど15世紀の琉球王国時代のお城なんだよ」
ミントが嬉しそうに言った。
「両側が海だね。景色が綺麗だし、高い所から見下ろす沖縄の海もいいねえ。エメラルドグリーンと濃いブルーのコントラストが鮮やかだよ」
米子が言った。
「ここは太平洋と東シナ海が同時に眺められる場所なんだよ。想像してたより規模が大きいし、来て正解だったよ~」
ミントが嬉しそうに笑顔で言った。
「うん、ここは来るべきだね。さすが世界遺産だよ、ロマンを感じるね。私も満足だよ」
米子が石垣の上を歩きながら言った。
米子の運転するランドクルーザープラドは国道329号を走っていた。
「オレンジ色の屋根の民家が多いね」
ミントが窓から外を見ながら言った。
「瓦に使ってる土の中にサンゴが入ってるから焼くと朱色になるんだって。どの屋根にもシーサーが載ってるのが沖縄らしいよね。シーサーは魔除けの守り神なんだって。それに沖縄は日差しが強いから白い建物が多いってネットに載ってたよ」
米子が言った。
「たしかにどの屋根にも狛犬みたいなのが載ってるね。魔除けかぁ。小さいのが売ってたらお土産に買って帰ろうかな」
ミントが言った。
米子はモノレールの『浦添高田駅』近くの浦添大公園南エントランスの駐車所にランドクルーザープラドを停めた。車を降りた米子とミントは公園内の『浦添城跡』の坂道を上り、林の中の小道に入った。小道の脇には『ハブ注意』の看板が立っていた。
「ここもお城の跡で石垣を見られる公園なんだよ」
ミントが言った。
「沖縄って思ってたよりお城があったんだね。知らなかったよ。それとマムシ注意や熊注意の看板はサバイバル訓練で見たことあるけど、ハブ注意は初めてだよ」
「だよねー、ハブは本土には居ないからね。沖縄に来たって感じがするけどちょと緊張するよね」
標高148mの高台から北側に広がる浦添街を見下ろす事ができた。そこはかつての沖縄戦でのアメリカ軍の侵攻ルートでもあった。
「ここが『ハクソーリッジ』だよ。アメリカ軍が付けた名称でノコギリみたいな崖っていう意味だよ。2016年に公開されたメルギブソン監督のハリウッド映画のタイトルで有名になったけど、日本側の呼び名だと『前田高地』なんだよ。映画みたいに日本軍の守備隊とアメリカ軍の海兵隊のs激しい戦いのあった場所だよ。アメリカ軍は本島の西側から上陸して首里にある日本軍の司令部を目指して侵攻したんだよ。この陣地は日本軍がそれを迎え撃つ為の防波堤として作った陣地なんだよ」
ミントが言った。米子とミントはこの場所が激戦地であった事を示す案内板の前に立って浦添街を見下ろしていた。
「日本の兵士は侵攻してくるアメリカ軍をどんな気持ちでここから見てたんだろうね」
米子が言った。
「闘志を燃やしたのかな? それとも圧倒的な物量に物を言わせて戦車やトラックの行列で攻めて来る敵を見て絶望的な気持ちになったのかも知れないね。逃げる事は許されなかっただろうし。アメリカ軍の数は日本軍の5倍で、大量の戦車も投入したし、制空権も取ってたし、海からも激しい艦砲射撃をしたんだよね」
ミントが言った。米子はもし当時自分がこの場にいたら、もし自分がこの陣地の指揮官だったらどんな指揮をしただろうかと思った。万が一にも勝てない圧倒的に不利な戦いの指揮官になる事の悲しさを想像した。
米子とミントは細く急な階段を下って『高田高地平和之碑』の前に立った。黒い石碑には戦闘の概要や戦闘に参加した部隊名や戦死した日本軍兵士の名前が刻まれていた。石碑を読んだ米子とミントは思わず両手を合わせて黙祷をした。
米子達は30分ほど車で移動するとモノレールの『おもろまち駅』に隣接する『Tギャラリア 沖縄』の駐車場に車を入れた。『Tギャラリア 沖縄』は140以上のブランドショップが入る大型免税ショッピングモールである。おもろまちは那覇新都心と呼ばれ、ショッピングセンター、映画館、飲食店などが立ち並ぶ新しい街だった。
米子達はTギャラリア沖縄と那覇中環状線を挟んで真向いにある高台に登る細い階段を登った。高台の上は配水タンクのある小さな公園だった。ブランドショップの看板や紳士服チェーン店を見下ろす公園の隅には慰霊の木柱と戦いがあった事が記された小さな碑文があるだけだった。
「ここが沖縄戦最大の激戦地だったの? 大きなショピングモールが2つもあるし、高層マンションもあって整備された新しい街って感じだよ」
米子が碑文を見ながら不思議そうに言った。
「今では開発されてオシャレで便利な街になってるけど、この辺りが『シュガーローフ』って呼ばれる沖縄戦最大の激戦地だったんだよ。日本側の呼称は『安里52高地』。一週間の戦いでこの小さな丘を何度も取り合って、アメリカ軍に沖縄戦で最大の損害が出た場所だよ。アメリカ軍は地獄の丘って呼んだらしいよ。日本側も現地の招集兵や民間人を巻き込んで大勢の犠牲者が出たんだよ」
ミントが説明した。
「ここはさっきの高田高地より首里に近いね。ここも首里の司令部を守る防衛ラインだったんだね。でも戦力的に勝てないのは明白だったんだよね?」
米子が言った。
「沖縄戦は本土決戦までの時間稼ぎの戦いだったんだよ。日本国内唯一の地上戦だったんだけど、本土の人は知らない人も多いよね。沖縄の人からしたら堪ったもんじゃないよね。沖縄戦では日本側の死者は約20万人でその内半分が島の民間人だったんだよ。島民の4人に1人が亡くなったんだよ。結局本土決戦も無かったんだよね。このあたりは日米両軍の亡骸がいっぱい転がってたんだろうね」
ミントが言った。
「沖縄戦の前に戦争を止められれば良かったんだろうけど、難しかったのかな? もう負けるのは確実だったんだよね?」
米子が言った。
「国家という大きな組織の失敗を止めるのは大変だよ。そもそも誰が失敗の責任を取るのかっていう話だよ。誰も責任を取りたくないし、声を上げれば上に睨まれる事になるから誰も言い出せないんだよ。間違っていると気付いても誰も何も言えない硬直した組織だったんだろうね」
ミントが言った。
「今もあんまり変わらないね。日本特有の組織文化だよね」
米子が言った。
「そうだね。そして私達もそんな組織に従うしかない兵隊なんだよね」
ミントが言った。
米子とミントはショッピングモール『那覇メインプレイス』の中にある店で『ソーキ蕎麦』を食べると車に乗っておもろまちを後にした。
15:00、米子の運転するランドクルーザープラドは読谷村方面に向かっていた。
「米子、もう一カ所行きたい所があるんだけどいいかな? 丁度ホテルのある読谷村なんだよ」
ミントが言った。
「まだ時間があるからいいよ。ホテルの近くってどこ?」
「チビリガマだよ。場所はここだよ」
ミント言いながらタブレットPCの画面に表示された地図を見せた。米子は地図を画像として一瞬で頭の中に記憶した。米子は目で見たものを画像として記憶できるのだ。教科書や授業でホワイトボードに書かれた文字と図形も映像として記憶している。この能力がIQ160を超える頭脳の一つの要因になっている。
ランドクルーザープラドは畑の中の小さな森の横の砂利道で静かに停まり、米子とミントは車を降りた。
「この森の中だよ」
ミント言いながら森の細い入り口に入っていった。森の中の細い道は下り坂だった。途中に『ハブ注意』の看板が立っていた。地面が平坦になると森の中に開けた空間が現れた。周りの一部が岩場のようになっていた。そして空気が変った。冷たく重い空気が米子とミントを包んだ。岩場には広く低い壕の入り口があり、折り鶴が沢山供えられていた。入り口の横には大勢の名前と年齢が書かれた石碑が立っていた。壕の中は暗く、奥の様子は分からなかった。米子とミントは壕の入り口の前で立ち止まった。
「ここで何があったの?」
米子が訊いた。
「民間人の集団自決だよ」
ミントが言った。
「えっ? どうして?」
米子が驚いた顔をして言った。
「アメリカ軍上陸直後に129人がここで集団自決をしたんだよ。半分以上が子供だったらしいよ」
「なんで投降しなかったの? 民間人なら保護されたんじゃないの?」
「アメリカ兵は鬼畜で残忍だから、捕まったら男は拷問されたあげくに殺されて、女は辱
められるって教育されてたんだよ。アメリカ軍は投降勧告をしたんだけど捕まる事を恐れ
た人達が集団自決したんだよ。子供は大人が殺めたんだろけどね」
「酷い! そんなの教育が間違ってる」
米子が言った。
「ここの壕は上陸直後だけど、南の方には沖縄戦の終盤に追い詰められた人達が集団自決
した壕が幾つもあるよ。戦争なんだから軍人が死ぬのは仕方ないけど、民間人が犠牲にな
るのは悲しいよね」
ミントが言った。
「そりゃそうだよ。民間人を守るのが軍隊の役目だよ。兵士だって負けると分かってる圧倒的に不利な戦いで死ぬなんて理不尽だよ」
「私、ミリタリー好きだけど、本当の戦争は映画で観るのとは大違いだよね。本当はここに来るの怖かったんだよ」
ミントが言った。
「ここで亡くなった人にも名前があったんだよね。暮らしもあって、生きてれば未来もあったのに」
米子が石碑を見ながら言った。米子とミントは壕の入り口に向かって一礼して手を合わせて黙祷した。
「行こうか」
ミントが静かに言った。米子とミントは重い足取りでチビリガマを後にした。
ミントは米子達の泊るホテルにチェックインして部屋に荷物を置くとロビーで米子と浜崎里香達と合流した。米子の運転するランドクルーザープラドで北谷町の『A&Wレストラン』に移動した。A&Wは日本では沖縄にのみ存在するハンバーガーなどを中心にしたファストフードチェーンである。メニューは各種ハンバーガーを中心にしているが、『ルートビア』という独特のドリンクが名物である。
「高梨ミントです。ミントって呼んでね。米子とはバイト先で3年間一緒でした。4月からは同じ大学に行くんだよ。よろしくね」
ミントが笑顔で挨拶をした。浜崎里香達も一人ずつ自己紹介した。食事をしながら他愛もない話をした。
「沢村さん達は今日どこに行ったの?」
浜崎里香が訊いた。
「ミントちゃん説明して」
米子が言った。
「城址や戦跡を回ったんだよ。私が歴史好きだから米子に付き合ってもらったんだよ」
ミントが答えた。
「へえ、そうなんだ。歴史かぁ。2人とも4月から慶優大学だよね。やっぱ頭がいいと観光で行く場所も違うんだね。私は琉球空手の道場を見学してきたよ。凄かったよ。私も総合格闘技の練習に空手を取り入れたいと思ったよ」
浜崎里香が言った。
「私は那覇でファッション関係の店や雑貨店を回ったよ。沖縄のファッションって独特なんだよね」
岸谷きらりが言った。
「私と美里はカフェ巡りだったよ。海沿いのカフェは南国ならではの飲み物があって雰囲気も良かったよ。リゾートって感じ」
野沢瑠香が言った。
「でもこのルートビアって不思議な味だよね。悪いけどリピートは無いかな」
大屋美里が言った。
「だよねー、私も観光ガイドに載ってたから楽しみにしてたけど『湿布薬』の入ったコーラみたいな味だよね」
ミントが言った。
「そうそう、サロンパスの味だ」
野沢瑠香が言った。
米子達はその後、他愛も無い話をしてホテルに戻った。
ホテルに戻ると各自休憩して20時に浜崎里香と野沢瑠香の部屋に集った。ミントもすっかり馴染んでいた。捨て子で物心ついた時から1人だったミントは常に明るく振舞って周りに溶け込む事を心掛けて来たのだ。
「ミントさんって、沢村さんの友達っていうからちょっと怖い人を想像してたけど明るくて真面目そうだから安心したよ」
野沢瑠香が言った。
「そうなの? 米子って怖がられてるんだ」
ミントが言った。
「そんな事ないけど、謎が多いんだよね。誰とも仲良くしないんだよ。近付き難い感じ」
「えっ、仲良くしてるんじゃん。こうして旅行も一緒に来てるし」
米子が言った。
「それは私達から仲良くしてって沢村さんにアプローチしたからだよ」
浜崎里香が言った。
「米子は自分から人にアプローチするタイプじゃ無いもんね。バイト先でもそうだよ。最初の頃はこっちから話し掛けないと会話できなかったもん」
ミントが言った。
「やっぱそうなんだ」
浜崎里香が言った。
「でも何で米子と仲良くしたいと思ったの?」
ミントが訊いた。
「そりゃ沢村さんって凄く頭がいいし、スポーツ万能だし、めちゃ美人だからだよ。私達の学校ってカーストが厳しくて、上に行かないと楽しめないんだよ。発言権が無いっていうか存在が認められないっていうか。もし沢村さんが私達のグループに入ってくれればカーストが上がると思ったんだよね。実際仲良くなったらグループのカースト爆上がりだよ。沢村さんはそういうの全然興味ないみたいだけどね」
浜崎里香が言った。
「まあ米子は特別だからね。バイトでも皆が頼りにしてるよ」
ミントが言った。
「ミントさんは沢村さんの事、下の名前で呼んでも平気なんだ?」
野沢瑠香が不思議そうに訊いた。
「うん、いつも米子って呼んでるよ」
「私なんて1年生の時、沢村さん事を下の名前で呼んだら思いっきり腹パンされたよ」
浜崎里香が言った。
「米子は下の名前嫌いだもんね。でもバイト先では上司も米子って呼んでるし、後輩は米子先輩って呼んでるよ」
ミントが言った。
「最近は少し慣れたんだよ」
米子が言った。
「沢村さんとミントさんって何のバイトやってるの?」
岸本きらりが訊いた。
「調査会社だよ。興信所みたいな感じだけど、かなり危ない調査もやってるから格闘技も習うし、車の運転もするんだよね」
ミントが米子との事前の打ち合わせ通りの話しをした。
「へえ! スパイみたいでなんかカッコイイじゃん。時給は高いの?」
大屋美里が訊いた。
「高校生のバイトにしては高いよ。調査が上手く行けばボーナスも出るし、借り上げの尞もあるし。でもヤクザや半グレが絡む仕事もあるから危険なんだよ」
ミントが言った。
「そんなバイト、親は許してくれてるの?」
野沢瑠香が訊いた。
「私も米子も孤児なんだよ。私は捨て子だったんだ。だから出来るバイトなんだよ。孤児しか募集してないんだよね。もし死んでも会社は責任とらなくていいし。実際に揉めたり乱闘になる事もあるよ。信じられないだろうけど拳銃を発砲された事もあるよ」
「そうなんだ、変な事訊いてごめんね」
野沢瑠香が言った。
「いいよ。私達、行く所が無いからバイトの仲間が家族みたいな感じだよ。どんな危険な仕事でも仲間がいるから頑張れるんだよ。命の危険があってもね」
ミントが言った。
「だから沢村さんって強いし度胸もあるんだね。半グレとか平気で倒しちゃうし、格闘技大会では優勝しちゃうし」
浜崎里香が独り言のように言った。
「私のお父さんを暴力団から助けてくれたよね・・・・・・・」
野沢瑠香が小さな声で言った。
「その話はもう終わり。恋バナでもしようよ!」
米子が大きな声で言った。
「えっ? 沢村さん恋バナするの!?」
大屋美里が驚いたように言った。
「米子の恋人は格闘技と拳銃だよ。宇宙にも興味があるみたい」
ミントが言った。
「なーんだ、期待しちゃったよ。でも拳銃って?」
岸本きらりが言った。
「部屋の中はエアガンだらけなんだよね。好きなんだよ」
米子が言った。
4日目はミントも含めた皆で平和公園に行き、『沖縄ワールド』で鍾乳洞に入った。最終日は午前中に首里城を観光して午後は国際通りでお土産を買った。米子と浜崎里香達は19時10分の便で那覇空港から東京に向けて飛び立った。
米子は飛行機の中で今回の旅行を振り返っていた。こんなにも自由で楽しく、癒された時間はあの出来事があってから経験したことが無かった事に気が付いた。そして戸惑ったのも事実だった。普通の幸せというものが意外と身近にあると思ったからだ。そして自分はもうその世界には戻る事が出来ない所に来てしまっていると思うと少し寂しく悲しい気持ちになった。




